【プロ人材と地方企業:2】町工場発のブランド、その販路を切り拓く先鋒

2016年11月18日
【記事のポイント】 ▼下請け企業の自社ブランド設立では、大企業出身人材の営業力・人間関係が生きる ▼採用後には地方での再出発という環境変化への対応を待つことも大切
【記事のポイント】
▼下請け企業の自社ブランド設立では、大企業出身人材の営業力・人間関係が生きる
▼採用後には地方での再出発という環境変化への対応を待つことも大切

■自社ブランド開発の先にある問題

新事業への参入、マーケットの変革への対応など、企業が新たなチャレンジを行うときには、その分野のプロフェッショナルが求められる。例えば、地域おこし事業において、地方創生リーダーを都市部から招聘するのはよくある話だ。近年では政府が進める「プロフェッショナル人材事業」など、地方企業や中小企業が人材を活用するための仕組みも整備されはじめている。

 広島県に本社を置くオオアサ電子も、プロフェッショナル人材を採用してビジネスを拡大させた企業の一つだ。同社では長年に渡って電子部品の下請けを手掛けてきたが、供給先の大手メーカーが事業をファンドに売却。仕事が激減したという。企業の存続も危ぶまれる中、同社がとった選択は自社ブランド製品の開発だった。

高級無指向性スピーカー「Egretta」。漆喰風の本体などで独自性を出している

自社製品の開発による“メーカーとしてのビジネス”への転換は、攻めの経営という視点では正攻法である。コモディティ化が進んだ白物家電や日用品においては、値段や品質、デザイン性、プレミアム戦略による差別化が可能な中小企業の成功事例は少なくない。

 オオアサ電子では液晶事業とともに、長年手掛けていた音響機器のOEM生産の技術を生かし高級無指向性スピーカー「Egretta」の開発に着手する。デザイン、技術、製造などのものづくりに関しては自社のリソースで解決することができた。そのうえで最後に残ったのが「どう売るか」という課題だった。

■技術やリソースを持った早期退職者がねらい目

 特定の取引先とだけ長く付き合ってきた下請け企業にとって、製品の販売チャネルの開拓、商品開発に必要なマーケティングは自力解決が困難な問題だ。オオアサ電子はこの問題に対して、外部の人間を招くことで解決を図る。必要だったのは営業経験、ニーズをつかむセンス、広いマーケット知識、そして人脈といったリソースを持った人材。折しも大手の早期退職者が候補となり、中には実力者も多かったという。
 しかし、無名の中小企業に入社しよう考える大手企業経験者はそう多くない。当時はプロフェッショナル人材の活用制度などがない時代だったため、最終的には代表取締役社長の長田克司氏の人脈をたどり、元ソニーの役員から紹介を受けたのが高野康輔氏だった。

 高野氏は持ち前のスキルと人脈を生かして、Egrettaの販促に着手する。とはいえ、いきなり成功を収めたわけではない。地域や企業規模の違いといった勝手の違いから、最初の1、2年は苦労をしていたという。しかし、長田社長は「自分たちのできないことをやってくれている」と任せていたそうだ。

「プロ人材を採用したからといって、すぐに商品が売れるなど、目に見える成果を期待してはいけません。勝手の違う地方の中小企業で、すぐに大手メーカーと同じような実績があがることはないでしょう。時間をかけた開拓先との信頼関係など、目に見えないことを評価し、いっしょにブランドを作っていくという考え方が大事です」

オオアサ電子代表取締役社長の長田克司氏

Egrettaはメイドインジャパンをアピールすべく、漆喰風の本体を採用し、無指向性スピーカーという特徴で売りだした。しかし、当初は老舗の音響機器問屋から「白い家電は人気がないし、大手も作っていないような無指向性スピーカーに需要はない」と門前払いをされたという。その中でも高野氏は地道にマーケティング活動を重ねることで、徐々に顧客からの評価を獲得していく。

 現在までにEgrettaは、豪華客船の飛鳥IIや星野リゾートのホテルなどに採用されている。また、ヨドバシカメラなど大手量販店でも扱うようになった。広島の田舎にあるショールームには、全国からバイヤーや企業が訪れている。
営業力が不足していたオオアサ電子にとって、経験豊富な高野氏はプロフェッショナル人材として事業に大きく貢献した。自社ブランド開発という一大事業を成功させたことで、会社の業績はV字回復している。とはいえ、プロフェッショナル人材にとって地方企業への転職は、一からの再出発となる。これまでの経験が生きないこともあるだろう。その中でも高野氏のように、どんな条件でも成果を出すべく、自分で動ける覚悟があること。それが、地方企業では経験やスキルと同じぐらいに重要な、プロフェッショナル人材採用の基準となりそうだ。
《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

●関連リンク

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコト」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

インタビュー新着記事

  • タピオカドリンクをもっと身近に〜郊外から攻めて十代の人気を獲得!

    いま、台湾発のタピオカドリンクがブームです。原宿や代官山では海外資本が続々と専門店を出店しています。そんな中、タピオカドリンクを郊外からじわじわと人気商品にしている日本の中小企業があることをご存知でしょうか。そこにはどんな戦略があったのでしょうか。J・Jの忠岡鴻謹社長に聞きます。

    2018年5月25日

    インタビュー

  • 固定電話をITで生産性向上につなげる〜CTIを低価格で便利に

    中小企業や小規模事業者では、固定電話でのお客様とのやり取りが経営を支えています。ただ、共有化やデータ化などができず、効率が非常に悪いのが問題でした。生産性向上するにはどうすればいいのか? ITを使ってその答えを出したのが、株式会社シンカの「クラウドCTI『おもてなし電話』」です。シンカ代表取締役の江尻高宏さんに聞きます。

    2018年5月24日

    インタビュー

  • 次に来るのはバスのシェアリング、目指すは旅行業の民主化

    今、ビジネスを大きく成功させるために必要なのは、パイを奪い合うことではなく、新たなパイを生み出す「新業態」の開発です。では、どうすれば成功する新業態を生み出すことができるのでしょうか? 急速に広がるシェアリングビジネスに登場したのが、貸切バスの手配を手がける「ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社」です。代表取締役の西木戸秀和氏に話を聞きます。

    2018年5月17日

    インタビュー

  • アサヒグループホールディングス会長 泉谷直木氏に聞く②/経営者は「山頂の松」に学べ

    顧客価値を創出するための、卓越した経営。それを実践するロールモデルとなる組織・団体を表彰するのが、1995年に設立された「日本経営品質賞」です。この活動を支える経営品質協議会の副代表を務めるのが、アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長の泉谷直木氏です。インタビュー後編では、変革の時代に多くの課題に直面する中小企業経営者が持つべき考え方や信念についてお話を伺います。

    2018年5月11日

    インタビュー

  • アサヒグループホールディングス会長 泉谷直木氏に聞く①/新しく始まった「経営デザイン認証制度」とは?

    顧客価値を創出するための、卓越した経営。それを実践するロールモデルとなる組織・団体を表彰するのが、1995年に設立された「日本経営品質賞」です。この活動を支える経営品質協議会の副代表を務めるのが、アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長の泉谷直木氏です。前編では日本経営品質賞に取り組む意義や目的と2018年度より新しく始まる「経営デザイン認証制度」について、そして、後編では変革の時代に多くの課題に直面する中小企業経営者が持つべき考え方や信念について、お話しを伺います。

    2018年5月9日

    インタビュー

  • 「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く2(後編)〜トップ保険サービス〜

    顧客本位の視点から、部分最適ではなく全体最適の経営を行い、自己変革を通して価値を創出し続けていく。そんな「卓越した経営」のモデルケースとなる企業を表彰するのが「日本経営品質賞」です。2017年度受賞組織のうち、中小企業部門で受賞した経営者に話を聞く、その第2回は「トップ保険サービス株式会社」(福岡県)。前編に引き続き、代表取締役社長の野嶋康敬氏に経営品質向上の秘訣を尋ねます。

    2018年5月2日

    インタビュー

  • 「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く2(前編)〜トップ保険サービス〜

    顧客本位の視点から、部分最適ではなく全体最適の経営を行い、自己変革を通して価値を創出し続けていく。そんな「卓越した経営」のモデルケースとなる企業を表彰するのが「日本経営品質賞」です。中小企業部門では2社が受賞しましたが、そのうちのひとつが福岡県北九州市で保険代理業を事業ドメインとする「トップ保険サービス株式会社」です。代表取締役社長の野嶋康敬氏に話を聞きます。

    2018年5月1日

    インタビュー

  • 「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く1(後編)~万協製薬~

    グローバリゼーションの進展や飛躍的な情報技術の発達、劇的な人口動態の変化などの要因により、企業をとりまく経営環境は著しく高度複雑化し、不透明性を増している。その様な状況下において、変化に柔軟に対応し、自己変革を通して新しい価値を創出することにより、持続的な競争優位性を築きあげていくことが企業経営にいま、強く求められている。そんな「卓越した経営」のモデルケースとなるのが、日本経営品質賞の受賞企業だ。

    2018年4月19日

    インタビュー