得意分野に一点集中!ダイレクトメールで奇跡を起こす印刷会社【後編】

会社を蘇らせた反発心はどこから生まれたのか?/「ガリバー」

2018年6月22日
縮小する印刷業界にあって、ダイレクトメールに一点集中することで売上げを伸ばしているのが「株式会社 ガリバー」です。後編では、代表取締役の中島真一さんの半生に焦点をあて、何が現在の会社経営につながったかを探ります。
衰退する産業のひとつとしてよく取り上げられる「印刷業」。インターネットに代表されるデジタルメディアの普及によって、メインである紙の需要が将来的に縮小することは間違いありません。しかしそんな流れのなかでも活路を見つけ、これまでに蓄積したノウハウと資産で、印刷の新たな可能性を提示する会社があります。昭和25年、横浜で創業した「株式会社 ガリバー」です。社名はかつて学校や職場で広く普及していた「ガリ版印刷」をもじったもので、印刷の歴史を背負った会社と言えるかもしれません。ガリバーが独自の地位を得たのは、得意とする分野への「一点集中」によるものです。「効果をあげるダイレクトメールならどこにも負けない」。その技術力の提供がワンアンドオンリーの印刷会社へと導いたのです。後編では代表取締役の中島真一さんの半生に焦点をあてます。

ガリバー代表取締役の中島真一さん。ダイレクトメール(DM)の「一点集中」と高い技術力の提供が、ワンアンドオンリーの印刷会社としての「ガリバー」を成長させている

一点に絞ることの意味を学んだ学生時代〜社会人での経験

ーーガリバーは一点集中という戦略で活路を見出しました。ご自身の半生を振り返ってその決断に同期する経験はありますか。

大学時代に始めた競技スキー(アルペンスキー)にのめり込みました。3年の時に学生大会で優勝し、社会人になっても続けました。競技スキーをどこまで突き詰められるかを試したかったんですね。何かに秀でることで父親を見返してやりたい、という気持ちもあったと思います。

スキー種目は一般的に4つに分かれるのですが、国体では大回転だけなんです。だから国体に出ると決めたら、大回転ひとつにしぼってそれだけをひたすら練習するわけです。29歳のときに予選で2位になりました。「このジャンルだけは誰にも負けない」――そういう気持ちをこのときから強く持っていたんですね。

ーー社会人としてはどんなキャリアを積んできたのでしょうか。

大学を出た後、中堅の印刷会社に入りました。10年ほど勤めたときに、学生時代からお世話になっていたスキーショップの社長から「面白い会社があるからそこで働いてみれば」と勧められたのが、スポーツ専門の広告代理店だったんです。以前、父親から「印刷の川上(源流)に行け」と言われていたことを思い出して転職しました。ここでもひとつのジャンルに特化することの意味を考えることになりました。

大学時代に始めた競技スキーにのめり込んだ。「何かに秀でる」「このジャンルだけは誰にも負けない」という気持ちは、社長として会社の経営にあたっている今に続くものだ(写真左は学生時代、右は29歳で国体に初出場した時の中島さん)

「印刷会社は見下されている」という反発心が会社を蘇らせた

ーー二代目として41歳でガリバーに入社します。

私が入社以来、年々売上げが減少していました。父親が「金のあるうちにもう会社をたたもう」と弱音を吐いたことに「何言ってるんですか! ばかなことを言わないでください!」と返しました。今考えると、よくそんな啖呵を切ったなと汗が出てきます。しかし、会社を立て直すのが自分の運命だと思った瞬間でもありました。

ーーその責任感はどこから生まれてきたのでしょうか。

母親もベテランの社員も口を揃えて「それは父からのDNAだ」と言います。でも私にとって一番大きいのは「印刷会社が見下されている」という思いでした。これまでに去っていた仲間たち、就職内定者に蹴られたことーーそういった悔しさからの反発心です。

ーー5年前(2013年)に社長に就任しました。その時、何を思いましたか。

社員の皆さんやその家族が「ガリバーに入ってよかった」と思ってもらえる会社にしようと心に決めました。それはやりがいだけでなく給料や待遇の面でもです。特に若い社員に「ガリバーはすごいな!」と実感してもらえるような仕事を作っていきたい。誇りを持てないと社員は会社に定着しません。プライドも持てない、給料も下がっていくーーそんな環境では長く続けようとは考えなくなります。

今年3月に本社を神奈川新町に移転しました。アクセスが良くなり、通勤や営業、お客様のご来社も楽になりました。そして部署間の垣根をなくすためにワンフロアにこだわりました。「ダイレクトコミュニケーション」を標榜する会社なのだから、まず社内のコミュニケーションが活発にできる環境にしたかったのです。

今年3月に本社を神奈川新町に移転した。部署間の垣根をなくすためにワンフロアにこだわったという。「ダイレクトコミュニケーションを標榜する会社なのだから、まず社内のコミュニケーションが活発にできる環境にしたかった」(中島さん)

ガリバーは印刷を通して「ことづくり」をしている

ーー社長就任後、「ガリバーは私の会社だ」という気持ちは生まれましたか。

そんなことは一度もありません。私は父親の息子にたまたま生まれただけで、たたき上げで社長になったわけではありません。後から会社に入ったのにもかかわらず、特別扱いされて役職にまでつけてもらったのです。「自分の会社だ」という意識など言語道断です。

ーー会社を訪れると社員間の距離が近いことが、あいさつを交わす様子でわかります。

社内は役職や年齢にかかわらず、全員を「さん」付けで呼ぶことにしています。年長だけれど社歴の浅い人もいます。父親のような人を呼びつけるような組織にはしたくない。私自身が社歴の長い社員に対してそんな態度を取れるわけがありません。会社全体が同じ気持ちでいて欲しいのです。

うちはコミュニケーションを社是としている会社です。「おはよう」「ありがとう」などあいさつはコミュニケーションの第一歩です。商品やサービスには会社の人となりが出るものだと思います。

ガリバーのこだわりとしてコミュニケーションという言葉を使うのは、印刷を通して「ことづくり」をしていることを強調したかったからです。私たちは印刷会社であり、印刷を商品としています。しかしお客様に買っていただきたいのは、「印刷から生まれる効果なんだ」ということをいつも社員の方々に話しています。お客様は何を求めているのか? 日常的に考えていないと急に出せるものではありません。

ガリバーを訪れて気がつくのは、社員間の距離が近いことだ。「『(社長が)自分の会社だ』という意識を持つなど言語道断」(中島さん)。写真は中島さんの60歳の誕生日祝いに工場で働く社員の皆さんと

差別は絶対に嫌だ。そのためにも自分たちしかできないことをやり続けよう

ーー中島さんは、会社に限らず社会全体が平等であることを願っているような印象を受けます。

私はいじめられっ子だったんです。年子だった姉のことでもよくいじめられていました。姉は軽い知的障害があり、今でいう特別支援学級に通っていたんです。その姉のクラスが校庭で遊んでいる時、クラスの誰かれとなくくすくすと笑う声が聞こえました。差別は絶対に嫌だという思いはその頃からずっと持ち続けてきました。

うちの関連会社だったデザイン会社での話です。そこの社員は関連会社にもかかわらず、ガリバーの名前を決して口にしないんです。印刷業をひとつ下に見ていたのです。そんな人は世の中にたくさんいます。印刷業をばかにしていることを見返すために、自分たちにしかできないことをやろうという思いが強くなりました。

ーー会社のミッションには、「印刷の可能性」「コミュニケーション」「社会の進歩と発展」という言葉が並びます。

誰がなんと言おうと、人類最大の発明は印刷なんです。グーテンベルグの活版印刷のおかげで書物が生まれました。世界中に文化を広めたのは書物を大量に印刷できて以来のことです。しかし現代人は印刷に速さと安さしか求めていない。それは印刷への冒涜です。厳しい業界と言われても、「私たちが印刷の価値を高めないで誰がやるんだ」というプライドがガリバーにはあります。

「誰がなんと言おうと、人類最大の発明は印刷」と語る中島さん。「私たちしかできないこと」というプライドがガリバーをワンアンドオンリーの会社にしている



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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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