「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く1(後編)~万協製薬~
★「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く1(後編)~万協製薬~
■「社員重視」の制度・仕組みを導入する
例えば、2009年頃から同社では製造の各工程や業務において一区切りにできる作業単位を「モジュール」と呼び管理し、その習熟度により「見習い」から「指導者」までのレベル分けを行なっている。属人的な暗黙知が介在しがちな業務や作業を明確化された手順とすることにより、客観的な評価と合理的な習得が可能になる。それはPDCAサイクルを回していくことを容易にするのみならず、社員の課を超えたジョブ・ローテーションをも容易にする。
事実、2008年には29.8%だったジョブ・ローテーション率は、2016年には40.2%にも向上したのだという。「モジュール」は、アウトプットの質を一定水準に保ち顧客満足度を高めることに寄与すると同時に、社員個々人が目標意識を持ちそれに沿ったキャリアパスを描き自己実現・成長していくことにも大きく貢献するのだ。
「でも、社員がいなかったらそもそも何もつくれないじゃないですか? 僕はお客様との関係よりも、社員との関係によりフォーカスするべきだと思います。お客様は、吊り橋の端にある留め具のようなものですね。それがなかったら向こう側には渡れないので、もちろん大事な存在です。だけど、橋を渡る時に留め具を見てるかといえば、そうではない。一緒に渡っている子たちに『もうちょっとで向こうに着くから元気出して渡ろう!』って声をかけながら渡るべきでしょう」
社員のモチベーションが高まれば、生産性は向上し、価値創出力は高まっていく。従業員満足度(ES)を適切にマネジメントし高めていくことによって、顧客満足度(CS)をも高めていくこと。いずれかを犠牲にすることでもう一方を成立させるのではなく、両者を両立させるためのヒントを同社の取り組みに見出すこともできるのではないだろうか。
■社会の公器としての企業
「多くの中小企業の経営者は『自分の会社が必要とされているか?』と聞かれた時に、『納税も雇用もしているし商品も売れているから、社会にもお客さんにも必要とにされてるんじゃないか』って答えるんですけど、そういうことではないんです。本質的な意味で、その会社が未来へつながるような社会的インパクトを持っているのかどうかとういことが重要なんです」
会社が存在することにより、社会をどの様に活性化させることができるのか―― 。常に同氏の意識の根底に横たわっているその想いは、社員と顧客と共に価値ある製品を社会に送り出していくということだけに留まらず、自分たちがその一部として存在している地域社会への貢献というかたちでも具現化されている。
三重大学と提携し「地域イノベーション学会」を立ち上げ、三重県立相可高校とスキンケア製品の共同開発を行い、三重県が子どもの環境に対する意識向上を目的として実施する「キッズISO14000プログラム」に参画し小学校で出前授業を行うなど、同社はさまざまな取り組みを通して地域の人材育成、活性化にコミットし、未来の希望をつむぐ役割を引き受けている。
「工場が全壊しても、会社を続けたいと想いがあったんです。だけど、親父からも社員からも、当時の取引先からも『そんな無理せんとやめようや』って言われて…。僕が普通の経営者の方と違うのは、非常に若い時、32歳の時に、社会に捨てられたような感覚、社員に裏切られたような感覚を知ってしまったということはありますね」
「人から必要とされなかった」から、「人から必要とされる」ことを目指した。社員から、顧客から、そして自分たちを取り巻く社会の人々から必要とされる会社となること。その想いが原動力となり、万協製薬は三重県の地で奇跡的な復活を果たすこととになったのだ。
■「経営品質」は、想いと数値を両立させるためツール
「日本経営品質賞の一番いいところは、応募のために提出する報告書を作成するにあたって、自分たちが行ったイノベーションを、データとしてしっかりとアピールしなければいけないところだと思います。徹底的にデータを入れることになるので、思い込みは書けなくなるじゃないですか? 数字は嘘をつくことはできません。情熱的なリーダーシップと同時に、それを実現した成果としての数値の両方を求める。そのアセスメントのクールさこそが、僕が経営品質に取り組んでいる理由なんです」
通奏低音として、熱い想いがある。しかし、それを実現するためには冷静な判断が不可欠だ。その往還から自己変革を続け価値を創り出していくこと。万協製薬の歩んできたそんな軌跡は、“希望”として多くの経営者を鼓舞するものであるだろう。同社がこの先どの様に変革を遂げ、新しい価値を生み出していくのか、その歩みから目が離せない。
●関連リンク

インタビュー新着記事
-
地域に新しい共創を生み出す! 本業との一体型社会貢献を目指すリノベーション会社
中小企業や小規模事業者にとって「地域」というのは非常に大切な場所です。そこで人と出会い、そこで仕事が生まれるからです。その最新形の「リビングラボ」という方法で成果をあげているリノベーション会社が横浜市にあります。「株式会社太陽住建」は、「本業との一体型社会貢献」を掲げ、地域社会にしっかりと根付くための施策を次々と打ち出してきました。
2019年1月25日
-
教育と人材で「介護」の未来を変える! 前例なきビジネスモデルの革新者
超高齢社会を迎える日本。その中で「介護」の重要性は増すばかりですが、そこに携わる人材が不足していることは、皆さんもご存じの通りです。その危機的状況を打破するべく、介護業界の未来を担う人材の育成、引いては業界全体における労働環境の健全化に取り組んでいる会社があります。2008年創業の「株式会社ガネット」が運営する「日本総合福祉アカデミー」は、これまでにはない「分校」というビジネスモデルで急速にその展開数を拡大し、いま注目を集めています。
2018年12月14日
-
ローカルビジネスの活性化で日本を元気にする! 個店のマーケティングをまとめて解決するITの力
「ローカルビジネス」という言葉をご存知でしょうか? 飲食店をはじめ地域で店舗ビジネスを行っている業態の総称です。これまで総体として考えてこなかった、ある意味では遅れていた領域だったかもしれません。そんななか、日本の経済を活性化させるためにはローカルビジネスが鍵を握る、という思いをもって起業したベンチャーがあります。いま話題のEATech(イーテック)で、誰でもがすぐに個店のマーケティングを行える仕組みを提供する株式会社CS-Cです。
2018年12月7日
-
「自動車整備工場」の二代目女性社長という生き方
町工場を思い描く時、脳裏に浮かぶ代表的な業種のひとつが自動車整備工場です。どこの地域にもあり、油まみれで働く工員の姿が“勤勉な日本の労働者”をイメージさせるのでしょう。そんな日本の高度経済成長を支えた会社を事業承継し、新たな時代に向けて活力を与えようとする女性社長がいます。横浜の町の一角で昭和39年に創業した「雨宮自動車工業株式会社」代表取締役の小宮里子さんです。
2018年11月26日
-
21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【後編】
世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。後編では代表取締役・杉山智行さんの現在のビジネスに至るストーリーをお送りします。
2018年11月22日
-
21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【前編】
世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。金余りの国・日本から資金を必要とする発展途上国へとお金の流れをつくる「インパクト投資」がいま、国内外で大きな注目を集めています。金融の新しい波とは何か? クラウドクレジット代表取締役の杉山智行さんに前後編の2回で話を聞きます。
2018年11月20日
-
移住者への事業承継を積極推進! 七尾市の地域創生はここが違う
地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。
2018年10月26日
-
社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟
いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。
2018年10月15日