「爆買いツアー」終焉で貸切バス需要が急減。バス業界の今後は?

2017年3月21日
2016年春から夏にかけてバス業界に大きな変化が起こった。中国からのインバウンド・ツアーが急減し、貸切バスの稼働率が低下したのだ。中国からのツアーへの依存度が大きかった事業者では、稼働は半減したという。インバウンドはバス業界にとって一時的な現象だったのか?
 2016年春から夏にかけて、バス業界に大きな変化が起こった。主に中国からのインバウンド・ツアーが急減し、貸切バスの稼働率が低下したのだ。中国からのツアーへの依存度が大きかった事業者では、稼働は半減したという。

 直接のきっかけは、同年春に中国の関税制度が改正され、旅行者が土産物として持ち帰る高額商品にも関税が課せられるようになった点だ。もっとも、以前にこのコラムでも書いたように、団体ツアーの比率が大きかった中国などからの観光客が、ビザ(査証)の緩和やリピート化(旅慣れ)によってFIT(個人自由旅行)に変化するというのは予想されていたことだ。私たち日本人の海外旅行が、「ロンドン・パリ・ローマ8日間」のノーキョー(農協)ツアーから、『地球の歩き方』片手の個人旅行に変化した姿を思えば当然だ。

 貸切バス分野では、残念な事故が続いたのを受け安全性回復を目的に「新運賃・料金制度」が実施され、2015年度から「日車単価(旅行会社などが支払うチャーター代の1日1台当たりの平均額)」が急騰した。実施前は「絵に描いた餅。ウラで値引き合戦が始まり元の木阿弥」と危惧された新運賃制度だが、インバウンド需要の急増に支えられ定着していた。値上げにより貸切バス全体の稼働は低下したが、いかにも「ウラで値引き合戦」をしそうなインバウンド依存の事業者(過去の経緯から、インバウンド・ツアーは中小零細事業者が中心)が、値引きをせずに済んだのだ。各事業者とも約30年ぶりと言っていい高収益を味わった。

 ところが、インバウンド・ツアーは急減し、「新運賃制度の先行きが心配」と危惧する声さえ聞こえ始めた。インバウンドは、バス業界にとって一時的な現象だったのか。

 昨年、突然表面化した(とはいえ、いずれにせよ着実に進行していた)インバウンドの変化は、1.個人化(団体ツアーから個人自由旅行へ)、2.全国化(ゴールデンルートから「より深い日本」へ)、3.体験化(いわゆる「コト消費」)であるが、それにより需要が減少した貸切バスとは逆に、1と2の恩恵を受けたのは高速バス分野だ。従来から人気の富士五湖、富士山、御殿場アウトレットに加え、高山や白川郷、湯布院、さらにスキーリゾート(ニセコや白馬)などFITに人気のデスティネーションの多くは、鉄道が不便な地だからだ。

 同じバスでも、ツアーの運行を請け負う貸切バスと公共交通としての高速バスでは、インバウンドへの対応は大きく異なる。例えば、前者では日本語を話す添乗員が同行するが、後者では運転手が自ら意思疎通する必要がある。前者では、プロである旅行会社が旅程作成するのに対し、後者では旅行者自身がガイドブックやウェブの情報を元に旅程を組み上げる。おおざっぱに言えば、貸切バスは旅行会社のいう通り走るのが仕事であるのに対し、B to C商品である高速バスの事業者は、自ら外国人対応の前面に立たなければならないのだ。

 上に挙げたような、FITに特に人気のデスティネーションを持つ高速バス事業者は、その流れにいやおうなく巻き込まれた。そうなると日本の「現場」は強い。「なんとか対応してしまう」のだ。それは、逆にいうと、会社としては(「現場重視」の美名のもとに)その現場力に任せきり、積極的に支援しないということだ。愚痴で恐縮だが、当社でも各専門業者と提携し、ウェブサイトの多言語化、運転手やバスターミナルに特化した英会話研修、通訳サービスなど様々なメニューをバス事業者向けに提供しているが、残念ながら売れ行きはよろしくない。「現場」が、個別に手探りで「乗り切っている」という非効率な状態だ。

 それどころか、特定のデスティネーション以外の地域の事業者にとってはFIT増加など全くの他人事である。高速バス事業者のほとんどは、地域独占的な事業免許の下での地域の路線バス事業が本業で、おおむね社風は保守的。一見、観光と親和性の大きそうな高速バス事業も、実は利用の多くが「地方部在住者の都会への足」としてであり、そもそも邦人観光客の取り込みさえほとんど手がついていないのである。

 まずは、全国の高速バス事業者らが、「インバウンド=貸切バスの分野。自分たちは関係ない」という意識を改め、FIT化が進むインバウンド市場を自分たちの領域だと理解することが必要だ。

 本年1月、国土交通省が、「高速バス情報プラットフォーム」を開設した。外国語対応している、高速バスの予約サイト、および高速バス事業者の公式サイト(ホームページ)を紹介するというものだ。筆者も、同省および観光庁の検討会構成員として制作に深く関わった。同省では、本プラットフォームの積極的露出を図っていくとしているものの、サイト自体はいわば「リンク集」に過ぎない。だが、国が自ら、全国の高速バス事業者に対しサイトの多言語化を促しているということの意味を、各事業者はよく認識すべきだ。現状では、本プラットフォームで紹介(もちろん掲載料などは不要)されているバス事業者の公式サイトは、あまりに数が少なく悲しい気分になる。

 合わせて、3.体験化(いわゆる「コト消費」)への対応として、高速バスとは別に「着地型」旅行商品の充実が求められる。従来型の、発地(海外、または東京などの大都市)側の旅行会社が企画したツアーでは、どうしても総花的で中庸な商品になってしまうが、ウェブ予約の普及により、着地(デスティネーション)側で企画された個性的な商品を旅行者自らが情報収集して予約することが可能になった。しかしながら、これまで発地型ツアーに大きく依存してきたわが国では、広い意味での着地型商品は大きく不足している。この点については、次回の本コラムで考えてみたい。

 いったんまとめると、この国では「インバウンド=バスツアー」というイメージが強いだけに、行政当局など周辺の関係者の間では「バス業界はインバウンドの扱いに慣れており、意識も高いはずだ」という誤解がある。それどころか、バス業界内でさえ「インバウンドは一部の貸切バス事業者のもの」という認識が定着しすぎており、FIT化の進展によって矢面に立っているはずの高速バス事業者の当事者意識は不十分だ。筆者としては、団体ツアーから個人自由旅行、すなわち貸切バスから高速バスへの変化の意味を、引き続き業界内外に説き続けたい。

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執筆者: 成定竜一 - 高速バスマーケティング研究所株式会社代表
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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