中小の町工場が培ってきた基盤技術は、先人から引き継いできたものです。我々が生き残っていくことも含めて、次の世代に引き継いでいく義務があるのではないか、そんな思いで仕事を続けています。
【HJ HJ EYE:6】中小企業のメッカ、ここにあり。
■モノづくりの伝承が人を集め、新たなビジネスを生む
――浜野製作所のある墨田区は中小企業のメッカである一方、家族経営のような小さな事業者は衰退期にはいっているという話も耳にします。いま墨田区の企業はどのような状況にあるのでしょうか?
中小の町工場が培ってきた基盤技術は、先人から引き継いできたものです。我々が生き残っていくことも含めて、次の世代に引き継いでいく義務があるのではないか、そんな思いで仕事を続けています。
――浜野さんが14年に立ち上げた「Garage Sumida(ガレージスミダ)」は、モノづくり総合支援施設として個人や企業の製品開発をサポートしています。技術を引き継いでいくということを、すでに実行に移しているわけですね。
ガレージスミダに人が集まれば、そこからアイデアやマーケットがつながり、新しいサービスを創出できます。技術を伝えるということに加えて、そこに人が集まることで生まれる情報発信も、施設の大きな役割だと考えています。
――ガレージスミダを利用したベンチャー企業の方が、「ここにはモノがつくれるという以上のことがある」という話をしていました。製造という匠の技の蓄積だけでなく、そこから発せられるノウハウやアドバイスには、新たなビジネスの種があるように思います。
■下請け体質から脱却し、モノづくりの上流をつかむ
――製造業は自分の領域だけで収まってしまうと縮んでいくばかりです。事業者どうしが「つながること」が重要になってきます。浜野製作所がガレージスミダを通して行なっている挑戦はまさにその体現だと思いますが、このような取り組みを行なうきっかけはなんだったのでしょうか?
――浜野製作所ではベンチャー企業の開発支援も行なっています。これには、どのような意図が込められているのでしょうか?
一方で、彼らも我々のアドバイスを元に不要な部品や工程を省略したり、製造時のミスを予防でき、いち早くプロダクトを世に送り出すことができます。モノづくりは図面通りにつくったからといって、必ずしも正しい動作をするものではありません。その理由を探しているうちに、開発期間はどんどん伸びてしまいます。
――製造業の現場にいるからこそ、モノづくり全体を見渡すことができるんですね。墨田区の町工場が世界を相手にするベンチャー企業を支え、新たなモノづくりが生まれていくかと思うとワクワクします。
■産学連携が生む、得難い教育訓練
――浜野製作所というと、産学連携の取り組みも注目されています。電気自動車「HOKUSAI」、深海シャトルビークル「江戸っ子1号」といった具体的な成果を出すなど、事業の中でも大きなポジションを占めているように見えます。
――大学と協力した教育訓練というと、まず思い浮かべるのがインターンシップです。浜野製作所でも受け入れを行なっていますが、こちらは成果を出しているのでしょうか?
――頭でっかちな反発が予想されますが……。
――その反応は、浜野さんにとってうれしい驚きだったのではないですか?
――インターンの大学生が営業マンとして機能したわけですね。いまどき珍しい話かもしれません。
その会社とは最初は1万円程度のお仕事から始まりましたが、今でも取引は続いています。その後、インターンをしていた一橋の学生は浜野製作所に就職しました。今でも毎年ひとり、ふたりはインターンの子がうちに入りたいと言ってくれます。求人募集に何十万も支払うよりは、よほど良い投資だと思いますね。
浜野慶一(はまのけいいち)さん
84年に東海大学政治経済学部を卒業し、同年に板橋区の精密板金加工メーカーに就職。93年創業者の跡を継ぎ、2代目として浜野製作所代表取締役に就任する。02年に一橋大学・関満博教授の協力のもとで産学官連携センターを設立し、電気自動車 「HOKUSAI」、深海探査艇「江戸っ子一号」などの開発を手掛ける。経済産業省・文部科学省の産学人材育成パートナーシップ経営管理人材分科会委員、東京商工会議所墨田支部副会長などを兼任。
■ 取材を終えて
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