突破力人材はどうやって見つける? グローバル時代を生き抜く中小企業の作り方

ガレージスミダ「突破力人材の獲得&育成ノウハウ」レポート

2018年7月4日
東京の中小企業のメッカ、墨田区にあるモノづくり総合支援施設「ガレージスミダ」で、セミナーイベント「突破力人材の獲得&育成ノウハウ」が開催されました。新興国企業の成長により国際競争が激化している今、海外進出に向けて中小企業に必要なのはどんな能力をもった人材なのでしょうか? 
 東京の中小企業のメッカ、墨田区。特にもの作りのまちとして数多くの工場が日々、研鑽を重ねています。墨田区で中小企業を代表する存在として有名なのが金属加工メーカー「浜野製作所」です。産学連携やベンチャー企業との協業などにも積極的に取り組んでいます。6月15日には、民間企業や研究所の訪問を続けてきた天皇陛下が来訪され、大きく報道されたことも耳目に新しいはず。

 浜野製作所が、2014年にモノづくり総合支援施設として立ち上げたのが「Garage Sumida(ガレージスミダ)」です。個人や企業の製品開発をサポートするだけでなく、定期的にセミナーを開催、人が集まることで生まれる情報発信基地としての役割も果たしています。

 今回の記事では6月1日に開催されたセミナーイベント「突破力人材の獲得&育成ノウハウ」の講演を中心にレポートします。

「ガレージスミダ」で開催されたセミナーイベント「突破力人材の獲得&育成ノウハウ」。ガレージスミダは墨田区の浜野製作所が立ち上げたモノづくり総合支援施設。写真はモデレーターのみどりかわけんじさん

いま企業に必要なのは「突破力」

 セミナーのテーマのひとつは「海外進出に向けてどんな人材を求めればいいのか?」。日本の中小製造業は海外進出に積極的かどうかと問われると、それはNOです。長期的に見れば、中小企業・小規模事業者における輸出企業の数は増加傾向ではありますが、全体に占める割合は、中小製造業全体のわずか3.5%前後だと言われています。しかし新興国企業の成長により国際競争が激化している今、この傾向が続くとあっという間に、彼らに追い抜かれてしまうことははっきりとしています。そんななかで、積極的に世界と向き合うための人材が求められているのです。

 「企業にとって必要なのは、『多様性』と同時に『突破力』です。突破力とは、与えられた仕事をこなす人材ではなく、『走りながら考えることができる人材』のこと。前例のないことにも楽しんで乗り込んでいける人材、知らない国や市場でもやれるやり方を構築できる人材。『新たな付加価値を生み出すため』の人材を作り出す必要があります」(モデレーターのみどりかわけんじさん)

 海外進出に際しての人材のあり方について論じてくれたのは、海外に通用する人材について多くの知見を持つ二人のゲストスピーカーです。ともに体当たりで海外に赴き、その経験を活かしたビジネスを展開しています。はじめに登壇したのは、強固なネットワークで海外市場を切り拓いてきた「株式会社ザ・スリービー」の石田和靖さん、次に、海外留学支援や海外留学経験者に日本企業を紹介している「荒木隆事務所」の荒木隆さんです。

セミナーのテーマのひとつは「海外進出に向けてどんな人材を求めればいいのか?」。新興国企業の成長により国際競争が激化している中、積極的に世界と向き合うための人材が求められている

「10万円のドレッシング」はなぜ成功したのか?

 石田さんは、SNS「ワールドインベスターズ」や動画サイト「ワールドインベスターズTV」など、海外のビジネス・投資や国際理解教育に関するメディアを長く企画・運営してきました。年に十数回、香港・タイ・UAEなどの国を訪問、ビジネスチャンスを探し、日本の企業をつないできました。

 「日本人が知らない新興国はたくさんあります。しかし新興国は日本のことをよく知っています。そういう国では、こちらの肩書きや所属にこだわることなく大物が会ってくれます。大臣クラスの閣僚や関係者が会ってくれることもあります。私の場合、サウジアラビアで内務大臣と直接お話しする機会をもらいました。新興国はそれほどに日本の情報を得たいのです」(石田さん)

 新興国にビジネスチャンスがありそうなことは多くの経営者が感じていますが、どうすればいいのかがわからない人が多いのも事実。石田さんは自身の経験から躊躇せずに飛び込んでいくことを勧めます。その思い切りこそが「突破力」だと言います。

 石田さんが突破力を物語る一例としてあげたのが、サウジアラビアで販売した「10万円のドレッシング」です。

ゲストスピーカーの「ザ・スリービー」の石田和靖さん。SNS「ワールドインベスターズ」や動画サイト「ワールドインベスターズTV」など、海外のビジネス・投資や国際理解教育に関するメディアを企画・運営してきた。新興国を中心にビジネスチャンスを探し日本の企業をつないでいる

 「名古屋で新興国進出についての講演会をした時のことです。私の『海外に飛び出しましょう』という言葉に『僕がサウジアラビアに行きます!』とすぐに反応した社長さんがいたんです。『グルメストーリー』というドレッシングを主に製造する会社の鈴木信輝さんでした。グルメストーリーは社員が20人程の中小企業です」

 石田さんと鈴木さんはすぐにドレッシングの開発にとりかかりました。サウジアラビアには意外なことに生野菜が多く流通しています。海水淡水化システムで農業が可能だからです。ホテルに行けばサラダビュッフェがある。しかし、サラダにかける調味料が完全に不足していました。オリーブオイルに塩・こしょうが一般的で、あとはせいぜいレモン果汁くらい。ドレッシングはほとんど見当たらなかったといいます。

 商品開発にあたってはまずサウジアラビア人の特徴を考えることから始めました。「富裕層が一定割合いる」「モノが良ければそれなりの値段で買ってくれる」「日本の伝統が好き」「ゴールド(金)が好き」・・・

 「富裕層向けの商品にしようと決めました。値段は1本10万円! 瀬戸内海産の天然ゆず、イタリア契約農家直送のエキストラバージンオリーブオイルなど、原料は一級品ばかりを集めて調合しました。伊勢志摩産の真珠パウダーを混ぜて高級感も演出しました。ボトルは有田焼の窯元職人の手作り。サウジのひとは限定品が好きなんです。ボトルには金沢の24金とプラチナをあしらいました。入れる箱は福島のヒノキ、それを西陣織で包んで完成です。中身を使い切ったあとは、おしゃれな一輪挿しとしても使うことができます」

 結果は300本が完売! 1本10万円のドレッシングを可能にしたのは、新興国に飛び込んでいく突破力だったのです。

海外経験者には英語力ではなく「多様力」を求めよ

2番目に登壇したのは「荒木隆事務所」の荒木隆さん。現在、マレーシアを中心に海外留学支援、そして海外留学経験者に日本企業を紹介している。「今の仕事をしていて痛感するのは、日本の人材がダメなのは日本の教育のせいだということ」と語った

 「今の仕事をしていて痛感するのは、日本の人材がダメなのは日本の教育のせいだということです。昨年、世界の大学ランキングで東京大学がシンガポール国立大学に抜かれました。私たちはこの差を感じないといけません」(荒木さん)

 荒木さんが海外留学において重視しているのが「『多様力』が身につく」ということ。海外留学というと「英語が話せるようになるため」と想像される方が多いかもしれませんが、200人以上の留学生をサポートしてきた荒木さんにとって海外留学とは、「人生の分岐点を自らで作ること」と言います。海外において様々なバックグラウンドの人や文化と出会うことによって、多様性が自ずと体得できるということなのです。
 では、そんな留学経験のある若者たちが今、日本の会社社会をどのように感じているのでしょうか?

 「海外へ留学して日本に戻って就職した人の90パーセントは不満を持っています。これは文部科学省が発表した数字です。彼らの多くは高い給料をもらっていて金銭的には十分な待遇を得ています。しかし今の日本の会社には満足していません。それはなぜなのでしょうか? 単に英語要員としてしか見られていないことに納得できないのです。彼らにはグローバルな時代を生き抜く異文化対応能力があります。しかしその一番大切な点について、企業はあまり理解していないのです」

 日本と世界の2つの視点で教育と労働を見てきた荒木さんにとって、「突破力人材」とは、どんな能力を有するひとを指すのでしょうか。

 「私が考える突破力人材とは、『異文化対応能力』『最低限の言語能力』『3年の海外経験』を持っているひとです」

 荒木さんのお父さんは大阪にある町工場の経営者でした。荒木さんによく話していたのは「日本が今の日本でなくなった時にでも、食っていけるような商売をやれ」だったそうです。荒木さんのお父さんはまさに今のグローバル時代を予見していたと言えるのではないでしょうか。
 グローバル人材とは? それは会社の規模を超えてまさに今、答えを出さなければならない問いであることは間違いありません。イベント当日は小雨が降る梅雨寒の夜でしたが、ガレージスミダではセミナー終了後も、経営者たちのホットな議論が続きました。

いま、日本の中小企業にとって必要なのは「多様性」と「突破力」。新たな付加価値を生み出すための人材が求められている

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコトカネ」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

イベントレポート新着記事

  • 2018年度「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社トップスピーチ②~トヨタ部品茨城共販~

    顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設したのが「日本経営品質賞」です。2018年度の中小企業部門では2社が受賞、2月14日に開催された「顧客価値創造フォーラム」で受賞企業トップによるスピーチが披露されました。トヨタ部品茨城共販株式会社代表取締役の駒月純さんのスピーチ「トヨタ部品茨城共販の経営革新について」の模様をレポートします。

    2019年3月15日

    イベントレポート

  • 訪日外国人が本当に買いたいものは何か?「ソーシャルリスニング」で解決する消費トレンド

    マーケティングの基本はソーシャルメディア分析」の時代です。インバウンドビジネスを成功に導くためにもSNSやブログをどう読み込むかが問われています。その方法のひとつが、ソーシャルメディアやSNSなどを分析し消費者のニーズを知る「ソーシャルリスニング」です。

    2019年3月13日

    イベントレポート

  • 『YOUは何しに日本へ?』プロデューサーが見た、外国人が日本に来る理由とは?

    インバウンドを象徴する現象のひとつに、メディアにおける番組の増加が挙げられます。その先駆けとなったのが『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京系列)です。番組開始から6年、密着取材から受ける印象では、訪日客の状況に変化が生まれているようです。それは「“日本二周目”の人たちが増えた」点にあると、番組担当プロデューサーは話します。

    2019年3月11日

    イベントレポート

  • 2018年度「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社トップスピーチ①〜九州タブチ〜

    顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設したのが「日本経営品質賞」です。2018年度の中小企業部門では2社が受賞、2月14日に開催された「顧客価値創造フォーラム」で受賞企業トップによるスピーチが披露されました。鹿児島県で給水装置の製造を行う株式会社九州タブチ代表取締役社長の鶴ヶ野未央さんのスピーチ「人と組織のスパイラルアップを目指す九州タブチの経営革新活動」の模様をレポートします。

    2019年3月8日

    イベントレポート

  • 混迷の時代を生き残る会社の「社長力」とは?

    「会社に良い悪いはない。社長に良い悪いがある」。そう言い切るのは株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役社長CEOの小宮一慶さん。大学教授として会計や経済の教育に携わる一方で、140冊以上の多岐にわたる著書を発表しています。「世の中には経営という仕事があります。この経営という仕事を知らない社長さんが意外なほど多い。経営の仕事とは『方向付け』『資源の最適配分』『人を動かす』の3つを実行することです」と小宮さんは話します。

    2019年2月18日

    イベントレポート

  • 中小製造業の強い味方! 新製品開発のクラウドファンディング活用術

    「クラウドファンディング」という言葉を耳にすることが多くなりました。新しい製品やサービスやプロジェクトを実現するために、専用のサイトを通じて資金調達をする方法です。一般的には消費者向けの新商品開発がメインですが、BtoBメーカーが高い技術を使ったBtoC向け製品をアピールする場としてクラウドファンディングを使うことは効果があります。中小企業がクラウドファンディングを利用するために知っておくべきことは何なのでしょう? サイバーエージェントグループのクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」から考えます。

    2019年2月14日

    イベントレポート

  • 赤字路線からブランドへと成長した「いすみ鉄道」の発想と戦略

    廃線寸前の赤字路線からブランドに変貌した千葉県房総半島を走る「いすみ鉄道」。現在ではさまざまなメディアで取り上げられ、鉄道ファンのみならず多くの人が訪れる強力な観光コンテンツに成長しました。沿線には目的地になるような場所がないため、外部から人が来ることはほとんどありませんでした。そこで発想の転換をしたことが成功を導きました。

    2019年2月12日

    イベントレポート

  • マンガ・アニメと現実世界の境界にある「2.5次元文化」をビジネスに応用せよ!

    「2.5次元文化」とは、マンガ・アニメ・ゲームなどの2次元の虚構の世界と、身体性を伴った経験を共有する3次元の現実世界の境界にあるカルチャーのこと。舞台、ミュージカル、コスプレ、コンサートなどさまざまなコンテンツとして提供されていて、国内外を問わず熱狂的な支持を得ています。これらのコンテンツは、アニメの舞台となった街を訪れる「聖地巡礼」といったツーリズムとの相性もよく、海外でも強い人気を博しています。マンガ・アニメ・ゲームーーこれらのコンテンツを2次元だけではなく、2.5次元の世界で活用することが、地域活性やインバウンド誘致の新たなファクターとなりそうです。

    2019年2月1日

    イベントレポート