旅館業の人材不足をどう解決すればいいのか?(第1回 状況編)

2017年10月30日
★旅館業の人材不足をどう解決すればいいのか? 第1回「魅力的な労働環境作りとIT導入による効率化ーーその両面からの改善」
 サービス業の人手不足が社会的な問題となっているいま、宿泊業、中でも旅館業における人手不足は深刻な問題となっている。インバウンドの増加により日本国内の旅行消費が増加している中、ハイシーズンでも人手が足りないために部屋を開けられず、泣く泣く宿泊を断るというケースも出てきており、今後廃業に追い込まれる旅館は増える可能性が高い。その一方で業務改革を推進し、着実に業績を上げている旅館もある。この違いは一体何なのか。旅館業は今何をすべきなのか? 旅館業界の人材不足の現状とその解決策について3回に分けて、リクルートワークス研究所の城倉亮氏に話を聞く。第1回は状況編として「魅力的な労働環境作りとIT導入による効率化ーーその両面からの改善」をおおくりする。

リクルートワークス研究所 研究員 城倉亮氏

■国内旅行消費額は増加しているが旅館の稼働率は低迷している

ーー旅館、ホテルに代表される宿泊業がいま置かれている状況からお話を聞かせてください。

 まず観光庁が出している旅行消費額を見ると、日本人の国内宿泊旅行というのはだいたい15兆~16兆円くらいというのが、ここ6~7年続いています。一方で訪日外国人旅行者の旅行消費額を見てみると、以前は1兆円前後の規模だったものが、ここ数年で3兆・4兆に近づくという規模になってきています。これは2016年の旅行消費額全体の14.5%という割合を占めています。過去は数%だった外国人旅行者の消費額が1割を超える割合になってきているということです。外国人旅行者の消費が見逃せない状況になってきているといえます。

 2017年も上半期だけで外国人旅行者数が1300万人を超えていますので、このままいけば間違いなく昨年を超えて3000万人近くになると思います。国内消費量が一段と増える状況になってくるので、国内旅行主体の日本人だけでなく、インバウンドのお客様を見ていく必要がある時代になってきています。

 このように国内旅行者数は横ばい、そこにインバウンドが増えてきていますので、旅行の消費という全体で見ると増えている状況です。それに伴い旅館の需要もあるのですが、旅館自体はここ数年減少傾向にあります。客室数もここ20年で2/3に減っている状況です(図1)。一方でホテルは微増を続けており、客室数で言えば旅館と逆転しています。稼働率についても旅館の30%台後半に対してシティホテルやビジネスホテルは70~80%となっています。

ーー旅館の稼働率は30%! 思わず「えっ」と声をあげてしまいました。

 そうなんです。それを旅館の方にお見せすると「えっ、こんなに低いんですか!?」と驚かれます。当事者があまり実態を把握されていないんですね。客室数が減り経営が困難になってきて、後継者がいなくて廃業というケースももちろんありますが、人手不足による廃業というのが今後増えていく可能性があると我々は考えています。また宿泊業に限りませんが、人手不足、若い人がいないことによる倒産が実際に出始めている状況です。
  • (図1)インバウンドでの需要増があるが、旅館数は減少を続けている 。今後、人手不足により経営がさらに困難になることが想定される
  • (図2)宿泊業の接客スタッフを含む接客給仕は3.58倍に。3.58人の求人に対して1人の応募しかない状況
  • (図3)高齢化が進む宿泊業。60代以上が3割を占め、他の業種に比べると10%ほど高い
  • (図4)ホームページなどの取り組みは行っているが、業務スピードを上げるためのIT導入は他の業種に比べると圧倒的に低い

■人材不足の原因のひとつは若手が長く働きにくい環境

ーーそれはここ最近の傾向なのでしょうか?

 はい、ここ最近、特に顕著な傾向です。実際の有効求人倍率を見ても、昨年の全産業の有効求人倍率が1.22倍になっていますが、宿泊業の接客スタッフを含む接客給仕は4年前には2.26倍だったのが3.58倍になってきています。3.58人の求人に対して1人の応募しかないということですね。人が採用できない状況がここ数年急激に高まってきています。接客給仕はもともと人を採用しにくい業種なのですが、これが更に高まっています(図2)。

ーー接客給仕には飲食業も含まれます。つまり旅館業だけで見れば、もっと悪い状況だということでしょうか?

 そうですね。接客給仕全体でこの数字なので、旅館業に関してはもっと高い可能性があります。たくさん求人を出しても人が採れないというのはそういうことです。例えば、リクルートワークス研究所では、全業種に対して新卒採用数が今後増えるか減るかという調査(「ワークス採用見通し調査」)を行っているのですが、増えるという回答が13.5%、減るという回答が5.7%となっているので、必然的に新卒採用は増えていく傾向にあります。このことからも旅館業が新卒を採っていくというのは難しいと思います。

 また高齢化もかなり進展しています。宿泊業の特徴的なところだと思いますが、60代以上の方の数字が他の業種に比べると10%ほど高いことが総務省の調査から分かっています。全宿泊業の30%近くを60代以上の方が占めています(図3)。20代の数は他の業種と宿泊業で大きく変わりませんが、30・40代になると宿泊業がかなり少なくなります。私たちが行った調査では、宿泊業の方は配偶者がいないと回答する割合が平均と比べても非常に高いということがわかりました。これらは継続して働くことができない仕事だということを示していて、若くして就業してもすぐに辞めてしまうとか、結婚・出産などで継続して働くことが難しい業種であるということが見えてきます。

旅行での消費は増えているが、旅館自体はここ数年減少傾向にある。そんななかでも、業務改革を推進し、着実に業績を上げている旅館を代表する存在が「鶴巻温泉 元湯 陣屋」だ(写真提供:鶴巻温泉 元湯 陣屋」)

■職場環境改善とIT化で魅力的な働き方を作らないと担い手は現れない

ーー旅館業はずっと人材不足の傾向にあったのでしょうか?

 5年前の調査でこの状態なので、今はもっと状況は悪くなっていると思います。さらに5年後となったときに、60代以上の世代がどっとリタイアしてしまうとリソースがほとんどなくなるのではと考えています。新しい人を採りたくても有効求人倍率が高く、新卒もなかなか採れない状況の中で、「高齢者にいかに長く働いてもらえるか」という状況を作らなくてはなりません。そうはいっても年齢構成がいびつなので、これを直すためにも若い人にとって魅力的な働き方を作っていく必要があります。

ーー高齢者が長く働ける状況と若い人にとっての魅力的な働き方作り、両方向から対応をしていかないといけないということですね。

 両方向からの対応が求められているというのがデータから見えてきます。さらにこれまで宿泊業自体があまり手を入れてこなかったのがITの活用部分です。いわゆるホームページを開設して集客や販売促進に活用するということは、他の業種に比べると先進的にやってきたのですが、一方で業務スピードを上げるためのIT導入は他の業種に比べると圧倒的に低いのです(図4)。宿泊業では集客以外にITが活用されていなかったということがわかります。逆にいえばITの導入することで働き手を集められるという可能性もありますし、働き方がもっと良くなる可能性が十分にあるのが宿泊業だともいえます。

ーー日本人国内旅行、インバウンドともに旅行消費額が増えています。旅館業にとって追い風にならないのはなぜですか?

 ある温泉旅館では人手が足りなくて部屋が全部オープンできないという事例が発生しています。一番いいシーズンなのに働き手がいなくて部屋が開けられず、お客様をお断りしているという状況です。このような機会損失の発生は今後増えていく可能性があります。
 (インタビュー/加藤陽之 構成/川口裕樹)
●城倉 亮(じょうくらりょう)
リクルートワークス研究所 研究員。2004年東京大学文学部思想文化学科卒業後、大手航空会社、日系コンサルティングファームを経て、2012年株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)入社。グループ人事労務を担当する部門のマネジャーとしてグループ各社の人事業務を支援。その後、ITベンチャー企業での人事を経て、2015年10月リクルートへ復帰し、現職。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコトカネ」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

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