~HJ HJ EYE:7~新しい「つながり」で始めるパブリックベンチャー

2016年10月26日
HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。今回は、「丸の内朝大学」や「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」などの都市、地方を問わず数多くの地域プロデュース・企業ブランディングなどを手がける株式会社umari代表でプロジェクト・デザイナーの古田秘馬さんに、中小企業が地域ビジネスに参入する際のポイントについて話を伺った。

株式会社umari 代表取締役/プロジェクト・デザイナー 古田秘馬さん

■時代は、脱「地域限定ビジネス」

――2001年から2009年までの8年間に、世の中に流通する情報の量は約2倍にも増えたと言われています(総務省情報通信政策研究所のデータより)。その一方で、本格的な人口減少社会に突入、これまでの産業構造ではありえない過渡期に入ります。古田さんは、次の時代に向かうときに何が重要であると考えますか。

古田 今は誰でも情報を発信でき、SNSで誰にでも会え、クラウドファンドでお金を集められる、そうしたツールが世界中に広がっている時代です。かつては“コンテンツありき”でしたが、一時期は“プラットフォームありき”に変わり、拡散量が増えたことで今もう一度“コンテンツありき”に戻り、何を拡散するのか、それをリアルとどうつなげられるかが問われています。

 時代の流れは別のものに変わっていくのではなく、スパイラルのように同じところに戻りながらも常に進化していると思うんです。それはあらゆる業界に通じること。団体旅行から個人旅行の時代になり、今は「やっぱり誰かと一緒に行くからおもしろい」というところに戻ってきている。しかし、それはかつての団体旅行と同じものではなく、共通の趣味を持つ仲間とのコミュニティ旅行という捉え方です。

 こうして時代が巡りながら進化していく中では、「何が正しいか」ということよりも「今はどういう潮目になっているか」を探ることが重要だと思います。

――古田さんは、都市と地域、世代などがつながる仕組みを作り、既存の関係性のなかから新しい関係性が生まれるようなプロジェクトをデザインしています。自らを「活動的にいろいろなものをつなげている地域プロデューサー」とも語っています。「つながり」は重要なワードになっていると思いますが、これはかつての地域社会にあった「つながり」とは異なり、今の時代に合うように進化を遂げた「つながり」ということでしょうか。

古田 そうですね、新しい形の「つながり」については、我々が手がけた「レストランバス」が一つの例として挙げられます。レストランバスは、高速バス事業などを行うWILLERグループと協同で運行している厨房付きの2階建てバスで、地域の料理を楽しみながら食材の生産地などを周遊するものです。すなわち、特定の地域社会をつなげる限定的なビジネスではなく、どんな自治体でも企業でも、あるいは個人でもつながることができるツールを提供するビジネスとなっています。そこが重要なポイントです。

 一時期流行したいわゆる「まちづくり」を行う企業や団体の少なからずは、自治体から助成金や補助金を受けることを半目的化していました。そこから、やはり会社として自ら利益を出していかなければ持続性がないという流れに変わり、今は地域に限定したビジネスではない、新しい形のパブリックベンチャーが出てきています。

――パブリックベンチャーと自治体や第三セクターとの違いは何でしょうか。

古田 パブリックベンチャーは、公的な領域の公益に挑戦するベンチャー企業です。自治体が行うのは公共サービスで公共施設を作りその運営を行います。第三セクターは指定管理業務や市役所業務の委託として請け負った施設の運営だけを行い、地域のブランディングや全体的な営業戦略までは考えません。パブリックベンチャーは、民が主体的に新しい取り組みにチャレンジし、現場の運営の前段階からその地域のマネジメントを行い、公共施設を作るのであればそれを核にビジネスをどのように仕掛けていくかを考えます。エンドの部分でサービスを提供することが目的ではなく、そのプロデュース全体が目的となっているのです。
そもそも自治体はセーフティーネットに徹し、主導権を握らないほうがいいというのが僕の持論です。自治体は観光に対してノウハウを持っていませんし、担当者は2、3年で異動になります。これでは長期的な視野が持てるわけがないからです。

 地方創生を「地方」だけで行うのは限界があります。自治体では単体の予算なので、どうしても自分たちの地域限定で考えてしまいますが、ビジネスとして成立させるためには、ノウハウのある民間組織が手掛ける方がいいと考えています。

■「よそ者」の目線を持つことで価値が生まれる

――古田さんが2015年11月に設立されたパブリックベンチャー「株式会社鎌倉」は、学者や実業家など鎌倉に縁のあるさまざまな業界で活躍するメンバーから構成されています。中小企業の場合、このような能力、技術がある人となかなかつながれないという悩みも多いようです。株式会社鎌倉は、その壁をどのように突破したのでしょうか。

古田 モチベーションの問題だと思います。目先のカネを考えるのか、長い目で見て地域全体のことを考えるのか。地域全体を考えている人とはつながるし、そうでない人とはつながらずに何も始まらない。ベンチャーは、あらかじめ完成形が決まっているものを作るわけではありません。試行錯誤しながら、これまでにないまったく新しいものを作ろうとチャレンジしているわけです。外側からは失敗のように見えても、僕らからするとその過程がなければ新しいものはできない。その点を理解している人や企業はつながることができるでしょう。

 それは、大企業/中小企業といった規模の差は関係ありません。大企業でもベンチャー的なスピリットを持っている企業もあれば、中小企業でも目先の補助金のことばかり考えているだけの企業もある。「中小だからできない、つながれない」というのは言い訳でしかありません。

 むしろ、地方の中小企業のほうがチャレンジしやすいという面もあります。たとえば、ラボを建てようというとき、地方であれば敷地を確保しやすいですし、しかもそこに補助金がつく場合もあります。

――古田さんが2005年に株式会社Umariを設立し、2007年には「日本一の朝プロジェクト」を手がけられ、地方創生に関わってからおよそ10年。地域プロデュースに対する企業家や関係者の意識も変わってきたかと思いますが、いかがでしょうか。

古田 若い人たちが地域プロデュースをチャンスと捉えて参入をめざすようになりました。単に起業して稼ぐことが目的ではなく、地域に関わっていたいという思いがあるようです。僕が講演会などでよく問いかけるのは、ビジネスを起こしたい地域がどういう特性を持ち、外部からどのように見られているかよく理解すべきだということ。たとえば、最もインターネット検索されている日本の温泉地はどこかご存知でしょうか。2011年までは「草津」でした。そこを抜いたのは、東京・お台場の「大江戸温泉物語」なんですよ。それを言うと多くの人が「なーんだ」と言いますが、外国人からすると「Tokyo Onsen」で検索してヒットした「大江戸温泉物語」が、日本の温泉のスタンダードになるわけです。

 各地域の人々はみな「自分たちはいいものを作っています」と言います。しかし、海外から見たらまったく認知されていないこともある。マーケティングにすべてを振り回される必要はありませんが、「誰がどのように捉えるか」を考えず、自分たちだけの視点だけで作っているケースがあまりに多い。

八面六臂、縦横無尽の活動で「つながる」に形を与える古田さん。地域創生関連だけでなく、起業やソーシャルに関心のある若い世代からも高い支持を集めている

――いかに自分たちのことを知らないか、伝えていないかということですね。

古田 地域活性に必要なのは「よそ者、若者、ばか者」とよく言われますが、「よそ者」の目線は大事。地域価値は、外からでないと見えないことが多いんです。前述した「大江戸温泉物語」を含む温泉施設を運営する大江戸温泉ホールディングスは、2015年、米大手投資ファンド「ベインキャピタル」が買収しましたが、日本人はその価値に十分に気づいていないと感じます。東京近郊でも、寂れつつあった駅ビルなどに外国の投資が入ることで再び人が集まり、その地域の価値全体が上がってくるケースが見られます。今、そういった地域価値を共創するソーシャルインパクトの視点が重要になってきています。

――もうひとつ、「地方において、どんなに良いコンテンツを頑張って作っても、交通手段がないと人は来ることができない」ということもおっしゃっています。

古田 コンテンツとインフラはセットで考える必要がありますね。レストランバスを運行するWILLERグループは、外国人向けに日本全国の高速バスやフェリーなどを予約・購入できるサイト「Japan Bus Lines」を開設したり、「京都丹後鉄道」の運営を第三セクターから引き継いだりと、さまざまな交通手段のネットワーク化を図っています。

 地域内のつながりばかり考えていると、コンテンツを作ったところで満足してしまいがち。それをどうやって発信するか、何と連携させていくか、どうやって人を呼ぶかという点が弱くなってしまいます。

■「インバウンド」を一過性のブームで終わらせない

――観光庁によると、2015年の訪日外国人旅行者数は1973万7千人。訪日外国人旅行消費額は2014年の2兆278億円から71.5%増加の3兆4771億円だそうです。東京オリンピックを迎える2020年には、旅行消費額4兆円と予測されています。インバウンドについてのお考えをお聞かせください。

古田 インバウンド推進というと、イコール六次産業振興となんとなく考えている人が多いのですが、そもそもなぜインバウンドか、そこは自治体も含めてみなさん深く考えていないんですよね。

――古田さんは、過去の講演でイタリアを例に出し、「観光客が現地で飲食したものと同じものが輸出されており、観光と輸出がリンクしている」という話をされていますね。現在、日本ではインバウンド需要の高まりに喜ぶだけで、その次のことは考えていない印象を受けます。

古田 イタリアは人口約6000万人で日本の半分ほどですが、食料の輸出額は3兆円を超えていて、5000億円程度の日本とは規模が全く違います。しかも、日本から輸出される食料はほとんどが大手食品飲料メーカーのものですが、イタリアではワインやパスタ、オリーブオイルなど、地方の中小企業による輸出の約8割を占めています。イタリア国内で醸成された食文化の価値が輸出にリンクしているのです。ここが重要なポイント。日本では「インバウンド」というと観光が中心で、輸出とは切り離されて考えられています。

 「和食」がユネスコ無形文化遺産になり、2020年に向けた一時的なブームで終わらないように、和食を通じて人が循環する仕組みをつくっておこうと、2015年に「ピースキッチン」というプラットフォームを立ち上げました。日本在住の外国人に地域のナビゲーターとして活躍してもらい、海外から日本の食の旅に来てもらう考えです。

――観光も含めて、一過性の消費者を集めるのではなく、その後も長く続く関係をつくるべきということですね。

古田 しかし、実際は地域おこしの中には、“モニターツアー”となってしまうものも多い。すなわち、お金をかけて豪華なものを作っても継続してそれに見合う対価をもらい続ける勇気がなく、「とりあえず人に来てもらうことが大事だから」としてしまう。それは、そもそもが「なんとなく補助金出たから作ってみた」というコンテンツだからです。なぜインバウンドなのか、なぜこの地域で、なぜこのコンテンツなのか、きちんと理解していなければなりません。

 「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の商売を「三方よし」と言います。しかし、実現するには「売り手」「買い手」「世間」の3つをよく知らなければなりません。地域を俯瞰する視点や、周囲の環境、時代の流れをよく見るべきだと私は思います。

<Profile>
古田秘馬(ふるたひま)さん
株式会社umari 代表取締役。プロジェクトデザイナー。東京・丸の内「丸の内朝大学」などの数多くの地域プロデュース・企業ブランディングなどを手がける。農業実験レストラン「六本木農園」や和食を世界に繋げる「Peace Kitchenプロジェクト」など都市と地域、 日本と海外を繋ぐ仕組みづくりを行う。2016年は日本各地を回る走るレストラン、”レストランバス”などをプロデュース。現在は地域や社会的変革の起業に投資など地域の経営強化に携わる。

■ 取材を終えて

時代のキーワードのひとつ、「つながる」。日常生活をふくめてその重要性は誰もが理解するところだが、ビジネスの側面であらためて「つながる」を考えた時に、具体化つまりビジネスとして成立できているひとや組織は一体どれほど存在するだろうか? 古田さんの活動をみてみると、領域や業種を超えて地域と企業/過去と現在を結び、新たな業を興していることがわかる。そして収益をあげていることがなによりも重要なポイントだ。もし経済振興がなければ、町おこしもB級グルメも「絵に描いた餅」然としてしまうからだ。「つながる」が耳障りのいい言葉になってしまわないためにどんな視点が必要なのか? 古田さんの関わるプロジェクトには多くのヒントが詰まっている。

●関連リンク

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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