日本に押し寄せる民泊解禁の波

2016年5月27日
 筆者はもう長い間米国と日本を頻繁に往復する生活をしている。多い時で年に6~7回ほど。普段住んでいるのが米国なので日本に来るのが「出張」とか「一時帰省」となる。
 筆者はもう長い間米国と日本を頻繁に往復する生活をしている。多い時で年に6~7回ほど。普段住んでいるのが米国なので日本に来るのが「出張」とか「一時帰省」となる。
 メインの目的地は東京だが、大阪にまだ実家があり高齢の母が一人で住んでいるので極力来日の際には立ち寄るようにしている。その場合もちろん実家滞在なので宿を探す必要もない。しかしながら、東京に滞在する際には宿を探す必要がある。
 東京に来る度に新しいホテルがどんどん増えていることに驚かされるのだが、それでも部屋が足りていないらしい。なにしろ日本に訪れる観光客は年間2000万人。その多くが東京にきているのは、お隣中国からの「爆買い」ツアーでもご存知の通り。その上2020年の東京五輪ではさらに多くの外国人の訪日が予期されており、政府は4000万人にまで増やしたいと意気込んでいる。
 幸い都内の一軒家の友人宅で一部屋が空いているところなどがあり、善意で滞在させて頂くこともあるのだが、毎回お願いするわけにもいかない。ところでこういう部屋貸しをサービスにしているのが今世界的にブームになっている「民泊」。具体的には民間タクシーのUberに並ぶシェアリングエコノミーの代表的サービスの一つである米国発のベンチャー AirBnB(エア・ビー・アンド・ビー)を指すことが一般的だ。(BnBとはベッド・アンド・ブレックファスト、つまり簡易宿を指す旅行業界用語)
 確かに昨今東京含め国内のホテル価格が高騰し、宿探しがどんどん難しくなっていると感じているが、試しに同サービスで検索してみるとビジネスホテルの価格以下で、それより広いワンルームマンションの一室を都内に借りることが可能だった。立地も抜群で洗濯機などの家具付き物件も有り難い。実際今回は三箇所で利用してみたが、概ね大満足であった。需要と供給という点ではこの動きはまだ加速していきそうである。


 この民泊の規制緩和を行おうという動きが現在安倍政権で進められている。5月13日、一般住宅を主に海外からの旅行者向けの宿泊施設として有償提供することにたいする「全面解禁」の原案がまとめられた。簡易の登録手続きを経れば旅館業法上の許可なしで、不動産の所有者が部屋を貸し出せるようになり、今は禁じられている住宅地での営業も今後認められることになる。2017年には通常国会に新法が提出される予定となっているらしい。
 しかし3月に全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)がフランスの業界関係者を招いて開催された緊急フォーラムでは現地のホテル業界有力者から「民泊」を巡る悲しい事実を嘆く悲痛な叫びが報告されたという。日本政府観光局(JNTO)の調査によるとフランスは米国、スペイン、中国を抑えて年間8,400万人弱の観光者を迎える世界一の観光立国である。(2014年度で日本は世界22位、アジア7位)
(参考 http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/visitor_statistics.html)

 民泊でも先進国であったフランスでは現在毎日一軒ホテルが廃業ないし倒産に追い込まれているという。

 雇用が減少する以外にも、民泊物件に回すために賃貸契約が更新されない割合も増えており、住人が賃料の高騰により郊外へと押し出される現象が起きているらしい。ここで問題視されているのは同サービスの「匿名性」である。脱税と営業日数の管理(本来は上限が設定されている)が実質不可能に近くなる状態が懸念される他、これまでは規制により守られてきた安全面などにも不安が残る。実際に盗撮騒ぎやら死体が発見された事件が報道された事例もある。

 また、昨年11月に発生したフランスでの同時多発テロでテロリストたちが民泊を利用していたという。身分確認なども比較的緩い民泊サービスでは、ホテルで期待されるようなセキュリティは担保されそうもない。

 日本でも中国人が運営している物件の件数が増えているのに気づく。中国人観光客が多いからというのもあるが、それも含めそもそも運営者が誰なのかわからないというのは何とも不安でもある。表面に出ているオーナーが本当にオーナーなのかを確かめる術はなく、また運用代行サービスも普及していて、民泊運営者向けの部屋掃除サービスまで始まっている。

 例えば先日国内出会い系サイト大手が「売春防止法違反幇助」で摘発されたが、実際にサイトの中で行われた援助交際の多くは「援デリ」という業者が介入する形態だった。民泊も裏で暴力団や海外マフィアなどの反社会勢力が経営している可能性も否めないのではないか。また危惧される盗聴や盗撮を素人が発見するのは難しく、例えばアンダーグラウンドで盗撮コンテンツが流通してしまう可能性すら拭えない。特殊な性的嗜好を持つものが多いのは、スマホによる盗撮騒ぎなどで周知の通り。

 東京五輪を巡ってはスキャンダルが続いている状況だが、それに乗じて一気に規制緩和する際にはくれぐれも先立ちから学んで欲しいものである。特に経済効果や脱法性については厳しい監査の目が求められている。
執筆者: 立入勝義 - 
世界銀行元ソーシャルメディア広報担当官。元ウォルトディズニーリゾートデジタルプロデューサー。北米で、ライセンシング交渉、M&A、法務交渉(対米国起業)、ローカライゼーションなど起業支援コンサルティングを行う。日本語での著作は4冊、米キンドルストアでは100冊以上を出版。

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