得意分野に一点集中! ダイレクトメールで奇跡を起こす印刷会社【前編】

アナログの魅力、ITと印刷の融合で道をひらく/「ガリバー」

2018年6月20日
衰退する産業のひとつとしてよく取り上げられる「印刷業」。しかし、業界全体が厳しいなかでも、活路を見つけ、蓄積したノウハウと資産で、印刷の新たな未来を提示する会社があります。横浜にある「株式会社 ガリバー」です。そこには「一点集中」の戦略がありました。
衰退する産業のひとつとしてよく取り上げられる「印刷業」。インターネットに代表されるデジタルメディアの普及によって、メインである紙の需要が将来的に縮小することは間違いありません。しかしそんな流れのなかでも活路を見つけ、これまでに蓄積したノウハウと資産で、印刷の新たな可能性を提示する会社があります。昭和25年、横浜で創業した「株式会社 ガリバー」です。社名はかつて学校や職場で広く普及していた「ガリ版印刷」をもじったもので、印刷の歴史を背負った会社と言えるかもしれません。ガリバーが独自の地位を得たのは、得意とする分野への「一点集中」によるものです。「効果をあげるダイレクトメールならどこにも負けない」。その技術力の提供がワンアンドオンリーの印刷会社へと導いたのです。さらに現在では、ITと印刷の融合による新サービスが、業界の垣根を超えて注目されています。代表取締役の中島真一さんに、前後編の2回に分けて話を聞きます。

ガリバー代表取締役の中島真一さん。ダイレクトメール(DM)の「一点集中」と高い技術力の提供が、ワンアンドオンリーの印刷会社としての「ガリバー」を成長させている

なぜダイレクトメールに特化したのか?

ーーガリバーは「ダイレクトメールに特化した印刷会社である」とうたっていますね。

2002年頃だったと思います。あるリゾート会社から相談を受けたのがきっかけでした。聞くと、新聞の折り込みなどのチラシが全くダメだというのです。そこで顧客宛にうちが得意とするダイレクトメール(DM)を打って、直接的な効果をあげたいという要望でした。やってみたところ効果てき面でした。

次にカタログを封筒やPP袋なしでそのまま送れる「カタメール」を始めました。うちが得意とする圧着技術を使った商品です。それまではカタログなどを送る際には、「カタログを印刷」「DM折りをする」「封筒に入れる」「宛名ラベルを貼る」という工程が必要でした。それがカタメールでは印刷物をフラップで止めることで封筒や途中の作業がいらなくなった。「封筒レス」です。宅急便のメール便で送るのですが、郵便局の定型とほぼ同じ値段でした。明快な結果が出ました。

その時「次は絶対これだ!」と確信したのです。DMやカタメールで、印刷から宛名書きや発送まですべて自社で行う。売上げも利ざやも取れる。創業者である父は「なんで印刷屋が発送業者みたいなことをやるんだ?」といぶかしげでした。

売上げは「顧客数」×「販売価格」×「販売回数」×「販売品目」の4つで決まります。どれかひとつでもゼロだと結果はゼロです。売上げを伸ばすためには販売品目を増やすべきです。「印刷して封筒に入れて終わる」ではなく、「発送」という販売品目を加えれば、売り上げは必然的に伸びます。「ダイレクトメールに特化した印刷会社」という方向性はこうして生まれたのです。

「個客」をターゲットにして、直接アプローチできるツールがDMだ。五感で感じられる紙だからこそ伝えられる感動ーーDMにはコミュニケーションツールとしての可能性が大きく広がっている

――印刷会社の仕事は「印刷」だと考えがちです。

「これは印刷会社の仕事じゃない」というのはこちらの勝手な思い込みに過ぎません。これまで長い間、企画、印刷、デザイン、加工、発送という縦割りのなかで印刷業界は歴史を重ねてきました。しかし、お客様には関係のない話です。お客様が望んでいるのはDMという成果物であり、もっと言えば、成果物がもたらす結果です。社内の古参からは「発送での売上げは『みせかけの売上げ』だ」となじられました。でも「本業で利益が出ていないのに何を言っているんだ」と、私は気にも止めませんでした。

「ここにいちゃダメだ」の一言が背中を押した

ーー「一点集中」「一極集中」の戦略が衰退する業界のなかで光っています。

以前、印刷会社の集まりである「JAGAT(日本印刷技術協会)」の総会で講演会がありました。登壇したのはドラマ「ハゲタカ」の主人公のモデルになった、著名な事業再生実務家です。その時、彼が語ったのは「たった30年間で売り上げ規模が90倍になった、こんな業界は日本にはない」というような内容でした。それはある時期の状況についての話だったので、その先どうなるのかを聞きたくなった私は、彼に連絡をとって直接会いに行ったのです。

「先生、結論を教えてください」と願いを乞うと「結論はここにいちゃだめだ」と開口一番告げられました。「えっ!」と思いました。「ここ」はつまり印刷業界のことです。初め、意味がわかりませんでした。「印刷業界は毎年10パーセントも市場が縮小している。ここにいたらどんな優秀な経営者でも良くて横ばいだ」と教えてくれたのです。

「印刷会社のやる仕事じゃないだろ」と言われても耳を貸さなかったのは正しかったのです。これまでは、印刷での仕事は価格見積もりから始まるのが一般的でした。それだと価格競争に陥り、売上げも下がり疲弊する一方です。でもうちは「DM一通百円でやれる仕事内容は何か?」というところから入るようにしています。すると発送も含まれることになります。「印刷しかできません」となると価格競争しかなくなってしまいます。

ーーアナログの代表である紙、印刷ですが、現代の視点で見た場合、どこにその価値があるのですか。

ITが時代のすべてではありません。ITにない機能が紙や印刷にあれば印刷会社は生き残れます。例えばうちで商品化している「UVエンボス加工」がそうです。ツルツルとザラザラを表現できる印刷技術です。これだと「視覚」だけでなく「触覚」に訴えかけることができます。手に取って一瞬で違いがわかるので、高級感や商品の質感を訴えたいDMにはぴったりです。手触り感といった五感に訴えることはITでは無理です。紙の印刷の可能性はそこにあります。

作業着にプリントされたフレーズは「One for All, All for One」。社員ひとり一人が一丸となって効果の上がるDMを創るために額に汗している。DMのすべてをガリバーでは行っている

これからはQRコードが印刷業界の救世主になる

ーーこの先、有望な技術や商品は何とお考えですか。

これからはQRコードが救世主になります。iPhone8の登場でQRコードの存在がクローズアップされています。iPhone8はカメラを起動しただけでQRコードが読み取れるんです。QRはいまやデファクトスタンダードです。うちが印刷している8〜9割にQRコードが入っています。QRコードと紙をつなげばこれは最も簡単な「IoT」なんです。

ーーものをインターネットにつなぐという定義を考えれば、まさにIoTですね。

昨年発表した、QRコードを使ったアクセスログの収集ができる「One to One log」という当社の商品が高評価をいただいています。これはDMとIT技術を組み合わせたログ収集の仕組みです。顧客一人ひとりに専用QRコードを印字、いつ誰がアクセスしたかわかります。誰が一週間に何回来店しているのかなど、顧客の行動パターン解析ができる。うちのスタンドアローンのデータベースにナンバーだけを飛ばして紐付けをするので、個人情報流出のリスクはありません。

One to One logを採用していただいた外食チェーン店での一例をお話ししましょう。顧客の接触が最も多いのはクーポン券をゲットできる午後3〜4時頃です。夜の食事を考える時間帯がそのあたりということですね。そのほかに興味深いデータも浮かび上がってきました。朝4時頃にも接触する方がいるという今まで考えもしなかったデータが取れたんです。これって「へぇ〜」じゃないですか。お客さんも「そんなことまでわかるんだ」と感心されていました。

今年移転した本社で社員と語らう中島さん。ガリバーは横浜で創業して今年で68年目になる。社名はかつて学校や職場で広く普及していた「ガリ版印刷」をもじったもの。インターネットの時代に印刷会社はいかにして生き残るのか?という問いかけに中島さんは 「ITにない機能を持った印刷であれば生き残れるどころか、存在感あるメディアとしてますます重要になる」と答えた

ーー新しく「One to One log+Plus」という商品も出しましたね。

One to One logにメールアドレス取得の仕組みを追加したものです。顧客情報とメールアドレスの紐付けを簡単にできるようにしました。QRコードからメーラーがたちあがり、承認後に送信するとデータベースにメールアドレスが入ります。お客様の会社は顧客のメールアドレスが欲しいわけです。目的は店舗にきてほしい、その一点です。DMでプッシュしたら、そこからITにつないでほしいわけです。

ーーアナログとITの融合が求められているのですね。

紙は手元に残せるメディアです。一方、ITは通り過ぎていくメディアです。紙のことを衰退するメディアだと印刷業界のひとは言いますが、実はその現在的価値に気づいているのはIT業界のひとたちです。自分たちのウィークポイントがよくわかっているんです。

IT特有の問題もあります。例えばアドフラウド(*不正な広告。本当に広告が見られているのかがわからない)です。ネット上では広告は一人歩きします。アフリエイターがポイント稼ぎで広告を好き勝手に貼り付けたりしていて、ネットにアップした途端に広告はコントロールできなくなるわけです。しかしアナログな紙はそんなことはありません。

ーーIT専門の展示会に出展されていますね。

「ジャパンITウィーク/通販ソリューション」のうち、印刷会社で出展しているのはうちだけです。去年の名刺交換は600人でしたが、今年はその倍にまで増えました。

ーー真逆と思われていた業界からも注目されていることがわかります。

「印刷のプロとして一目を置かれるようなものを作ろう」「俺たちの得意な技術でやろう」と言い続けてきました。印刷業界はダメだと思った瞬間に、前に進まなくなります。

この先、有望な技術や商品となるのは「QRコード」。そのQRコードを使いアクセスログの収集ができるガリバーのオリジナル商品「One to One log」が好評を博している。「紙媒体+αで、ガリバーはダイレクトコミュニケーションを目指します」(中島さん)



  • 知らなかった! お客さまの心をつかむ有効なPRメディアとは?

    【記事のポイント】 ▼お客さまが欲しい情報を届けられていないのはお店側が最適なPRメディアを選択していないから ▼ダイレクトメールはお客さまの心をつかむ有効なメディア ▼リピーターは店主の人柄を重視 ▼「年賀DM」は小規模事業者の文化にフィットする

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

インタビュー新着記事

  • 「社会課題解決」で未来を変える! 企業の挑戦を可視化する、革新的採用プラットフォーム登場(第1回)

    地域企業の価値を何で評価するべきなのか? 働く人のやりがいをかなえるために必要なことは何なのか? その問いに対してまったく新たな視点と具体的な方策によって答えを出した採用プラットフォームが登場しました。「アスタミューゼ株式会社」の「SCOPE(スコープ)」です。SCOPEは日本や世界が抱える「社会課題」を軸に転職者と企業をマッチングさせるプラットフォーム。未来に向けて解決すべき社会課題を105に分類、テーマをわかりやすく見える化することで客観性と信頼性を生み出しています。そしてそれはこれまでの大企業と中小企業という分類や関係性に変更を迫ることになるはずです。

    2019年11月11日

    インタビュー

  • 金融機関と中小企業を結ぶ最強のプラットフォームが、地域革命を起こす!(後編)

    「Big Advance(ビッグ・アドバンス)」の快進撃が止まりません。Big Advanceは、株式会社ココペリが提供する、全国の金融機関が連携して地域企業を支援するウェブのプラットフォームのこと。昨年4月からサービス提供が始まり、月を追うごとに参加金融機関、利用事業者が増えています。ココペリの代表取締役CEOの近藤繁さんに話を聞きます。後編では中小企業への思いや会社設立に至る個人史などにフォーカスします。

    2019年10月25日

    インタビュー

  • 金融機関と中小企業を結ぶ最強のプラットフォームが、地域革命を起こす!(前編)

    「Big Advance(ビッグ・アドバンス)」の快進撃が止まりません。Big Advanceは、株式会社ココペリが提供する、全国の金融機関が連携して地域企業を支援するウェブのプラットフォームのこと。昨年4月からサービス提供が始まり、月を追うごとに参加金融機関、利用事業者が増えています。新たな販路の開拓や他県の企業との連携など、これまで中小企業で手をこまねいていた事業が、Big Advanceの登場でどんどん具体化しています。

    2019年10月23日

    インタビュー

  • 「アメリカ料理」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?(後編)

    アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」(テイスト・オブ・アメリカ/TOA)。アメリカの食文化とは何か? さらにはその背景にある歴史とは何か? にまで広がるユニークな催しです。前編に引き続き、アメリカ大使館農産物貿易事務所(ATO)の青木純夫(Sumio Thomas Aoki)さんにアメリカの食文化や背後にある歴史、そして最新の食やレストランのトレンドについて紹介してもらいます。

    2019年10月10日

    インタビュー

  • 「アメリカ料理」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?(前編)

    アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」(テイスト・オブ・アメリカ/TOA)をご存知でしょうか? アメリカ発の料理や食材はたくさん日本に入ってきていますが、そこに「アメリカ」という意識を持つことはあまり多くないかもしれません。TOAはそんな状況に変化を加え、アメリカの食文化とは何か? さらにはその背景にある歴史とは何か? にまで広がるユニークな催しとして2011年に始まりました。

    2019年10月9日

    インタビュー

  • まずは「楽しく遊ぶ」ことから! 市役所のサークルを長く続けるコツ

    沖縄・座間味〜那覇の慶良間海峡を渡る「サバニ帆漕レース」。海洋文化や造船・操船技術の保護・継承を目的に、2000年より毎年、大会は開催されてきました。今年は記念すべき第20回という節目の大会。そのサバニ帆漕レースに、那覇市役所の新旧職員たちによるクラブチームとして参加しているのが「NAHA NAVI」です。チームを長く続けられた理由は「よんなー(ゆっくりとした)」とでもいうべき部員同士のコミュニケーションがあったからかもしれません。

    2019年8月26日

    インタビュー

  • キャッシュレス化、チャンスととらえて攻めに転じよう!(後編)

    現金なのか? キャッシュレスなのか?ーー25年までにキャッシュレス決済の比率を4割まで高めることを国が目指すなか、大きな選択を迫られている中小・小規模事業者ですが、キャッシュレス化によって売上げや利益はどう変わっていくのでしょうか? 前編に引き続き、店舗のキャッシュレス決済を支援するサービス「Airペイ」を提供する、株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ペイメント事業ユニットの塩原一慶さんに話を聞きます。

    2019年8月23日

    インタビュー

  • キャッシュレス化、チャンスととらえて攻めに転じよう!(前編)

    現金を使わない支払いが急速に広がっています。国は25年までにキャッシュレス決済の比率を4割まで高めることを目指していますが、小売店などは決済業者に手数料を払う必要があります。中小・小規模事業者はいま、「現金なのか? キャッシュレスなのか?」という大きな選択を迫られているといっていいでしょう。キャッシュレス化によって売上げや利益はどう変わっていくのか? 店舗のキャッシュレス決済を支援するサービス「Air(エア)ペイ」を提供する、株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ペイメント事業ユニットの塩原一慶さんに2回に分けて話を聞きます。

    2019年8月21日

    インタビュー