徳島上勝町から、地域産業活性化の原点を考える10の教訓

2017年5月15日
この10年来大きな注目を集め、画期的なサクセスストーリーとして取り上げられてきたものの一つが、徳島県上勝町の株式会社いろどりの事業である。この厳しい時代にあればこそ、その普遍的な意義と教訓をいまいちど振り返るのも決して無駄なことではないだろう。
 高齢化・過疎化と既存産業の衰退といった事態に直面している地域は全国至るところに及んでいる。このままでは地域の経済的基盤が崩壊し、生活基盤を含めた負のスパイラルが広がるばかりとなる恐れは諸方面から危惧されている。「地方消滅」や「消滅可能性都市」といったショッキングな見出しが、一時至るところに踊った。そうした言い方には、公共政策の役割と可能性をあまりに軽視している面、地域住民の方々のさまざまな取り組みを看過している面がないとは言えず、また一種のアナウンスメント効果で、「そうなっても仕方ない、あきらめるしかない」といった印象を与えている観もある。

 もちろん現実は厳しい。しかしなお、地域経済の再生を目指す、地道な取り組みは各地で、息長くすすめられている。それらの教訓を学び、普遍的な意義を考えるのは当然無駄なことではないだろう。そうしたなかで、この10年来大きな注目を集め、画期的なサクセスストーリー、モデルケースとして取り上げられてきたものの一つが、徳島県上勝町の株式会社いろどりの事業である。それゆえ、多々紹介されてきた事例存在であることは間違いないものの、この厳しい時代にあればこそ、その普遍的な意義と教訓をいまいちど振り返るのも決して無駄なことではないだろう。

 徳島いろどりと言えば、申すまでもなく、第一には「木の葉っぱをお金に換えた」大胆なビジネスアイディア、発想の転換である。徳島県の勝浦川上流の山奥、ほとんど平地もないこの地に、木の葉っぱは無尽蔵にある、これを売ってお金を稼げる、そう考えたというのは大変な着想であった。大規模な投資も、熟練人材の養成確保も、原料の輸送も要らない、「いま、そこにあるもの」を価値ある商品に変えられるという発想そのものがきわめて画期的であった。このアイディアを立案し、事業化した立役者は、もちろん現在いろどり社長の横石知二氏である。当時上勝町農協営農指導員であった横石氏は、出張先での日本料理店で、客が料理に添えられていたつまものの葉を愛でていた、そこから着想を得たというのは有名すぎる逸話である。これなら上勝町にはいくらでもある、また高齢者でも取り組める仕事にできると。

 つまり、無限の可能性を秘めた地域の資源なり新たな事業の種なりは、足下に転がっている。それを誰が見いだすかなのである。

 しかし、第二には「葉っぱをつまもので売る」事業化をいきなり軌道に乗せたということでは決してない。つまものの販売は横石氏らの着想の一つでしかなかったし、ほかにさまざまな果実、野菜などの栽培を試みてきている。葉の出荷は1986年ころから始めてみたものの、なかなか売上は伸びなかった。試行錯誤のかたわら、横石氏は自腹で各地の料理店などを食べ歩き、どのような葉などが重用されるのか、またそれらはどのように入手されているのか、克明に見て歩いた。いわば徹底した市場ニーズ調査である。同時に、つまものの生産と流通の仕組みをどのように構築できるのか、しっかりと検討を重ねた。ものがある、需要がある、それだけではビジネスにはならない。受注、出荷、物流を含めた仕組みを構築できてこそ、事は動き始めるのである。

 その仕組みは、町の出資を得て設立された第三セクター・株式会社いろどりが一方の支えである。ちなみに、いろどりの事業はつまものの販売だけではなく、観光やまちづくりなど多様な地域振興の取り組みの一環として元来位置づけられてきている。これと二人三脚を組んだのが農協の組織である。物流と取引決済にかかるところは、農協の組織の力を大いに利用しているのであり、これなくしてつまもの販売の事業は成り立たない。それによって、全国の青果市場への受注翌日納入・取引という仕組みが回るようになっている。

 このように、実際には相当の期間と労力、努力が投じられて、初めて事業は軌道に乗ったのである。

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 第三に重要なことは、「売れるつまもの」は決してその辺に転がっている、無尽蔵にある葉をむしり取っているのではない。むしろ逆であって、現在市場に出しているつまもの商品は大部分が各農家で手間暇かけて栽培し、収穫されたものである。当然ながら市場と需要先の求める品質、また数量の安定供給確保を欠いていては、信頼を得られない。「いろどりのつまものは使える」という評判を確立できたからこそ、全国から注文が殺到し、いまも市場取引される需要の大部分を占有しているのである。それはまた、いろどりという企業の努力だけでは実現できず、取引契約している多数の農家などの生産販売意欲と栽培努力営農努力に支えられている。

 第四にはこれに関連して、ただ木の葉を採って出荷するというのではなく、その色彩、品質や形状などを規格化し、顧客からの注文指定で需要に応えられる体制を築いている。その中には、木の葉や実、枝などを組み合わせたオリジナルデザインの季節もの商品も多数組み込まれている。当然ながら、加工商品は付加価値を稼げる。こうしたさまざまな提供品をカタログ化し、取引先に配り、多種少量でも電話一本、メイル一つで発注できるようにし、また商品規格を維持していることもきわめて重要である。

 第五に、ここがきわめて興味あるところだが、各栽培・出荷農家同士の「競争」を組み込んだことである。実際には、各農家などには安定的な量の受注の商品群もかなりある。しかし、日本の農業から競争力を失わさせたともされる、「共同受注・販売」部分に過度に依存することなく、日々受注競争を促し、翌日出荷の個々の注文の「取り合い」、即納を競う仕組みを組み込んだ。それとともに、月間年間の出荷販売額を公表し、大いに競争心を刺激しあっている。NHKのTV番組で「おばあちゃんたちが市場経済に目覚めた」と描かれたところである。もちろん受注に即応するためには、日頃からしっかり草木を育て、需要の年間サイクルなどに気を配り、先を読んだ取り組みが促されることになる。同時にまた、長年のご近所同士、地域を支え合ってきた関係だから、競い合いの一方での助け合い、励まし合いが全体の流れを守っている。文字通りの「競争と協調」の仕組みなのである。

 第六に、それゆえ各農家への情報提供、ネットワークの構築を重視してきた。以前には電話FAXとPOS応用のPCネットワークを活用した。それで日々の新発注や市場の動向、さらには各農家の生産販売額などが一目でわかる。のちにはインターネットとwifi、タブレット活用に移行し、「上勝情報ネットワーク」として畑に出ていてもリアルタイムで諸情報がわかる、対応できるようにしている。情報化はここでも重要な武器であり、お年寄りも負けじとこれに取り組んでいるのである。

 第七に、この情報システムの構築等には、以前から国のさまざまな補助金を巧みに利用し、町と住民の負担を極力抑えている。高度情報化対応と地域活性化が国の重要施策であれば、こうした支援制度を生かさない手はない。しかも、立派な情報機器や回線をいくら整備しても、有効有益に活用しなければなにもならない。地域振興の支援予算がかたちだけを残しがちなのに対し、ここでは必要とされる情報網の整備に宛て、それを当事者たちが使いこなす必要性と有用性を積極的に結びつけている。おばあちゃんもネットを使いこなすのである。

 第八に、つまもの販売の成功に安住することなく、徳島上勝町いろどりの「地域ブランド性」と地域特性を生かし、さまざまな農産物等を開発販売し、新商品が続々と生まれている。最近では洋食にも使える新たな味覚・アクセサリーとしての「マイクロ葉わさび」に力を入れている。

 それにともない、横石社長らはつねに販売の第一線に立ち、東京などの大消費地に赴き、展示即売や市場めぐりを行うことで、顧客や取引先との対話を重ね、新たな商品開発普及や販路開拓に努めている。言い方は悪いが、「徳島の山のなかにこもっていてはだめ」なのである。

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 第九に、上勝町の高齢者に、仕事と稼ぎと生き甲斐をもたらしているだけでは、後が続かない。地域の活性化には新しい世代の参加がなくてはならない。そのため上勝町といろどりは視察見学受け入れをはじめ、さまざまなプロジェクトやイベントを企画し、「ソーシャルビジネス育成」などの国の支援策、また町の委託「インターンシップ事業」などを生かし、移住・交流人口の増加と町のファンづくりをすすめている。報じられる「葉っぱビジネス」への関心、また豊かな自然環境や観光資源などに惹かれ、移住する若い世代も増加している。新たな起業も見られるという。

 そのようなかたちで、つねに世代交代と新しい力の導入をすすめる、取り組みの裾野を広げる、そこに上勝町と株式会社いろどりのしたたかなつよさがあるのである。

 第十に、あまり知られていないことだが、こうした大きな仕事を成し遂げてきた横石氏は決して「地元の人」ではない。実は長く実家のある徳島市内に住んでおり、徳島県農業大学校卒業後は、上勝町農協勤務のために毎日長い距離を通う生活だった。むしろ、自分の学びと発想を生かし、上勝町を活性化しようとして非常な抵抗に遭い、挫折を繰り返した。そのときの「見とれ、いつかは」という思いがこの企業家精神そのものの取り組みの心の原点だというのである。その意味、むしろ「よそ者」の知恵とチャレンジ精神が脈々と生きている。

●関連リンク

執筆者: 三井逸友 - 横浜国立大学名誉教授
横浜国立大学名誉教授、嘉悦大学大学院客員教授。慶應義塾大学経済学部 大学院を修了後、駒澤大学、横浜国立大学に勤務。日本中小企業学会の常任理事で、07年から約3年間に渡り同会長を務める。主な著作に『中小企業政策と「中小企業憲章」』『21世紀中小企業の発展過程』がある。

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