【VRと中小企業:3】不動産の成約率を変えたVRプレゼン力

2016年7月21日
【記事のポイント】 ▼安価なサービスの登場で、導入の垣根が下がる ▼現地を見ないままでの成約達成など、手間とコストが大きく削減 ▼大手と対抗できるプレゼンの武器として使える

■VRによる主体的体験が購買意欲を加速させる

同社HPにある「ZENKEI 360」のデモ映像。建物内をウォークスルーなどが体感できる

 16年はいわゆる「VR(バーチャル・リアリティ)元年」と言われている。15年からさまざまなVRデバイスが登場しているが、今年10月には“大本命”の呼び声が高い「PlayStation VR」が発売を予定。これに合わせて数々のゲームコンテンツも市場に投入される。デバイスの拡充、コンテンツの充実を両輪として、今後VRがより注目を集めるのは間違いない。
 このような状況下で、いち早くパノラマVRアプリや関連サービスの開発、販売を進めてきたのが、石川県金沢市に本社をおく全景だ。6月にはウェブブラウザだけで本格的なVRプレイヤーが作成できるサービス「ZENKEI 360」を発売。これは、リコーの全天球カメラ『THETA』を使い、不動産物件の内見をVRで見せるシステムで、中小企業でも導入可能な比較的安価なプランも用意されている。

 全景の荒井芳仁社長によると、「ZENKEI 360」は月額5000円(別途初期費用あり)からという価格帯に加え、誰でも手軽に操作できることが大きな特徴だという。

全景の荒井芳仁社長

「内見をバーチャルで見せるためには、従来は非常に高価なシステムが必要でした。しかし、『ZENKEI 360』ではパノラマVRコンテンツの作成から公開までを、非常に安価に提供できます。撮影した画像はWebブラウザへのアップロード時に自動でパノラマ変換されるため、高度なウェブ技術のない人でも操作はかんたんです」

 同社のホームページでは、実際に「ZENKEI 360」を使った、金沢市内にある住居の“内見”が公開されている。レンガ調の外装、木目調をふんだんに活かした内装、さらには2階まで、パノラマ映像の中を自由に歩き回れる。その上で、よりリアリティを増すための仕掛けとなっているのが、住居内を移動するために併載された見取り図だ。

同社のホームページでは通常写真とVRとの比較ができる

「パノラマの映像をただ見せても、人間の脳は『空間感』が実感できません。『ZENKEI 360』では見取り図を併載することで、どこの方角を見ているかを認知させています。これによって脳に並行処理させ、空間感を出しているのです」

 つまり、室内を撮影した写真を見るのが“見せられている”という体験なのに対して、VRによる内見は知りたい場所を“自分で見た”という体験になる。これが、「新しいマーケティングプロセスの変化をもたらしているのです」と荒井氏は強調する。

6月に行われた「3D&バーチャルリアリティ展」にも出展。不動産関連のVRシステムを展示した

 同社では不動産業界向けとして、以前からバーチャル展示場システム「Zenkei Curator」を提供しているが、実際にVRを体験した顧客のほうが購入率は高いという。導入した事業者からは、「事前に物件を見ていてもらったおかげで1回の来店で済むことが多くなった」、「現地案内を全くしないで契約もある」など、成約率や業務の効率化に貢献したとの声も挙げられているようだ。

■大手と対抗する“プレゼン力”強化ツールとしてのVR

 VRといえばゲームなどのエンターテイメント分野に注目が集まっており、コンテンツ制作に時間とコストがかかると思われがちだ。しかし、近年では全景の「ZENKEI 360」など、VRコンテンツ制作の敷居を下げるソリューションが次々と登場している。

 不動産事業では小回りの利く地域事業者が大手事業者としのぎを削っている。そこで必要になるのが、大手に対抗するための“プレゼン力”だ。それは何も不動産業に限ったことではない。自動車や旅行などのセールスの場は、紙や電子によるパンフレットが使われているが、もしそれをVRに置き換えたなら? VRの応用に注目すべき業界は、エンターテイメント以外にもまだまだありそうだ。
《関口賢/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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