富裕層インバウンドの法則その4

2017年1月23日
富裕層インバウンドが本格的になればなるほど「通訳案内士」の存在感も増してくるはずだ。なにせ、外国人の旅行ガイドは法制度上原則彼らしかできないのだから。富裕層インバウンドツーリストと通訳案内士のマッチングサービスは妙味のあるビジネスになるだろう。
★法則4:助成金を活用する通訳案内士の連合が富裕層インバウンドを制す

 先日日本政府観光局(JNTO)に知人を訪ねた時のこと、なんと現在「通訳案内士」は17000人程度いるのだとか。個人的に調べたところ1年に1000人くらいずつ増えているようなイメージのようだ。あれだけ難しい試験なのに・・・これも時代の流れというものなのか。

 富裕層インバウンドが本格的になればなるほど彼らの存在感も増してくるはずだ、と私は常々考えている。なにせ、外国人の旅行ガイドは法制度上原則彼らしかできないのだから。特に地方や、自分の出身地の情報に強ければ強いほど今後の富裕層インバウンドツーリストに通訳案内士の資格は有利に働くと思われる。

 なぜなら成熟していくアジア富裕層は、また、東京や京都のような日本の主要デスティネーションを経験し終えた海外富裕層は、日本の地方の素晴らしい体験型コンテンツを求めるようになってくると予想されるからだ。特に日本の寿司文化に明るい海外富裕層には、その場でしかとれない魚の寿司などは大変なトラベルコンテンツになるはずだ。

 北海道や青森はもちろんのこと、長崎の五島列島や大分県、愛媛県などは、どこも真似のできない富裕層インバウンドにおける「ローカルスシオポチュニティ」を昔から持っていた、と言えるだろう。

 一方、MICEのラグジュアリー分野(当社ではLux MICEと名付けている)においては、思いもよらないプレーヤーが、既存事業の再生や新規事業で頭角を現してくることが予想される。貸会議室で有名なTKPが伊豆長岡の高級旅館「石亭」の再生に名乗りを挙げたのは記憶に新しいところだ。

 Lux MICEの分野においては、「旅行業」と自社を位置づけるのではなく、「グローバル集客業」と位置付けて事業を考えることのできるすべての産業にチャンスがあると踏んでいる。例えば、行政書士や司法書士は日本では公認会計士や弁護士、税理士などとの比較においては少しレベル感が劣ると思われている(実際はそんなことは全くない)が、どっこい、彼らの方がグローバルに弁護士などと事業上の提携に打って出やすい(事業拡大を考える人が相対的に多い、という特徴がある)という点では、新たな産業を興せる可能性が高い。なんらかのニッチな事業でグローバル連携しやすい業態であれば、Lux MICEのチャンスはすぐそこにあると考えてよいだろう。

 まさに貸会議室や登記の名義貸しを行っている会社などは、知らず知らずのうちに顧客ソースが膨らんでいるものだ。あとは同業とグローバルに提携を進めていけば、前述のTKPのような事業に打って出ることができるだろう。このLux MICEの分野でも最終的な勝者は通訳案内士となるはずだ。個人でなく団体なのだから、よりしっかりした通訳ガイドを、となっていくのは目に見えている。

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 と、通訳案内士の事業性や将来性には何の疑いもないのだが、2点越えなければならないハードルがある。1点目は、ほぼ個人事業主が多いために営業がままならない人も多いことだ。「自分はこんなにできるのに」と思っていたところで実際のサプライヤーに手が届いていなければ宝の持ち腐れというものだ。そういう意味では、富裕層インバウンドツーリストと通訳案内士のマッチングサービスは妙味のあるビジネスになるだろう。

 もう1点は、これからの富裕層インバウンドツーリストに、言葉を話せるだけの通訳ガイドは通用しなくなってくる、という現実だ。人間力が備わっている通訳ガイドとそうでないのとでは自ずと差が出てくるだろう。つまり、これからの通訳案内士には、情報源たる通訳案内士としてのパーソナルブランディングが求められる。前述した「自分の出身地に誰よりも詳しい」もとても強みになるし、「とてもおいしい蕎麦屋を知っている」、「とても身体にいい食品を知っている」など挙げだしたら枚挙に暇がないほど単純で、それで十分なのだ。趣味の延長戦にあるもの、と置き換えれば、明日から自分のパーソナルブランド強化を始めることができるはずだ。

 例えば、日本文化グローバルコンシェルジェ協会(www.japanese.or.jp)ではローカルコンシェルジェの育成をひとつの方針として掲げている。「そのエリアのことなら1から10まで知っている」という通訳案内士、とでも言えばいいだろうか。日本を数百のエリアに分けてそれぞれのエリアにとても詳しい通訳案内士を養成する試みは、誰もができそうで誰もやっていないホワイトスペースそのものだ。

 さて、通訳案内士にも人間力や情報源としてのスペシャリティが求められる時代、まずまっさきに押さえておきたいのは、富裕層インバウンドツーリストの傾向そのものだろう。当社が開始した富裕層インバウンドビジネス研究会は、3か月で9万円の研修商品と、内容を考えればお得だとはいえ、「ちょっと高いかな」と思う向きもあるかもしれない。そんな時には、研修助成金の申請を考えてみてはどうだろうか。

 富裕層インバウンドビジネス研究会は2017年4-6月に第二期が実施される。助成金を活用できればただ同然で情報とスキルを身につけることができるのでぜひ助成金の申請検討をお勧めしたく思っている。雇用保険条件など一定の条件があるので、通訳案内士相互の連携などの策が必要となるが、通訳ガイドを一生の仕事として捉えるのであれば、そろそろ通訳案内士同士での起業を考えても良いのではないかと思う。なお、富裕層インバウンドビジネス研究会については、以下のサイトを参照されたい。
http://rpartners.jp/inbound/ibk/

●関連リンク

執筆者: 増渕達也 - ルート・アンド・パートナーズ代表取締役
1992年、東京大学卒業後、(株)電通入社、2002年、富裕層向け雑誌の草分けであるセブンシーズを発行する(株)セブンシーズ・アンド・カンパニー代表取締役に就任。2006年、富裕層向けライフスタイルマネジメントサービスを手掛ける(株)ルート・アンド・パートナーズ設立、現在に至る。2013年にはシンガポールに進出。日本、アジアを中心に富裕層ビジネスを手掛け、富裕層マーケティングに関する造詣が深い。「HighNetWorth Magazine」編集長、富裕層インバウンドビジネス研究会も主宰。

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