三代目社長のHANJO記:第2話――従業員の心をつかむ社内改革

2016年11月5日
ビジネスにおけるジンクス「苦労を知らない三代目が会社をつぶす」。だが一方で、改革を進め会社を成長させる三代目社長がいる。「三代目」を名乗るダンス&ボーカルグループがヒットチャートを席巻するいま、時代が三代目の活躍を求めているのかもしれない。連載「三代目社長のHANJO記」では、新たな発想やマネージメントで歴史をつなぐ中小企業経営者の姿を伝える。第2話は「中野BC株式会社」中野幸治社長のHANJO記である。

経営方針の転換で日本酒部門や梅酒部門の売上をアップさせた三代目の中野幸治社長

■主力の日本酒部門で大量生産からの脱却

――1932年の中野醤油店の創業以来、醤油をはじめ焼酎、日本酒、果実酒、みりん、梅果汁、梅酒などのリキュールなどを幅広く製造・販売してきた中野BC。その経営方針が大きく変わろうとしている。陣頭指揮を執るのは三代目の中野幸治社長だ。

 かつて、同社の日本酒部門は大量生産による低価格路線を走り、和歌山でもトップクラスの業績を上げていた。しかし、中野社長はこの状況に危惧を覚える。若者の日本酒離れが進む今後は国内市場も縮小し、このままでは存続が危ぶまれる事態に陥りかねない。酒蔵として生き残るために、必要だったのは中野BCならではの独自性だった。

中野 実際に現場のスタッフと話し合ってみると、みんなも私と同じように危機感を抱いていることがわかりました。そこで、パック酒のような家庭の晩酌向け商品は低価格路線を維持しつつ、純米酒を中心とした特定名称酒については、昔ながらの手仕込みに戻すよう、当時の社長だった先代に直訴しました。路線変更を受け入れてもらえたのは、現場のスタッフなどから賛同を得られていたことが大きかったと感じています。

カクテル梅酒開発を支えた女性スタッフ。デザインからネーミングまで、女性目線での商品開発を行う

弊社では修業を積んだ社員が酒の仕込みを手がける社員蔵人制を、先代の時代から導入していたのですが、私も杜氏として社員蔵人とともに酒造りを一から見直しました。ただ、弊社の日本酒造りのコンセプトは、“中野BCらしい酒を目指すこと”。急に「辛口の酒を造れ」と言っても、その対応は難しかったと思います。今までを否定するのではではなく、まずは今の技術を深掘りすること。その延長に技術の幅が出てくれば、さまざまなニーズに対応した酒造りができていくと、入社当初から常々思っていました。

 そこで手始めに純米酒の味をよりどっしりとしたものに変えました。同時に瓶についても関係部署の担当者と話し合い、風格が感じられるイメージにしようと、従来の青色の瓶から茶色へ変更したのです。その結果、純米酒の売上が従来の3倍に伸びました。

 中でも、「大吟醸 紀伊国屋文左衛門 黒」はモンドセレクションにおいて4年連続で最高金賞を、「純米吟醸 紀伊国屋文左衛門」は2年連続で金賞を受賞。日本酒部門全体では家庭向けのパック酒の比率がまだ高いですが、それでも特定酒の比率が徐々に大きくなり、ブランド力の強化につながっています。

 ここ数年は、“造り手がお客様と向き合っていく機会”を増やしています。最初のとっかかりとしては、弊社の酒蔵内で毎年開催している「にほん酒BAR」と「梅酒BAR」というイベント。これは中野BCとその商品、そしてスタッフを知ってもらうことが目的です。その中で、必ず造り手がブースに立って、直にお客様の反応を知ることができる環境にしています。実際、私や営業サイドがお客様の意見をうかがった際、開発や製造の現場への伝え方が悪かったり、心に響かないこともあります。ですので、まず“自分達がお客様に直に知ってもらう”環境づくりに取り組んでいます。

「なでしこのお酒『てまり』緑茶梅酒」が「全国梅酒品評会2015」の「ブレンド梅酒部門」で金賞を受賞したときのメンバー

■「カクテル梅酒」の開発と“女子力”の活用

――日本酒造りの改革を進める一方で、梅酒部門においても新たな方針を打ち出していく。大手酒造会社に勤務していたころ、中野社長は梅酒ブームの兆しを感じていた。和歌山では梅の産地であるにも関わらず、梅酒は認知度が低かったが、そこには将来性が感じられた。

 梅酒といえば近年では女性の購買層が増えている。しかし、同社の商品開発会議に参加しているのは50歳以上の男性営業マンが中心。およそ、現状合っていない状態だった。

中野 梅酒の開発にあたっては、情報感度の高そうな若い女性だけのマーケティング部署を発足させました。その中で生まれたのがカクテル梅酒です。第一弾は「紀州のゆず梅酒」。梅酒と相性が良さそうな柑橘系との組み合わせは私が考えましたが、その後のネーミングやパッケージデザインなどは、すべて女性スタッフが手掛けています。

 女性と男性では感性が違うため、デザインが2択の場合に意見がわかれることがあります。その場合には女性の意見が通るように根回しするなどして、少しずつ“女性が働きやすい環境”にしていきました。
私がマーケティング部の女性社員に対し常々言ってきたのは、「自分達がほしいと思えるような商品をつくる」ということです。和歌山から飛び出して東京での営業に同行してもらったり、展示会に参加してもらったり、いろいろと経験を積んでもらいました。

 その結果、男性にはとても思いつかない、女性ならではの目線がとても斬新な商品が生まれました。例えば、“ホワイトデーにほしい”をテーマにしたもの、アロマを取り入れたもの。ブルーベリーの梅酒「MYRTILLE(ミルティーユ)」やイチゴの梅酒「FRAISE(フレイズ)」では、ワインボトルのようなオシャレなパッケージを考案してくれました。

 女性メンバーは1人、また1人と増やしていき、09年には女性社員によるマーケティング部署が発足。女性だけの社内横断チーム「なでしこ」をつくり、それが「なでしこのお酒 てまり」の誕生につながりました。女性目線の商品づくりを強化したおかげで、カクテル梅酒は約30種類に増え、梅酒部門の売上は25倍まで拡大しています。

パリで10月に開催された国際食品見本市「SIAL(シアル)2016」に出展した際、食中酒や食前酒のほか料理のソース作りにも使えると評判になった「ゆず梅酒」

■事業承継における社内コミュニケーションの確立

――中野社長は理系の大学院を卒業後に大手酒造会社に就職。中小企業大学校で経営学を学び、05年に同社に入社した。そこで、15年に同社を受け継ぐまでの10年間、社内改革に取り組んでいる。

 事業承継において“今後は三代目が後を継ぐ”と宣言しても、先代が採用したり、先代と苦労をともにしたりした従業員にとっては、複雑な心境だろう。反発が起こらないとも限らない。その中で、中野社長が入社後にまず取り組んだのが、従業員からの信頼の獲得だった。

中野 頭ごなしに言ってもなかなかついてきてはくれないので、まずは自分を認めてくれる人を1人ずつ増やそうと考えました。そのためにはとにかく働き、その姿を見てもらうこと。「あれだけ頑張っているのだから自分も頑張ろう、意見くらい聞いてあげよう」と思ってもらえるように頑張りました。

中野BCでは多彩なカクテル梅酒を開発し、売り上げは7年間で25倍に急伸した

また、弊社は会社の成長とともに新卒採用を増やしてきた経緯から、20~30代前半の若手社員が多く、30代後半~40代がとても少ない年齢構成です。そのため、上司が50~60代以上のベテラン社員というケースが多く、業務の改善や新たな取り組みなどといった提案をしにくい雰囲気が感じられました。そこで、私が若手と上司のつなぎ役になって、社内の空気を変えていったのです。

 例えば、ここ数年は海外へ出張する機会が増えていますが、可能な限り社員も連れて行くようにしています。商談相手にカクテル梅酒をおいしいと評価してもらったときには、同行した社員が感激し、帰国後にそれを社内へと広めました。こうしたことは私が言うよりも、同じ社員どうしのほうが気持ちが伝わりやすく、「海外へも売っていこう」と一気に士気が高まりました。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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