ドラマ「先に生まれただけの僕」から、変わりゆく日本的経営を考える

2017年11月30日
日本テレビ系土曜夜10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、35歳の若い校長先生が業績不振の高校を立て直すという異色の学園ドラマだ。面白い授業のできない教師たちはクビになり、勉強のできない生徒たちは切り捨てられていくのではないか? という経営優先の合理化がもたらす負の側面と、そこで犠牲になる側の不安が描かれている。
 日本テレビ系土曜夜10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、35歳の若い校長先生が業績不振の高校を立て直すという異色の学園ドラマだ(オンライン動画配信サービスのHuluでは第1話から最新話まで配信中)。

ドラマ『先に生まれただけの僕』日本テレビ系 毎週土曜夜10:00~。放送Hulu(オンライン動画配信サービス)にて、第1話から最新話まで配信中!((C) NTV)

 主人公は総合総社・樫松物産の商社マン・鳴海涼介(櫻井翔)。

 鳴海は会社から出向を命じられて企業の傘下にある私立高校・京明館高等学校に校長として赴任する。会社からは不採算部門とされ、偏差値も低く、スポーツにおいても優れたところがない毎年定員割れとなっている高校の現状をみた鳴海は「教師にとって生徒はクライアントであり商品です」「生徒の親御さんは株主です」と、教育はビジネスなのだと、教師たちに訴えて、学校改革に乗り出す。今まで他人事だった教師たちの間では、変わることを拒否する先生たちと、鳴海のやり方に感銘を受ける教師に二分していく。

 第1話では大学進学のために利用した奨学金制度は社会人になった後も返済し続けないといけないという問題について言及し、第2話ではスクールカースト(クラスメイトたちの間で出来上がってしまう階級制度)の問題を扱ったりと、社会派テイストが強い。

 一方、第3話では、先生たちの授業ではアクティブ・ラーニングという、生徒同士でコミュニケーションを取りながら回答を出していくというゲーム的な授業を見せている。

 鳴海はビジネスマンの視点から、朝礼における「校長の挨拶」などの無駄を省いていき、わかりやすい本音の言葉で教師や生徒にぶつかっていく。

 真柴ちひろ(蒼井優)たち教師はそんな鳴海のやり方に最初は反発するものの、だんだん理解を示し、鳴海もまた、教師や生徒たちの気持ちを知ることで、少しずつ自分のやり方を変えていく。それと同時に社会人の立場から生徒たちに、今、勉強していることが将来の役に立つのか? や、大学に進学することの意味について、自分の言葉でメッセージを発するようになっていく。

 つまり、教える側の教師たち自身が学んでいく姿が、ドラマとなっているのだ。

 脚本は福田靖。『HERO』や『ガリレオ』(ともにフジテレビ系)、大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)といった数々のヒット作を生み出し、2018年には連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)の執筆を控えている人気脚本家だ。

 彼の作風は一言で言うとライトな社会派で、ポップでわかりやすいドラマの中に、例えば『HERO』なら検事や弁護士に関連したエピソードが盛り込まれており、ドラマをみていると少しずつ舞台となる業界の勉強になるのがとても楽しい。

 『先に生まれただけの僕』は学校を立て直す経営モノだが、経営という視点から病院を描いたのが『DOCTORS~最強の名医~』(テレビ朝日系)だ。

 本作は経営危機の病院を合理的思考を持った少し性格の悪い医者が引っ掻き回すことで、医者や看護師たちの意識を変えていくという物語だ。『先に生まれただけの僕』にも出演している高嶋政伸が腹黒いのだがどこか滑稽に見える悪役を演じていることもあってか、共通点の多い作品だ。

 しかし、コメディテイストが強かった『DOCTORS』に対して本作のトーンは実にシリアスで画面も重々しい。これはチーフ演出の水田伸生のカラーだろう。

 水田は坂元裕二脚本の『Mother』や『Woman』や宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』を手がけた演出家だが、画面の色使いが暗めで、映画のような重量感があるのが大きな特徴だ。児童虐待やシングルマザーの貧困問題といった社会派のテーマを扱うことも多く、重たいテーマを重く撮るという意味では同じように社会派なテーマを扱っていても、ライトな味付けにして世に出してきた福田靖とは正反対の資質だと言える。

 この本来なら真逆の資質の作り手が、チームを組んでドラマを作っているのが本作の面白さだと言えよう。それは主人公の鳴海のキャラクターにも強く現れている。一見軽く見えて人の気持ちがわからない合理主義的な戦略家に見えるが、心の中では複雑な気持ちを抱えている人間味のある男として鳴海は描かれている。

 そんな鳴海の弱点が、実は徹底した合理化を測るために今いる教師たちをリストラすることができない甘さだとわかってくる。

 物語は今、折り返し地点に入っており、鳴海の改革によってまず教師と生徒たちの意識が変化し、これから高校は偏差値が高く有能なスポーツ選手を輩出する人気進学校に変わっていくだろうという予感に満ちている。

 しかし、そうなると面白い授業のできない教師たちはクビになり、勉強のできない生徒たちは切り捨てられていくのではないか? という経営優先の合理化がもたらす負の側面と、そこで犠牲になる側の不安が描かれている。

 それはそのままグローバリズムに直面した日本企業の問題だ。問われているのは、ただ合理化するのではなく、そこにいる人たちに寄り添った経営ができるのかということだ。

 教育や学校制度の問題が勉強になることはもちろんのこと、学校を会社に見立てた組織運営のドラマとしても楽しめる優れた作品である。


■ドラマ『先に生まれただけの僕』
日本テレビ系 毎週土曜夜10:00~放送
Hulu(オンライン動画配信サービス)にて、第1話から最新話まで配信中!

●関連リンク

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • TVドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』 仕事や人間関係に疲れている人への一服の清涼剤

    テレビ東京の『コタキ兄弟と四苦八苦』は、「レンタルおやじ」として働く無職の中年の兄弟を主人公にした深夜ドラマです。1時間1000円で相手の話を聞く仕事を引き受け、それをきっかけに、様々な人々と関わるようになっていきます。無職のおじさんでなくても、繰り返し観ると新たな発見が多い奥の深い本作、仕事や人間関係に疲れている人なら、一服の清涼剤として楽しめる作品です。

    2020年1月31日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する⑥

    東京圏を除く地方の若者人口は2000年からの15年間で約3割減少。東京一極集中を食い止め、地方へ還流させるには何が必要なのか。求められるのは、都市の規模に関わらず、明確なビジョンを描く力であり、それを実現する実効力のある取り組みです。高知県にある人口わずか1300人の小さな村の挑戦を追います。

    2020年1月30日

    <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する

  • 中堅・中小企業応援サイト「15秒おしごとTV」公開!

    中堅・中小企業企業の魅力を動画で紹介する新しいスタイルのサイト「15秒おしごとTV」 が1月6日に公開されました。その内容を一言でいうと「企業の魅力を15秒に集約する」。その企業にしかない思いや仕事をビジュアル化し、いかに魅力にあふれた集団であるかを表現しています。

    2020年1月9日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑪『食卓一期一会』

    あけましておめでとうございます。2020年が皆様にとって素敵な年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。今年もHANJO HANJOをよろしくお願いいたします。新年最初の記事は長沖竜二さんの書評からです。

    2020年1月3日

    コラム

  • 富裕層経営者は予防が大事!

    会社経営には最大限の労力を惜しまない経営者でも、自分自身のマネージメントは疎かになっていることがよくあります。金融商品、遺産相続、健康管理・・・。自分で対策をとることに限界がある領域については、外部の専門家に相談してあらかじめ予防することで、大切なものを守るべきです。

    2019年12月2日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する⑤

    地方創生の最重要課題である東京一極集中の是正に関し、政府は達成の目標時期を2024年度に先送りする方向で調整しているといいます。地方はどうすれば東京への人口流出を防ぎ、流入する人を増やすことができるのか。今回は新幹線開業を契機に多くの民間投資を呼び込み、変貌するコンパクトシティ富山市を例に今後、地方に求められるまちの魅力、価値とは何かを考えます。

    2019年11月22日

    <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する

  • こんにちは。クラウドサービス「カイクラ」の江尻です

    株式会社シンカ代表取締役社長の江尻高宏さんによる連載。今回は看板サービスであるクラウドCTIの名称変更という大発表です。使い慣れたサービス名を、江尻さんは今なぜ変えるのでしょうか? その決断に至る心のあやを語ってくれました。

    2019年11月18日

    コラム

  • 特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』 AIは人類にとって敵なのか味方なのか?

    「AIは人類にとって敵なのか味方なのか?」と気になる人に是非オススメしたいのが日曜朝9時から放送されている『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)だ。主人公はAI企業の2代目社長! アンドロイドが社会に普及した世界を舞台に、暴走したアンドロイドを止めるため、仮面ライダーゼロワンに変身して戦う物語だ。

    2019年11月8日

    コラム