■ニュース深堀り!■コンパクトシティー、地元企業に商機は?

2016年9月21日
少子化や東京一極集中などの動きにともない、地方からの人口流出が止まらない。都市部でも商店街がシャッター通り化するなど、空洞化が大きな問題になっている。その対策として、政府が地方都市における中心市街地の活性化を目指して推進しているのが「コンパクトシティー」構想だ。16年9月には「コンパクトシティー形成支援チーム会議」で、子育て施設の設置、クラウドファンディングを活用した空き屋・空き店舗などの再生推進が議論されている。
 そもそも、コンパクトシティーとは中心市街地に職・住機能を集約し、郊外や新開発地域に分散した人を呼び寄せようというもの。「中心市街地活性化基本計画」や「立地適正化計画」などのプロジェクトを元に、すでに2期、10年の活動が続いている。計画自体は全国各地で数百件が進んでおり、中心街の人の流入増や、観光誘致などに成功している事例もある。

 実は地元の駅前で行なわれている再開発の背景に、コンパクトシティー構想の計画があったというケースもあるだろう。第3期の実施が確定すれば、身の回りで構想にからんだプロジェクトが動き出すかもしれない。そのとき、街の商店、中小企業はどうなるのだろうか? 各地のコンパクトシティー構想を見て回り、その効果についての検証・分析を行なってきた、地域活性化・まちづくりコンサルタント 水津陽子さんに話を伺った。

地域活性化・まちづくりコンサルタント 水津陽子氏

■コンパクトシティー構想で街はどう変わる?

――コンパクトシティーにともなう計画では、具体的にはどんな取り組みを行なうのでしょうか?

水津 郊外への大規模店舗出店の規制緩和から、地方では駅前など旧中心街の衰退、ドーナツ化が問題になりました。コンパクトシティーはこの問題に対処するために始まったもので、プロジェクトは3つの柱で構成されます。

 ひとつは、公共交通機関の整備・強化、次に街中住居の整備、最後は人々のにぎわい拠点、主に商業地・商業施設の整備です。これにより、中心街の人口を増やし、買い物客や雇用も増やし、商店街のシャッター通りをなくそうというものです。

――公共交通機関の整備などは、自治体や行政の力が必要ですね。電車やバスの整備などが伴えば、施策としては効果が期待できそうです。

水津 実は、06年から構想にともなう取り組みを行なっている富山県や青森県ですが、これまで中心街の人口や歩行者数の目標はいまだ達成できていません。富山県では、駅前のデパートを再開発し、グランドプラザという広場をつくり、南北に分断された交通をつなげるライトレールという路面電車を新規に敷設しました。しかし、電車の乗客数の増加はありましたが、肝心の広場に人が集まらないといった課題があります。

 一方、青森では駅前の大型ビルを改装し、図書館などの公共施設、駐車場、ショッピングモールを整備しました。これも公共施設と駐車場の利用者は増えましたが、商業施設への集客がうまくいっていません。駅前、港湾地区に巨大な観光施設もつくりましたが、いわゆるハコモノ観光の限界か、現在のところ、入場者数の頭打ち、伸び悩みの問題を抱えています。

■計画の中で地域企業はどう立ち回るべきか

――プロジェクトが稼働したからといって、必ずしも成果が期待できるわけではないのですね。成功している事例はないのでしょうか?

水津 静岡県の呉服町にある商店街は、衰退が激しい地域でしたが、それでも残っていた老舗が動きました。全国規模の百貨店やチェーンの郊外店にはない商品で差別化を図り、店舗数が回復しています。ただし、出店にはこだわりがあり、“一店逸品”という形でチェーン店や商店街の雰囲気にそぐわない店舗は、地権者と協力して出店を許可しない仕組み(ランドオーナー制度)があります。

 高知県のひろめ市場は、バブル崩壊後に空きビルになった建物に屋台村をつくって成功しています。鳥取県の水木しげるロードは、NHKドラマやアニメをうまく活用して成功した事例といえるでしょう。ただ、屋台村やマスコミとのコラボは、どの自治体、商店街でも取り組んでいますが、失敗事例が多いのも事実です。

――地元の力で商店街を活性化できたというのは大きいですね。今後、コンパクトシティーに取り組む地域で、商店街や中小企業はどう立ち回るべきかの参考になりそうです。

八戸ポータルミュージアム「はっち」。観光と地域文化の振興を目指して、11年にオープンした

水津 成功事例は長崎市、大分市、東京都の谷中などほかにもありますが、私が注目している八戸市の事例もよい参考になると思います。

 八戸市のコンパクトシティー事業が認定されたのは08年のこと。にぎわい拠点とする商業施設計画が難航するなか、11年に地域観光交流施設「はっち」をオープンさせました。これは観光施設や従来型の商業施設ではなく、実際の市民の声を取り入れた、育児や子育ての拠点となるものです。民間企業や商店街が各種イベントを開催したり、ワークショップやアートイベントなどに利用できる、いわゆる「ハコモノ」とは一線を画すものとなりました。

 とくに平日昼間の利用者である、子育てママさんの意見に耳を傾けたことが功を奏したようです。商店街も、そういった若い世代向けの個性的な店舗や商品をそろえるようになり、結果として、周辺の商店にも人が足を運ぶようになりました。

 また、商業の活性化ではおもしろい取り組みもあります。市内で02年にオープンした屋台村「みろく横丁」では、新規出店をして経営が安定したら、周辺の商店街に店舗をだす仕組みをつくりました。それに伴い、店舗には経営指導など相談にのれる仕組みも用意しています。人気のない店は入れ替わり、繁盛した店は商店街に店をかまえ、常連客をひきつれて地元を活性化させます。

 この例が端的に示しているように、コンパクトシティーを成功させるには、ハコモノや行政主導の開発プランではだめだということです。重要なのは周辺の住民の声を事業計画にきちんと盛り込むこと。商店街や中小企業がとくに実践する必要があるのは、事業計画への積極的な参加です。

 鉄道やビルをつくってもらえば売上が上がるという考え方では成功しません。自分たちでアイデアを出して、プランを立ててください。地域全体のプランや構想である必要はなく、「こういう店舗にしたい、こういうビジネスをしたい」といった提案でよいと思います。

館内には地域文化を発信する展示や施設のほか、子どもと大人の交流スペース「こどもはっち」などを備える

――それだと、行政と民間の思惑が一致せずに混乱することはありませんか。

水津 はい。そこでもうひとつポイントになるのが、コーディネーターやマネージャーのような存在です。行政と民間・市民の間に入って、両者の意見やプランをすり合わせていく人材です。

 専門のコンサルタントにお願いする方法もありますが、地元のことなので、商工会議所や商店街などの単位でまとめる人が理想です。いずれにせよ、自分たちで考えたプランを実践していくことが、結局成功につながると思います。個々の施策には、地理的条件、地域性などの要因から、これをやれば成功するという答えはありません。

 行政から降りてくるプランに従うだけだと、うまくいかないと行政のせいにしてしまいがちですが、自分たちの考えたプランならばモチベーションも変わってくると思います。当たり前のことですが、どの成功事例も、当事者意識をもって、こちらから積極的に意見をだし、自らも改革していく気持ちがあったものです。
<Profile>
水津陽子(すいづようこ)さん
石油会社、官公署、税務会計事務所勤務などを経て98年、行政書士・経営コンサルタントとして独立開業。地域資源を活かした地域ブランドづくり、観光振興、協働推進など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究および執筆活動を行なう。講演本数は現在まで1000本を超え、Webニュースサイトなどで地域活性化・観光をテーマとしたコラムやレポートを連載。14年11月5日には地方創生法に関連し、衆議院経済産業委員会に参考人出席した。
《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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