斜めから見る〜今月の一冊 ④『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』

わかりやすい方法でかなり楽に最強になれるのが今どきのエリート経営者

2018年9月4日
今月の一冊は、シリコンバレーの経営者で、かつてはすごく不健康に太っていたこれまた典型的なアメリカ人で、それを単純で前向きで疑わない方法で克服した、最強の脳をもってスタイルも改善した経営者によるハウツー本です。今どきのアメリカの経営者スタイルがぷんぷん溢れてて、そうなりたい人には、おすすめしたくなる内容です。この一冊を長沖さんが「斜め」から分析します。

 何十年か前まで、アメリカ人のように、朝はジャムやバターのたっぷりのったパンケーキを食べて、昼はポンドステーキをガツガツ食べて、甘い香りのタバコをバフバフ吸って、燃費の悪いでかい車に乗って、夏はキンキンに冷房の効いたオフィスで仕事して、夜は遅くまでドライマティーニ、みたいなスタイルをとることのほうが良いような気がしたもものです。少なくとも罪悪感を感じないほどポジティブにととらえられました。いま考えると何でかわからない。

 そういう欲望を達成するためにがんばりましょう、ということだったのか、そういうアメリカンなライフを送ると、彼らのように鷹揚で豊かな態度、身のこなしが身につくと思ったのか。ともあれ、目的と手段が切り分けられてない、というのが“憧れ”の特徴です。

 さて、分析的で節度の効いた理性的な現代ビジネス社会に生きているはずなのに、やはりそういう罠にかかったりします。これも後生からみると同じような、と思いつつも、何とも抗しがたい魅力に溢れた「シリコンバレー式」を今回は紹介します。

 経営の理想像も巡りめぐって、昨今では、大学院で経営工学なんかを学んでシリコンバレーなどでスタートアップベンチャーをしていたりすのが上等とされています。この本は、そういう経営学を紹介した本ではありませんが、今どきのアメリカの経営者風のスタイルがぷんぷん溢れてて、そうなりたい人には──ついでに最強の脳を手に入れたり痩せたりしたい人には──、おすすめしたくなるのです。

 本書に色濃く滲んでいる、アメリカンでエリート経営者が今どきなスタイルとは以下のものです。

1)望むところのものは叶う。そのための解決法が必ずある。
2)その解決法は意外に単純で、そしてラクだ。
3)それを最新の学説が証明している。
4)いま私が言っていることは、最高で最善だ。

 斜に構えていてそのくせ、世を知ったふりしがちな私のような人間からすると、これはもう、書いていてもう気恥ずかしいようなことですが、ずばりそれが成功への最短経路です。

 第一に、解決しない望みなど持つだけ時間の無駄です。望みが無駄にならないために解決法は当然に見つかるのです(?なんか変か?)。第二に、「人間は弱い」ということを前提に解決法が考えられています。そこがアメリカンの今風。弱いに人間でもできるくらいに明快な解決法でないと不確実でなりません。

本書の頭の方には、こうあります。

==
同級生はみんな僕より頭が切れるのだろうか。どんなに頑張っても結果が出ないことが理解できなかった。そして僕は、仕事は成功したが、自分は思っていたほど切れ者ではないのだと結論した。

そのときわかっていなかったのは、疲労、集中力の欠如、忘れっぽさ、怒りやすさ、食物への渇望でさえも、僕のせいではなかったということだ。僕は怠け者でも、悪人でも、失敗作でもなかった。問題は、脳からエネルギーが漏れていて、どんなに頑張っても求めるレベルまで機能してくれなかったということ、エンジンが壊れた車はどんなに強く踏み込んでも速く走らない。

(中略)

この日、僕の脳機能の不調は、道徳的な問題ではなく、体というハードウェアの課題となった。
==

 自分の“脳力”不足は自分のせいではない。少なくとも自分の精神のせいではない。だから車の故障を直すように修理する方法があるはずだ、というわけです。「弱い人間」のホッとすることができる考え方、そして、こうした思考の先には、「精神力を高めよ」というような難しい改善法ではなくて、車を修理するようなもっと単純明快な方法が組み上げられるのです。

 なかなか良い思考・行動様式だなあと思いつつも、後ろの3)4)の2点は若干なじめなかったりもします。「最新の学説」が証明してくれるような世界は、すぐ次の「最新の学説」がでてきて覆されやすかろう、ということ。「最高・最善」と自分で言うようなことは次の瞬間にはライバルに追い抜かれているということ。つまり謙虚になりましょう、ということ。いやしかし、かといって、疑ってかかっていては一歩も前には進めません。恥をかかないようにしたり間違わないようにしたりするのが目的ではありません。前に出ることが目的なのです。

 本文にはこうあります。

==
これで脳の性能を「5倍」よくできる
==
空気を「最強のエネルギー源」に変えることができる呼吸法
==
完全無欠コーヒー…この朝食は本当に世界に冠たるものである〜
==

 おそらく早晩恥ずかしく感じることになるだろう、新しい学説に置き換えられるであろうこれらのフレーズを、しれっと言えること、それが成功と最高に近い「シリコンバレー式」です。

 新説が出たら“来期に修正すればよい”のです。

 この本の著者は、その典型的なシリコンバレーの経営者で、かつてはすごく不健康に太っていたこれまた典型的なアメリカ人で、それを単純で前向きで疑わない方法で克服した、最強の脳をもってスタイルも改善した経営者です。なので説得力がある。訳者もそういうこの著者のメンタルを上手に表現しているので、フレーズのひとつひとつも真似したくなる、参考になるものです。

 この種の実用書はこれまで書いてきたような事情もあって往々にして隙だらけで、紹介する場合でも若干オトしてほうが、書き手(私)としてもリスクが少ないのですが、あえて今回はこれを推します。なぜか? それは著者デイヴ・アスプリーの前著『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』を、書いてある通りに実践したら、書いてある通りラクに、書いてある通り十数キロやせて頭もすっきりしたためです。バターを除く乳製品、揚げ物、パスタを食生活から排除しても──ん、それが簡単か?──ためしてみる価値は十分にある。

●今月の一冊
『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』
デイヴ・アスプリー/ダイヤモンド社

★おすすめ記事

  • 経営者に読んでもらいたい一冊③ 『自己愛過剰社会』

    現代人の傾向としてあげられるのが「自分のことが大好き、自分を実際以上に素敵にみせる営み、それが成功の近道。しかもそれは気持ちいい」。企業の発するメッセージにも同様の傾向が出てきています。とくにSNSを通じたPR活動において顕著です。さてその流れをどう分析すればよいのでしょうか?

  • 経営者に読んでもらいたい一冊② 『戦争にチャンスを与えよ』

    サッカーのフィールド上や土俵上で起こることの行動基準について、一般社会の常識を被せるのがブームとなっています。道徳や精神を世の中で一本化するというのは、“わかりやすく”“便利で”“正しい”とは思いますが、経営という場面でそれが絶対的に正しいアプローチなのかどうかはわかりません。

  • 経営者に読んでもらいたい一冊① 『アリ対猪木』

    新参者は負けてはいられません。若いうちに負けが込むと、益々萎えさせられてしまうひどい時代だからです。それで今こそ読んでいただきたいのが、モハメド・アリ、そしてアントニオ猪木についてです。

執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

コラム新着記事

  • どこに“期待”をするべきか?

    コミュニケーションの達人、「おもてなし電話」の江尻高宏さんの連載コラム。今回は具体的な方法論から少し話題を変え、対人関係における心の有り様について考えます。テーマは「相手への期待」です。

    2018年12月12日

    コラム

  • TVドラマ『ハラスメントゲーム』 ゲームのカードのように多様化・複雑化するハラスメントの背景にあるもの

    テレビ東京の新しい顔として注目されつつあるのが「ドラマBiz」枠だ。『ガイアの夜明け』『カンブリア宮殿』といった「日経スペシャル」系番組のイメージに寄せる形で今年再スタート。そして、現在放送中で高い評価を得ているのが『ハラスメントゲーム』だ。

    2018年12月10日

    コラム

  • 地域資源をマネタイズし雇用を生む、せとうちのローカルベンチャー 〜尾道/ディスカバーリンクせとうち編〜 

    全国各地で行われている地域資源を活用した特産品や観光開発。多くは「作る」ことがゴールになり、それをどう「売るか」にまで力が及んでいません。しかし地域資源活用とは、どうマネタイズするか、そのビジネスモデルを考えることに尽きます。今回は独自の視点で地域資源を収益事業化する、せとうちのローカルベンチャーにフォーカス、そのビジネスモデル構築の視座と手法に迫ります。

    2018年12月4日

    コラム

  • もうインバウンド集客で悩まない!【第2回】

    訪日外国人に対して情報発信をしたいが、有効な手段が分からないというインバウンドマーケティング担当者のために、「今だからこそ実施すべき、動画広告のゼロから100まで」を、分かりやすくハウツーでご紹介する新連載。第2回では、兵庫県豊岡市・城崎温泉の動画プロモーションの成功事例から押さえるべきツボをピックアップします。

    2018年11月12日

    コラム

  • 今どきの新人は電話恐怖症でウツになる!? そして退職!?

    「電話恐怖症」という言葉を聞いたことがありますか? 電話が鳴ると、緊張して動悸がしたり、ひどいとパニックになったりなど、うまく電話が取れないというものです。この「電話恐怖症」、今どきの新入社員(新人)に増えてきているということをご存知でしょうか?

    2018年11月7日

    コラム

  • 企業インフラ、管理インフラの重要性。

    システムやAIを会計に導入するべきか否か? 恐れてばかりでは会社は前進できません。積極的に管理インフラの構築をして、会社全体が慣れていくことをお勧めします。それは時間を有効に使うことにつながり、競争力を高めることにもなっていくはずです。システムやAI導入は、社員一人ひとりが付加価値の高い仕事へのシフトに向かう第一歩になる可能性を秘めています。 

    2018年11月5日

    コラム

  • 熱海の奇跡! シャッター商店街を人気スポットに変えた戦略

    長らく低迷にあえいできた熱海が復活を遂げ話題となっています。1960年代には年間500万人を超える宿泊客で賑わった一大観光地でしたが、2011年には246万人にまで落ち込みました。しかし、そこからわずか4年、宿泊客数は308万人へ、奇跡とも呼ばれるV字復活を果たしました。その起点の一つとなったシャッター商店街の再生にフォーカス、”熱海の奇跡”を起こした挑戦とその戦略に迫ります。

    2018年11月2日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑤『大本営参謀の情報戦記』

    今年は戦争、特に太平洋戦争の際の日本軍(の失敗)についての本が、ビジネスとの絡みでよく読まれました。そのなかでも定番とも言えるポジションを得ているのが、今月の一冊『大本営参謀の情報戦記』です。文庫本の帯では田端信太郎さんも絶賛されています。70年前の戦史をいま、どうビジネスに活かせばいいのでしょうか? 長沖竜二さんが斜めから読み解きます。

    2018年10月24日

    コラム