アニメ『中間管理禄トネガワ』 ギャンブラーや黒服も仕事に悩む人間のひとりなのだ

『カイジ』のスピンオフ、面白くないわけがない!

2018年7月31日
アニメ『中間管理禄トネガワ』は、消費者金融を主体とする日本最大級のコンツェルン・帝愛グループの最高幹部・利根川幸雄を主人公とするコメディ作品です。帝愛グループの利根川と聞いて、あの漫画を思い出す人も多いのではないでしょうか。そう、利根川とは福本伸行の人気漫画『賭博黙示録カイジ』に登場する悪役の名前なのです。

アニメ「中間管理録トネガワ」 日本テレビAnichU枠ほか 毎週火曜25時59分〜/Hulu 毎週水曜 テレビ放送前に先行配信 (©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社・帝愛グループ 広報部)

 火曜深夜に日本テレビAnichU枠ほかで放送((オンライン動画配信サービスのHuluでは毎週水曜 テレビ放送前に先行配信)されているアニメ『中間管理禄トネガワ』(以下、『トネガワ』)は、消費者金融を主体とする日本最大級のコンツェルン・帝愛グループの最高幹部・利根川幸雄を主人公とするコメディ作品だ。利根川は帝愛グループの総帥・兵藤和尊の無理難題に応えながら、部下の黒服たちの指導育成も同時におこなわなければならない中間管理職。気丈に振る舞っているが、上司と部下に気づかう立場のため、いつも頭を抱えている。
 
 原作は現在、講談社の漫画配信サイト「コミックDAYS」で連載されている同名漫画だが、帝愛グループの利根川と聞いて、あの漫画を思い出す人も多いのではないかと思う。そう、利根川とは福本伸行の人気漫画『賭博黙示録カイジ』(講談社)に登場する悪役の名前である。

 『賭博黙示録カイジ』(以下、『カイジ』)は定職につかず日々をダラダラと過ごしていたカイジ(伊藤開司)が、保証人となった結果、膨らんだ借金385万円を返済するために帝愛グループが主催するギャンブル船・エスポワールに乗り込む物語だ。

 限定ジャンケンというギャンブルを戦わされる極限状態の中で、カイジはギャンブラーとしての才能を開花させていくのだが、そんなカイジの前に立ちはだかる初期のライバルが利根川だ。

 船にはカイジのように借金を抱えた男たちが乗り込んでいるのだが、利根川は彼らを恫喝してギャンブルに参加させる。「世間はお前らの母親ではない」「金は命よりも重い・・・!」などの名台詞も多く、悪役ながらも人気のある男で、カイジたちに厳しい現実を突きつける父親のような存在でもあった。

 1995年に連載がスタートした『カイジ』はその後、タイトルを変えながら、異色のギャンブル漫画として今も続いている人気作品だ。

 元々、福本は『天 天和通りの快男児』(竹書房)や『銀と金』(双葉社)といった漫画で人気を確立したのだが、『カイジ』は、青年誌の「ヤングマガジン」(講談社)でオリジナルのギャンブル対決を描き大ヒットした。

 現在、福本の漫画『賭博覇王伝 零』(講談社)をドラマ化した『ゼロ 一攫千金ゲーム』(日本テレビ系)も放送されているが、本作もまた『カイジ』で培った方法論で作られたギャンブルモノだ。複数の人間が閉じた空間に集められて、独自のルールで戦わされるというデスゲーム・スタイルは後の漫画やアニメを筆頭とする日本のエンターテインメント作品に大きな影響を与えている。

 そんな『カイジ』シリーズだが、新しい流れとして面白いのが『トネガワ』や『1日外出録ハンチョウ』(講談社、以下『ハンチョウ』)といったスピンオフの存在だろう。この二作では福本は協力とクレジットされており、二作とも原作は萩原天晴、『トネガワ』の作画は橋本智広、三好智樹、『ハンチョウ』の作画は上原求、新井和也が担当している。 

 絵柄はもちろんのこと、ストーリーの運び方や登場人物の心理描写は、完全に福本漫画そのもので、その手法を使って本家が『カイジ』のパロディをやっているのだから、面白くならないはずがない。

 『カイジ』で描かれたギャンブル「限定ジャンケン」を生み出す会議の過程を面白おかしく見せたり、劇中に登場した焼き土下座をさせるための鉄板を使って慰安旅行でバーベキューをしたりといった場面は、原作ファンを知っていると見ていて、ニヤニヤしてしまう。
 何より『トネガワ』の面白さは、一見怖そうにみえる大人たちが見せるユーモラスな表情で、話数が進むごとに群像劇としての味わいが増している。

 特に利根川の部下の黒服たちはどんどん個性を見せ始めている。

 『カイジ』に登場した時は業務的なことしかしゃべらず、サングラスに黒いスーツだったため、不気味で威圧的な存在だった黒服たちが『トネガワ』では荻野圭一、萩尾純一といった名前が与えられており、名前が紛らわしいので利根川が困惑する場面もある。

 黒服の個性化は話数が進むごとに際立っており、主役になるエピソードも出てきている。一方、利根川も理想の上司でありたいと影で努力をしており、ギャンブル船で披露した有名な演説の裏話も登場する。言ってしまえば悪の組織の内幕モノだが、利根川や黒服たちの振る舞いには妙な説得力があり、会社モノとしてもリアルで親近感がある。

 これは作品と共に読者が成長したことも大きいだろう。

 連載初期に20代初頭だった読者は、今や40代後半だ。もしかしたら利根川よりもおじさんになった人もいるかもしれない。いつの間にか若者のカイジよりも、組織の中で右往左往する利根川や黒服の立場に近くなっており、だからこそ会社モノとして支持されているのだ。

 帝愛グループの労働環境は超ブラックなので 「こんな職場なら働いてみたい」とは、まったく思わないが、かつてはあれほど怖かった利根川や黒服もまた、自分たちと同じように仕事に悩む人間なんだなぁと思うと、どこか安心する。仕事に疲れた時に読むとほっこりする作品だ。
執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

成馬零一新着記事

  • TVドラマ『宮本から君へ』 働く人間なら、誰の心にも必ず「宮本」がいる

    ドラマ『宮本から君へ』は1990~94年にかけて連載された漫画が原作だ。今と比べれば、一生懸命になることはダサいことだと多くの日本人が思っていた時期の作品である。そんな時代にあって、恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男・宮本を登場させることで、激しい賛否を巻き起こした。当時はバブル景気に浮かれていた日本に対する強烈なカウンターだったわけだが、大きく時代を隔てた2018年の20代に、本作はどのように響くのだろうか?

    2018年6月15日

    成馬零一

  • 朝ドラ「わろてんか」に“働き方改革”の原点を見出す

    連続テレビ小説『わろてんか』(NHK)は、いつも周りを朗らかにしながら自分もよく笑う、いわゆる笑い上戸の女の子がやがて結婚し、寄席を切り盛りしていく姿を描いた物語だ。京都の老舗薬種問屋の長女に生まれたヒロイン・てんを演じるのは若手女優の葵わかな。てんと藤吉の歩みが、そのまま戦前の芸能の歴史となっている。

    2018年2月14日

    成馬零一

  • NHKドラマ『マチ工場のオンナ』 事業承継を克服する姿に希望を見出す

    NHKで金曜夜10時から放送されている『マチ工場のオンナ』は、父の有元泰造(舘ひろし)の死によって、自動車用のゲージを作る町工場の社長に就任することになった32歳の主婦・光(内山理名)が主人公のドラマだ。思った以上に物語の展開が早いので、どこに着地するのかわからないが、町工場の苦しい現状を描きながらも、希望を感じさせるような結末となるのではないかと期待している。

    2017年12月22日

    成馬零一

  • ドラマ「先に生まれただけの僕」から、変わりゆく日本的経営を考える

    日本テレビ系土曜夜10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、35歳の若い校長先生が業績不振の高校を立て直すという異色の学園ドラマだ。面白い授業のできない教師たちはクビになり、勉強のできない生徒たちは切り捨てられていくのではないか? という経営優先の合理化がもたらす負の側面と、そこで犠牲になる側の不安が描かれている。

    2017年11月30日

    成馬零一

  • 映画「HiGH&LOW THE MOVIE 3」にフロンティアスピリットを見る

    ダンス&ボーカルグループEXILE TRIBEや三代目J Soul Brothersが所属する芸能事務所LDHが中心となって展開している『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)というプロジェクトをご存知だろうか? 『ハイロー』の魅力は作品の物語もさることながら、このプロジェクトを立ち上げたLDHと会長のHIROの会社としてのフロンティアスピリット、それ自体が巨大な物語として背後に透けてみえることだ。

    2017年10月25日

    成馬零一

  • 朝ドラ『ひよっこ』 美しい「労働観」に人々は理想の職場を重ねた

    今週、最終回を迎えるNHK『連続テレビ小説「ひよっこ」』。数々の話題を振りまき、今年を代表するヒット作となったドラマだが、見ていて興味深かったのは劇中での「仕事の描かれ方」だ。舞台こそ1960年代だが、本作の労働観は極めて現代的で、さりげないシーンに、とても大事なことが描かれている。

    2017年9月27日

    成馬零一

  • ドラマ「コード・ブルー」が描く「仕事に対する哲学」に共感する

    医療ドラマは今のテレビドラマにおいては刑事ドラマと並ぶヒットコンテンツで、毎クール、必ず一作はあるような状態が続いている。フジテレビ系の「月9」で放送されている『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』も今回で三作目となる人気シリーズだ。フライトドクターという特殊な仕事を描いているが、根底にあるのは、真剣に働いている人なら誰もが共感できる「仕事に対する哲学」である。

    2017年8月28日

    成馬零一

  • ドラマ「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」骨太に描かれる若者の“労働観”

    昨年、日本テレビ系で放送され話題となった連続ドラマ『ゆとりですがなにか』の続編、『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』。『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』といった20代の若者たちを主人公にしたポップな群像劇を得意としてきた宮藤が、大人と若者の狭間で悩む青年たちの葛藤を正攻法で書ききったことには、作家としての成長を感じさせる。何より、近年のテレビドラマでは中々描かれることが少ない「若者にとっての『働く』とはどういうことか」が、しっかりと描かれていたのが、本作の素晴らしさだ。

    2017年7月7日

    成馬零一