「貯める相続」って間違えていませんか?(ファミリービジネスのすすめ)【前編】

2018年6月18日
老後の資産運用を考えるうえで、中小企業経営者にとって一番大事なことは、事業承継と相続を切り離して考えることです。後継者がたとえご子息であったとしても、勇退する経営者が適切な退職金を受け取り、持ち株を適正金額で売却することをしかるべきタイミングで行うことが必要です。

 雑誌や新刊書で「老後に必要な貯蓄額はいくら?」という記事や特集をよく見かけます。しかしこつこつ貯めたお金を、ほとんど利息のつかないまま切り崩しながら生活することが、中小企業経営者の引退後のあり方として本当に正しいのでしょうか? 預金が毎月目減りしていく中で、長生きした際のリスクに備えて生活を切り詰めるのは非常に辛いはずです。
 
 かといって「株式投資や投資信託に分散投資して、資産運用をしましょう」という金融関係の皆さんの甘言に乗ったばかりに、わずか数年で財産がすっからかんになってしまった経営者も数多く見てきました。
 
 中小企業経営者の皆さんにとっては、事業承継も大きな問題でしょう。「会社の純資産をこれ以上大きくすると相続が大変だから、稼ぐのはやめて退職金をドカッと出すことで純資産を引き下げましょう。そして何もせずに事業承継の際の相続税負担を軽減させましょう」という税理士さんのアドバイスに従ってしまったオーナー経営者もいるはずです。でもそれは大間違いです。
 
 老後の資産運用を考えるうえで、中小企業経営者にとって一番大事なことは、事業承継と相続を切り離して考えることです。
 
 事業承継はどうあるべきなのでしょうか。それは、会社にとって一番望ましい方法で「後継者」に事業を引き継ぐことです。後継者は被相続人である必要はありません。部下である社員や役員でもいいと思います。会社が存続できるのであれば誰かが引き継ぐのが一番ですし、適任者がいなければ会社を譲る=売却や事業を清算・整理・現金化して残余財産の分配という方法もあります。
 
 事業承継と相続とは切り離して考えるべきなのです。後継者がたとえご子息であったとしても、勇退する経営者が適切な退職金を受け取り、持ち株を適正金額で売却することをしかるべきタイミングで行うことが必要です。

 退職金や株式を売ったお金が個人に入ることについて「相続において、現金は一番不利な評価がされ大変なのでやめましょう」というアドバイスもよく耳にします。これは残念ながら、貯金を切り崩しながら老後を過ごすことを勧めているのに他なりません。

 ここで「ファミリー(家族)」という単位での資産運用の必要性が浮かび上がってきます。ファミリーという単位で考えると、老後のお金の運用についてこれまでよく耳にしてきたアドバイスや方法とは異なった答えが導き出されるのです。

 ファミリーのために自分の退職金や自社の株式売却代金をどう運用すべきなのか? ファミリーの財産をいかに増やしてファミリーに引き継いでいけばいいのか? 次回はこれらについて具体的な例をあげて解説していきます。
執筆者: 李 日生 - プレジデントタイム株式会社 代表
慶應義塾大学経済学部卒業後、公認会計士試験合格、監査法人トーマツ国際部に入社・配属。国際企業(商社・通信事業会社・運輸会社等)の連結会計やM&Aを担当、中小企業の経営コンサルティングも数百社経験する。現在はプレジデントタイム株式会社、神宮前アカウンティングファーム株式会社、株式会社H HOLINGS、有限会社ルーベ、神宮前会計を主宰。会計・税務・経営・飲食・不動産等、実際の経営者として代表取締役視点で多岐に及ぶ経験を重ねている(「頭でっかちの机上の空論が大っ嫌い」を自認)。近刊に『忙しい社長を救う経理改革の教科書』(幻冬舎)がある。

コラム新着記事

  • NHKドラマ『透明なゆりかご』 私たちのすぐとなりにある現実。働く男性にこそ、見てほしい

    NHKで金曜夜10時から放送されているドラマ『透明なゆりかご』は、海辺にある小さな病院・由比産婦人科を舞台にした物語です。時代は1997年。高校の准看護学科で学ぶ17歳の青田アオイは、産婦人科で看護師見習いとして働くことになります。

    2018年9月14日

    コラム

  • 中小企業の生命保険活用法! 

    中小企業経営者で生命保険について理解しているかたは意外と多くありません。今回はそんな保険の入り方についてです。

    2018年9月12日

    コラム

  • もうインバウンド集客で悩まない!

    インバウンドが増え続けています。全国の地方自治体やDMOなどの関係機関は、幅広い地域からの訪日外国人客を誘致するためにウェブサイトの外国語対応や、集客のためのプロモーションなど、情報発信に追われているはず。新連載では、訪日外国人に対して情報発信をしたいが、有効な手段が分からないというインバウンドマーケティング担当者のために、「今だからこそ実施すべき、動画広告のゼロから100まで」を、分かりやすくハウツーでご紹介していきします。

    2018年9月7日

    コラム

  • 人手をかけない売上アップ・お客様満足アップの切り札に! チャットボット徹底攻略【前編】

    新規のお客様からの問い合わせは、商談につながる重要なきっかけです。また、既存のお客様からの問い合わせや手続きは、お客様の満足度を高め次の注文につなげるためのチャンスです。とはいえ、問い合わせに答えるだけでは売上にも利益にもつながりませんから、できれば省力化したいもの。お客様からの問い合わせへの対応や各種手続きの受付に、「チャットボット」を利用する企業が増えています。

    2018年9月6日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ④『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』

    今月の一冊は、シリコンバレーの経営者で、かつてはすごく不健康に太っていたこれまた典型的なアメリカ人で、それを単純で前向きで疑わない方法で克服した、最強の脳をもってスタイルも改善した経営者によるハウツー本です。今どきのアメリカの経営者スタイルがぷんぷん溢れてて、そうなりたい人には、おすすめしたくなる内容です。この一冊を長沖さんが「斜め」から分析します。

    2018年9月4日

    コラム

  • 企業の電話対応が劇的に変わる!? CTIの上手な活用方法【後編】

    会社に入ったばかり、新人の頃は電話を取るのが怖くありませんでしたか? そんな恐怖の電話対応から解放されるサービスがあります。それが 「CTI」です。シリーズ後編ではユニークな活用事例をお伝えします。

    2018年8月31日

    コラム

  • TVドラマ『dele』 二人の軽妙な会話が作り出す、今までにない“新しい”バディもの

    テレビ朝日系金曜深夜の『dele』はデジタル遺品を題材とした連続ドラマだ。物語の舞台は、依頼人が設定した時間を超えてパソコンやスマホに触らないと通知が行き、デジタル遺品を消去してくれる会社。この会社を経営する車椅子のプログラマー・坂上圭司(山田孝之)と、会社に雇われている何でも屋の真柴佑太郎(菅田将暉)の二人が、デジタル遺品の消去を依頼した故人のことを調べるうちに意外な真相にたどり着くというのが、本作の見所だ。

    2018年8月24日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ③ 『自己愛過剰社会』

    現代人の傾向としてあげられるのが「自分のことが大好き、自分を実際以上に素敵にみせる営み、それが成功の近道。しかもそれは気持ちいい」。企業の発するメッセージにも同様の傾向が出てきています。とくにSNSを通じたPR活動において顕著です。さてその流れをどう分析すればよいのでしょうか?

    2018年8月9日

    コラム