地方創生のカギをにぎる「プロ人材マッチング」/第2回 ITメディアの理解が人材獲得につながる

2018年1月24日
★地方創生のカギをにぎる「プロ人材マッチング」 第2回 「ITメディアの理解が人材獲得につながる」
 働き方改革や兼業・副業が2018年のキーワードとなるなか、首都圏の大企業で管理職や専門職を経験した、いわゆる「プロフェッショナル人材」を地方の中小企業が採用する動きが注目を集めている。東京への一極集中や少子高齢化による地方の人口減少や、地方産業の衰退、雇用の減少などの課題が山積みとなっている中、いくつかの自治体ではプロ人材の採用によって地域の活性化に成功しており、地方創生の観点では見逃せないムーブメントと言えるだろう。
 人材採用にあたってはネットでのマッチングが飛躍的に伸びており、面接等のための遠隔地への移動といった障害も過去の話になりそうだ。
 今回の特集で話を聞くのは、地方企業と首都圏のプロ人材とのネットでのマッチングを手がける株式会社ビズリーチの加瀬澤良年さん。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」や求人検索エンジン「スタンバイ」を活用して各地域の採用支援を行い、また、内閣府のプロフェッショナル人材戦略拠点事業において約40道府県のプロ人材拠点のサポートを行う中で、プロ人材と地方創生の関係を見つめてきた。人材の流動性が日本でもようやく高まりつつあるいま、何が必要なのかを3回にわたって紹介したい。その第2回は、パソコンやスマートフォンなどのネットメディアを理解することが人材マッチングの成功へとつながっている現状などについて、語ってもらった。

株式会社ビズリーチ 地方創生支援室 地方創生プロデューサー 加瀬澤 良年氏

■地域によって人材採用の格差は生まれているのか?

――地方の中小企業経営者は人材会社といった“外部”から社員を採用することに抵抗はあるのでしょうか。

経験がない場合は抵抗がある方が多いと思います。その理由のひとつは過去に主体的に中途採用を行なったことがない点にあります。地方で採用する主な方法は2つあって、ひとつが地元の学校の卒業生を対象にした新卒採用、もうひとつがハローワークでの求人です。つまりプロ人材を中途採用した経験がほとんどない企業が多いのです。

――「プロ人材」と聞いて経営者はどんな反応をされるのでしょうか。

そもそも「経営幹部を中途採用する」という発想を持っていないケースが多いです。「そうは言ってもどうせ年収や転居の面が課題になり採用できないだろう」と思っている方もいらっしゃいますが、「そんな方法もあるのですか?」「中途で部長級を採用できるのですか?」とおっしゃることもしばしばで、中途採用の知識が不足している傾向があります。

もちろんすべてではありませんが、地方の中小企業では社内でオーナー社長に採用面でアドバイスできる人はあまり多くいませんし、経営者からしてみると「人材を確保するなら人事部や外部に任せればよい」と考え、「人材採用=経営課題である」と自分事として考えられていないケースがほとんどです。

人材採用を経営課題として考えられないと、仮にプロ人材が応募してきたとしても、経営者が熱量をもって仕事のやりがいを説明することができず、能動的に口説けないため、残念な結果になってしまいがちです。そして、初めて取り組んだ中途採用が失敗に終わると、中途採用へのアレルギーとなってあきらめてしまう企業もあります。

こうなってしまうと、ひとつの方法ですべてが解決できるわけではなく、少しずつ前に進めていくしかありません。歩みを進める例として、私たちは今、ある県と一緒に中途採用に成功した企業の事例本を作っています。地域の企業は、隣の会社が試みて成功したことは積極的に自社にも取り入れる傾向が強いと感じているので、お役に立てるのではないかと考えています。

もちろん、地方の中小企業でも能動的に、経営者自らが採用に取り組んでいる企業はあります。我々の支援先企業様でも、首都圏の企業と比べて立地面や条件面でかなり不利であっても、数十人もプロ人材を採用できた企業があります。しかしながら絶対数はまだ多くはありません。今後も、まだ中途採用に取り組んだことのない企業に対してモデルケースを示し、私たちが伴走しながら、成功するまであきらめないよう粘り強い支援をしていく必要があります。

――人材採用ではネットの活用が進んでいますが、地方の経営者はIT関連にどれくらい意識的なのでしょうか。

昔は求人というと雑誌などの紙媒体が主流でしたが、パソコンが登場し、IT化が進み、スマートフォンが普及するようになって、求人もモバイルで見られる時代になっています。しかし地方の経営者のなかにはスマホをいまだにかつてのような携帯電話だと思っている方もまだ多いようで、スマホが人材採用の主流になっていることを知らない方もいらっしゃいます。

この状況を象徴する事例があります。ある地方の工場の隣にお弁当屋さんがありました。そのお弁当屋さんが撤退してしまったため、そこで働いていた若い従業員が隣の工場で働きたいと考え、スマートフォンでその工場の名前を検索しました。しかしいっこうに会社名は出てきません。募集していないわけはないだろうと探し続けて3ヶ月が経ちました。同時期に、私たちがその工場の採用支援に始めたところ、なんとその工場の社員通用口に社員募集のポスターが貼ってあったのです……。早速、その求人をスマートフォンに最適化した状態でウェブ上にアップしたところ、さきほどの方がその求人を探すことができ、応募し、2週間で採用にいたりました。もし、それ以前から恒常的にインターネットで求人情報を掲載し、拡散していればその工場も採用で苦労しなかったかもしれません。採用する企業はいまだに紙で求人を出しており、一方、応募する求職者はスマホへとシフトしている。これは極端な事例ですが、現実に起こっていることで、これほどインターネットへの対応が遅れているケースもあるのです。

――ICT(インターネットによるコミュニケーション技術)への意識が人材獲得につながっているとも言えますね。

遅れているケースが多いのは事実ですが、まだ首都圏の企業に十分に追いつけると思いますし、首都圏を超える可能性もあります。そのためには地域のキーマンを見つける必要があります。

人材採用で進むネットメディアの活用。求人募集はいま、スマートフォンが主流になっている。良い人材と出会うためには、ICT(パソコンやスマホなどのITによるコミュニケーション)を理解することが重要だ

■業種による人材採用の格差はほとんどない

――一方で業種による格差というのはあるのでしょうか。

どちらかと言うと地域格差の方が大きくて、業種格差はさほどないと思います。ただ社会問題にもなっている業種、例えば介護や看護、一次産業などの場合、そもそも従事者が少ないため人手不足が顕著ですが、製造業やサービス業に関しては地域格差の方が大きいと思います。

なぜ地域格差が起きるのかというと、プロ人材は「どこの地域に行きたい」というより「自分のライフスタイルに合ったところでやりがいを見いだせれば、地域にこだわらない」という方が多いためです。地域一丸となって、その地域の魅力をPRできていて、これからなにか起こりそうという楽しそうな空気を醸成できている地域は魅力的に映ると思います。このような地域には、リーダーやPRできる人、魅力的な地域づくりをプロデュースする企画者などのキーマンが必ずいて、そのキーマンを中心に、魅力的な雰囲気を作り出しています。宮崎県日南市はその成功例と言えるでしょう。

その空気を実際に感じたければ、ぜひ日南市油津商店街に行ってみることをお勧めします。私自身も、今でも満天の星空のもと、夜通し地域のみなさんと油津の未来について語り合った夜の雰囲気が忘れられません。

日南市で開催された「オトナのインターンシップ」。市内の中小企業経営者の右腕になるような人材を採用したいという考えで始まった。インターンシップに参加する人の家族にも3泊4日の期間で来てもらい、「もし日南市に移住したら」をイメージできる内容になっている

――例えばPR力のない地域との作業では、加瀬澤さんは何から手をつけるのですか。 「まずプロジェクトチームを組みましょう」という話から始めます。チームと言っても部活の延長のような雰囲気で大丈夫です。決して強制力は働かせず、地域づくりを楽しめるチームを作ります。新しい価値観も取り入れなければならないので40代くらいまでの若い方の参加は必須です。そして、柔軟に地域の未来についてチームで語り合います。初めはお酒を飲みながらなど、軽い感覚で語り合うのがベストで、数回繰り返すうちにPRのポイントが見えてきます。

ここで大切なのは、プライドとセールスポイントを勘違いしないことです。例えば「地域のこの伝統だけはなくせない!」と言うと、プライドになって、保守的、閉塞的な印象になってしまいます。しかし「地域の誇りの伝統をみんなに知ってほしい!」と言うと、とてもポジティブになります。言い方一つなのですが、この違いは大きいですね。また、地域外の人たちの意見も必要です。外から見たときのその地域の良さと、中から見たときのその地域の良さは違うことが多い。PR活動によって何を得たいかにもよりますが、外部の第三者意見は取り入れた方がよいでしょう。

うまくいかない地域は排他的な考え方をしてしまうケースが多い印象があります。「東京もんはこれだからダメだ」と否定的になると人を外から招き入れることはできません。一方、「東京の人と友だちになるために、彼らが住みやすいように自分たちが工夫しよう」と自らを変えていく方が多い、あるいはそういうキーマンがいる地域は成功する可能性が高いと思います。

■企業と自治体のハブになるキーマンを探せ!

――「キーマン」という言葉が何度となく出てきました。

キーマンに共通して言えるのが「この県、この共同体、この商店街のために、私たちはこれをやらなくてはいけないのだ」という使命感を持っていること、ブルドーザーのような推進力を持っていること、人を巻き込むことが非常に上手な方、そして心から地域づくりを楽しんでいる方ですね。私たちが関わったところでは、日南市の油津商店街を約3年でシャッター商店街から再生させた木藤亮太さんと田鹿倫基さんはキーマンの象徴だと思います。

現在、自治体は約1700ありますが、キーマンを発見できた自治体はまだ多くはありません。発見できていないのは私たちの努力不足もありますが、絶対数は多くないと思います。そしてそのキーマンがその地域に居続けるかというとそれも何とも言えません。その意志を継ぐ人を育てないとムーブメントはすぐに去ってしまいます。

まち・ひと・しごと創生本部のなかに「地方創生人材支援制度」という制度があります。これは、地方創生に積極的に取り組む市町村に対し、意欲と能力のある国家公務員や大学研究者、民間人材を、市町村長の補佐役として派遣する制度です。この制度を利用し、非常にうまくいった事例があります。鹿児島県長島町です。2015年に総務省から長島町の副町長に就任した井上貴至副町長がキーマンとなり、さまざまな施策を展開し、町が盛り上がっています。ただ、この制度を使って副町長を務められるのは原則2年のため、井上さんは跡継ぎを育てることに非常に注力され、井上さんの任期が終了した今でも、長島町では次々に新しい取り組みが展開されています。

「地方創生人材支援制度」を利用して成功したのが鹿児島県長島町だ。2015年に総務省から副町長に就任した井上貴至氏がキーマンとなり、町が盛り上がっていった。人材のマッチングには、ウェブの求人検索「スタンバイ」が大きな役割を果たした

首都圏のビジネスパーソン向けに開催された採用説明会では、その地域の食材を使った料理でもてなすこともある(写真は”日本で最も美しい消滅可能性都市”3町が全国から「地域プロデューサー」を募集した際のもの)

――地方移住・転職にはキーマンの有無のほかにも必要なことがありそうです。

「衣食住職」の4つが揃っていないと移住は難しいと考えています。「やりがいがあれば地方移住をしても良い」という方は多いですが、一緒に移住する家族のことを考えると衣食住のインフラが整備されていないと難しい。

やりがいの部分である「職」は企業が変えなくてはなりません。「衣食住」は自治体が変えなくてはなりません。雇用するためには企業と自治体が連動しないと絶対にうまくいきません。連動するためにはキーマンが自治体と企業のハブとなるケースが多いです。両方を巻き込んで推進できる、そんな人物がキーマンになる可能性が高いのです。
(インタビュー/加藤陽之 構成/川口裕樹)
●加瀬澤 良年(かせざわ よしとし)
株式会社ビズリーチ 地方創生支援室 地方創生プロデューサー。2000年、明治大学卒業後、リクルートグループ(現リクルートキャリア)を経て、2011年に株式会社ビズリーチに入社。大手担当法人営業部長、キャリア女性向け転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」の責任者を経て、社長室地方創生チーフプロデューサーに就任。各地の企業・自治体の採用に関するコンサルティングを行う。また、経済産業省・内閣府との地方創生プロジェクトをリードするなど2017年度は50以上の国や自治体の施策に協力。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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