■ニュース深掘り!■中野から考える、都市部の駅前再開発

2016年9月1日
東京・中野の駅前が大きく姿を変えようとしている。01年に移転した警察大学校の跡地には、13年から14年にかけて明治、帝京平成、早稲田の3大学のキャンパスや施設が次々と建ち、キリンホールディングスの本社も移転してきた。お昼時などには街に学生たちがあふれ、一時は食事どころを探して歩く姿も見られたほどだ。この先もさらに駅前を中心とした再開発が計画されており、16年8月25日には中野サンプラザを含む周辺地域の再整備事業に向けて、野村不動産を代表とする事業協力者グループが選定されたばかりだ。
 再開発は街の人とモノの流れを大きく動かす。では、そこに地元の中小企業はどのように対応すべきだろう。いや、そもそも再開発という大規模プロジェクトに、中小企業が関わっていくことができるのだろうか? 大手のデベロッパーが主導する多くの街づくりプロジェクトにおいて、そこに民間が参画するのはあまりにハードルが高すぎるように思われる。

 中野の再開発では区内の5つの経済団体が協力し、「これからの中野のまちづくりを考える会」を発足。16年3月には区長と区議会議員にむけた提言書を提出している。地元企業も一体となった街づくりは、どのように行われているのか。同会の代表幹事を務める高山義章さんに話を伺った。

これからの中野のまちづくりを考える会 代表幹事 高山義章さん

■文化に寄りそう街づくりが、経済のリスクヘッジとなる

――中野駅前では現在サンプラザ周辺をはじめ、様々な場所で再開発計画が動いています。これを地元企業の方々は、どのような思いで見ているのでしょうか?

高山 現在計画されている再開発では、西側の線路沿いにある囲町一帯を三井不動産が、駅南の西口地域をUR都市機構が、南口地域を住友不動産と西松建設が、それぞれ主体となって再開発を進めています。その中でエリアマネジメントが行われていないため、ようするに中野という街をバラ売りしている状態なんです。そこに地域としては最大の危機感を持っています。

――このまま進めば、連動や回遊性のない再開発になってしまうということですね。「これからの中野のまちづくりを考える会」が提出した提言書では、トータルコンセプトとして「多彩な文化が織りなすまち×そしてその文化を「皆で」育成・醸成していくまち」が提案されていました。これは、エリアマネジメントに対する、地域からの提言ということになるのでしょうか?

高山 「これからの中野のまちづくりを考える会」は15年6月に発足し、一個人でも参加できるワークショップ型の勉強会を繰り返してきました。その中で分かったことの一つが、個別の開発で街は発展しないということ。そして、もうひとつがハード(建物)とソフト(中身)が連動したコンセプトが必要だということです。

「これからの中野のまちづくりを考える会」では都市計画についての勉強会を実施。その意思に賛同した梅若能楽学院会館では、16年7月に「文化と出逢うまちづくり」というイベントを主催している

――そのコンセプトとして、会では“文化”に注目されました、その理由とは何だったのでしょうか?

高山 中野は言わずと知れたサブカル文化の聖地ですが、他にも梅若能楽学院会館を中心とした伝統文化、社会福祉法人愛成会を中心としたアール・ブリュット(アウトサイダーアート)が根付いています。エリアマネジメントとして、文化芸術のアウトソーシング機能を取り入れるというのは、自然な動きでした。

――文化をコンセプトに据えることは、街づくりにどのような付加価値をもたらすのでしょうか?

高山 街は文化が無いと陳腐化します。リーマンショックを見るように経済は変動していきますが、文化は不変なものです。それを地域の魅力としていくことは、経済危機へのリスクヘッジにもつながります。

■地元経済界が一体となって、初めて生まれる影響力

――「これからの中野のまちづくりを考える会」の提言書は、現在進めている再開発にどのような影響力を持っているのでしょうか?

高山 会の影響力という観点では、商工会議所、工業産業協会、法人会、しんきん協議会、商店街連合会という5つの組織を束ねていることが重要です。会員がそのまま地域の経済圏を網羅しているので、区としても、デベロッパーとしても無視できません。これは人口30万人という、都内でもコンパクトな中野ならではの出来事かもしれませんね。

中野サンプラザは22年度での解体を予定しており、跡地を含む周辺地域では25年に多目的施設の完成が予定されている

――それは地域におけるプレイヤーが少なかったため、意見がまとまりやすかったということですか?

高山 それもありますが、長年に渡って地域の経済界が一体になるように取り組んだ成果でもあります。私と同世代の仲間たちが地域活動をはじめたとき、経済界はバラバラに活動していました。その中でも横断的な連携が取れるようにとコミュニケーションを取り続け、およそ30年かけてようやく今の形になったと言えます。

 明治大学大学院教授で都市工学の権威として知られる青山やすし先生には、「東京23区に経済区があるのは中野区だけです」と言っていただいたこともあります。それだけ、今の中野の経済界は結束していますし、だからこそ5つの組織が名を連ねる会で提言書を提出できたわけです。

――中野の経済界が結束した上で、会では高山さんが代表幹事としてみなさんの意見を取りまとめていらっしゃいます。行政やデベロッパーを相手取って、なぜこのような活動を具体化することができたのでしょうか?

高山 私の活動における立脚点は、04年の国による中野サンプラザ売却です。当時、物件は中野区が購入したものの、その運営が民間事業者に委託されることになりました。後に行われるであろう中野の再開発で、最大の拠点となる施設の運営に、地域が主体的に参加しなくていいのか? 戦わずして負けるのは情けないと、私を含む地元企業5社がコンソーシアムを組んで、事業者コンペに応募したのです。競合は大手デベロッパーですから、勝ち目はないだろうと考えていました。それでも事業を勝ち取り、民営化したサンプラザの運営を軌道に乗せることができたことが、私にとって大きな実績と成功体験になっています。

■文化を中心とした街づくり、そこにある商機とは?

――高山さんは中野の街は、どのように再開発されていくべきとお考えでしょうか?

高山 中野は昔から上京してきた人たちのベッドタウンとして成長してきました。色々な人を受け入れるというホスピタリティがあり、中野ブロードウェイを中心とするサブカルチャーも、そうした背景から生まれてきました。その中で、再開発ではエリアマネジメントに文化芸術のアウトソーシング機能を取り入れ、文化と街づくりを連携させていければと考えています。

――それは、中野サンプラザだけでなく、再開発される街全体でサブカル、伝統文化、アール・ブリュットなどの発信を行っていくということでしょうか?

高山 中野ブロードウェイで「まんだらけ」からサブカルが派生していったように、文化拠点を街づくりに組み入れていくということです。そこから生まれたものが連携して、想像できない出来事がうまれ、新しい中野のカルチャに育っていければと考えています。

――“文化”を街づくり全体のテーマとして掲げた上で、地元の商店街などはどのように変わっていくのでしょうか?

高山 中野には数多くの商店街がありますが、例えばそこで地方都市の自治体や世界各国のアンテナショップの受け入れていくという方法も考えられます。地方や世界の文化と触れあえる街として、そこに人が集まり交流すれば、新たな中野文化が生まれる機会になるかもしれません。

中野における再開発を、都市型街づくりにおける先行事例にしたいと語る高山さん

――ホスピタリティの高い住宅街があって、そこに隣接する商業圏があって、そこにディープな文化圏が生まれた。そういう街の性質から先にある未来を考えているということですね。

高山 まだ、私の頭の中だけの構想もありますが、そういう方向性を投げかけているところです。

――高山さんは不動産事業を営んでいらっしゃいますが、再開発に向けていち事業者として何か取り組んでいることはありますか?

高山 キリンホールディングスの本社が移転したことで、社員が中野に住んで、徒歩で通勤しているという話を耳にしています。こうしたレベルの高いワーカーに、“中野のワーキングスタイルは徒歩通勤”だと、提案できないかという思いはありますね。

 ただ、中野の住宅街は賃貸が中心ですが、老朽化して物件としての質が下がっています。これをすべて建て替えることはオーナーへの負担が大きいので、現在はそのリノベーションをご提案させていただいているところです。これによって、中野周辺の住宅ストックのクォリティを向上できればと考えています。
<Profile>
高山義章(たかやまよしあき)さん
三井不動産販売退職後、中野で「山一不動産」の三代目に就任。96年に不動産コンサルティングや賃貸管理業務、売買住宅仲介などを営む株式会社スペースを設立。東京商工会議所 中野支部 副幹事長。著書に「引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法」。
《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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