アニメ『舟を編む』に見る“会社のチームプレー”の素晴らしさ

2016年11月23日
『君の名は。』の大ヒットを筆頭に『聲の形』や『この世界の片隅に』など、アニメ映画の話題作が今年は多数登場したが、今や実写よりもアニメの方がリアルな風景描写や人間同士のお芝居を丁寧に描くことができるという逆転が起こりはじめている。『舟を編む』はその極致とでも言うような作品だ。辞書編集部に様々な人々が結集し、辞書作りという一大プロジェクトを10年近い年月をかけて成し遂げる姿は、『プロジェクトX』のようでドラマチックだ。
 『君の名は。』の大ヒットを筆頭に『聲の形』や『この世界の片隅に』など、アニメ映画の話題作が今年は多数登場したが、今や実写よりもアニメの方がリアルな風景描写や人間同士のお芝居を丁寧に描くことができるという逆転が起こりはじめている。
 そのことをもっとも強く感じさせるのが深夜アニメのノイタミナ枠だろう。
 フジテレビ系で木曜日の深夜に放送されているノイタミナは人気少女漫画をアニメ化した『ハチミツとクローバー』や、オリジナルアニメの『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などといった人気作を輩出し、アニメファンではない一般視聴者からも注目されている。
 ノイタミナは、実写映画やテレビドラマでもやらないような、青春群像劇やお仕事モノをストイックに作っていて毎回驚かされるのだが、もしかしたらアニメというすべてが作り込まれた世界だからこそそれは可能なのかもしれない。
 現在、放送中の『舟を編む』はその極致とでも言うような作品だ。
  • (C)玄武書房辞書編集部 アニメ『舟を編む』/フジテレビ”ノイタミナ”にて毎週木曜24:55から。ほか各局でも放送開始
  • (C)玄武書房辞書編集部 実写映画やテレビドラマでもやらないような、青春群像劇やお仕事モノをストイックに製作している、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」。『舟を編む』はその極致とでも言うような作品
 本作は、玄武書房で働く営業部員の馬締光也(まじめみつや)が、辞書編集部にスカウトされるところからはじまる。

 大学院で言語学を専攻していた馬締は、苗字のとおりマジメで皮肉が通じない性格で、人とのコミュニケーションが苦手。しかし言葉に対する意識は鋭く、一つの仕事に対する集中力はけた外れ。そんな馬締にとって辞書作りは天職で、どんどん仕事に没入していく。

 しかし、辞書編集部は長年利益を出していなかったため、閉鎖の危機に陥っていた。

 辞書編集部に様々な人々が結集し、辞書作りという一大プロジェクトを10年近い年月をかけて成し遂げる姿は、『プロジェクトX』のようでドラマチックだ。しかし登場人物は物静かで淡々と行動しているというギャップが本作の面白さだ。

(C)玄武書房辞書編集部 得意とするスキルがそれぞれにあり、お互いの実力を発揮して辞書作りに邁進する。出版社という舞台で描かれる会社組織のチームプレイが見所のひとつ

 『舟の編む』(光文社)の原作小説を執筆した三浦しをんは、まほろ市という架空の町で働く二人の便利屋を主人公にした『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)を筆頭に、駅伝を題材にした『風が強く吹いている』(新潮社)や林業を題材にした『神去なあなあ日常』(徳間書店)などを手掛ける人気小説家。この『舟を編む』で、2012年の本屋大賞を受賞している。
 漫画業界の内幕を描いた漫画『バクマン。』(集英社)や『重版出来!』(小学館)、校閲という出版社にある誤字脱字等をチェックする部署を舞台とした『校閲ガール』(KADOKAWA)など、出版業界の内幕を描いた作品が大人気だ。次々と映画化、ドラマ化されており注目を浴びている。
 『舟を編む』はその先駆けとなった作品で、2013年に映画化された際には高く評価され第37回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を筆頭に数々の映画賞を受賞している。
 現在、これらの作品が作られる背景には、出版関係者にとって自分たちの業界のことだから取材しやすいためリアリティを追及しやすいという側面があるだろう。雑誌や漫画は日常的に接していても、どのように作られているのかについては関係者でないとよくわからない、近くて遠い世界だ。
 もちろんフィクションであるため、多少の脚色はされているのだが、作品に触れることで、漫画や雑誌がどう作られているのかの内幕を知ることはできるのは実に楽しい。ましてや辞書となると、出版の仕事の中でも一番謎に包まれている。そんな辞書作りの過程が本作を見ることで理解できることが本作最大の魅力だろう。
 もう一つの魅力は出版社という舞台を用いることで描かれる会社組織の良さだ。

 辞書編集部には、辞書づくりに人生を捧げてきた定年間際の編集者・荒木、大渡海の監修を務める老国語学者の松本。事務作業を一手に引き受ける女性契約社員の佐々木。そして一見軽薄でちゃらちゃらしているが、コミュニケーションスキルの高さで馬締をサポートする西岡。
 決してみんなスーパーマンではないが、得意とするスキルがそれぞれにあり、お互いの実力を発揮して辞書作りに邁進する。決して声高には叫ばないが、そういった会社ならではのチームプレイは見ていて惚れ惚れとする。

 同時に魅力的なのは、仕事を通してそれぞれが心の内側で格闘している内面の問題がストイックに描かれていること。それは、馬締にとっては辞書に掲載する言葉の一つ一つを吟味して掘り下げていく作業であり、馬締と同じ家で同居する女でありながら板前として修業する林香具矢にとっては、料理を作ること。パソコンやスマートフォンが普及したことでSNSで他人とつながり続けることが当たり前の現代において、外界の声を遮断して黙々と自分の世界を追及する馬締たちのたたずまいはどこか美しく思う。
 電子書籍化が進み、数年単位で出版業界をめぐる状況が激変していく中で、10年近い歳月をかけて辞書を作るというのはとても贅沢な働き方で、利益が出ないことに苛立つ会社の気持ちもわからなくもないが、こんな風に仕事に打ち込めたら楽しいだろうなぁ、と思う。一生に一度はこんな大仕事をやってみたいものである。

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

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