<シリーズ> 陶磁器産業復活のシナリオ (解決戦略編)

2017年9月5日
シリーズ「十年で6割超の市場を失った陶磁器産業」。Vol.2ではその復活のシナリオを描きます。輸出やインバウンドという千載一遇の好機を目の前にしながら、傍観する姿が目立つ産地や事業者。そこに踏み出せない理由とその突破口は?
 HANJO HANJO の新シリーズは、コラムでおなじみの水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望についてを、課題分析編、解決戦略編、具体事例編など複数のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。シリーズ第1回で取り上げるのは落ち込みの激しい「陶磁器産業」です。Vol.2ではその復活のシナリオを描きます。
<シリーズ> 十年で6割超の市場を失った陶磁器産業
【解決戦略編】目の前の好機に乗れない業界の突破口とは?


 この十年で6割超の市場を失った陶磁器産業。人口減少により国内市場の縮小が進む中、産業界ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)等をテコにした海外輸出の拡大や成長を続けるインバウンド市場に活路を求めようとしています。

 2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、日本食への注目が高まる中、ジャパンブランドやヘルシー志向の日本食の強みを背景に食品や飲食、農業分野等からも積極的かつ機敏にこうした市場に挑戦しブランドを確立、成功をおさめる地域やプレイヤーが続々と誕生する中、陶磁器業界の反応や動きは鈍く消極的に映ります。

 輸出やインバウンドという千載一遇の好機を目の前にしながら、傍観する姿が目立つ産地や事業者。今回はそこに踏み出せない理由とその突破口を考えます。

■1. 輸出における「コト化」と「オムニチャンネル」

 まず輸出はTPPでタオルやメガネフレーム等の地方産品のほか、陶磁器等の伝統工芸品でも関税が撤廃されることになり陶磁器業界にとってもチャンスといえますが、財務省の「貿易統計2014年」によると日本の陶磁器輸出額は75億円。2010年の73億円からわずかに増加しましたが、ピークの1990年765億円の10分の1にまで落ち込んでいます。

 かつて日本の陶磁器輸出は北米を中心とする欧米需要に支えられていましたが、2000年に90億円を超えていた北米への輸出額は2014年には14億円にまで落ち込み、2008年以降はアジアが最大の輸出先となっています。2000年と2010年の輸出額を比べると中国が522%と高い伸び率を見せていますが、金額ベースでは5億円で国別では第5位に位置。

 独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が行った「中国における陶磁器製品の市場動向調査(2009年)」では、中国の陶磁器製品の輸入は 国内消費に比して非常に小さいものの、日本製品の占める割合(金額ベース)は年々増加し、中国が輸入する陶磁器製品全体の約2割に達しているとされていますが、この数字をどこまで伸ばしていけるのか。

 気になるのはこの間、2位香港、3位大韓民国、4位台湾の輸出額が減少に転じており、中でも台湾への輸出額は4分の1にまで落ち込み、2000年の2位から大きく後退しています。

 業界からは海外展開できるのは大手メーカーのみという声も聞かれますが、できない理由を並べるだけで議論すら行われない業界の脆弱性も感じます。

 世界でブームを巻き起こしている日本食はすでにローカライズも進展しており、器となる陶磁器を含めた統合的なブラディングや提案にはスピード感が必要ですし、その実現に向けたサプライチェーンの見直しやビジネスモデルの再構築にはこれまでにない連携や横断的コラボ、越境経済圏の形成など、戦略的思考も求められるところです。

 輸出に関しては経営再建中の「たち吉」が2016年3月期、10年ぶりに最終損益の黒字化を達成と発表。1752年創業、陶器販売専門の老舗は2015年投資ファンドの支援を受け、経営陣を刷新。企業価値の向上を図るとともにインターネット販売や海外戦略にも力を入れてきました。

 新経営陣からは安物に走ってブランドを毀損した過去への反省とともに、今後は食生活や余暇の使い方の変化にも目を向け、ライフスタイルの提案をする新たな企業コンセプトも語られています。今後は外国人向けの販売を強化し外国語のECサイトの立ち上げも行う予定とか。これにより今後、陶磁器業界でもオムニチャンネル化の流れは加速するのでしょうか。

 とはいえ、恩恵を受けるには当然そのコンセプトに応える意識やモノづくりが求められます。未だ多くの産地や事業者の意識はモノの製造販売にあり、市場が求めるコト化に対応できていません。器をモノと捉える限り、海外はおろか国内でも未来はなく、生き残るにはブランド価値の向上はもちろん、海外で注目される日本食や日本酒、緑茶などの食や飲料を味わう器として、空間や文化などと一体としてその世界観を魅せる「コト化」への転換を図る必要があります。

 ただ、弱体化する産地や事業者に自助努力を求めるだけでは限界もあります。

■2. ブランド化と「サプライチェーン」における新たな連携

有田焼の器に入った「有田焼カレー」

 産地や事業者がこうした転換を図る上で立ちはだかるのがボトルネックとなる「サプライチェーン」の問題です。

 国内市場ではインスタグラム等で料理やテーブルコーディネートを紹介する際、SNS映えする器を求めるユーザーが増え、ちょっとした“器ブーム”が起こっています。一部で品切れ続出という人気作家も生まれているといいますが、こうしたニーズを捉えた製造や流通、コト化は陶磁器産業で最も遅れている部分です。

 これからのものづくりは消費者ニーズを的確に捉えた商品企画力、マーチャンダイジング(商品政策)に加え、流通では店舗だけでなく、イベントやモバイルを含むネット販売など多様なチャネルを掛け合わせたオムニチャンネル化も視野に入れる必要があります。

 しかし陶磁器では商社の企画力の低下やインターネットの普及による従来の販売ルートの弱体化がいわれる中でも既存の販売ルート(産地窯元~産地問屋~消費地問屋~小売店)への依存度は高いまま、新たなチャネルの開拓は進んでいないのが現状です。

 近年は川下のブランド力のあるセレクトショップ等の小売事業者が商品を企画し、川上・川中の力のある産地や事業者に持ち込み、製造するOEM商品ー例えば無印良品の白磁の食器シリーズなどもありますが、製造事業者が主体となり、商社機能をも一元化した新たなサプライチェーンを構築することは本当に不可能なのでしょうか。1つの産地、事業者では難しいとしてもこれまでの常識に囚われなければ、様々な連携の可能性もあるのではないでしょうか。

 たとえば、有田焼で知られる佐賀県有田町には有田焼の器を使った「有田焼カレー」というユニークな商品があります。有田駅では駅弁としても売られており、希望すればその場で温めてくれ、列車の中で食べることもできますし、食べた後は自宅に持ち帰って器として使えます。

 もしこれを他の産地、事業者と連携コラボし横展開したとしたら、器×ご当地カレーという新たな商品のカテゴリー、市場を創出することに繋がらないでしょうか。

 最近、人気が高まっているダム観光では「ダムカレー」が話題を呼んでいますが、もし産地を超えた連携や異業種とのコラボができるなら、これまで陶磁器に興味のなかった若い世代も惹きつける様々な商品の企画や市場創出の可能性も出てくるのではないでしょうか。

 少なくとも陶磁器以外の分野ではそうした連携も当たり前になりつつあります。

 今年5月には高級有田焼の製造販売を行う「香蘭社」が競合する「たち吉」とOEM受託製造を行うことで業務提携を合意したというニュースも流れてきました。今後、共同でネット通販を展開するなど物流・加工段階での効率化も図るといいます。

 陶磁器業界でも生き残りに向け、これまではあり得なかったこうした連携も今後さらに増えていくのでしょうか。

 一方、同じような苦境に陥り、課題を抱えるアパレル業界では経済産業省が2015年に「アパレル・サプライチェーン研究会」を立ち上げ、今後の繊維・アパレル業界の方向性を議論。今後の市場における官民の課題を整理、産業としてのビジョンを策定、サプライチェーンの問題に関しても提言を行っています。

 そんな中、アパレル業界では「J∞QUALITY」という国産アパレル製品の表示制度を設け、織・編・染500社以上のアパレル工場を検索できる国内最大級の検索システムを提供することで、サプライチェーンの各プレイヤーの連携を促進、企画力の強化や生産性の向上、コスト削減などにもつなげようとしています。

 陶磁器に関してもこうした国や業界を挙げた動きが出てくることを期待するものです。

■3.「陶器市」頼みを脱却し、コト観光へ転換できるか?

 コト化が遅れている中で最も遅れが目立つのがインバウンドを含めた観光市場への対応です。残念ながら、陶磁器産地の最大にして唯一の観光の目玉は年に数回開かれる「陶器市」となっており、多くの産地ではそれ以外で観光客の姿を見ることは稀です。

 また観光資源の多くは博物館や美術館などのハコモノで、一部でやきもの体験などもできるものの利用者は限られ、やきものの里を巡るまち歩き観光で成功している地域もわずかです。

 一方、意図せず人気となる施設も生まれています。有田町の「有田ポーセリンパーク」もその一つ。人気の秘密はドイツのツヴィンガー宮殿をモデルとした建築で、コスプレイヤーたちが撮影に訪れることで話題となっているほか、近年は外国人観光客の姿も増えています。

 同町には不思議なモニュメントが存在感を示す「歴史と文化の森公園」もあります。新たな人気観光のヒットメーカーにもなっているインスタ映えも期待できそうですが認知度は今一つ。しかし仕掛けていくことで化ける可能性も感じます。

 ただこうした施設は有田の中心部からは離れており、江戸から昭和の町屋が並ぶ、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された有田内山地区など、本来有田で最も歩いて欲しい場所に観光客を呼び込めてはいません。

 こうしたことは有田だけでなく、多くの産地に共通する課題ですが、これについては別の回に先進事例とともに紹介させて頂きます。

有田町「有田ポーセリンパーク」(写真提供/佐賀県観光連盟)

有田町「歴史と文化の森公園」(写真提供/佐賀県観光連盟)

●関連リンク

執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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