漁師塾、6次化強化、たまコロ、林業で養鰻/みらい基金採択事業報告

2017年7月21日
農林水産業の振興・活性化をめざして、地域のさまざまな取り組みに支援を行う「農林水産業みらい基金」の交流会が7月11日に開催された。会場では、その活動報告として2014年度、2015年度の採択事業4例が成果報告をかねて紹介された。
 農林水産業の振興・活性化をめざして、地域のさまざまな取り組みに支援を行う「農林水産業みらい基金」(以下「みらい基金」)の交流会が7月11日に開催された。みらい基金は2014年3月の設立以来、一般公募から助成先採択まで、これまで3年間、助成事業を行ってきた。会場では、その活動報告として2014年度、2015年度の採択事業4例が成果報告をかねて紹介された。

■三重県の漁師塾で海女さんを育てる

三重外湾漁業協同組合 畔志賀漁師塾 塾生 山内和氏

三重外湾漁業協同組合 畔志賀漁師塾の取り組み。漁師塾の取り組みで若手が増えた

 最初の事例は、2014年度採択事業のひとつ三重外湾漁業協同組合 畔志賀漁師塾の取り組み。発表は同塾塾生の山内和氏が行った。

 志摩市志島地区の漁業は、水揚げ量・額ともに海女漁と刺し網漁がほとんどを占めている。しかし、漁師の技術は親子のみに受け継がれるだけで、後継者不足が問題となっていた。とくに海女の数が減少し2011年には14人ほどになり、高齢化とともに消滅の危機に瀕していた。そこで、地区外からの就業希望者の受け入れを開始した。

 漁師塾は、新規就業者の育成支援のために作られた組織。先輩漁師が漁の技術の他、漁業者間のルールや地元での生活のルールなどを指導・支援するというもの。これにより、地域外から8名の就業希望者を集めて育成を行った。その8名は無事地域に定着しているといい、マニュアルの整備なども進んだ。現在、志島地区の漁業者のうち20代から30代はすべて地区外出身者で40代も半数以上が地区外出身者となっている。

 これにより、当面の後継者問題は解決したが、経験の浅い漁業者は収入の面で不安定という課題も浮かび上がった。経験不足からくる水揚げ額は、最初の1年くらいは50万円程度だという。経験とともに水揚げも上がっていくが、収入不足や休漁期対策として、干し芋(きんこ芋)の製造など農作業を収入源とする取り組みも開始した。みらい基金は、この干し芋、水産物を加工する施設の建設に利用したという。加工場という拠点をつくることで、安定した就業の場、販路の拡大などを進めている。

■停滞した6次産業を再活性化した広島・世良高原

協同組合夢高原市場 理事長 佐古淳子氏

広島県の協同組合夢高原市場が行った6次産業事業の強化。インバウンド対策、体験プログラムの強化など、グリーンツーリズムのてこ入れを行った

 次の報告は広島県の協同組合夢高原市場による6次産業事業の強化事例。発表は組合理事長 佐古淳子氏。

 広島県の世羅高原は古くからの穀倉地帯だが、90年代後半、高齢化や担い手問題、農地の荒廃、観光客の減少など地方の問題に悩んでいた。そこで世羅町、甲山町、世良西町の三町が中心となり「世良高原6次産業推進協議会」を1998年に設立し、翌99年には世良高原6次産業ネットワークを組織し、「スローフードフェスタ」「フルーツ王国せら高原夢まつり」のようなイベントを開催したり、地元県立世羅高校とのコラボ商品の開発などに取り組んだ。

 2006年には組合の拠点施設「夢高原市場」を建設。イベント、施設・地域のブランド化、担い手の育成などを展開していった。しかし、ネットワーク会員施設の集客も2007年をピークに減っていき、売上も2013年をピークに減少を始めた。

 課題分析の結果、農家民宿を利用したグリーンツーリズムの停滞、新商品開発の停滞、マーケティング不足への対策が必要と判断し、みらい基金の活用を決めた。2014年度に無事採択事業となり、3軒にとどまっていた農家民宿を13軒まで増やし、インバウンド対策、体験プログラムの強化など、グリーンツーリズムのてこ入れを行った。

 また、2016年には新しい加工場を建設しワインを利用した新商品開発にも着手。移動販売車の導入も実現した。さらにFacebookやウェブサイトによる情報発信力、ウェブアンケートによるマーケティング調査にも取り組んでいる。

■知名度アップ戦略でグルメコンテストでグランプリ

グリーンズ北見 営業開発部営業課課長補佐 丸山勇太氏

独自メニュー「たまコロ」でグランプリ獲得。知名度向上に貢献

 2015年度の採択事業ではグリーンズ北見(北海道)の事例が紹介された。発表者はグリーンズ北見 営業開発部営業課課長補佐 丸山勇太氏。

 北海道の北見地区はじつは、全国の生産量の30%を占める日本一の玉ねぎ生産地である。生産量も多いが、比例してキズもの、変形したものなど「規格外品」も大量に発生する。これらは市場価格維持のため安易に出荷するわけにもいかず廃棄していたが、加工食品として出荷するようにしたという。北見グリーンズは昭和62年に規格外品玉ねぎの加工会社として設立された。

 みじん切りの冷凍、あめ色玉ねぎ(ソテー)、スープなどを業務用として、年間18000トンもの加工品を出荷・販売している。その加工品の中にじゃがいもを使わず玉ねぎだけで作った「オニオンコロッケ」という商品もあった。試食などではおいしいと評判なのだが、北見のたまねぎの知名度が高くないためメジャーな存在ではなかったという。

 生産量日本一でありながら北見玉ねぎの知名度が低いのは、店頭では「北海道産」と表示されてしまっているからと考え、工場の一部を消費者向けにシフトして、最終的に消費者に届く商品に「北見」の地名を明記するようにした。市販品製造のための資金として、みらい基金に応募。助成が認められ、工場設備の充実やプロモーション活動などを開始した。

 助成のおかげで工場の稼働もスピーディーに行えたという。プロモーションについては、「オニオンコロッケ」を「たまコロ」と再ブランディングし、「全国コロッケフェスティバル」への出場を果たした。しかも初出場ながら全国のグランプリを獲得し、北海道全域に報道されるなどPRは十分な成果を上げた。

■ローカルベンチャーで地域経済を強靭に

エーゼロ 代表取締役 牧大介氏

岡山県西粟倉村 エーゼロによる林業従事者のための副業経営基盤開発事業の取り組み

 最後は岡山県西粟倉村 エーゼロによる林業従事者のための副業経営基盤開発事業の取り組み。発表はエーゼロ 代表取締役 牧大介氏。

 牧氏は以前からこの地域でローカルベンチャー育成のコンサルタントを行っていた。2009年に西粟倉・森の学校という会社を設立し、地元の林業を生かした木材加工会社・ベンチャーを育てていた。現在20社ほどが育ち、合計の売上は10億円規模になっているという。

 しかし、林業周辺の事業が立ち上がっても林業単体での経営が難しい状況はあまり改善せず、地域経済全体のポートフォリオを見直す必要があると考えたという。みらい基金には、地域経済の基盤を強化する新しい取り組みに対する助成を申請した。

 林業従事者はその家族、または移住者が安定して生活できる、生活基盤、生産基盤、販売基盤の3つを柱に、住宅の整備、新しい産業としてのうなぎや魚の養殖、ウェブマーケティングやECサイトの開設などを実施している。

 空き家、空き地を利用し移住者向けの住宅を6棟ほど建設し、2017年はモデルハウスも3棟つくる予定だ。住宅建設には地元の木材をうまく活用した工法を利用しているという。また、廃校の体育館を改装し、うなぎの養殖のための水槽や設備を整備した。すでに養殖は始まっており「森のうなぎ」というブランドで全国に出荷している。

 エーゼロは、みらい基金を活用し、林業だけでなく、農業・水産業と連携した地域経済の基盤を整備することで、住民や移住者がさまざまな事業に携われる村。多様性による持続性の高い社会を作ろうとしている。

 みらい基金では、全国から寄せられる数多くの農林水産業にかかわる助成申請のなかから「他者・他地域モデルとなり得るような“現場発”の先進的なチャレンジ」を厳選し、最大90%の助成率で後押しを行っている。農林水産業において、各地に広がる意欲的な取り組みや課題解決の努力に対して大きな貢献を果たしているみらい基金。今後の展開に大いに期待したい。

『農林水産業のみらいの宝石箱』(日経BP社) 農林水産業みらい基金と助成先の取り組みをまとめた一冊。各地の様々な取り組みや、みらい基金で行われている審査にあたっての議論などを詳細に紹介

《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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