ドラマ「架空OL日記」を見て、OLの日常をしみじみ味わう

2017年6月16日
「会社のOLが何を考えているのか、イマイチよくわからないんだよね」ーーそんな悩みを抱えている管理職の男性に是非見てほしいのが、ドラマ『架空OL日記』だ。本作は、お笑い芸人のバカリズム(升野英知)が原作・脚本を手がける連続ドラマだ。
「会社のOLが何を考えているのか、イマイチよくわからないんだよね」ーーそんな悩みを抱えている管理職の男性に是非見てほしいのが、ドラマ『架空OL日記』だ。本作は、お笑い芸人のバカリズム(升野英知)が原作・脚本を手がける連続ドラマだ。

ドラマ『架空OL日記』 Hulu(オンライン動画配信サービス)にて、全話配信中!((C)2017「架空OL日記」製作委員会)


 原作はバカリズムが三年もの間、OLのふりをして書いていたというBLOG。バカリズム自身も升野として登場し、銀行で働くOLの日常を切り取った作品だ。

 こう書くと、一見茶化したコメディかと思うかもしれないが、ドラマのトーンはシリアスでOLの仕事と日常がすさまじく丁寧に描かれている。升野がほかの女性社員と同じ制服を身につけ、完全に女子として扱われていることに少し違和感があるが、この一点があることによって、ただならぬ雰囲気のドラマとなっている。

 しかし、本作が凄いのは、升野の“なりきり”がだんだん気にならなくなっていくことだ。次回で最終回なのだが、今では升野のことを普通の女性として見ており、気づいたらOLのリアルな日常ドラマとして毎週楽しみになっているのだ。

 主な登場人物は、
 バカリズムが演じるOLの升野。
 升野の同期で親友の真紀ちゃん(夏帆)。
 頼れる先輩の小峰様(臼田あさ美)。
 後輩の天然妹キャラ・紗英ちゃん(佐藤玲)。
 OLたちのまとめ役的存在で、入社10年目の酒木さん(山田真歩)。

 彼女たちは程よく仲が良いのだが、ほんのちょっとだけ、お互いの変なトコを意識している。そこに升野が心の中で軽いツッコミを入れるという、ショートエピソードの積み重ねで物語は構成されている。

 本作には恋愛や犯罪といった大きな出来事は起こらないし、働く女性の生き方を声高に叫ぶような熱いメッセージもない。描かれるのは会社の帰りに、みんなでおいしい料理を食べにいったことや、紗英ちゃんから借りた漫画は面白かったけど20冊あって持ち帰るには重かった、といった些細なことだ。

 職場の描写も、お客様にお茶を入れようとしたら茶葉が切れていて、予備も補充されてないから犯人捜しをしたら、途中で犯人は自分だったと気づく話や、更衣室に紗英ちゃんがグミを置きっぱなしにしていたらネズミが出たから、今後はお菓子の持ち込み禁止になった話。

 他には、いっしょにジムに通っている真紀ちゃんがいつの間にか本格的に鍛え出していてインストラクターと間違えられる話とか。寝る前にLINEに送られてきたスタンプが微妙とか。

 ひとつひとつのエピソードは、本当にどうでもいいことばかりで、だからこそOLが書いているBLOGを読んでいるような味わいがある。冷静に考えるとこれがどうして面白いのかわからないのだが、余計な味付けがないからこそいつまでも見ていられるのが本作の不思議なところである。

完全にOLとして扱われている升野(バカリズム)。この一点があることによって、ただならぬ雰囲気のドラマとなっている((C)2017「架空OL日記」製作委員会)

 お笑い芸人としてはすでに高い評価を獲得しているバカリズムだが、近年はテレビドラマの脚本も精力的に手掛けており、脚本家としての評価もどんどん高まっている。

 バカリズムの作風は、一言で言うと「面白い設定と優れた人間洞察」。過去に戻ることができるタクシーに乗った乗客たちの人生の選択をコメディテイストで描いた『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)や、真木よう子や竹内結子といった女優たちが、もしも女優にならずに違う人生を選択していた場合はどうなっていたのかを描いた『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)といったSFテイストのドラマを書いていた時は設定の面白さが全面に出ていた。

 最近では日本テレビの深夜ドラマを三作続けて手掛けているのだが、市川崑監督の映画をリメイクした、不倫をしているテレビプロデューサーを九人の愛人と正妻が殺害しようと企てる『黒い十人の女』の時は、まだシチュエーションの面白さの方が全面に出ていた。

 だが、次に原案と脚本三本を手がけた、バカリズムと女優・二階堂ふみ、お笑い芸人・若林正恭(オードリー)の三人が本人役で出演したドラマ『住住(すむすむ)』ではバカリズムの鋭い人間洞察が全面に出ており、脚本家として面白くなってきたと思った。そんな人間洞察力が極限まで際立ったのが、この『架空OL日記』である。

 男性作家が女性を書くと、どうしてもある種の先入観が入ってしまうものだが、バカリズムは物凄く突き放した目線で登場人物を見ているため、OLたちを必要以上に美化することもないし、逆に見下していると感じることもない。そこからうかがえるのは「OLとはこういうものだ」と決めつけずに、対象をひたすら覗き込もうとするバカリズムの誠実さだろう。

 だから本作を見ても、彼女たちが何を考えているのかはあまりよくわからない。たが、彼女たちがいつも口にする副支店長の悪口を聴いていると、OLが嫌いな上司がどういう存在なのかは、よくわかる。そこだけでもチェックしておくと、職場で少しは役に立つかもしれない。


■ドラマ『架空OL日記』
Hulu(オンライン動画配信サービス)にて、全話配信中!
日本テレビ 毎週土曜 深夜1時55分~ *第10話は、深夜2時30分
*各地放送局で放映日時が異なります。詳しくはドラマ公式HPでご確認ください

●関連リンク

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

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