朝ドラ「べっぴんさん」に見る、うまくいく “両輪経営”

2017年1月31日
連続テレビ小説『べっぴんさん』(NHK)は、仕事と子育てに奮闘するお母さんたちの姿が描かれたドラマだ。神戸にある子供服専門店の創業者のひとり、坂野惇子の半生をモチーフに作られた本作は、「キアリス」という会社の成長物語でもある。靴店の一角を借りて始めたお店が、少しずつ大きくなっていき、それにともなって組織として変化していく様は、経営モノとしても見どころ満載である。
 連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『べっぴんさん』(NHK)は、仕事と子育てに奮闘するお母さんたちの姿が描かれたドラマだ。

子供服専門の「キアリス」という会社の成長物語である『べっぴんさん』。靴店の一角を借りて始めたお店が、少しずつ大きくなっていき、それにともなって組織として変化していく様は、“経営モノ”としても見どころ満載

 物語の舞台は戦中から戦後にかけての神戸。主人公の坂東すみれ(芳根京子)は焼け野原となった神戸で、女学校の手芸倶楽部でいっしょだった小澤良子(百田夏菜子)と村田君枝(土村芳)、看護師の小野明美(谷村美月)と共に、総合子供用品店「キアリス」を立ち上げる。
 神戸にある子供服専門店の創業者のひとり、坂野惇子の半生をモチーフに作られた本作は、「キアリス」という会社の成長物語でもある。靴店の一角を借りて始めたお店が、少しずつ大きくなっていき、それにともなって組織として変化していく様は、経営モノとしても見どころ満載である。
 脚本を担当する渡辺千穂は、会社内の壮絶なパワハラを描いた『泣かないと決めた日』(フジテレビ系)や幼稚園のママ友同士のイジメを描いた『名前をなくした女神』(フジテレビ系)などを手がけてきた。
 代表作は、人間同士の格付けバトルを“マウンティング”という言葉で定着させたファッション雑誌編集部を舞台にした沢尻エリカ主演の『ファースト・クラス』(フジテレビ系)だろう。
 これらの作品は人間の暗部をこれでもかと描く作品だったため、NHKの朝ドラという、ある種、真逆の世界でドラマを書くと知った時は、どういう話になるのかまったく予測がつかなかった。
 『べっぴんさん』は、戦前・戦中・戦後を舞台にした女性企業家の一代記という、近年の朝ドラの必勝パターンに忠実に作られているように見える。
 しかし、第一週で幼少期を描いた後、普通の朝ドラならばじっくりと描くはずの、学生時代・結婚・出産といったイベントを一気に見せてしまい、朝ドラの肝とも言うべき戦時中の場面を第二週で終わらせてしまう。まず、このスピード展開に驚いた。
 その後、すみれは、子どもを育てるためにお店を開くことになるのだが、明美以外の三人はお嬢様育ちで世間知らずのため、はじめはお客さんが怖くて接客ができず、商品の値段も決めることにすら、オロオロしている。
 そんな素人くさいやりとりを見ていると危なっかしくて心配になるが、同時に毎日が文化祭のように楽しそうで、まるで、戦争で奪われた青春を、彼女たちが、ここで取り戻しているかのように見えてくる。
 そんなキアリスには多くのお母さんたちが集うようになってくる。戦後、誰もが貧しかった時代に、商品を買えないお母さんのためにベビー服の型紙を安く提供したり、子育ての相談に乗ったりするうちにどんどんコミュニティ化していく。この辺りの発展の仕方は小さなお店をやっている人にとっては、とても参考になるのではないかと思う。
 思えば『ファースト・クラス』も、えげつないマウンティングの根底にあったのは、仲間たちと雑誌を作っていく働くことの喜びだった。

 良子を演じているのがグループアイドル・ももいろクローバーZのリーダー・百田夏菜子ということもあってか、新人アイドルの成長していく姿を見守るような楽しさもある。
 一方、戦争が終わり従軍していた夫たちが一人、また一人と帰ってくる。やがて、すみれの夫・紀夫(永山絢斗)も戻ってくるのだが、彼ら男グループが登場するようになると、経営モノとして俄然、面白くなってくる。
 経営のことがまったくわからないすみれ達を見かねた紀夫は、キアリスの経理職として入社し、やがて社長となるのだが、学生時代の感覚で働くすみれたちを見て、このままではいけないと思う。
 そして、朝の朝礼をしたり、お互いを苗字で呼び合うように決めて、ちゃんとした会社としてキアリスを経営していこうとするのだが、その結果、会社の雰囲気は悪くなってしまう。やがて、店員同士の他愛のない雑談やお店を訪ねてくるお客さんとのやりとりから様々なアイデアが生まれると気付いた紀夫は、キアリスはこのままでいいと、考えを改める。

戦後の誰もが貧しかった時代に、商品を買えないお母さんのためにベビー服の型紙を安く提供したり、子育ての相談に乗ったりするうちに、会社はどんどんコミュニティ化していく。小売店経営者にとって参考になるストーリーだ

 クリエイティブな発想は女たちから、経理や営業等の大人の付き合いは男たちが担うという両輪でキアリスは回っていくのだが、この辺りの描き方は、実にフェアである。

戦争が終わり、男グループが登場するようになると、“経営モノ”として物語は面白みを増す。クリエイティブな発想は女たちから、経理や営業等の大人の付き合いは男たちが担うという両輪でキアリスは回っていくことに

 すみれにも紀夫にも長所と短所があることをしっかりと描いていて、どちらか一方ではお店は成立しないということが、ちゃんと伝わってくる。
 現在は昭和30年代に入り、すみれの子ども達が成長した姿が描かれている。戦後のベビーブームに乗って経営が軌道にのり、事業を拡張してきたキアリス。しかし一方で、すみれは思春期を迎えた娘のさくら(井頭愛海)の気持ちがわからずに、すれ違いが起きていた。やがて、夜のナイトクラブに出入りするようになったさくらをすみれが激しく叱ったことで、さくらは家出をしてしまう。

戦後のベビーブームで経営が軌道にのり事業を拡張していくというのが、現在の物語の展開。そして母と娘の確執と和解。果たして本作はどのように決着をつけるか? すみれたちキアリスの面々がどのように成長していくのか、目が離せない作品だ

 母と娘の確執と和解もまた、朝ドラの重要なモチーフだが、果たして本作はどのように決着をつけるか? 変わりゆく時代の中で、すみれたちキアリスの面々がどのように成長していくのか、目が離せない。

■『連続テレビ小説 べっぴんさん』/NHK
[総合](月~土)午前8時~8時15分ほか

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
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