副業・複業・兼業導入、なにが大事? なにから始めればいい?

複業推進のパイオニア、サイボウズの事例から考える/総務・人事・経理ワールド

2018年8月17日
「働き方改革」で推奨されているのが副業・複業や兼業です。現状では、80%以上の企業が「副業・兼業を認めていない」となっています。しかし、社員に対して本業だけでなくもうひとつの仕事を認めることで、働き方の多様性を実現している会社があります。2012年から複業を解禁しているサイボウズです。サイボウズの先進事例から副業・複業・兼業の実際をひもときます。
 企業・自治体・病院などの総務・人事・経理・経営者を対象に、組織運営に必要なサービスが一同に集結する展示会『総務・人事・経理ワールド』が2018年7月11〜13日の期間、東京ビッグサイトで開催されました。

 今回の『総務・人事・経理ワールド』では、何かと話題になっている働き方改革や健康経営、RPA活用などをキーワードにさまざまな製品・サービスが展示され、3日間で61,000人以上が来場。職場の抱えているさまざまな課題に対する意識の高さがうかがえる盛況ぶりでした。

 また各分野の第一人者による多数のセミナーも連日開催され、最新の業界動向や事例を学ぶべく、多くの人が聴講に訪れました。

 今回の記事では7月6日に開催されたセミナー「サイボウズにおける複業推進事例 ~実践して見えたメリットとデメリット~」の講演(サイボウズ株式会社 人事部 副部長 青野誠さん)より、サイボウズが複業制度を導入するまでに行ってきた事例と複業のメリット、そして課題についてをレポートします。

(複数の業務を行うことの表現として「副業」「複業」「兼業」などがあります。今回の記事では採用している会社の慣用に従います)

「サイボウズにおける複業推進事例 ~実践して見えたメリットとデメリット~」を講演した青野誠さん(サイボウズ株式会社 人事部 副部長)。「『100人100通り』はサイボウズにおける人事制度のコンセプト」と語る

「100人100通り」。一つの制度に押し込めない働き方

「kintone」などのグループウェアを提供していることで知られているサイボウズは、2012年と比較的早い段階で複業を解禁しており、2017年のHRアワードでは複(副)業採用が企業人事部門で最優秀賞を受賞するなど働き方の多様性に積極的に取り組んでいる企業です。

 複業の推進も積極的に行っているのかと思いきや、今回の講師である青野誠さん(サイボウズ株式会社 人事部 副部長)によると「私の感覚としてはあまり複業の推進はしていないです。どちらかと言うとご自由にどうぞという感じで、社員にも複業をやったほうが良いよと勧めてはいません。『100人100通り』なので、複業をしたほうが幸せになれる人がいれば、どうぞしてくださいというスタンスです」とのことでした。
 
 この「100人100通り」というのはサイボウズにおける人事制度のコンセプト。一つの制度に押し込めて働いてもらうのではなく、100人いたら100通りの働きをして良いという意味だそうです。例えばサイボウズでは働く時間や場所を自由に選ぶことができる、育児休暇を最長6年間取得できるほか、「育自分休暇」として退職した人であっても6年以内であれば戻ってくることができるなど、社員が自由に働くことができるためのユニークな制度を数多く採用しています。

 またサイボウズでは『公明正大』と『自立と議論』という風土づくりを徹底しています。『公明正大』とはウソをつかないという基本的なことだけでなく、プライバシー情報とインサイダー情報以外はすべてオープンにしており、ほとんどの情報(例えば役員会議の議事録など)を社員全員が知っている状態にするということです。また『自立』とは、サイボウズではいろいろな選択ができるので自分で選んだことには責任を持つということ。『議論』とは質問責任と説明責任をルールとし、例えば「なぜ複業をしてはだめなのか」という質問があれば、それに対して説明をする、もし説明ができないのであればきちんと議論をして答えを出すということを徹底しています。

 「制度よりも風土が大事だと私は思っています。風土さえあれば何とかなるということが結構多いのですが、これがないために複業やリモートワークの導入をためらったり、うまくいかないというケースがあるのだと思います」(青野さん)

複業導入にあたってはメリットだけでなくデメリットもしっかりと認識しておくことが重要

ここだけは押さえておきたい複業導入のポイント

 それでは複業を導入するにあたって重要なポイントとは一体何なのでしょうか? 青野さんは「目的を明確に」「公明正大、ご自由に。リスクは適切に管理」「複業推奨だけでなく複業採用も」という3つを挙げました。

 「複業を始めるのであれば、まずは何のためにやるのかという目的を明確にしたほうが良いと思います。世の中が複業をやっているからうちもやる、というスタンスでは多分共感されないですし、どこかで上手くいかなくなります」(青野さん)

 例えばサイボウズでは「副」業ではなく、「複」業の文字を当てています。これは副業が副収入を得ることを目的としているのに対し、複業は自分らしい個性的なキャリアを積むことを目的としています。したがってサイボウズではお金を稼ぐだけでなく、家事やボランティアなど価値を創造する活動のことを含め複業と呼んでいるそうです。

 「複業に関しては基本的に公明正大、ご自由にやってくださいというルールにしていますが、リスクもあると思いますので、そのあたりはできる範囲で管理していけば良いと思います。私たちはアプリを作り、そこで月1回報告するということをやっています」(青野さん)

 複業解禁と言っても関連企業や競合企業で働くようなことがあれば、自社にとっては情報漏えいなどのリスクも十分考えられます。この場合サイボウズではどこでどれくらい働いているか、どんな情報を持ち出しているか、PCなどの資産管理などについて申請・報告が義務付けられているそうです。このようなリスクに対するルールを明確にしておくことで、社員も安心して複業できるということでしょう。

 「複業を推奨する企業は増えていますが、複業社員を採用する会社がないとうまく回っていかないと思います。実際に出口はあるけど入るところがないという状況が起こっているので、複業採用をやっていただける会社が増えると良いと思います」(青野さん)

 実際にサイボウズでは複業採用を実施しており、短時間であってもサイボウズにコミットしてくれるようなスペシャリストを採用、成果を出すことに成功しています。複業の受け入れ体制を整えておくことは会社にとってもメリットが大きいようです。

サイボウズにおいて、複業を導入するにあたって重要なポイントは3つ。「目的を明確に」「公明正大、ご自由に。リスクは適切に管理」「複業推奨だけでなく複業採用も」

複業導入には柔軟な評価制度が必要

 複業導入のポイントがわかったところで気になるのは、複業を導入するメリットとその課題。青野さんは複業を導入することによって得られる会社のメリットとして「自社では提供できないキャリアを提供できる」「多様な経験やスキルを持った社員(スペシャリスト)を仲間にできる」、また個人のメリットとして「知識・スキル・人脈・副収入を得ることができる」「将来のキャリアプランを豊かにする」ということを挙げました。

 ただし複業導入はメリットばかりではありません。当然ながら解決すべき課題もいくつかあります。青野さんは「どこまで許可するか」「他社に雇用される場合の労働時間管理」「評価制度の柔軟性」の3つを指摘しました。

 いくら自由に複業をすることができると言っても、例えば「複業として自社製品の導入コンサルをする」というのは非常に微妙な位置づけです。複業として何をどこまでやることが可能なのか、その線引きをきちんと決めておく必要があります。

 労働時間管理と評価制度については、本業の時間が減ってしまう以上、柔軟に給与の変更をする必要があります。「サイボウズでは、週5日勤務を週4日にするというのはありです。ただしその場合は働き方の変更申請を出してもらいます。また明らかにアウトプットが減る場合は給料の再調整をしています。複業が活発になって本業の時間が減っていくのであれば、柔軟に給与変更をしなければなりません」と青野さんは例を挙げました。

 複業やリモートワークなど働き方が多様になっている今、企業がそれを受け入れるのも当然の流れです。その場合は人事制度をはじめとする各種制度を整備し、柔軟に受け入れることができる風土をきちんと作ることが、複業導入における最大の課題だと言えそうです。

企業・自治体・病院などの総務・人事・経理・経営者を対象に、組織運営に必要なサービスが一同に集結する展示会「総務・人事・経理ワールド」

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

★おすすめ記事

  • 「2017年版 中小企業白書」と、創業支援策の課題(前編)

    本年版の『中小企業白書』が4月21日に発表され、まもなく市販版も店頭に並ぶ。『2017年版 中小企業白書』、『2017年版 小規模企業白書』あわせて1200ページ余の大部ともなると、いささか読み通す気力も失せるが、近年は新聞発表にあわせて分かりやすい要約資料が公開されるうえ、特に今回は大部ながら記述は狙いを絞られており、あまりに多岐にわたる言及記載で、理解するのに困るといったことはない。

  • 「2017年版 中小企業白書」と、創業支援策の課題(後編)

    「フリーランス」と言おうが、「フリーター」としようが、「副業」に精出すか、「内職」と呼ぶか、そうした言霊の印象を離れ、自分で自分自身を雇い、自分で仕事と稼得をつくりだす、そうしたかたちをもっと正面からとらえ、今日の経済社会に生かす道を考えるべきだ

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコトカネ」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

イベントレポート新着記事

  • 2018年度「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社トップスピーチ②~トヨタ部品茨城共販~

    顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設したのが「日本経営品質賞」です。2018年度の中小企業部門では2社が受賞、2月14日に開催された「顧客価値創造フォーラム」で受賞企業トップによるスピーチが披露されました。トヨタ部品茨城共販株式会社代表取締役の駒月純さんのスピーチ「トヨタ部品茨城共販の経営革新について」の模様をレポートします。

    2019年3月15日

    イベントレポート

  • 訪日外国人が本当に買いたいものは何か?「ソーシャルリスニング」で解決する消費トレンド

    マーケティングの基本はソーシャルメディア分析」の時代です。インバウンドビジネスを成功に導くためにもSNSやブログをどう読み込むかが問われています。その方法のひとつが、ソーシャルメディアやSNSなどを分析し消費者のニーズを知る「ソーシャルリスニング」です。

    2019年3月13日

    イベントレポート

  • 『YOUは何しに日本へ?』プロデューサーが見た、外国人が日本に来る理由とは?

    インバウンドを象徴する現象のひとつに、メディアにおける番組の増加が挙げられます。その先駆けとなったのが『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京系列)です。番組開始から6年、密着取材から受ける印象では、訪日客の状況に変化が生まれているようです。それは「“日本二周目”の人たちが増えた」点にあると、番組担当プロデューサーは話します。

    2019年3月11日

    イベントレポート

  • 2018年度「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社トップスピーチ①〜九州タブチ〜

    顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設したのが「日本経営品質賞」です。2018年度の中小企業部門では2社が受賞、2月14日に開催された「顧客価値創造フォーラム」で受賞企業トップによるスピーチが披露されました。鹿児島県で給水装置の製造を行う株式会社九州タブチ代表取締役社長の鶴ヶ野未央さんのスピーチ「人と組織のスパイラルアップを目指す九州タブチの経営革新活動」の模様をレポートします。

    2019年3月8日

    イベントレポート

  • 混迷の時代を生き残る会社の「社長力」とは?

    「会社に良い悪いはない。社長に良い悪いがある」。そう言い切るのは株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役社長CEOの小宮一慶さん。大学教授として会計や経済の教育に携わる一方で、140冊以上の多岐にわたる著書を発表しています。「世の中には経営という仕事があります。この経営という仕事を知らない社長さんが意外なほど多い。経営の仕事とは『方向付け』『資源の最適配分』『人を動かす』の3つを実行することです」と小宮さんは話します。

    2019年2月18日

    イベントレポート

  • 中小製造業の強い味方! 新製品開発のクラウドファンディング活用術

    「クラウドファンディング」という言葉を耳にすることが多くなりました。新しい製品やサービスやプロジェクトを実現するために、専用のサイトを通じて資金調達をする方法です。一般的には消費者向けの新商品開発がメインですが、BtoBメーカーが高い技術を使ったBtoC向け製品をアピールする場としてクラウドファンディングを使うことは効果があります。中小企業がクラウドファンディングを利用するために知っておくべきことは何なのでしょう? サイバーエージェントグループのクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」から考えます。

    2019年2月14日

    イベントレポート

  • 赤字路線からブランドへと成長した「いすみ鉄道」の発想と戦略

    廃線寸前の赤字路線からブランドに変貌した千葉県房総半島を走る「いすみ鉄道」。現在ではさまざまなメディアで取り上げられ、鉄道ファンのみならず多くの人が訪れる強力な観光コンテンツに成長しました。沿線には目的地になるような場所がないため、外部から人が来ることはほとんどありませんでした。そこで発想の転換をしたことが成功を導きました。

    2019年2月12日

    イベントレポート

  • マンガ・アニメと現実世界の境界にある「2.5次元文化」をビジネスに応用せよ!

    「2.5次元文化」とは、マンガ・アニメ・ゲームなどの2次元の虚構の世界と、身体性を伴った経験を共有する3次元の現実世界の境界にあるカルチャーのこと。舞台、ミュージカル、コスプレ、コンサートなどさまざまなコンテンツとして提供されていて、国内外を問わず熱狂的な支持を得ています。これらのコンテンツは、アニメの舞台となった街を訪れる「聖地巡礼」といったツーリズムとの相性もよく、海外でも強い人気を博しています。マンガ・アニメ・ゲームーーこれらのコンテンツを2次元だけではなく、2.5次元の世界で活用することが、地域活性やインバウンド誘致の新たなファクターとなりそうです。

    2019年2月1日

    イベントレポート