地方創生、こんなITが欲しかった! 地域経済の好循環をウェブで実現させる会社

AI、ロボット、IoTの活用で、縮小する日本を住みよい国に/株式会社リアルグローブ

2018年8月10日
地方創生の切り札と目されるIT。都市部の大企業では、AI、ロボット、IoTが導入され、様々な業務を自動化しつつありますが、地方にはまだその恩恵は行き渡っていません。しかし、3Dプリンタやドローンの登場など、テクノロジーの民主化がその壁を打ち破ろうとしています。それら最新のITをウェブの技術を使って、ローカル・コミュニティーの活性化につなげようとするソフト開発会社があります。東京大学在学中に創業し、今年で11年目を迎えた「株式会社リアルグローブ」です。

株式会社リアルグローブ 代表取締役 大畑貴弘さん。大畑さんのソフト開発の原点はドラえもん。「『ドラえもんの脳みそ』を作りたかった」と語る時の表情はいまもあの頃のままだ

地方創生の切り札と目されるのがITです。しかし地方と一括りにするには多種多様な文化や風土が存在します。そこに暮らす人々はもちろん、仕事も千差万別です。それらの多様性に対応できるようになって初めて、ITは問題を解決するツールとなります。都市部の大企業では、AI、ロボット、IoTが導入され、様々な業務を自動化しつつありますが、地方にはまだその恩恵は行き渡っていません。しかし、3Dプリンタやドローンの登場など、テクノロジーの民主化がその壁を打ち破ろうとしています。それら最新のITをウェブの技術を使って、ローカル・コミュニティーの活性化につなげようとするソフト開発会社があります。東京大学在学中に創業し、今年で11年目を迎えた「株式会社リアルグローブ」です。創業者の大畑貴弘 代表取締役に話を聞きます。

「まちのOS」を作る会社とは?

ーーリアルグローブは「まちのOSを作る会社」とうたっていますね。

AI、ロボット、IoTを活用した地域経済の循環を実現することを、会社のミッションとしています。例えば地方の農業や林業、商店街や旅館、あるいは建築業など、これまでITの恩恵を受けてこなかった人々が使えるようなITを提供することもまちのOSの一部です。

いまITは都市の大企業だけのものではなく地方にも偏在しています。生産手段も民主化している。3Dプリンタを使えば、それぞれのニーズや状況に、よりフィットできるようになりました。コストをかけなくても、AI、ロボット、IoTを駆使すれば、様々な業務やサービスを自動化できるのです。

IoTが主体となるとユーザーインターフェイスが変わります。これまでパソコンやタブレットだったものがウェアラブルになったり、あるいはボタン一発になったりするわけです。タブレットやPCでの画面操作は人間にとって不自然な行為ですよね。僕たちは「ちょうどよい」テクノロジーでガジェットに落とし込んだりしてそれを実現させたいと考えています。

大量生産品のほとんどは機能がトゥーマッチです。それを適量生産・適量消費にしたい。先端テクノロジーを使えば、地域が必要なものを必要な分だけ自分たちで作ることができる社会が実現します。

ーーまちのOSとは、ITだけでなく人やコミュニティ、製品などもそこに含まれるということですか。

エコシステムとして「場」や「人」作りが大事になってきます。僕たちは道具を簡単にして、まちの工房ですぐにそれを試せるようにします。そしてその先には人がいます。

人作りはまち作りにつながります。僕らが行うプロジェクトには必ず人が真ん中にいます。衰退しつつある地域コミュニティですが、ITをベースにして再生させる取り組みを始めています。

衰退しつつある地域コミュニティを、ITをベースにして再生させる取り組みが「まちのOS」だ。先端テクノロジーを使えば、地域が必要なものを必要な分だけ自分たちで作ることができる社会が実現する

ーー地方創生への道筋が見えてくるようです。

僕は文部科学省の中央教育審議会の専門委員を2年やったのですが、そのときの答申に上がったのが「生涯学習プラットフォーム」という構想です。新しい地域コミュニティの形とはどうあるべきか? その中核にあるのは人の生きがいです。人間は学び続ける生き物です。学ぶこと自体が喜びであり、それが次の学びにつながる。そしてそれが生きがいになっていく。そういう人がいればいるほど地域は活性化すると考えたのです。

日本は高齢化が進んでいます。会社勤めの場合、60歳定年だとそこから40年も残りの人生がある。彼らを活用しないとやっていけない時代です。それは中高年だけの問題ではありません。例えば24歳で大学院を出て社会人になったとしても、10年後に世界は変わっているはずです。そこで学び直しをしなければならない。若い人でも置かれた状況は同じなのです。

学び続ける社会というのは学び続けないといけない社会でもあります。常に自分をアップデートしなければならない。これまで認証と言えば学歴しかありませんでしたが、それを変えていかなければなりません。職業訓練を受ける、大学院やダブルスクールでの教育、職人さんの弟子になったーーそういう経歴をITで正しく評価して、フィードバックすることが求められているのです。

熊本県南小国町およびEDAC((一社)救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会)とのドローンを活用したまちづくり協定の発表会にて。右が大畑さん

災害・救急医療対応で活躍するドローンのソフト開発

ーーリアルグローブは、大畑さんが東京大学大学院在学中の起業でした。ここまで順風満帆でしたか。

いえ、失敗の連続です。小遣い稼ぎとして研究室の下請けをしていた大学院生時代がいちばん儲けていたかもしれません。その2年後にリーマンショックがきて浮ついた案件がなくなってしまった。周りで生き残った会社はサーバー事業をやっていました。インフラなので切られなかったんですね。でも研究開発関連はそうはいかない。それで僕もPaaSやIaaSの仕組みを使い、2008年にクラウドの基盤技術開発会社としてリアルグローブを起業したんです。でも結局、サーバーのビジネスとは規模のビジネスです。まったく勝負にならなかった。その後、マイクロソフト、アマゾン、グーグルといった黒船がきてボコボコにされました(笑)。会社の方向性もお金もなくなってしまいました。

でも僕たちに技術力は残されていました。それを使ってもらえる場所を探すことにしました。ひょんなことから教育業界に拾ってもらったんです。その後、総務省が行う小中学校向けのクラウド・プラットフォーム開発実証実験に参加することになりました。いまでこそ当たり前ですが、当時は学校内からクラウドにアクセスするのはとんでもないことでした。そこでつきあいのあった一般企業からお仕事をいただけるようになって、売上げは倍々で増加し現在があります。2016年からはドローンのソフト開発を行っています。

僕はもともと「ドラえもんの脳みそ」を作りたくて大学に入りました。つまり「友達ロボット」の開発です。ドラえもんが好きだったから教育分野でうまくいったのかもしれません。

リアルグローブのスローガンは「もっと自在に、おもしろく ちょうどいい世界を」。研究開発の成果を、より手軽に広く行き渡らせることで、社会をより良くしていく人たちを支援している

ーードローンなどのロボット領域はすでに他社の開拓が始まっていたのでは?

最近ようやくハードとソフトの垣根が下がってきましたが、ハードからロボットに入った人は想像以上にソフトに関心がありません。プログラムの質がちょっと違うんですね。そこにチャンスを感じました。ここはブルーオーシャンだと思えたのです。

ドローンでは、僕たちは制御ソフトではなく、業務コミュニケーションを円滑にするツール開発にしぼりました。それを僕らは「ドローンコミュニケーション」と呼んでいます。

僕らはクラウド、もっと言うとウェブで仕組みを作っています。一般的なウェブブラウザで操作できるもの。ウェブのパラダイムをドローンやロボットに適用できればと考えています。ウェブにすると使う側も開発する側も簡単じゃないですか。これは「Web of Things(WoT)」と呼ばれているのですが、通信のプロトコルやものごとのアーキテクチャーの作り方とか、あらゆる場面でWoTを日常化させたいと思っています。

ーードローンのソフト開発では災害対応の有効性が注目されています。

「Hec-Eye」という独自のサービスを展開しています。これはドローンを映像配信技術でつないだ広範囲の状況把握サービスです。例えば災害場所でドローンを飛ばし、映像をリアルタイムでアップロードしたり、撮影位置を地図上に示すことができます。迅速で正確、かつ広範囲の状況把握が可能です。

災害や救急医療という場面でドローンは情報端末として優れた効果を発揮します。どれだけの人が救急を求めているのかなど、俯瞰で情報を把握することができるからです。

これまでは大掛かりな装備をハイエースに積み込んで現地に向かっていたのが、当社のソフトを使えばカバンひとつでOKなんです。Hec-Eyeをインストールしたスマホがあれば、それで映像の配信ができます。ソフトだけですから価格も安い。ハード発想とソフト発想の違いと言えるでしょう。

ドローンを映像配信技術でつないだ広範囲の状況把握サービス「Hec-Eye」。災害場所でドローンを飛ばし、映像をリアルタイムでアップロードしたり、撮影位置を地図上に示すことができる

ITを使って社会問題を解決したい

ーーITによる生産性向上なのか、移民受け入れなのかという議論があります。

僕は“たたむ派”です。地方はどんどん縮んでいます。求心力がなくなった時点でうまく整理すれば魅力が残せたのに、そうしなかったために過疎化が進んでいます。その結果、駐車場がまちの真ん中にあったりする。まちを計画的にたたみながら、イージーランディングするべきです。

いまの人口を維持する方向なのか、5千万人でやっていける国にするのか、どちらを選ぶかが重要になります。国全体で世界と勝負する時代は終わっています。かつては集団としての規模は個人の幸せにつながっていました。しかしグローバルの時代はそうではありません。

だから僕はITを使いながらたたむ方向を選ぶべきだと考えます。人間が生きていくうえで格差は必ず生まれます。敬遠される仕事、つまり格差に移民をはめ込むというのは、ただの階級制につながる危険性がある。だから単純労働はロボットやIoTで解決するべきなのです。

ーーリアルグローブの仕事一覧を見てみると、公共性の高いプロジェクトが多くを占めています。

自社のR&D(研究開発)は公共的な領域でのみ行っています。社会問題を解決したいという気持ちがあるんです。社会の成り立ちや人間の営みについて考えるのが僕は好きなんですよ。日本に生まれて少しでもこの国のために役に立ちたい。単にお金を稼ぐだけでは、男一生の仕事としてどうなのかという思いもあります。そういう視点でビジネスフィールドを選んでいるからか、儲けるのがうまくないんですけどね(笑)。

「日本に生まれて少しでもこの国のために役に立ちたい。単にお金を稼ぐだけでは、男一生の仕事としてどうなのかという思いがあります」(大畑さん)

★おすすめ記事

  • 地域を“アゲる”観光行政、“サゲる”観光行政

    様々な場面で地域間の格差が拡大しています。自治体の規模や財政もさることながら、地域の活性・不活性に直結する地域間競争を勝ち抜く力の差、その基礎となる意識や意欲の面でも差は目に見えるかたちで表れてきています。今回はこの地域観光行政の格差について考えます。

  • 地方創生の鍵を握る地域資源活用~0から1を生む「朝観光」~

    函館の朝市は、年間180万人を集める全国トップクラスの規模と人気を誇ります。しかし規模で函館に比肩、一日当たりの来場者数では函館を上回る日本一の巨大朝市が東北にあることを知る人は一部です。八戸港館鼻岸壁の日曜朝市の出店舗数は350店、一日の来場者数2~3万人、規模や賑わいは函館をはるかに凌駕するものです。ただ全国的な知名度では函館や他の市場に大きく水をあけられています。これに対し、八戸広域観光推進協議会の観光コーディネーター、木村聡さんは八戸ならではのある文化に着目、新たな観光プランを発案。それが日本一の朝市とも繋がる八戸の早朝文化でした。

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

インタビュー新着記事

  • 移住者への事業承継を積極推進! 七尾市の地域創生はここが違う

    地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。

    2018年10月26日

    インタビュー

  • 社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟

    いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。

    2018年10月15日

    インタビュー

  • 「水素水」をもっと日本の企業、事業所へ!〜 ウォーターライフケアという新発想

    昨年、東京都健康長寿医療センター研究所がガイドライン「健康長寿のための12か条」を発表しました。そのエビエンスブックでとりあげられたもののひとつが「水素水」です。病気の予防領域において水素の有効性が認められつつあることで、今、その存在に改めて光が当たっています。今回、紹介するのは、水素を安く簡単に提供する装置、水素水サーバーを開発・販売する「株式会社 ドクターズ・マン」です。

    2018年10月9日

    インタビュー

  • 「横浜のストーリー」を練りこんだ「あられ」「柿の種」は、なぜこんなに美味しく感じられるのか?

    ナポリタン味のあられ「横浜ナポリタン」やビールにピッタリの柿ピーの「横濱ビア柿」をご存知でしょうか。これらユニークな商品を製造・販売しているのが、横浜で創業89年になる「株式会社美濃屋あられ製造本舗」です。ビール、ナポリタン、BARなど横浜が発祥とされるものをモチーフにした、どこにもない横浜オリジナルの米菓子は、どのような背景から生まれたのでしょうか。

    2018年10月1日

    インタビュー

  • 地元が主役の“強烈”なまちおこし、山形・庄内で進化中!【後編】

    もしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープン、そこに至る道筋をたどります。キーとなったのは「完全地域主導」のまちづくりでした。

    2018年9月18日

    インタビュー

  • 地元が主役の“強烈”なまちおこし、山形・庄内で進化中!【前編】

    地方創生の必要が叫ばれてもう何年も経ちます。日本各地で様々な取組みが行われてきましたが、なかなか結果を導き出せていません。その要因のひとつは、誰が主体的にまちづくりに関わるのか? ということにあるかもしれません。もしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープンします。

    2018年9月14日

    インタビュー

  • 横浜港を彩るレストランクルーズ船! ロイヤルウイングの独自戦略

    山下埠頭や新港地区の開発、IRの誘致などウォーターフロントエリアが活況を見せている横浜港。その横浜港の顔ともいえる存在が、レストランクルーズ船の「ロイヤルウイング」です。ベイブリッジをくぐり、東京湾、横浜港を周遊する観光クルーズ、そしてレストランでの美味しい料理。「もの」から「こと」へのトレンドのなか、体験型消費を象徴する記念日やウェディングなどの「ハレの日」向けのサービスも大人気です。

    2018年9月10日

    インタビュー

  • コナカが「おもてなし規格認証・紺認証」を取得! ファッション・衣料小売業、新たな次元へ(後編)

    日本のサービス産業と地域経済の活性化を図るために誕生した「おもてなし規格認証」。サービス品質を「見える化」するための規格認証制度として、様々な業種の会社や事業所が有効に活用しています。サービス産業のなかでもウェイトが高いのがファッション・衣料関連です。前編に引き続き、本社および紳士服コナカ全店舗でおもてなし規格認証「紺認証」を取得した「株式会社コナカ」の現場からの声を伝えます。

    2018年8月29日

    おもてなし規格認証