「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く1(後編)~万協製薬~

2018年4月19日
グローバリゼーションの進展や飛躍的な情報技術の発達、劇的な人口動態の変化などの要因により、企業をとりまく経営環境は著しく高度複雑化し、不透明性を増している。その様な状況下において、変化に柔軟に対応し、自己変革を通して新しい価値を創出することにより、持続的な競争優位性を築きあげていくことが企業経営にいま、強く求められている。そんな「卓越した経営」のモデルケースとなるのが、日本経営品質賞の受賞企業だ。
 2017年度受賞組織のうち、中小企業部門で受賞した経営者に話を聞く、その第1回は「万協製薬株式会社」(三重県)。前編に引き続き、代表取締役の松浦信男氏に経営品質向上の秘訣を尋ねる。

★「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く1(後編)~万協製薬~

2017年度の「日本経営品質賞」で中小企業部門受賞した万協製薬株式会社。2009年に続き今回が2度目の日本経営品質賞の受賞となる。写真は2月23日に行われた授賞式で。左が万協製薬代表取締役の松浦信男氏

■「社員重視」の制度・仕組みを導入する

 日本経営品質賞が掲げる「卓越した経営」。それを実現するために必要なのが、「顧客本位」と「独自能力」だ。しかし、「顧客本意」の対応力も「独自能力」の発揮も、社員という存在なくしては実行できない。社員を重視することを「経営品質から教えてもらった」と語る松浦氏。万協製薬では、社員を重んじその成長を促すための仕組みや制度が積極的に導入されている。

 例えば、2009年頃から同社では製造の各工程や業務において一区切りにできる作業単位を「モジュール」と呼び管理し、その習熟度により「見習い」から「指導者」までのレベル分けを行なっている。属人的な暗黙知が介在しがちな業務や作業を明確化された手順とすることにより、客観的な評価と合理的な習得が可能になる。それはPDCAサイクルを回していくことを容易にするのみならず、社員の課を超えたジョブ・ローテーションをも容易にする。

 事実、2008年には29.8%だったジョブ・ローテーション率は、2016年には40.2%にも向上したのだという。「モジュール」は、アウトプットの質を一定水準に保ち顧客満足度を高めることに寄与すると同時に、社員個々人が目標意識を持ちそれに沿ったキャリアパスを描き自己実現・成長していくことにも大きく貢献するのだ。

異なる部署に所属する数名で「ファミリー」をつくり、そのメンバーでの食事会や旅行を会社が費用負担する「プチコミファミリー制度」も、部署を超えた社員の交流、職場における不安や不満を解消するための同社ならではのユニークな制度

 また、異なる部署に所属する数名で「ファミリー」をつくり、そのメンバーでの食事会や旅行を会社が費用負担する「プチコミファミリー制度」も、部署を超えた社員の交流、職場における不安や不満を解消するための同社ならではのユニークな制度だ。「顧客が大事なのは当たり前のこと」と前置きした上で、松浦氏は続ける。

 「でも、社員がいなかったらそもそも何もつくれないじゃないですか? 僕はお客様との関係よりも、社員との関係によりフォーカスするべきだと思います。お客様は、吊り橋の端にある留め具のようなものですね。それがなかったら向こう側には渡れないので、もちろん大事な存在です。だけど、橋を渡る時に留め具を見てるかといえば、そうではない。一緒に渡っている子たちに『もうちょっとで向こうに着くから元気出して渡ろう!』って声をかけながら渡るべきでしょう」

 社員のモチベーションが高まれば、生産性は向上し、価値創出力は高まっていく。従業員満足度(ES)を適切にマネジメントし高めていくことによって、顧客満足度(CS)をも高めていくこと。いずれかを犠牲にすることでもう一方を成立させるのではなく、両者を両立させるためのヒントを同社の取り組みに見出すこともできるのではないだろうか。

社員のモチベーションが高まれば、生産性は向上し、価値創出力は高まっていく。従業員満足度(ES)を適切にマネジメントし高めていくことによって、顧客満足度(CS)をも高めている。「社員がいなかったらそもそも何もつくれない」(松浦氏)

■社会の公器としての企業

 松浦氏は、ビジネスにおいて、経営において、「ただ儲かればいい」「ただ会社が存続していけばいい」などといった考え方を決して是とはしない。

 「多くの中小企業の経営者は『自分の会社が必要とされているか?』と聞かれた時に、『納税も雇用もしているし商品も売れているから、社会にもお客さんにも必要とにされてるんじゃないか』って答えるんですけど、そういうことではないんです。本質的な意味で、その会社が未来へつながるような社会的インパクトを持っているのかどうかとういことが重要なんです」

 会社が存在することにより、社会をどの様に活性化させることができるのか―― 。常に同氏の意識の根底に横たわっているその想いは、社員と顧客と共に価値ある製品を社会に送り出していくということだけに留まらず、自分たちがその一部として存在している地域社会への貢献というかたちでも具現化されている。

 三重大学と提携し「地域イノベーション学会」を立ち上げ、三重県立相可高校とスキンケア製品の共同開発を行い、三重県が子どもの環境に対する意識向上を目的として実施する「キッズISO14000プログラム」に参画し小学校で出前授業を行うなど、同社はさまざまな取り組みを通して地域の人材育成、活性化にコミットし、未来の希望をつむぐ役割を引き受けている。
「人に必要とされる会社をつくる」とは、松浦氏が自身の著書のタイトルに掲げた言葉だ。その決意は、同社がかつて創業の地である神戸にあり、創業者の父のもとで社長室長を務めていた時に阪神大震災に被災した経験、そこで味わった辛酸――誰からも必要とされていないという感覚――に起因している。

 「工場が全壊しても、会社を続けたいと想いがあったんです。だけど、親父からも社員からも、当時の取引先からも『そんな無理せんとやめようや』って言われて…。僕が普通の経営者の方と違うのは、非常に若い時、32歳の時に、社会に捨てられたような感覚、社員に裏切られたような感覚を知ってしまったということはありますね」

 「人から必要とされなかった」から、「人から必要とされる」ことを目指した。社員から、顧客から、そして自分たちを取り巻く社会の人々から必要とされる会社となること。その想いが原動力となり、万協製薬は三重県の地で奇跡的な復活を果たすこととになったのだ。

万協製薬では、社員を重んじその成長を促すための仕組みや制度が積極的に導入されている。製造の各工程や業務において一区切りにできる作業単位を「モジュール」と呼び管理し、その習熟度により「見習い」から「指導者」までのレベル分けを行なっている

■「経営品質」は、想いと数値を両立させるためツール

 変革への、価値創出への想いがある。しかし、それだけでは十分ではない。自分たちが行なっている行動や業務プロセス、導入している仕組みや制度が果たして本当にそこに寄与する有効なものであるのか。経営品質への取り組みは、それを正しく見極め是正していく上で、非常に有効な手立てだと松浦氏は述べる。

 「日本経営品質賞の一番いいところは、応募のために提出する報告書を作成するにあたって、自分たちが行ったイノベーションを、データとしてしっかりとアピールしなければいけないところだと思います。徹底的にデータを入れることになるので、思い込みは書けなくなるじゃないですか? 数字は嘘をつくことはできません。情熱的なリーダーシップと同時に、それを実現した成果としての数値の両方を求める。そのアセスメントのクールさこそが、僕が経営品質に取り組んでいる理由なんです」

 通奏低音として、熱い想いがある。しかし、それを実現するためには冷静な判断が不可欠だ。その往還から自己変革を続け価値を創り出していくこと。万協製薬の歩んできたそんな軌跡は、“希望”として多くの経営者を鼓舞するものであるだろう。同社がこの先どの様に変革を遂げ、新しい価値を生み出していくのか、その歩みから目が離せない。
(インタビュー/加藤陽之 構成/藤川貴弘)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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