富裕層インバウンドの法則その1

2016年10月24日
富裕層ビジネスは、日本では2000年代前半に話題の言葉でランキング1位となって以来、二極化への企業活動対応という意味からも無視できない言葉になっている。「富裕層インバウンド」という、21世紀の新型キーワードが生まれてくることは時代の必然だったと言えるだろう。
★法則1:富裕層インバウンドを2つの構造に分解し継続的に調査する

 昨今ビジネス用語として定着しつつあるインバウンド。人口減少や内需拡大の不透明感が際立つ中、訪日外国人向けの日本における消費を象徴する言葉として、今後もビジネス上の存在感を増していくことが予想される。日本政府観光局(JNTO)や日本旅行業協会(JATA)も各種データを公表しているのは周知の通りだ。

 一方、このインバウンドという言葉、当然ながら日本にだけ存在するものではない。訪日外国人の居住国からみればそれはアウトバウンド旅行に他ならず、彼らの居住国にも当然インバウンドビジネスが存在する。つまり、日本で使われているインバウンドという言葉は、訪日外国人の出身国のインバウンドビジネスとは完全な競合関係にある。

 他方、富裕層ビジネスは、日本では2000年代前半にレクサスの日本上陸時に日経MJ誌の話題の言葉でランキング1位となって以来、二極化への企業活動対応という意味からも無視できない言葉になっている。「富裕層インバウンド」という、21世紀の新型キーワードが生まれてくることは時代の必然だったと言えるだろう。本連載「富裕層インバウンドの法則」の皮切りとして、初回に2つの論点を提示したいと思う。

 1つ目の論点は、「外国人富裕層の訪日時に財布を多く開かせることができれば、彼らが日本で今までより多くの消費活動をしてくれる」という論点だ。消費できる総額が多ければ多いほど、多くのお金を使ってくれる可能性がある、それ自体は論を待たない話だろう。今ミスマッチがあるとするならば、我々が日本において当り前と感じている商品やサービスを外国人目線で提供していないことに尽きるのではないかというのが私の持論だ。

 考え方はとても単純で、外国人富裕層と数多く接し、数多く話し、数多くの彼らの考え方を把握し、彼らに適した提供の仕方をする、これに尽きる。ヒントのひとつが我々ルート・アンド・パートナーズの日本人富裕層顧客が海外旅行をした際の一番多い印象かもしれない。曰く、「なぜこれほどの商品があるのに、もっと上手に私に訴えかけないのだろう」。要するに、海外のインバウンドマーケティングもまだまだ出遅れている。つまり、この国の富裕層にはこう接しよう、というスタンダードはないに等しいわけだ。

 結論から言えば、この点の逆を極めればいい話で、フランスの富裕層にはこうやって、アメリカの、韓国の、シンガポールの、と言った方程式を各国別にマニュアル化できると話は早い。デスティネーションニッポンの泣き所は言語力の差だと巷間言われているが、おはよう、こんにちは、こんばんは、ご機嫌いかが、程度の各国の言葉を用意しておくことはできないものか。それで外国人富裕層顧客の共感をつかめるなら、すなわち、新たな顧客開拓というビジネスにつながるならその程度のことはやって当然なのではなかろうか、しかもこの程度のことは誰でも本当はできるはずなのに。海外で日本語で話しかけられてうれしいなあと思った経験ありませんか? その逆をシンプルでいいから単純に極めませんか?

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 2つ目は、「富裕層でなくても、日本で多くの消費をしてくれるトラベラーがいないわけがない」という論点だ。企業活動の中で自社商品を定期的に購入してくれる消費者をロイヤルカスタマーと呼ぶことが多いが、まさにこのインバウンドトラベラー版、ロイヤルトラベラーと言ってもいいだろう。

 消費できる総額は少なくても、訪日して日本で消費してくれる比率が多いロイヤルトラベラーは、考えようによっては1つ目の論点である本質的な海外富裕層よりも上質な顧客だと言える。なにせ日本びいきなわけだから少々のことには目をつむってくれると考えていい。ここでも逆に「自分がこんなにひいきにしている国なのになあ」と思っている国があり、その国の人たちにどのように接してもらえると嬉しいかを考えれば話は単純だ。彼らには、「日本に何度も来てくれてどうもありがとう」。この言葉が一番効くはずだ。そして気持ちでいいのでなんらかの無料サービスを提供すれば文句なしではないだろうか。

 実際この2つの論点で述べていることはすなわち「心と心のふれあい」以外の何物でもない。それが海外富裕層に通用するかというと間違いなく通用するはずだ。彼らは富裕層独特の悩みである「人に普通に話しかけられない」ことに辟易しているのだから。

 結論付けると、インバウンド顧客が富裕層であるか否かに関わらず、日本独自の、あるいは自分自身の強さを整理し、外国人目線で訴求していくことが王道であることに何の変わりもない。その際に国によって特徴が千差万別であることを忘れてはならない。あるいは人種に着目することも大いに結構だ。

 例えば第二次世界大戦時のリトアニアでユダヤ人に「命のビザ」を提供し2000家族を超える命を救った杉原千畝氏。リトアニアは杉原氏の功績というインタンジブルアセット(目に見えない資産)を同国のインバウンドビジネスに大いに活用していることを日本も参考にするのが望ましい。むしろ杉原氏の功績を日本がユダヤ人に向けて情報発信し続け、杉原氏の母国日本に訪れてもらえるような仕組みづくりをもっとやらねばならないと感じるのは私だけではあるまい。

 例えば日本各地に杉原モニュメントをつくり、ユダヤ人トラベラーが巡礼の旅よろしく毎年日本を訪問するブレイクスルーにする。富裕層比率が多いユダヤ人に対するこのような施策は、よって富裕層インバウンドに直結する。少し考えれば誰にでも理解できるはずだ。もっと当り前のところから民間ビジネスのみならず行政も「こうすれば勝てる」インバウンドの法則を見直す時期にきているはずだ。

 このような単純な疑問点も多いことから、当社ルート・アンド・パートナーズでは「富裕層インバンドビジネス研究会」を2017年1月から立ち上げることにした。多業種から多人数参加可能なコンソーシアム型の商品で料金的にも誰でも参加しやすいように設計した。欧米を中心とした海外富裕層のリサーチを繰り返しながら、外国人目線で訪日富裕層外国人を増やし消費活動を多くしてもらえるような枠組みを、皆さんと一緒に研究していきたいと考えている。富裕層インバウンドビジネス研究会については、以下のサイトを参照されたい。
http://rpartners.jp/inbound/ibk/

●関連リンク

執筆者: 増渕達也 - 
ルート・アンド・パートナーズ代表取締役。1992年、東京大学卒業後株式会社電通入社、2002年、富裕層向け雑誌の草分けであるセブンシーズを発行する株式会社セブンシーズ・アンド・カンパニー代表取締役に就任。2006年、富裕層向けライフスタイルマネジメントサービスを手掛ける株式会社ルート・アンド・パートナーズ設立、現在に至る。2013年にはシンガポールに進出。日本、アジアを中心に富裕層ビジネスを手掛け、富裕層マーケティングに関する造詣が深い。「HighNetWorth Magazine」編集長、富裕層インバウンドビジネス研究会も主宰。

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