TVドラマ『宮本から君へ』 働く人間なら、誰の心にも必ず「宮本」がいる

恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男に何を見るのか?

2018年6月15日
ドラマ『宮本から君へ』は1990~94年にかけて連載された漫画が原作だ。今と比べれば、一生懸命になることはダサいことだと多くの日本人が思っていた時期の作品である。そんな時代にあって、恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男・宮本を登場させることで、激しい賛否を巻き起こした。当時はバブル景気に浮かれていた日本に対する強烈なカウンターだったわけだが、大きく時代を隔てた2018年の20代に、本作はどのように響くのだろうか?

ドラマ25『宮本から君へ』 テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時57分~ 放送 ((C)「宮本から君へ」製作委員会)

 20代の時に、このドラマと出会っていたら、自分はどう感じていたのだろうか?

 そんなことを考えながら、毎週身悶えしているのが、金曜深夜0時57分(※6月以降最終回までは0時57分スタート)から放送されている『宮本から君へ』(テレビ東京ほか)だ。

 主人公は文具メーカー「マルキタ」の営業として働く新人社員・宮本浩(池松壮亮)。営業スマイルも満足にできず日々、悶々としながら働いていた宮本は、駅のホームで一目惚れした甲田美沙子(華村あすか)と出会ったことで、仕事に対する考え方が次第に変わっていく。
 物語は、宮本と甲田美沙子の不器用な恋愛模様を丁寧に見せていく1〜4話と、先輩の神保和夫(松山ケンイチ)から営業の仕事を引き継ぎ、新規事業のためのコンペ対決の模様を描く5話以降の二部構成になっている。

 一方は恋愛、一方は仕事を描いているのだが、根底にあるのは未熟ながらも、自分なりの美学を持っている宮本が、自分の生き方に筋を通そうとする姿だ。

 甲田美沙子が彼氏と別れたことで二人は親密な関係となっていく。しかし、彼女をつまらない仕事からの逃げ場にすることに、宮本はためらう。同時に、彼女が自分を(失恋のショックからの)逃げ場にしていることを利用して恋人になることを宮本は躊躇する。最終的に甲田美沙子は彼氏と寄りを戻してしまうのだが、このあたりの恋愛模様は実にもどかしい。自分の美学を貫くあまり、甲田とうまくいかなかった宮本に対し、上司や同僚は、相手のことはどうでも良い自分しか愛せない「究極のエゴイスト」と批判する。

((C)「宮本から君へ」製作委員会)

 宮本が嫌うのは、その場の空気に身を任せて、物事を「なぁなぁ」で決めてしまうことだ。帝王製薬の医者向け新薬PR用のクリアファイル1万冊をめぐるライバル会社・ニチヨンとのコンペ対決もそうだ。

 品質とデザインはほとんど同じ製品の対決となるため、見積書を書き直してギリギリまで価格を下げて勝負を挑むものの、ワカムラ文具の島貫部長がニチヨンの営業マンにマルキタ側の入札価格の情報を漏らしたことから、宮本たちは敗北、新規案件は「ニチヨン」の採用がほぼ決定する。

 正式決定となる10日後まで、諦めようとしない宮本に対して「勝負は決まった」と神保は諦めさせようとするが、意地を張る宮本は「このまま終わっていいんですか?」と反発する。
 神保があっさり負けを認めたのは、この仕事がたくさんある案件の一つでしかないからだ。仕事に対する情熱はあるものの、私情は持ち込まず、見極めはしっかりしている。それが大人のやり方だ。

 宮本の仕事の仕方は甲子園を目指す高校野球の選手みたいな一試合完全燃焼型。仕事に対して一直線と言えば聞こえがいいが、周囲がまるで見えていない。

 会社は利益を出してなんぼ。勝ち目のない案件に意地になって他の業務がおろそかになっている宮本のやり方は論外だ。何より宮本は、自分のプライドを満たすためだけに仕事に没頭するのだから周囲はたまらない。

 理不尽な思いを抱えた宮本は営業先で暴力沙汰を起こしてしまい一度どん底まで落ちる。 そんな宮本の無様な姿を徹底的に描くが、その熱意を否定しないのが本作の優しいところだろう。

 高級感のあるデザインを改めて作ることでプレゼンに再挑戦しようとする宮本に対して、神保は熱意を受け止めて、都内のデザイン会社の住所のリストを渡して協力する。

((C)「宮本から君へ」製作委員会)

 原作は『ザ・ワールド・イズ・マイン』や『キーチ!!』(ともに小学館)といった漫画で知られる新井英樹。本作には宮本の父親役で出演している。

 『宮本から君へ』(講談社)は1990~94年にかけて連載。バブルが弾け、日本が不況になっていく時期の作品だが、それでも、今と比べれば景気も良く、会社に務めていれば、食うことには困らず楽しく日々を過ごせるのだから、一生懸命になることはダサいことだと多くの日本人が思っていた。

 そんな時代に本作は、恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男・宮本を登場させることで、激しい賛否を巻き起こした。

 連載当時、筆者は10代だったので、リアルタイムの読者ではなかった。そのため、当時、20代のサラリーマンが本作をどう受け止めたのかは、実感としてはよくわからない。ただ、週刊誌や漫画評論で話題となっていたことは覚えている。
 当時はバブル景気に浮かれていた日本に対する強烈なカウンターとして本作の泥臭いリアリズムが打ち出されたのだが、大きく時代を隔てた2018年の20代に本作は、どのように響くのか?

 すでに宮本の年から大きく離れてしまった41歳の筆者は、遅れてきた青春を楽しむかのように、時に宮本の純粋さに共感し、時に「それは違うぞ!」と思いながら身悶えしている。

 できれば20代の時に見たかったと思うが、本音を言うと「宮本、わかるぞ!」という気持ちの方が最近は強い。本当は上司の立場で宮本を見守りたいのだが、どうにも前のめりになってしまう。もしかしたら年齢に関係なく、働いている人間の心の奥底には、宮本がいるのかもしれない。


■ドラマ25『宮本から君へ』 
テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時57分~ 放送
ひかりTV(オンライン動画配信サービス)にて、第1話から最新話まで配信中

  • ドラマ「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」骨太に描かれる若者の“労働観”

    昨年、日本テレビ系で放送され話題となった連続ドラマ『ゆとりですがなにか』の続編、『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』。『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』といった20代の若者たちを主人公にしたポップな群像劇を得意としてきた宮藤が、大人と若者の狭間で悩む青年たちの葛藤を正攻法で書ききったことには、作家としての成長を感じさせる。何より、近年のテレビドラマでは中々描かれることが少ない「若者にとっての『働く』とはどういうことか」が、しっかりと描かれていたのが、本作の素晴らしさだ。

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • 中堅・中小企業向け求人広告「中間管理職劇場 〇〇の女」はじまる!

    「女性の管理職が活躍している会社は、働きやすい会社」――HANJO HANJOで様々な中堅・中小企業を取材していて強く感じたことのひとつです。そんな女性管理職にスポットあてることで、新卒・第二新卒に向けた新しいタイプの求人広告が就活サイト・キャリタス就活2020内にて今日からはじまります。

    2019年3月18日

    コラム

  • ドラマ『家売るオンナの逆襲』 シンプルな見せ方で同時代的なテーマを描く快作。

    水曜夜10時から放送されている『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)は、不動産会社を舞台に「私に売れない家はありません」と豪語する女性を主人公としたドラマだ。何より面白いのが、毎話のエピソードにとても同時代的なテーマが込められていること。脚本の大石静は恋愛ドラマの名手として知られるが、今回の作風の根底にあるのは、あらゆる人間の生き方を肯定しようとするダイバーシティ(多様性)だ。

    2019年3月6日

    コラム

  • 経営者が走る理由

    クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻さんの連載コラム、今回のテーマは「走ること」。昨日の東京マラソンに参加、あるいは観戦した方なら、そこに大きな物語があることに気がついたはず。経営者にとって「走ること」とは何か? 意外な心象風景が見えてきます。

    2019年3月4日

    コラム

  • 貸切バス業界は「安全の可視化」を!

    今年の2月以降、国内で製造される大型高速バス、貸切バスにはすべてEDSS(ドライバー異常時対応システム)が搭載されることになりました。「非常ブレーキ」と言える装置です。相次いだ事故を受け国がガイドラインを制定し、各メーカーが開発を進めたものです。しかし、搭載したものの、乗客でそれを知っている人はあまりいません。貸切バス業界は乗客にEDSSについて積極的に説明することが求められています。

    2019年3月1日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑦『演技と演出のレッスン 魅力的な俳優になるために』

    「芝居がかっている」「演技が上手い」というと、ビジネスでは0点の評価です。というより、日常コミュニケーションの場でも、大概はだめな方です。しかしなお、「ビジネスも俳優じみていこう! 意識的にそういこう!」というのが今回のすすめです。俳優という生産性のまるでなさげな、ビジネスの対極にいるような人の真似をしてみましょう、という話をします。

    2019年2月25日

    コラム

  • 株式会社シンカが行っている社内の有機的組織の実験

    クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻さんの連載コラム、今回のテーマは「社内プロジェクト」。HANJO HANJOのメインテーマのひとつである「社内コミュニケーション」にもつながる取り組みは、会社をどう活性化させたのでしょうか?

    2019年2月6日

    コラム

  • TVドラマ『ハケン占い師アタル』 現代において「働くことの意味」を燻り出す問題作!

    木曜夜9時から放送されている『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)は、会社が舞台の連続ドラマだ。毎回、一人ひとりの社員の悩む姿が描かれるが、占いの能力を持ち人の心の奥底を見ることができるアタルと出会うことで変化していく。脚本の遊川和彦は『女王の教室』や『家政婦のミタ』などを手がける人気作家。今回、会社を描くことで何を見せてくれるのか?

    2019年1月31日

    コラム

  • 利益を貯めていたら成長はありません! 配る経営へ!!

    李日生さんの連載コラム、新年の一本めは企業経営の核である「ヒト・モノ・カネ」についての提言です。このところよく耳にするのが「内部留保」。儲けたカネは最大限に有効活用しなければなりません。ではどんな対応が好ましいのでしょうか? 内部留保の「ヒト・モノ・カネ」への適切な配分を李さんは勧めます。

    2019年1月15日

    コラム