漫画『GIANT KILLING』に中小企業の組織マネジメントを見る

2016年6月16日
最近、漫画雑誌「モーニング」(講談社)が発売される木曜日が待ち遠しい。年棒を切り口にしてビジネスマンとしての野球選手の人生設計をシビアかつコミカルに描いている『グラゼニ~東京ドーム編~』や、架空の私立中学にある投資部を舞台にお金や不動産をめぐる経済の仕組みについてわかりやすく絵解きする『インベスターZ』といった「モーニング」の連載で描かれているお金や仕事にまつわる物語は、とても身近なものとして迫ってくるのだ。
 最近、漫画雑誌「モーニング」(講談社)が発売される木曜日が待ち遠しい。

 30代を超えると青年漫画誌で描かれている恋や夢に思い悩む青少年の葛藤は、年々ピンとこなくなってきているが、年棒を切り口にしてビジネスマンとしての野球選手の人生設計をシビアかつコミカルに描いている『グラゼニ~東京ドーム編~』(原作:森高夕次、漫画:アダチケイジ)や、架空の私立中学にある投資部を舞台にお金や不動産をめぐる経済の仕組みについてわかりやすく絵解きする『インベスターZ』(作:三田紀房)といった「モーニング」の連載で描かれているお金や仕事にまつわる物語は、とても身近なものとして迫ってくるのだ。
 中でも中小企業で働く経営者・中間管理職の組織マネジメントについて、とても参考になるのがサッカー漫画『GIANT KILLING』(作:ツジトモ、原案:綱本将也)だ。

 本作はJリーグのクラブチーム・ETU(イースト・トーキョー・ユナイテッド)の監督・達海猛を主人公に、プロサッカーの世界を描いた漫画で、現在40巻まで刊行されている。

中小企業の組織マネジメントの物語としても読める『GIANT KILLING』。サッカーを通して描かれる「組織における個人の有り方」は、違う業種の人間にも共感できるものがあるはずだ(「モーニング」(講談社) 2016年4/28号より)

 35歳の達海は元々、10年前にETUを引っ張っていた天才選手だったが、ある日、イングランドのプロチームに移籍するため海外に旅立ってしまう。達海がいなくなったETUは人気も実力も急落し、今では毎年残留争いを続ける弱小クラブへと転落。一方の達海も足を故障してチームを解雇され、その後行方知れずになっていた。そんな達海がETUの監督として復帰するところから物語はスタートする。
 ETUにとって達海は裏切り者。そのためキャプテンの村越茂幸を筆頭とする選手たちは達海のやり方に当初は反発する。しかし、一見デタラメともいえる達海の指導を受けるうちに選手たちは自分の弱点に気づき、一人、また一人と自分の殻を破って成長していく。
 見どころは何といっても試合場面。達海が敵チームのデータを研究し尽くした上で立てる大胆な作戦と、その作戦についていくことで成長する選手たちの活躍。そして、どのタイミングで選手交代をするのかといった監督同士の駆け引きに引き込まれる。
 同時に本作はすぐれた群像劇でもある。

 監督の達海とキャプテンの村越や達海の再来と言われるFWの椿大介といった選手たちはもちろんのこと。他にも10年前にETUのGM(ゼネラル・マネージャー)をやっていたが、弱小化したチームの責任をとって、現在は流浪のスカウトマンをやっている笠野。かつて達海にあこがれていた広報の永田有里、ETUへの出資に疑念を持っているスポンサー会社の副社長・浅倉秀和。フリー・ジャーナリストの藤澤桂。そして、ETUサポーター集団・スカルズのリーダー羽田政志と、達海の復帰とともに戻ってきた田沼吾郎たち旧サポーターチームとの対立と和解。もちろん他のチームの監督と選手の人間模様も描かれており、彼らの姿を追っていくだけで、地域に根差した小さなプロサッカーチームがどのように運営されているのかは頭に入ってくる。
 フロント、監督、選手、サポーター。それぞれの力を結集して戦うのがいいサッカークラブだ、と達海は繰り返し語るのだが、観客も含めたプロサッカーに関わる人々を細やかに描写する本作のスタンスにそれは現れている。

 その一方で、チームのために選手が自分自身を犠牲にしようとする態度に対しては、達海は繰り返し苦言を呈す。特にFWに対しては、それが徹底されており、土壇場では自分でゴールを決めるエゴイストであれと言う。

 「チームのために」というメンタリティを達海が良しとしないのは、かつて達海自身がETUのために選手生命を犠牲にした過去があるからだ。
 10年前、ETUは達海を中心としたチームだったが、いつしか選手もフロントも達海に依存するチームとなり行き詰っていた。当時、GMだった笠野は、達海に依存するチームの悪循環を断ち切るために、達海を海外に行かせたのだ。

 チームの人間が同じ方向を見ていることは大事だが、チームのために個人が犠牲になることはあってはならない。時にチームのことなどお構いなしに自分のエゴを貫くくらい強固な意思がないと点は取れない。

 サッカーを通して描かれる、「組織における個人のあり方」は、違う業種の人間にも共感できるものがあるのではなかろうか。
 「チームのために」ということを言い訳にして、向上心を失っていた自分に気づいた村越はキャプテンの座を辞退し、1サッカー選手としてワールドカップの日本代表を改めて目指そうと誓う。選手としての自分を高めることこそが、チームのためになると気付くのだ。

 タイトルの「GIANT KILLING」(ジャイアントキリング)とは「番狂わせ」「大物食い」といった意味で、弱小チームが強豪チームに勝つ時に使われるスポーツ用語。

 自分に自信のない椿に「お前ん中のジャイアント・キリングを起こせ」と達海は言うが、「番狂わせ」という奇跡を起こすために必要なのが、一人の天才ではなく様々な人々の地道な積み重ねであることを、本作は教えてくれる。

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
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