大都市で知られていない「高速バス」の成長

2016年10月28日
高速バスの年間輸送人員(延べ利用者数)は約1億2000万人。この数字は、実は、航空の国内線(約9000万人)を上回る。高速バスは、全国で毎日1万便以上が運行されており、鉄道に次ぐ第二の幹線輸送機関である。我が国の高速バスは、全国津々浦々と東京や大阪といった大都市、あるいは札幌や福岡などの地方中核都市を網の目のように結び、路線によっては10~20分間隔の高頻度で運行されている。
 高速バスの年間輸送人員(延べ利用者数)は約1億2000万人。この数字は、実は、航空の国内線(約9000万人)を上回る。高速バスは、全国で毎日1万便以上が運行されており、鉄道に次ぐ第二の幹線輸送機関である。

全国で毎日1万便以上運行される高速バス

 この事実は、多くの読者、特に大都市にお住まいの方にとって意外かもしれない。高速バスと言えば、お金のない学生が倹約のためにやむを得ず利用する、マイナーな乗り物だという理解が主流だろう。大都市圏では、高速バスの存在感は乏しい。
 だが、地方部では少し様相が異なる。我が国の高速バスは、全国津々浦々と東京や大阪といった大都市、あるいは札幌や福岡などの地方中核都市を網の目のように結び、路線によっては10~20分間隔の高頻度で運行されている。
 高速道路には、本線の脇に高速バス用の停留所が設置されている。渋滞ポイントとして変に有名になってしまった「元八王子バス停(東京都)」「綾瀬バス停(神奈川県)」のような大都市郊外の事例もあるが、地方部では一面の田畑の真ん中に位置する例も多い。いったい誰が利用するのかと不思議に思う人もいるだろう。実は、多くの停留所付近には、巨大なパーク&ライド用の駐車場が設けられている。地方はクルマ社会だ。最寄りの大都市に出かける際、市内の渋滞を抜けて鉄道駅に向かい、高い駐車料金を払って鉄道に乗り換えるよりも、郊外で高速バスに乗り換える方が、楽だし便利、しかも安い。
 地方にお住いの方は、だから、老若男女問わず高速バスを利用してくれる。出張のほか、有名店での買い物やコンサートといった大都市でしか体験できない消費活動など、目的は幅広い。多くの高速バス路線で、早朝に地方側を出発し朝9時前後に東京や大阪に到着する便と、18時以降に東京や大阪を出発し深夜に地方側に帰着する便の乗車率が高い。新宿の新しい高速バスターミナル「バスタ新宿」で観察していても、出発フロアは夕方以降が最も賑わい、リピータが回数券を手に、慣れた素振りで乗車手続きを行っている。
 高速バス業界は02年以前において、当時の道路運送法によって新規参入が制限されてきた。高速バスの運行に必要な事業免許(当時)は、原則として、その路線の起点と終点それぞれで地域の路線バスを運行するバス事業者どうしの「共同運行」ペアに対してのみ与えられた。そもそも、その路線バス事業者というもの自体が、公共交通という性格ゆえ、電力業界などと同様に地域独占的な存在である。
 具体的に言えば、大都市と地方都市を結ぶ高速バスの運行主体は、大手私鉄の子会社である大都市側のバス事業者と、地方側で独占的にバス事業を営む老舗事業者との共同運行ペアがほとんどである。地方の路線バス事業者と言えば(田中角栄が長らく地元バス事業者の社長を務めていたことに象徴されるように)地元での存在感は圧倒的だ。そのような企業が、自らのフラッグシップ商品として東京や大阪へ直行する高速バスを運行すれば、地元での認知は簡単に進んだ。しかも、地方在住者の中には、最寄りの大都市との間を頻繁に往復する人も多いから、高速バスの利用がごく自然に定着したのだ。

 それに対し大都市では、中央道方面は京王、関越道方面は西武という風に方面別に事業者が分かれており、予約方法などもバラバラ。しかも親会社の鉄道沿線では告知できるが、首都圏や関西圏全域での認知は進まなかった。
 逆に言えば、大都市部には、高速バスにとって大きな潜在需要が残されているのだ。

 時あたかも、観光旅行の形態は団体から個人へとシフトしている。有名観光地や土産物店を貸切バスで効率的に回る「バスツアー」の人気は、シニア層に偏る。余暇の過ごし方が多様化し、旅行に出ることそれ自体が目的とはなりえず、個人の興味関心に基づいた旅しか満足しない層には「お仕着せ」に映るのだ。急増するインバウンドも同じだ。初の訪日ではゴールデンルート(東京~富士山~京阪)を貸切バスで駆け抜けた彼らも、二度目以降は「より深い日本」を求める。まるで、「ロンドン、パリ、ローマ8日間の旅」から『地球の歩き方』片手の個人旅行へシフトした、かつての日本人のアウトバウンドの姿をなぞるようだ。
 鉄道だと乗り換えが必要な中小都市へ、あるいは個別の宿泊施設や観光スポットにも直通できる高速バスにとっては好機だ。既に、御殿場のアウトレットモールや飛騨高山といった特定のデスティネーションに向かう路線は、FIT(外国人個人客)で溢れている。

FIT(外国人の個人旅行)で賑わう飛騨・高山バスセンター

 むろん、その動きを全国全路線に拡大させることは容易ではない。だが、自分がお手伝いする業界の、次なる成長の方向性が見えているという点は、心から幸運だと感じている。また、観光という、この国の次なる生き様の一翼を、その業界が担えるということは、とても誇らしいことでもある。

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執筆者: 成定竜一 - 高速バスマーケティング研究所株式会社代表
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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