~社内コミュニケーションの秘訣~すべてはカンナがけから始まった/アキュラホーム

2017年7月18日
時代を生き抜く強い企業とは何でしょう? すばらしい商品やサービスはもちろんですが、そこにいたる会社のなかでの社員どうしのコミュニケーションが、本当はいちばん大切なのかもしれません。仲間と笑い合える会社が、今元気です。「小さい」「予算がない」「時間が足りない」といった悪条件を、彼らはどんな発想で乗り越えていったのか? 明るく楽しい会社やリーダーの活動から解き明かしていきます。第六回は、自由設計で建てる木造注文にこだわりを持つ住宅建設業「株式会社アキュラホーム」の宮沢俊哉社長について、総務人事部人事課長 池沢篤人さん、総務人事部人事課担当課長 篠原亜梨沙さんにお話を聞きました。
◆第六回 宮沢俊哉さん(57歳)◆
三代続いた大工の家系出身。1978年に修行先から独立し、1986年に注文建築専門会社を立ち上げた。1991年、現在のアキュラホームを設立。キッズデザイン賞、グッドデザイン賞等受賞多数。2016年には第1回ホワイト企業アワードで「CSR部門賞」「女性活躍部門賞」をダブル受賞するなど、“働き方改革”にも力を注いでいる。

入社式で宮沢社長自ら手ほどきを受ける新入社員たち。普段接することのないカンナがけを通して、新入社員達は木の香りや手触り、自分たちの生業に関わる根幹を体験し、学生から社会人へ意識のスイッチを切り替える

■生業の根幹と企業ヴィジョンを体感し、思い起こさせる「カンナがけ

 大工仕事の中でも、カンナがけというのは最も繊細で、修行を要する技術のひとつだ。まず、カンナがけのための道具を作り、用意する技術が難しい。カンナの刃を研ぎ、台や刃の出方を調整するなど、カンナがけそのものよりも準備の方が大切だと言われ、大工仕事の重要な習得技術のひとつだ。この「カンナがけ」を、新入社員の入社イベントで社長が実演し注目を集める企業がある。木造注文住宅建築にこだわるアキュラホームだ。

 アキュラホームは、宮沢社長が創業した木造注文住宅を手がける企業で、今年で創業39年を迎える。一代で1000人規模へ成長した企業だ。しかし元を辿れば、宮沢社長は三代続いた大工の家系。幼少期の遊び場は父親の作業場であり、身近にあった道具で残った材料でものを作るのが大好きな少年であったという。大工に憧れ、自然と大工になる道を選んだ宮沢社長は、中学を卒業後すぐに大工の修行に出た経歴を持つ。

「宮沢は、社員に『“匠”になって欲しい』という思いを持っているんですね。物作りの匠という意味だけではありません。例えば『広報の匠』『人事の匠』というように、『それぞれの立場、それぞれの分野でプロフェッショナルであれ』という願いなんです。その象徴としてのカンナがけでもあります」(池沢)

 入社式では社長自らによる実演に加え、社長から手ほどきを受けて新入社員たちも手を動かすという。普段接することのないカンナがけを通して、新入社員達は木の香りや手触り、自分たちの生業に関わる根幹を体験し、学生から社会人へ意識のスイッチを切り替える。既に10年程続いているこの入社イベントは、社長の目指すヴィジョンを、新鮮な驚きの中に五感で体験できる、印象深い機会と言えそうだ。

株式会社アキュラホーム 総務人事部人事課長 池沢篤人さんと同担当課長 篠原亜梨沙さん。アキュラホームは2016年には第1回ホワイト企業アワードで「CSR部門賞」「女性活躍部門賞」をダブル受賞するなど、“働き方改革”にも力を注いでいる

■社員の幸せが、お客様を幸せにする家づくりに繋がる

 創業38年のアキュラホームだが、会社が右肩上がりで業績を大きく上げてきたのはこの十数年だという。会社を大きくしてお客様を喜ばせることに邁進していた20数年。しかし「自分は何を大事にしてきたのか」とある時立ち止まり、「ものづくり」「品質」という価値に立ち返って考えるきっかけとなったのが「元大工」「カンナがけ」というキーワードだった。

 そして「社員を幸せにしないと、お客様を幸せに出来ない」と気づいたのも、この頃だったという。「お客様を大事にする」「豊かな暮らしを提案しよう」というヴィジョンを掲げ、自らが猛烈に働いてきた社長が、今後更に多くのお客様を喜ばせようとしたとき、社長のヴィジョンを実現してくれる「社員の幸せ」を支えなければならないという意識の変化があった。

「『お客様の住宅を作っている会社の社員が、毎日家に寝るだけの為に帰るという生活をしていたら、どうしてお客様に『このキッチンはこれがいいですよ』と提案できる?』ということは、社長がよく問いかけていることの一つ。社員の幸せな生活が実践できていることが、お客様への適切な提案にも繋がります」(池沢)

 このため、アキュラホームでは様々な制度が充実する方向へ舵が切られることになった。2017年には、一般財団法人日本次世代企業普及機構が主催する「ホワイト企業アワード」で、アキュラホームはホワイト制度部門大賞を受賞しており、社員の働きやすさを追求した多面的な各種制度が大きな評価を受けている。

「ノー残業デーを推進し始めたのは5年くらい前。社長自ら率先して『ノー残業デーだよ!』と社員に声をかけてまわったりし始めました。長期休暇など象徴的な制度の設定はありますが、消化率などの目標値は、実は無いんです。日々の仕事の仕方を整えていかないと、『働く』『休む』というバランスの多様性は確保できませんので、そこを愚直に改善しようとしています」(池沢)

■出産や子育てという「生活」経験を、会社で活かす

 アキュラホームは女性にとって働きやすい企業としても注目を浴びている。2016年には前述の「ホワイト企業アワード」の女性活躍部門で受賞しており、社員の出産を後押しする「幸せ一時金制度」をはじめ、正社員でありながら勤務時間を短縮できる「育児短時間勤務制」や、子供が小学校に就学する月までパートナー社員としてつとめ、後に正社員へ復帰できる「育児コース転換制度」など、出産後のサポート体制も充実していることが評価の対象だ。

「わたしは以前、管理職の辞令交付があった時『出産したいから、管理職にはなりたくない』と固持したことがあるんです。その時社長が『出産をして、子供を育てて、そういう「生活」を会社に活かすために、戻ってきて活躍してほしい』と言ってくださって。それがすごく嬉しかったですね。産休復帰直前にお会いした時も『待ってるよ!』と直接声をかけてくださって、よし、頑張ろうと思えました」(篠原)

 たとえ制度が整っていても、その制度を「利用」出来るかどうかは、会社の空気に依るところが大きいのは言うまでも無い。社長自らが率先して社員の「生活」や「幸せ」に対して価値を表明し方向性を示すことで、会社全体の意思疎通やコミュニケーションが闊達化され、進んで行きやすくなっているという実感を感じていると、池沢さんは語ってくれた。

■長期休暇取得率100%を目指すことが、会社の成長に繋がる

 住宅メーカーや建設業は長時間労働のイメージがあるかもしれない。しかしアキュラホームでは去年、『長期休暇推進制度』を実施することに決めた。基本的に土日が休みなので、平日を5日休めば連続9日間の休暇が取れる。しかし今までは業務上の気兼ねや遠慮で、そのような休暇の取り方をしていた人はほぼ皆無だった。『やろうぜ』と会社をあげて推進することにしたが、「そんなこと出来るわけがない」という人もいたという。

「私も最初は『本当に取れるのかな』と疑心暗鬼な部分もあったんですけど、最終的には、7割弱の人が長期休暇を取ることが出来て、皆すごく喜んでいます。職場としても、休む為には段取りや業務フォローが必要になり、それが業務のことを考えるきっかけにもなったんです。『作業時間を減らしなさい!』と頭ごなしに言うより、ずっとプラスの感覚で取り組めて、とても良かったと思います」(池沢)

 「今年は100%の取得が目標です!」とあえて「目標値」を掲げる池沢さんの、満面の笑みが印象的だ。会社がこれからも成長を続けて行く為には、従業員の成長や幸せ無くしてはあり得ない。皆が幸せになる制度と、そこから生まれる円滑なコミュニケーションの活性化が、会社と従業員の相乗効果的な成長を促す秘訣となりそうだ。
《かのうよしこ/ライター》

●関連リンク

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコトカネ」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

インタビュー新着記事

  • 教育と人材で「介護」の未来を変える! 前例なきビジネスモデルの革新者 

    超高齢社会を迎える日本。その中で「介護」の重要性は増すばかりですが、そこに携わる人材が不足していることは、皆さんもご存じの通りです。その危機的状況を打破するべく、介護業界の未来を担う人材の育成、引いては業界全体における労働環境の健全化に取り組んでいる会社があります。2008年創業の「株式会社ガネット」が運営する「日本総合福祉アカデミー」は、これまでにはない「分校」というビジネスモデルで急速にその展開数を拡大し、いま注目を集めています。

    2018年12月14日

    インタビュー

  • ローカルビジネスの活性化で日本を元気にする! 個店のマーケティングをまとめて解決するITの力

    「ローカルビジネス」という言葉をご存知でしょうか? 飲食店をはじめ地域で店舗ビジネスを行っている業態の総称です。これまで総体として考えてこなかった、ある意味では遅れていた領域だったかもしれません。そんななか、日本の経済を活性化させるためにはローカルビジネスが鍵を握る、という思いをもって起業したベンチャーがあります。いま話題のEATech(イーテック)で、誰でもがすぐに個店のマーケティングを行える仕組みを提供する株式会社CS-Cです。

    2018年12月7日

    インタビュー

  • 「自動車整備工場」の二代目女性社長という生き方

    町工場を思い描く時、脳裏に浮かぶ代表的な業種のひとつが自動車整備工場です。どこの地域にもあり、油まみれで働く工員の姿が“勤勉な日本の労働者”をイメージさせるのでしょう。そんな日本の高度経済成長を支えた会社を事業承継し、新たな時代に向けて活力を与えようとする女性社長がいます。横浜の町の一角で昭和39年に創業した「雨宮自動車工業株式会社」代表取締役の小宮里子さんです。

    2018年11月26日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【後編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。後編では代表取締役・杉山智行さんの現在のビジネスに至るストーリーをお送りします。

    2018年11月22日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【前編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。金余りの国・日本から資金を必要とする発展途上国へとお金の流れをつくる「インパクト投資」がいま、国内外で大きな注目を集めています。金融の新しい波とは何か? クラウドクレジット代表取締役の杉山智行さんに前後編の2回で話を聞きます。

    2018年11月20日

    インタビュー

  • 移住者への事業承継を積極推進! 七尾市の地域創生はここが違う

    地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。

    2018年10月26日

    インタビュー

  • 社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟

    いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。

    2018年10月15日

    インタビュー

  • 「水素水」をもっと日本の企業、事業所へ!〜 ウォーターライフケアという新発想

    昨年、東京都健康長寿医療センター研究所がガイドライン「健康長寿のための12か条」を発表しました。そのエビエンスブックでとりあげられたもののひとつが「水素水」です。病気の予防領域において水素の有効性が認められつつあることで、今、その存在に改めて光が当たっています。今回、紹介するのは、水素を安く簡単に提供する装置、水素水サーバーを開発・販売する「株式会社 ドクターズ・マン」です。

    2018年10月9日

    インタビュー