NHK大河『真田丸』を中小企業の“生き残り劇”として見る

2016年5月9日
NHK大河ドラマ『真田丸』は、「大阪夏の陣」において徳川家康を追い詰めたと言われる真田源次郎信繁、通称・真田幸村(堺雅人)を主人公とする物語だ。近年、大河ドラマは視聴率の面では苦戦気味だが、本作は第一話から19.9%と好発進。それ以上に視聴者からの評価が高く、毎週放送終了後には熱狂的なファンがSNSにコメントを寄せている。
 NHK大河ドラマ『真田丸』は、「大阪夏の陣」において徳川家康を追い詰めたと言われる真田源次郎信繁、通称・真田幸村(堺雅人)を主人公とする物語だ。

 舞台は大阪夏の陣から33年前の戦国時代にさかのぼる。
 上杉、北条、徳川、織田といった大名に取り囲まれ、数奇な運命に翻弄されながらも、真田家は生き残るために決死のサバイバルを繰り広げていた。
 近年、大河ドラマは視聴率の面では苦戦気味だが、本作は第一話から19.9%(関東地区)と好発進。現在は16~18%(同)の間を推移しているが、それ以上に視聴者からの評価が高く、毎週放送終了後には熱狂的なファンがSNSにコメントを寄せている。
 成功の理由は、なんといっても三谷幸喜による脚本の面白さだろう。

 1983年に劇団・東京サンシャインボーイズを結成して劇作家として高い評価を受けていた三谷は『古畑任三郎』(フジテレビ系)シリーズなどのテレビドラマで高い評価を受け90年代に人気脚本家として頭角を現した。近年では『清州会議』などを手掛ける映画監督としても活躍している。
 完成度の高い構成力に裏打ちされたコメディテイストの群像劇を得意とする三谷は、子どもからお年寄りまで幅広い年齢層から支持されているエンターテイメント作家である。

 大河ドラマを手掛けるのは2004年の『新撰組!』(NHK)以来12年ぶり。連続ドラマでは久々の三谷作品ということもあってか、放送前から期待は高まっていた。その期待を超える支持を現在は受けており、今年のテレビドラマの中では一番の話題作と言っても過言ではないだろう。
 主演の堺雅人は法廷ドラマ『リーガルハイ』(フジテレビ系)で性格の悪い天才弁護士や「倍返しだ!」で一世を風靡した『半沢直樹』(TBS系)で主演を務めた人気俳優だが、本作ではおとなしい存在で、ドラマを盛り上げるのは脇を固めるおじさん俳優たちだ。

戦支度を整えた兄、信幸と弟、信繁。一丸となって一族を守る姿は家族経営と重なって映る

 信繁の兄・信幸を演じる大泉洋。父・昌幸を演じる草刈正雄。昌幸に惚れこみ臣下となった出浦昌相を演じる寺島進。上杉景勝を演じる遠藤憲一など、一癖も二癖もある男たちが活き活きと戦国武将を演じている姿は、民放のドラマでは中々見られないものだ。若手俳優が中心だった『新撰組!』が青春譚だったのに対して、本作が大人のエンターテイメントとなっているのは、おじさん俳優が暴れ回っているからだろう。

創業社長ともいえる真田昌幸。デタラメなようでいて一国一城の主としての知略と腹の据わり方はさすが!

 その一方で、本作はとても知的なドラマである。

 戦国時代が舞台のドラマというと、どうしても豪傑たちが活躍する勇ましい戦いばかりが頭に浮かんでしまう。しかし本作は人気シミュレーションゲーム『信長の野望』のチームが勢力分布図を見せる際の3Dマップ制作に参加していることからもわかるように、派手な合戦よりも、ゲーム的な心理的駆け引きの面白さが第一にある。
 周囲を大国に取り囲まれた真田家は、生き残るためにどの国と同盟を組むのか。あるいはどのタイミングで裏切るのか、といった選択を常に迫られ、手を組む大名を次々と変えていく。

家族が生き残るために知恵を尽くして戦う『真田丸』。中小企業のプライドをかけたドラマとして見ることも可能

 武田や上杉が古くからある老舗の大手企業だとしたら、真田家は家族経営の中小企業みたいなものだ。ただ、やみくもに対立すれば簡単に潰される。かといって安易に従えば食い物にされてしまう。

日本一の大企業のオーナーたる秀吉に、地方の中小企業、真田家はどんな戦略をもって未来を描くのか?

 では、どうすれば対抗することができるのか?

 本作は毎回、戦を行う地形や各大名の勢力分布図を丁寧に見せて、それを踏まえた上で、真田家がどういう風に行動するのかを描写する。

 その面白さがもっとも現れていたのが、第13回「決戦」だ。
 上田城に攻め込んできた徳川軍を迎え撃つ真田軍は、徳川軍の兵力を分断して、迷路のような城下町に誘い込む。
 同盟関係にある上杉家からは兵士を100名与えられるが、子どもや老人ばかりで、とても戦力にならない。しかし、信繁は彼らをうまく配置し、正面からの衝突を避けることで徳川軍を潰していく。そして信繁が囮となって、大手門まで兵士をおびき寄せたところで、門を開き、待ち伏せしていた鉄砲隊と騎馬隊を引き連れた信幸が兵士を一掃した。
 圧倒的な戦力差のある強国に対抗するために、真田家のような弱い組織は、どう振る舞えばいいのかが、本作では手を変え品を変え描かれている。

 そんな信繁たちだからこそ、「戦をできればやりたくない」と、考えている。
 大河ドラマに戦争反対というテーマが盛り込まれることはもはや定番だが、現代の視点から過去を裁いていると批判されることも多い。
 しかし、真田丸の場合は反戦思想というイデオロギーではなく「戦をすれば民が死に、国力が低下する」という、シビアな現状認識が前提にある。つまり合理的な判断において仲間が死ぬことを避けたいのだ。
 だからこそ戦う時は知略の限りを尽くす。そして、兵士ができるだけ死なないように、卑怯にみえる作戦も容赦なく使う。

 タイトルの真田丸とは真田家という家族を船に見立てたものだが、天下統一を目指す豪傑たちの英雄譚ではなく、家族が生き残るために知恵を尽くして戦う『真田丸』は新しい時代の大河ドラマなのだ。
執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
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