事業承継の2017年問題:1  M&A成功のポイントはどこにある?

2017年4月18日
【記事のポイント】 ▼2017年は団塊の世代が70歳を迎え、事業承継問題の象徴的な年に ▼上場企業やグローバルビジネスで展開されるM&Aと中小企業が行うM&Aは別物である ▼相談は中小企業専門のコンサルティング会社や専門部署を持つ銀行などに ▼中小の事業承継でのM&Aは、会社の売り買いではなく『結婚』である
【事業承継の2017年問題:1】
日本M&Aセンター大山敬義氏に聞く

■2017年は事業承継のターニングポイント

日本M&Aセンター 常務取締役 総合企画本部長 大山敬義氏

 中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しており、2015年には年齢分布のピークは66歳にまで達している。経営者の高齢化が進む中、多くの中小企業が事業承継か会社消滅かの選択に迫られている。とくに家族経営の会社、一代社長の会社は、子どもに会社を継ぐ意思がない、誰に任せればいいのかわからない、任せられる人がいないといった問題を抱え込むことになる。

 「2017年は団塊の世代が70歳を迎え、事業承継問題の象徴的な年になる」と日本M&Aセンター 常務取締役 総合企画本部長 大山敬義氏はいう。企業の世代交代を考えたとき、多くの経営者は65歳くらいには経営からリタイヤしたいと思っているが、実際には中規模企業の平均で67歳。小規模事業者で70歳という統計がある。このような現状において、70歳を過ぎた経営者は、すでに経営から退くタイミングを逸しているといえる。男性の健康寿命は70歳と言われ、平均寿命で80歳だ。あと10年以内に後継者を見つけて会社や事業を引き継がせなければ会社を畳むしかない。残された時間は限られており、高齢になればなるほどさまざまなリスクも増えてくる。

 団塊の世代は、他の年齢層より2倍程度多いといわれているが、それだけ多くの中小企業経営者が直面する事業承継問題は、問題のレベル、人数の規模といった質と量の両面で深刻と言わざるを得ない。

経営者の引退年齢。年を追うごとに上昇傾向にあり、経営者の高齢化が進んでいる状況が見てとれる。小規模事業者の方が、中規模企業よりも経営者の引退年齢が高い(中小企業庁の公開資料より)

経営者年齢の現状。1995年では、経営者年齢のピークは47歳であるが、2000年代に推移するにつれ、年齢層のピークもシフトし、2015年では、ピークの年齢は66歳となっている(中小企業庁の公開資料より)

■資本と経営が一体化している中小企業のM&A

「ご存じのとおり、国内企業のほとんどが中小企業です。小規模事業者まで含めると90%を越えるでしょう。このまま経営者の高齢化が進み、事業承継がうまくいかなければ国内企業の半数近くが消滅することになります。雇用や経済に与える影響は無視できないレベルになります。とくに地方においては、新しい会社が増えない状況なので、企業は減る一方です。自治体にとっても深刻な問題です。」

 会社をいかに存続させるか。その解決策のひとつにM&Aがある。M&Aや企業買収というと、あまりいいイメージを抱かないかもしれないが、「上場企業やグローバルビジネスで展開されるM&Aと、中小企業が行うM&Aは別物」と大山氏はいう。

 いちばんのポイントは、中小企業の場合、資本と経営(者)が分離していない点だ。ほとんど中小企業の株主は経営者であり、その経営者が引退しようと思ったら、企業の経営権、オーナー権を誰かに移さなければならない。経営権の譲渡、つまりM&Aとなるわけで、大企業や投資家が行う戦略的なM&Aとは目的も意味も異なる。

 中小企業にとってのM&Aは、企業買収(売買)ではなく、会社を存続させ残される従業員や取引先に対する責任をまっとうするための手法として機能させることができる。

■譲渡先をどのように見つけるか

 では、後継者問題を抱える中小企業がM&Aを考えた場合、まずどのようにして譲り受け企業(譲渡先)を探せばいいのだろうか。一般には、会計事務所、取引銀行など金融機関、そして日本M&Aセンターのような中小企業専門のコンサルティング会社だ。

 ただし、会計事務所でM&Aのノウハウを持っているのは業界最大手クラスの事務所で、中小企業にはハードルが高いし、そもそも事業承継を目的としたM&Aができるとは限らない。取引銀行に、中小企業のM&Aの専門家や部署があれば、相談に乗ってくれるだろう。中小企業専門のコンサルティング会社なら、事業承継のためのM&Aに精通しており、買い手企業の情報も多く集まってくる。

 大山氏によれば、中小企業の事業譲渡は、売り手1に対して買い手は10くらいの割合だという。つまり、M&Aに対する偏見や先入観を持たなければ、中小企業の事業承継のスキームとしてかなり有効といえる。

 しかし、注意点もある。10:1で売り手市場だが、赤字企業は当然買い手を見つけるのが困難だ。よい相手がいないと、えり好みをしていたり、経営が厳しくなるまで頑張っていると売れる会社も売れなくなる。日本M&AセンターでもM&Aが成立するまでに2年前ほど(成約率80%)かかっているという。事業譲渡をしたい年が決まっているなら、そこから3年前には相手探しを始めてほしいと大山氏はいう。相談にきたときは、「売り時、つまり適齢期を過ぎた状態という会社が少なくない」(大山氏)そうだ。

M&A後の成約式が行われる部屋。日本M&Aセンターではいま、成約式に力を入れている。売り手と買い手がともに満足を得るM&Aの象徴的セレモニーといえるだろう

■よい相手を見つけるために経営状態の分析を行う

 また、中小企業の決算は税務会計が基準となっているため、決算の数字と経営実態が一致していないことが多い。上場企業は財務会計基準がしっかり決められているので、企業の経営状態や実力が数値化されている。少なくとも同じものさしでの評価が可能だ。中小企業は、決算を見ただけではその経営の状態や実力はわからない。したがって、買い手を探す前に自社の経営状態の分析、客観的なデータ作りが欠かせない。

 M&Aでは、会社の資産、負債、キャッシュフローなどを分析し、さらにブランド価値や営業状態といった数値化しにくい部分も加味して、譲渡の評価額を算出する。条件があえば、屋号や従業員もそのままにすることもできる。買い手の目的は、老舗ブランド、ポートフォリオの拡張、エリア展開、事業拡大などだ。

 日本M&Aセンターの事例でいえば、札幌の電気通信工事業の会社が釧路のビルメンテ・警備の会社(後継者不在)を業容拡大のためそのまま譲り受けたり、岡山県のメッキ会社が石川県のメッキ業を、愛知県の砂糖精製販売の会社が神奈川県の和菓子製造販売の会社を譲り受けたりしている。

 大山氏は中小企業が事業承継でM&Aを考える場合は「会社の売り買いではなく『結婚』のように考えたほうが成功する」という。相談は、投機的なM&Aではない知見を持った専門家やコンサルタントがいいだろう。儲けるための株券の売買ではなく、自分が娘のように育てた会社の引き受け先、事業を任せられるパートナーを探すようなもの。したがって、金額にこだわるより、相手がどれだけ自分の会社を理解しているか、どれだけ意識の共有ができるかを重視すべきだ。
《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

●関連リンク

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコトカネ」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

インタビュー新着記事

  • 地域に新しい共創を生み出す! 本業との一体型社会貢献を目指すリノベーション会社

    中小企業や小規模事業者にとって「地域」というのは非常に大切な場所です。そこで人と出会い、そこで仕事が生まれるからです。その最新形の「リビングラボ」という方法で成果をあげているリノベーション会社が横浜市にあります。「株式会社太陽住建」は、「本業との一体型社会貢献」を掲げ、地域社会にしっかりと根付くための施策を次々と打ち出してきました。

    2019年1月25日

    インタビュー

  • 教育と人材で「介護」の未来を変える! 前例なきビジネスモデルの革新者 

    超高齢社会を迎える日本。その中で「介護」の重要性は増すばかりですが、そこに携わる人材が不足していることは、皆さんもご存じの通りです。その危機的状況を打破するべく、介護業界の未来を担う人材の育成、引いては業界全体における労働環境の健全化に取り組んでいる会社があります。2008年創業の「株式会社ガネット」が運営する「日本総合福祉アカデミー」は、これまでにはない「分校」というビジネスモデルで急速にその展開数を拡大し、いま注目を集めています。

    2018年12月14日

    インタビュー

  • ローカルビジネスの活性化で日本を元気にする! 個店のマーケティングをまとめて解決するITの力

    「ローカルビジネス」という言葉をご存知でしょうか? 飲食店をはじめ地域で店舗ビジネスを行っている業態の総称です。これまで総体として考えてこなかった、ある意味では遅れていた領域だったかもしれません。そんななか、日本の経済を活性化させるためにはローカルビジネスが鍵を握る、という思いをもって起業したベンチャーがあります。いま話題のEATech(イーテック)で、誰でもがすぐに個店のマーケティングを行える仕組みを提供する株式会社CS-Cです。

    2018年12月7日

    インタビュー

  • 「自動車整備工場」の二代目女性社長という生き方

    町工場を思い描く時、脳裏に浮かぶ代表的な業種のひとつが自動車整備工場です。どこの地域にもあり、油まみれで働く工員の姿が“勤勉な日本の労働者”をイメージさせるのでしょう。そんな日本の高度経済成長を支えた会社を事業承継し、新たな時代に向けて活力を与えようとする女性社長がいます。横浜の町の一角で昭和39年に創業した「雨宮自動車工業株式会社」代表取締役の小宮里子さんです。

    2018年11月26日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【後編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。後編では代表取締役・杉山智行さんの現在のビジネスに至るストーリーをお送りします。

    2018年11月22日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【前編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。金余りの国・日本から資金を必要とする発展途上国へとお金の流れをつくる「インパクト投資」がいま、国内外で大きな注目を集めています。金融の新しい波とは何か? クラウドクレジット代表取締役の杉山智行さんに前後編の2回で話を聞きます。

    2018年11月20日

    インタビュー

  • 移住者への事業承継を積極推進! 七尾市の地域創生はここが違う

    地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。

    2018年10月26日

    インタビュー

  • 社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟

    いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。

    2018年10月15日

    インタビュー