斜めから見る〜今月の一冊 ② 『戦争にチャンスを与えよ』

茶の間の道徳や精神にしたがって経営するのはいかがなものか?

2018年6月29日
サッカーのフィールド上や土俵上で起こることの行動基準について、一般社会の常識を被せるのがブームとなっています。道徳や精神を世の中で一本化するというのは、“わかりやすく”“便利で”“正しい”とは思いますが、経営という場面でそれが絶対的に正しいアプローチなのかどうかはわかりません。

 サッカーにはほぼ関心のない友人が「大げさに転んだり、痛そうにしている人がやたら多いけど、あれは本当に立てない程のケガなのか? 何かのアピールなのか? うちの職場にもああいうのが居て困ったものだ」という類のことを言っていましたが、まったくその通りです。アピールについての考え方、狡賢さの扱いは、オフィスと草の上では違います。

 思えばここのところ、フィールド上や土俵上で起こることの行動基準(道徳とか精神とか)について、一般社会の常識──わざと雑に言い換えれば、茶の間やSNS上の基準──を被せるのがブームとなっています。「スポーツマンは、フィールド上でも社会にあっても紳士たれ」「エリートアスリートといえど社会常識から乖離することは許されない」といった類の。

 しかし一方、スポーツの行動基準は、総論としてはひとつであっても、実際のところ、競技ごとにかなり違うというのも見えてきています。競技ごとですらもう考え方が違うのに、どうして「茶の間」や「SNS上」という、ずいぶん遠いところの行動基準に揃えられるというのでしょう。道徳や精神を世の中で一本化するというのは、学校の副読本としては“わかりやすく”“便利で”“正しい”とは思いますが、絶対的に正しいアプローチなのかどうかは、わかりません。

 今回紹介する1冊から感じとれるのは、その種のことです。

 ビジネスのモデルや教訓を、スポーツのエピソードや選手の名言などに求めるということも、よくあることです。それが心なしか昨今、上に示したように、フィールド上の精神だとか道徳のほうも、世の中のそれに擦り寄せっているような風があります。しかしそれでは、正直なところ新鮮味がないのです。その点で、孫子とか三国志とか戦国武将などは、まだ見どころがあります。一般社会の通俗的な道徳や精神の裏をかくようなところがあるし、でなければ自軍が全滅したりするわけです。

 本書にはこうあります。

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「今日の停戦や休戦は、…大国間の争いを避けるためではなく、むしろ『戦争の悲惨なシーンに対するテレビ視聴者の反感』のような、実質的に無関心かつ軽薄な動機からなされている。ところがこれこそが、戦争を平和に移行させるプロセスを(ゆがんだ形で)構造的に阻止してしまう恐れがあるのだ」
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 また、こうもあります。

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「日本には『降伏』、『先制攻撃』、『抑止』、『防衛』という四つの選択肢がある。ところが、現実には、そのどれも選択していないのである。…外国人である私は、日本政府に対して、いずれを選択すべきかを言う立場にない。ただし戦略家として自由な立場から言わせてもらえば、『まあ大丈夫だろう』という態度だけは極めて危険である。何かしらの行動は取らなければならない」
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 もう書きっぷりが、茶の間の道徳からしたら非道徳っぽいでしょう。そう、かなりトランプ政権側の物言いなのです。

 あまりに毒々しいと、紹介している書いている私が社会常識の側から疑われるので、正反対の方向からアメリカをみている本も1冊ご紹介します。『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史(下)』。そこに書かれているのは

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「多くのアメリカ人は、ドイツ占領下のヨーロッパでのユダヤ人大虐殺をやめさせるために、自分たちの国は枢軸国と戦っているのだ、と考えていた。しかし、ローズベルトは、その点にはさして関心をもっていなかった」

「民主党出身であれ共和党出身であれ大統領はみんな、権力の座にとどまる手段として…」
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 といったこと。つまり“アメリカというのは通俗的な道徳や精神を配慮しつつ、それと折合いをつけつつ、一貫してお金のために行動してきましたよ”と書いてあります。

 最後にひとつ。「そんなことを言うなら、自分と同じ業界の成功や教訓、行動基準に学ぶのが一番でないの?」ということになりますが、そうでもありません。「私の履歴書」が嫌いな人に沢山出くわすことでわかるよう同業界の成功譚を素直に聞くにはなかなか素直になれないし、同じレールを走る列車は前の列車を決して追い抜けないので。
●今月の一冊
『戦争にチャンスを与えよ』
エドワード・ルトワック著/文春新書
  • 斜めから見る〜今月の一冊 ④『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』

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執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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