~社内コミュニケーションの秘訣~驚異の社員定着率78%はなぜできたのか?

2017年4月25日
時代を生き抜く強い企業とは何でしょう? すばらしい商品やサービスはもちろんですが、そこにいたる会社のなかでの社員どうしのコミュニケーションが、本当はいちばん大切なのかもしれません。仲間と笑い合える会社が、今元気です。「小さい」「予算がない」「時間が足りない」といった悪条件を、彼らはどんな発想で乗り越えていったのか? 明るく楽しい会社やリーダーの活動から解き明かしていきます。第四回は、飲食店や結婚式場を運営するサービス・飲食業「一家ダイニングプロジェクト」の武長太郎社長です。
◆第四回 武長太郎さん(40歳)◆
20歳で「こだわりもん一家」「屋台屋博多劇場」を主軸に経営。2012年にブライダル事業に参入、「The Place of Tokyo」をオープン。その後海外進出1店舗目としてハワイに「ラーメンBar GOLDEN PORK」をオープン。創業20年の節目を迎え今後上場を視野に入れている。

一家ダイニングプロジェクト 代表取締役社長 武長太郎さん

■高定着率を維持しながら売上も延ばすサービス業

 アパレル、飲食店、サービス業は、一般に社員の離職率が高いとされている。人材確保や維持が困難で、業務に支障をきたすこともある。かといってアルバイトや社員に無理を強いれば人が定着しないといった負のスパイラルに陥ってしまう。

 サービス業において、慢性的な人手不足は深刻で、社員にいかに長く働いてもらうかが大きな経営課題にもなっている。その中、飲食店や結婚式場を運営するサービス・飲食業でありながら、グループの離職率が20%弱(2015年4月~2017年2月)を保っているというにわかに信じがたい会社がある。

「こだわりもん一家」や「屋台屋博多劇場」など東京、千葉、埼玉に直営37店舗を展開する一家ダイニングプロジェクトだ。同社は、海外店舗(ラーメンBar:GOLDEN PORK)や、ブライダル事業(結婚式場:The Place of Tokyo)も展開し、2016年度の売上は43億円を越えており、2017年は年商54億円をめざし、上場を計画している。社員の高い定着率を誇りながら、ここ3年の売上は前年比で10%前後の成長も続けている。

~社内コミュニケーションの秘訣~驚異の社員定着率78%はなぜできたのか?

■人材選びのポイントは価値観の共有

 一家ダイニングプロジェクト 代表取締役社長 武長太郎氏は、社員の採用について心掛けているのは「経営理念や価値観を共有できるかどうか」だそうだ。「あらゆる人の幸せに関わる日本一の“おもてなし”集団」というグループミッションを理解して、実践できる人かどうかを重視するという。武長氏の言葉を借りれば「自分以外の人が喜んでくれることに幸せを感じる人」だ。そのため、同社の採用では専門的な知識、経験は最優先ではないという。

 武長氏がこのような考えを持つようになったのは、飲食店経営における挫折を経験してからだ。武長氏は若くして店を構え、20代で店舗を5、6店に増やすなどビジネスで成功を治めていた。そのころは、社員は数年したら独立するか、転職するものと思っており、むしろその方が人件費を抑えられてよいとさえ思っていたそうだ。

 しかし、ビジネスが傾き始めたとき、そのような認識ではいざというとき誰も本気で力になってくれないと気づき、社員は仲間であり家族のような存在であるべきではないかと意識を改めたという。社名の「一家」の由来でもある。

「仕事の中に、家族や仲間であることを意識するシーンを作ることを心掛けています。毎月、一家塾という勉強会や、各店舗を共有する場を設けています。年一回の一家祭りというイベントはアルバイトも含めて経営理念をより深く理解すると共に賞賛の場も設けます。社員の家族向けのイベントや、各店舗の状況やスタッフを取り上げる社内報を作ったり、とにかくコミュニケーションを大切にしています」

■評価はすぐに見える形で反映

 他にもさまざまな研修を実施しているが、接客マニュアルは最低限で、接客や仕事の仕方というより、どうすればお客様が喜んでくれるのか、どんな施策がうまくいったのか、といったことを話し合う。

 人事考査は毎月行い評価の反映もすぐに行われる。半年や1年ごとの評価だと、同じ業績を上げたとしても、時期的な差がでるし、評価される方も1年前のことより、小さくても今やったことに対する評価が出る方がわかりやすく、モチベーションアップにつながりやすいからだ。その評価方法も現場スタッフほど結果よりプロセス、取り組みを重視している。

「とにかく、すべての社員、アルバイトに対して仲間、家族としての関わりを考えて接するようにしています。そして、日本一のおもてなし集団という共通理念を認識して実践できるように、入社式や一家祭りなど多くの研修やイベントでも、上司や先輩が部下を喜ばせるような企画を考えています。会社や上司がやっていることは、必ず部下はマネします。会社が社員を喜ばせていないなら、社員はお客様を喜ばせたりおもてなしすることはできません」

結婚式風の入社式。武長社長がタキシードで新入社員を迎えるというユニークな演出。ほかに社員の奥様の誕生日にお米のプレゼントする企画もある

■幹部が実践することで広がる一家ダイニングの文化

 一家ダイニングプロジェクトでは、理念浸透、賞賛のイベントやコミュニケーションにより、ルールや規則に依存しない企業文化を浸透させることで、自然な定着率アップを実現しているといえる。例えば、同社は、武長社長がタキシードで新入社員を迎えるという結婚式風の入社式を行っている。新入社員の親御さんからの手紙を披露する演出も行われる。他にも社員の家族にも日頃の感謝を表すため、社員の奥様には誕生日にお米をプレゼントしたりしている。

 武長氏のような経営は、近代的な合理経営では否定されがちだが、家族的な結束で理念や文化が共有できれば、細かい管理基準や制度だけに従うのではなく自ら考えて社員は動いてくれるし、また社員も動きやすい。それが店の接客や料理の品質に反映され、業績が上がることで人材の定着にもつながる。

 すべての企業や経営者に、簡単に実践できることではないかもしれないが、「会社が社員に対して出来ていないことは、顧客に対しても出来ない」という指摘は重く受け止めるべきかもしれない。顧客サービスあるいは利益のために社員に無理を強いては、社員も会社も続かないということだ。
《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

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