ドラマ『HOPE~期待ゼロの新入社員~』に見る、上司と部下の関係

2016年9月16日
今の時代、会社をドラマで描くことはとても難しい。年功序列・終身雇用が当たり前だった昭和の時代と違い、バブル崩壊以降は、正社員と派遣社員、男と女、日本人と外国人といったそれぞれの立場によって就労環境は全く異なるため、会社のイメージもそれぞれバラバラだからだ。
 今の時代、会社をドラマで描くことはとても難しい。年功序列・終身雇用が当たり前だった昭和の時代と違い、バブル崩壊以降は、正社員と派遣社員、男と女、日本人と外国人といったそれぞれの立場によって就労環境は全く異なるため、会社のイメージもそれぞれバラバラだからだ。
 そんな中、若い新入社員の目を通して会社で働くとはどういうことかを果敢に描いてきたのが、次回、最終回となる『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)だ。本作は韓国のWEB漫画『ミセン-未生-』を原作とした韓国ドラマが高く評価され、それを受けての日本でリメイクされたドラマだ。
 物語の主人公はかつて囲碁のプロ棋士をめざしていたが、今は挫折してフリーターとして働く一ノ瀬歩(中島裕翔・Hey!Say!JUMP)。
 ある日、一ノ瀬は、母のツテで総合商社・与一物産のインターンとして働くことになる。高卒で英語も喋れず、社会人経験もほとんどない一ノ瀬にとって、会社はわからないことだらけ。最初は戸惑うことの連続だが、同期の仲間たちや上司に助けられて、一つ一つ壁を乗り越えていく。
 インターンとして配属された一ノ瀬は、コピーの取り方や、取引先との電話の取り方などにひと苦労。やがて、上司の織田(遠藤憲一)からメモリースティックを渡されて、中にあるフォルダにある資料を分類してみろ、と言われる。囲碁で鍛えた情報処理能力で、一ノ瀬は論理的に資料を分類していくのだが、商社には商社の分類法があるので、独りよがりのことはやるな、と諭される。

主人公・一ノ瀬歩(中島裕翔・Hey!Say!JUMP)の上司、営業3課の二人の管理職、課長の織田勇仁(遠藤憲一)と主任の安芸公介(山内圭哉)。「こんな上司がいれば」という視聴者からの反応も

 外から見れば地味な仕事だが、何もわからない新入社員にとってはどれだけプレッシャーのかかる作業なのかが見ていて伝わってくる。彼らを見守る管理職の人が見ても、こういう経験は自分にもあったなぁと感じることだろう。
 その後、一ノ瀬は契約社員として入社しインターンの時と同じ営業三課に配属。一ノ瀬のほかに同期の大卒のエリート社員が女性も含めて何人かいるのだが、彼らを待ち受けていたのは、会社で働くことの厳しさだ。

「会社は耐えたものが勝つ。踏ん張れ。踏ん張ったその先に希望があるんだ」。社内抗争で飛ばされた課長の織田の言葉に、高卒・一年契約入社の一ノ瀬は励まされる

 インターンの時は高く評価された香月あかね(山本美月)は女だからと、雑用しかやらせてもらえずに上司からはセクハラを受ける。
 鉄鋼二課に配属された桐明真司(瀬戸康史)は、事務仕事しかやらせてもらえず、早くも転職を考えている。社内の情報に詳しい人見将吾(桐山照史・ジャニーズWEST)は、調子のいい上司に良いように使われて、自分の仕事は上司の手柄にされてしまう。
 一方、一ノ瀬は営業三課の織田課長と主任の安芸(山内圭哉)にかわいがられて、やがて一ノ瀬主導の企画が採用されて社内コンペに参加したりするが、その企画が原因で営業三課が窮地に陥ることになる。
 少しずつわかってくるのは、本作が新入社員の物語であると同時に、部下を育てる上司の物語だということだ。

このドラマは、新入社員の物語であると同時に、部下を育てる上司の物語でもある。上司は部下のためにあえてリスクの高い仕事に飛び込んでいこうとする

 織田はかつてはやり手の商社マンだったが、ある失敗の責任で、契約社員だった部下を自殺に追い込んでしまったことを悔やんでいた。
 出世コースから外れた織田は今まで、無理な仕事は避けてきた。しかし、一ノ瀬が来年以降、契約更新がないという話を知ると、部下のためにあえてリスクの高い仕事に飛び込んでいこうとする。
 本作のエンディングテーマはスピッツの「コメット」だが、ドラマを見ていて思い出すのは、同じスピッツの「空も飛べるはず」が主題歌だった地方の高校生たちを主人公にした青春ドラマ『白線流し』(フジテレビ系)だ。
 だから、『HOPE』を見ていると会社って学校みたいだなぁと思う。

 会社が学校だとすれば、一ノ瀬たち新入社員が生徒で、織田たち上司が先生だ。しかし中学や高校なら一人でも勉強して卒業もできるが、会社の場合はどれだけ能力が優秀でも組織の中での役割を果たすことができなければ、続けていくことができない。
 だが、未熟だからといって、簡単に切り捨てられるわけではない。最初から「甘えるな」と一ノ瀬に厳しく当たる織田だが、その一方で働き方のイロハを丁寧に教えていく。一之瀬も織田の期待に応えようとして次々と仕事を覚えて急激に成長していく。
 やがて、香月たちと上司とのわだかまりも、解消されていき、時に会社の理不尽な体制から彼らを守ろうともしてくれるようになる。

 いい上司は優れた教師でもあるのだと、見ていて思う。

 もちろん、ただでさえ忙しい中間管理職に、良き教師であれと言うのは簡単なことではない。「そこまで面倒見きれない」と自分なら思うだろう。だが一方で、一ノ瀬が成長していく姿を織田の視点で楽しんでいる自分もいる。

会社はわからないことだらけ。新入社員にとって最初は戸惑うことの連続だが、同期の仲間たちや上司に助けられて、一つ一つ壁を乗り越えていく

 本作は大手商社の話なので、大企業ほどには人が集まらずに採用が決まっても若い人がすぐにやめてしまう中小企業とでは、事情は違うのかもしれない。しかし、どんな会社でも、上司と部下という関係は存在する。
 できれば原典となる韓国ドラマと一緒に楽しんでほしい。本作が描く上司と部下の師弟関係は、国を超えて通用するものだと思う。

■『HOPE~期待ゼロの新入社員~』/フジテレビ系/日曜日21:00~21:54
明後日、9月18日(日)は感涙の最終回!「働くすべての人に贈る希望―踏ん張った先にあったもの」

原典となる韓国ドラマ『ミセン‐未生‐』を並行して観ると、上司と部下の師弟関係は、国を超えて通用するものだということがわかるはず

●関連リンク

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑩『マリア・シャラポワ自伝』

    ビジネスでは他人とつながったほうが良い結果が出る──この指針はあらゆるケースで全面適用に近づいているようにみえます。しかし本当にそうなのでしょうか? それでグローバルなサバイバル競争を勝ち残れるのでしょうか? ひとりきりになったときに、普段からどうすればよいのかーー今回おすすめしたいのは、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな『マリア・シャラポワ自伝』です。

    2019年10月15日

    コラム

  • 映画『記憶にございません!』ある日突然、自分が総理大臣をやることになったら?

    国民的映画監督の三谷幸喜が今回映画の題材に選んだのは総理大臣。しかも記憶を失った総理大臣! 着想のきっかけは「ごくごく普通の人間が、突然総理大臣になったらどうなる?」だったといいます。主人公を演じる中井貴一の悪戦苦闘は、若い頃の理想を見失ってしまったビジネスパーソンへのメッセージにもなっています。

    2019年9月30日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する④

    地方創生戦略の重点項目の一つ、デジタル活用共生社会「society5.0」。しかし、地方に行けば、情報リテラシーの格差が見られます。スマートフォンやSNSの普及により新たな人とのつながりやバーチャル・コミュニティが形成される一方、リアルな地域のつながりは希薄化、地域コミュニティ力は減退しています。今回は地域SNSを使い、新たな地域のつながり、コミュニティの活性に挑む、若き起業家の挑戦に着目、地域におけるデジタル活用の手法を追いました。

    2019年9月24日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.5 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第5回は会社を興した後、初めて社員を採用した時の気持ちが揺れ動いた日々を振り返ります。

    2019年9月19日

    コラム

  • アパレル業界を変えるIT戦略! 熊本発ベンチャー、シタテルが描く「服の未来」【Vol.3】

    アパレル業界は、メーカー、工場ともにテクノロジー化が遅れており、在庫問題や工場稼働の不均衡、手作業による工数の増加など様々なビジネス上の課題を抱えています。そんななか、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする衣服の小ロット生産サービス「sitateru」が注目を浴びています。優れた技術力を持つ縫製工場の「時間・技術・資源」のデータ管理を行い、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする、衣服の小ロット生産サービスです。「sitateru」を提供しているのは、熊本発ベンチャーのシタテル株式会社。アパレル業界の課題をテクノロジーでどう解決するのか? シタテルCTOの和泉信生さんによる連載、その最終回です。

    2019年9月9日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する③

    今、地域に足りないものは何か? カギを握るのは連携協働、事業を推進するプレイヤーの存在です。連携というと、かつては官民や産学、産学官が一般的でしたが、その実態は名ばかり。真の連携、共創のパートナーシップはどうあるべきか。水津陽子さんのシリーズ第3回は、行政、市民、企業の三者が連携、地域のストックを活用し、老化した都市を再生した先駆的取り組みに迫ります。

    2019年9月2日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.4 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第4回は起業と仲間の関係――「起業は一人でするべきか? それとも仲間と始めるべきか?」について考えます。

    2019年8月19日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑨『自然はそんなにヤワじゃない—誤解だらけの生態系』

    参院選が圧倒的勝負でもなかったことから、各陣営が都合のいい解釈で、勝利宣言や、健闘し宣言を続けています。どちらが勝とうが、惨事になっているはずだった。なのに比較的平静な選挙後。何だったのでしょう。今回は選挙後だから読んでおきたい本を何冊かピックアップします。

    2019年8月9日

    コラム