特に興味深かったのは、「テーマ2:個人旅行化が進む観光とバス事業」の講師をお願いした中のお一人、神姫バスツアーズの阪田悦規取締役による新サービスのご紹介であった。同社は、兵庫県に拠点を置く乗合バス事業者、神姫バスのグループ会社である。神姫バスをはじめ乗合バス事業者の多くは、「地元の名士」企業として観光事業や不動産開発、生活関連事業などを幅広く営んでいるが、同社もその中の一つだ。地元の人を対象にした従来型の旅行ツアー(発地型ツアー)のほか、広く関西全域を対象にテーマパークツアー、スキーツアーの若年層向けブランドや、最近ではFITを対象とした着地型ツアーも手掛ける。
このうち発地型ツアーでは、以前にご紹介したとおり、水戸岡鋭治氏デザインの上級車両による本物志向のバスツアー「真結(ゆい)」ブランドを2016年に立ち上げた。FIT向け着地型ツアーは、宿泊客の多い大阪を起点に関西を手軽に回る商品が不足していたので人気商品に育っている(京都や奈良に特化した定期観光バスは以前から存在するものの、それぞれ地元のバス事業者が京都駅、奈良駅発着で運行するのみだった)。いずれも、乗合バス事業者系旅行会社ならではの特徴のうち、強み(資金力や人的リソース)を活かし弱み(保守的な社風)を排除した顧客志向の強い新サービスで、同社には以前から注目している。
さて、発表いただいた新サービスの骨子は以下のようなものだ。
・大阪~京都~金沢~白川郷~高山~富士五湖~東京のルートで、バスが毎日1往復する(実際の運用上、バスは片道当たり2台必要で、上り下り合計で毎日4台走る)
・旅行者は、一人当たり20,000円を支払って「大阪→東京(またはその逆)」または「大阪→高山→大阪(または東京→高山→東京)」の区間で、一定期間内で乗降自由となる。(法的な立て付けは募集型企画旅行である)
・FITに人気の観光地では、バスは観光施設などに立ち寄り、下車観光の時間を確保する。昼時には昼食も用意される
バスは毎日1往復、ダイヤ通りに運行される。旅行者は、高山など途中で降りて自由に観光、宿泊し、24時間(または48時間)後に来るバスで次の地点まで移動すればいい。
実は、この商品が運行される区間の多くには、並行して多くの高速バスが走っている。富士五湖~新宿では30分間隔と頻発している。1往復だけのこの商品を運行(催行)する価値はどこにあるのだろう?