小売業から観光業へ進出!地元と連携し、新たな観光づくり

京都府宮津市・㈱にしがき〜新感覚体験リゾート「シエナヒルズ」の挑戦〜

2018年8月7日
京都丹後エリアでリゾート事業を展開する株式会社にしがきは7月、新感覚の体験型リゾートを謳う「シエナヒルズ」をオープンさせました。ここを拠点として、これまでなかった「地域ぐるみ」の観光開発で地域活性化、地方創生につなげようとするプロジェクトです。こうした試みが日本の新たなリゾートのモデルとなり得るのか注目されます。

7月開業「シエナヒルズ」のタイプの異なる2つの宿泊施設。別荘感覚でブール付の豪華施設とグランピングが楽しめるドーム型のキャンピング施設

 日本三景の一つ、天橋立で知られる京都府宮津市など、京都丹後エリアでリゾート事業を展開する株式会社にしがきは7月、新感覚の体験型リゾートを謳う「シエナヒルズ」をオープンさせました。

 1950年創業、元々は食品スーパー事業からスタートした「にしがき」ですが、1982年には住宅事業部を立ち上げ、分譲住宅の販売を開始。1986年には事業部名をマリンビレッジ開発部に改め、別荘地分譲を展開すると1988年には宮津湾でマリーナ経営に進出。

 1989年には事業部名をマリントピアリゾート事業部とし、ここからリゾートマンション10棟(893室)を建設。1994年には温泉の湧出に成功、その後、会員制ヴィラや一般客も利用可能な宿泊施設を展開、一大リゾートエリアを形成してきました。2006年には介護事業にも進出、2013年の年商は158億円に上ります。

 こうした中、今年新たにオープンさせたシエナヒルズではここを拠点として、これまでなかった「地域ぐるみ」の観光開発で地域活性化、地方創生につなげようとするものです。

浸透しないブランド「海の京都」、新たなリゾート事業は起爆剤になるか

舟屋で人気の伊根町。向井酒造は舟屋を寄り合い処とし、時間貸切で古代米を使った酒「伊根満開」や写真の「丹後スカッシュ」宮津港で獲れた新鮮な魚介などの地元の食やマリンレジャーを楽しむなどの体験の場としようとしている

 京都府によれば、2017年の宮津市の観光入込客数は300万人。宮津を代表する観光地、天橋立は200万人近くを集め、京都市を除く「府内観光地入込客数ランキング」で第一位を誇ります。

 京都丹後エリアは近年、山陰近畿自動車道「京丹後大宮IC」開通や京都丹後鉄道の特急利用者の増加、舟屋人気などから観光客は増加傾向にあります。しかし、宮津市の宿泊客率は18%(56万人、うち外国人3.4万人)と低く、通過型の傾向が見られます。

 理由の一つは天橋立以外の観光が確立されていないこと。ブランド総合研究所の「地域ブランド調査2017」で、宮津市の魅力度は1000自治体中414位、認知度は646位に留まります。宮津観光は大看板の天橋立一本やりで、宮津のブランドそのものを高めることができていません。

 天橋立観光のメインは天橋立を一望できる展望台からの「股のぞき」。実際、駅の観光案内所で天橋立以外のお勧めを聞いたところ「他ですか・・・?」と聞き返され、返事に窮する現状です。

 京都府では日本海に面する宮津市や舞鶴市など、京都府北部地域の5市2町をもうひとつの京都「海の京都」と位置づけ、2013年に海の京都構想を策定。海の京都DMOを設置して観光地域づくりなどを推進していますが、その知名度は極めて低く、一般に浸透していません。

 一方、天橋立が浮かぶ宮津湾には食通を唸らせる希少な魚介など海産資源が豊富で、天橋立から約20km北には舟屋で人気の伊根町、その間には天橋立を北側から一望できる「傘松公園」や人気旅行雑誌も一押しする神秘的パワースポット「眞名井神社」など、魅力的な資源も点在していますが、その存在を知る人は限られ、これらを繋げて見せることもできていません。

 今回、「にしがき」が新たに打ち出した体験型リゾートは、同社が手掛けるシエナヒルズをこうした資源をつなぐ拠点と位置づけ、地域の魅力を編集し、魅力的な体験コンテンツとして発信することで、このエリアのリゾートとしての認知や魅力を高めていこうとするものです。

舟屋を自由に使える遊び場に、宮津湾で漁師体験

地元漁師の漁船に乗り込み、とり貝の養殖体験する「漁師に弟子入りツアー」では漁師直伝の釣りやカゴ漁を学び、宮津港の新鮮な魚介を食べることができる

 これまで企業としてリゾート事業を展開してきた「にしがき」が、新たに地域と連携して体験型のコンテンツを創り上げていくに当たっては、地域に埋もれた資源を発掘するとともに、日頃からもっと地域を知ってほしい、地元を盛り上げたいと熱い思いを持ち、地域で特色のある活動をするキーマンたちの理解や協力を得ていくことが不可欠。まずはそうした思いを持つ人に声を掛け、対話や議論を重ね、その中から新たな体験型コンテンツの提案や造成がなされました。

 たとえば、伊根町の舟屋は国の重要伝統的建造物郡保存地区に指定され、NHKの連続テレビ小説などのロケ地になったことで全国的に有名になりましたが、230軒ある舟屋のうち飲食店や宿として活用されているのはごく一部。空き家も多く、観光の受け皿としての活用は進んでおらず、訪れる人は観光船で外から眺めるか、町を散策して終わりになっています。

 伊根町で酒蔵を営む向井酒造の向井久仁子さんは、こうした現状を変えたいと自身が所有する舟屋を活用し、舟屋寄り合い処を開設しようとしています。ここでは舟屋を時間で貸し切って、宮津湾の魚介などを使ったバーベキューや地酒、マリンスポーツを楽しむなど、その人それぞれのニーズに合わせて自由に使うことができます。

 向井さんは子どもの頃、舟屋でした遊びを多くの人にも体験してもらいたいと舟屋の活用について試行錯誤していました。そんな中、シエナヒルズから声を掛けられ、今回、構想していた寄り合い処をテスト的にスタートさせることにしたのです。

 この他にも宮津湾で漁業を営むこだわりの漁師、本藤靖さんに弟子入り、漁師体験や絶品の魚介を味わう「漁師に弟子入りツアー」など、地域のキーマンと連携した様々な体験プログラムが計画されています。

 シエナヒルズは敷地面積17743平方メートルに、別荘感覚で贅沢なプライベート空間にプライベートプール&ガーデンを備える1棟貸しタイプのヴィラ10棟と、グランピングが楽しめる空調完備のドーム型テント12棟のタイプの異なる2つの宿泊施設を有しています。

 ヴィラは1棟78,000円~148,000円と一見高く感じますが、定員6~10名で利用できるため、家族連れやグループで利用すれば、コスパは悪くありません。上質な別荘や町家などの古民家を一棟貸しするバケーションレンタル市場も活性化しており、今後、こうした試みが日本の新たなリゾートのモデルとなり得るのか注目されるところです。

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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