事業承継の2017年問題:2 経営改善に取り組むのが先決

2017年5月23日
【記事のポイント】 ▼事業承継を考える前に、経営改善に取り組むことが先決 ▼全国にある「よろず支援拠点」などが経営相談に乗ってくれる ▼経営不振な会社の退場論は貸し倒れほかの負の連鎖をうみかねない
【事業承継の2017年問題:2】
板橋区立企業活性化センター長 中嶋修さんに聞く

 中小企業経営者の最大の悩みのひとつ「事業承継」。団塊世代が70歳を迎え引退する2017年はそれを象徴する年と言われている。ある調査によると、60歳以上の経営者の50%が廃業を予定しているという。つまりあと10年しないうちに日本の企業の1/4が廃業することになるのだ。日本の中小企業の継続性を考える時、本当に必要な対応策は何なのか? さらにその展望はどこにあるのか? 事業承継の問題を解決するには何が必要なのかを、中小企業再生の手本となる「板橋モデル」を確立し、現場の声に耳を傾け続けてきた、板橋区立企業活性化センター長の中嶋修さんに話を聞く。

板橋区立企業活性化センター センター長 中嶋修氏

■事業承継以前に考えるべきことがある

ーー中嶋さんは長年、経営不振にあえぐ中小企業の相談相手として、幾人もの経営者をみてきています。その立場から事業承継を取り巻く現在の状況をどうとらえていますか?

中嶋 板橋区立企業活性化センターは、経営難に陥った企業を救済するために発足したチームです。いまメディアでは「事業承継は経営者の高齢化のために行われていない」という論調ですが、現実は違います。事業承継以前の問題として、商売が立ち行かなくなっているんです。後継者がいない、経営者が高齢化している、借入金が多いなど、複数の問題点がありますが、要は経営の将来が見通せないんです。そんな状況におかれたなかで、事業承継がうまくいっていないんですね。

中小企業のうち30パーセントの会社は優良企業です。そして30パーセントはいつつぶれてもおかしくないような経営不振企業です。残りの40パーセントはどちらにも転ぶ可能性がある企業と言えます。資産超過で利益を出している会社はそんなに悩む必要はないので、事業承継ができるはずなんですよ。たとえばいまいる社員でもいいし、娘さんの旦那さんや親戚という選択肢もありますよね。問題は30パーセントの経営不振企業の事業承継をどうするかです。

経営者の引退年齢。年を追うごとに上昇傾向にあり、経営者の高齢化が進んでいる状況が見てとれる。小規模事業者の方が、中規模企業よりも経営者の引退年齢が高い(中小企業庁の公開資料より)

中小企業庁による「早期経営改善計画策定支援事業」 本格的な経営改善計画を作成するのではなく、専門家が計画書のアドバイスやサポートを行うなかで、事業者自らが早期に経営課題を発見でき改善していくことができる

ーー中嶋さんに相談にくるのはどんな悩みを抱える企業ですか?

中嶋 相談のうち結果的に60パーセントの企業は事業承継が絡んでいます。事業承継を終えた2代目3代目の悩み相談をいれると、8割以上ですね。先代社長のときは右肩上がりでよかったんだけど、いま時代はそんなに甘くない。事業承継前後の相談に乗るのも板橋区立企業活性化センターの役割のひとつです。このところ、事業承継に関して様々な支援機関ができていますが、経営内容が良い企業に偏る傾向があるのではと感じています。

ーー問題は事業承継なのか他にあるのか、相談する当事者自身がわかっていない?

中嶋 「相談が集まる場所」と私は言っているんですが、それがいま一番必要なんです。問題を限定すると訪ねづらくなる。われわれは前さばき業務としてヒアリングをして、課題をみつける。このなかに事業承継問題は必ずあるんですよ。そのなかで経営改善のための役割分担をしっかり見定めないといけないんです。活性化センターだけだと限界があるので、チームで経営改善作業を行います。

■事業承継の前に、軽い経営改善相談から始めるのも大切

ーー地方銀行など地域金融機関が、中小企業への融資をしないことが指摘されています。

中嶋 事業の中身ではなく、連帯保証人設定や担保を優先させるため、あまり積極的ではありません。金融庁は地域の金融機関に対して、過度の保証や担保に頼らず、事業性評価をしっかりと行い、本来の金融機関の目的である企業融資に力を入れるべきだとの指導を強くしています。そのせいもあってか、最近「板橋モデル」を勉強するために私のところに来る金融機関も増えています。

事業承継で相談を受けると、私は常々こう言うんです。「もし息子さんが会社を継ぐ場合は連帯保証人にするな」と。普通、若社長は連帯保証人になるものですが、やらなくていいよと。そうでもしないと事業承継に踏み出せない。

「事業承継のためには、軽い経営改善相談から始めるのも大切です」と語る中嶋氏。過去に数百社の経営改善支援に取り組み、とことんまで経営立て直しにつきあうその手法は「板橋モデル」として有名

ーーそれで金を貸す側は大丈夫なんですか?

中嶋 先代社長が保証人でいるから問題ないんです。私も強く金融機関にそのことを伝えます。これまでは自宅をかっちり担保にすることで金融機関はノーリスク、それ以外を信用保証協会に投げていました。信用保証協会に過度に頼りすぎていたんですね。しかしその信用保証協会も苦しくなってきた。ですから金融庁も「金融機関は直接関与せよ」「リスクをとりなさい」という姿勢を取り始めたというわけです。私は正論だと思っています。とは言っても、ダメな企業にはお金は貸せない。だから経営改善をしっかりやって計画を立てていい会社に立て直しましょう、と言い続けているのです。

いま経営不振な会社に対して退場論があるが、とんでもない。倒産したら、貸し倒れをはじめ、負の連鎖が発生します。税金もすごいことになります。消費税も厚生年金も支払っているわけですから、もし会社が破綻したら、税収が激減してしまいます。全国で困っている会社はおそらく4~50万社あります。そこを助けていかないと皆に波及します。地域貢献という意味でもそうです。もし取引先に経営不振会社を見つけたら、積極的に経営改善をアドバイスしたり、国が全国に設置する経営相談所「よろず支援拠点」などを勧めてほしいですね。

いま、70パーセントの企業が法人税を払えていません。「生産性向上など具体的に目標を設定して、100万円でもいいから税金を払ってもらえるようにしましょう」と中小企業庁にも説明しているんです。全国の支援機関が協力しあう体制構築とレベルアップも大切だとも言っています。

事業承継のためには、軽い経営改善相談から始めるのも大切です。今回、中小企業庁の施策で「早期経営改善計画策定支援事業」が始まりました。企業と経営者の経営課題抽出と改善策を作り上げていく支援です。その中に事業承継問題があれば関係機関に紹介したりするネットワークの構築が事業承継問題の解決につながるのだと思います。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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