■ニュース深堀り!■高付加価値を実現、IoTの養蜂革命!

2016年10月17日
IoT(モノのインターネット化)。パソコンやスマホといったデバイスのみならず、様々な製品をインターネットにつなげ、あらゆる場面で”便利さ”を増していく動きが加速している。夏の暑い日、外出先にいながらも、スマホからインターネット経由でエアコンのスイッチを入れておく――そんな生活を実現しているのもIoTの技術だ。この先進技術の導入による改革の動きが、一次産業の現場でも起きている。8月開催の「はちみつフェスタ2016」では、養蜂家のためのIoT&AIデバイス「Bee Sensing」が出展され、多くの来場者から注目を集めている。
一次産業の現場において、IoTは二つの側面を持っていると言えるだろう。第一に、生産者の利便性を増し、仕事の効率を高めていくこと。第二に、生産者と消費者を直接結びつけ、販売の促進へつなげていくことだ。

「Bee Sensing」はこの潮流の中で芽吹いた、養蜂業界におけるIoT導入の先駆者的存在だ。開発元のアドダイスでは現役養蜂家と提携。彼らの意見を取り入れながら、センサーによって巣箱の中を監視し、その情報をインターネットを通じて養蜂家などに届けるシステムをつくり上げた。

システムの導入は現在、養蜂家の抱えている問題を解決する可能性を秘めているという。その恩恵とはいったいなにか、IoTで養蜂業の何が変わるのか? アドダイス代表取締役社長 伊東大輔さんに話をうかがった。

アドダイス代表取締役社長 伊東大輔さん

■養蜂業最大のリスク”蜂の死亡”が巣箱を開けずにわかる

――まず現在の養蜂業者が抱えている問題についてお聞かせください。

伊東 ひとつは販売価格の下落で、蜂蜜本来の価値を認めてもらいづらかったこと。もうひとつが収穫量の不安定さなどがもたらす、生産性の低さです。

 蜂蜜は蜜を採ってきた花や、同じ花であっても季節が違うだけで、味わいは変わります。それがストレートに消費者に伝われば、まるでワインのような含蓄ある世界を楽しんでもらえるはずです。しかし、生産者側ではそこに労力を割くことができず、先のような付加価値を引き出せませんでした。

 Bee Sensingはこうした問題を総合的に解決できるソリューションとして提供しています。

「Bee Sensing」は親機でも重量は725gと、非常にコンパクトなシステムになっている。電源は家庭用が利用可能

――なぜ、IoTの導入でこれらの問題を解決できるのでしょうか。

伊東 蜜蜂の巣箱の中というのは、外から見ても何もわからない、ブラックボックスでした。巣箱を開けて、中を人間の目で覗いて確認する。これを内検(ないけん)といいますが、これがなければ巣箱が正常なのか異常なのか、何が起きているのかすらわかりません。そのため、蜂が全滅していたり、数が減っていたということも、起きた後でないと知ることができませんでした。

 例えば、越冬ですが、巣箱は冬の間は開けずに冬を越します。これは蜜蜂が温度が12度を下回ると寒冷麻痺で死んでしまうからですが、春になって確認すると、生き残っているか、全滅しているか二つにひとつという状態でした。

 Bee Sensingでは、センサーで巣箱の温度と湿度を常時監視して、クラウドに記録しています。異常が発見されれば、養蜂家さんのAndroidスマホに警告を飛ばすことで、養蜜蜂の危険を事前に知ることができるようにするわけです。

――これまでは、そういう危険が事前にはわからなかったんですね。

伊東 そうです。異常を事前に察知できることで、今までは不可能だった”対策”がとれるようになりました。これは台風シーズンなども同じです。内検をするにはひとつの巣箱ごとに5分から15分の時間がかかります。それを数十箱から数百箱も行なうので、丸一日、あるいは二日がかりの仕事になりました。

 巣箱の状況がわかっていれば、全数点検をしなくても、異常が起きている箱だけを確認するだけで済みます。巣箱を開けること自体も蜂にとってはストレスですから、そこに起因するリスクも避けられるわけです。

Androidスマホがあれば、生産者はいつ、どこからでもクラウド経由で巣箱の様子を確認できる

■IoT導入の先にある蜂蜜の高付加価値化

――IoTの導入が養蜂家の作業を効率化することで、そこにはコスト削減など、さまざまなメリットが考えられそうです。

伊東 具体的な効果はケースバイケースですが……。実は、養蜂業では養蜂家の移動にコストがかかることも多いです。ある養蜂家さんの例ですと、広島県内でも距離が離れた三カ所に巣箱を置いています。そのうち二カ所は島です。移動には車のガソリン代に船賃がかかります。さらに内検で全数点検すれば、一カ所の作業が一日がかりです。

 養蜂家さんによっては、移動が飛行機になるケースもあります。蜂が無事かを確認するためだけに、それだけの時間と費用をかけるのはたいへんなことですし、空振りすれば無意味に大きなコストをかけたことになります。

 IoTの導入は、目に見えるコスト削減だけではなく、見えていなかった逸失利益に対する効果明らかにすることにもつながります。

――本来なら得られていたはずの利益が可視化された、ということでしょうか。

伊東 そうですね。加えて、蜜蜂の減少や全滅を避けることも、収量の増加に寄与してくれます。

 収量という面では、このシステムを共同開発した「はつはな果蜂園」さんでは、種蜂(たねばち)から蜂を増やしていく際に、システム導入前よりも格段に大きな増加が得られたそうです。より蜂が増えるのですから、全体の収量も増えますね。

 また、農薬のこともあります。一般的に、養蜂場の周辺で農薬がまかれると当然、蜜蜂にも悪影響が出ます。周辺の農家さんとの連絡を密にとる余裕が生まれたため、農薬散布が蜜蜂に与える悪影響を避けられるよう、タイミングや規模を考慮してもらえるようになりました。

 ほかにも、蜜の品質や収量は、巣箱の周囲に良い蜜源、つまり良い蜜が採れる花があるかどうかに左右されます。IoTの導入で作業負担が軽減すれば、そうした周辺環境に養蜂家さんが手を入れられるわけです。耕作放棄地に花の種をまくといった活動も行なわれ始めています。

――今まで手が回らなかった高付加価値化の取り組みが行なえるようになったわけですね。

伊東 まさに、そのとおりです。安い輸入品と競争する中では、品質的に大きな差があっても、卸の買い取り価格が不当に安くなる場合があります。本来、手間暇かけて良いものをつくっている方が高く買われてしかるべきです。ですが、その違いをしっかり価値訴求していく余裕がなかったわけですね。

 さらにいえば、そうした価値を理解してくれる顧客の開拓もできていなかった。余裕があれば、このような問題にも時間がかけられますし、トレーサビリティについてもIoTが活動をサポートできます。

――蜂蜜におけるトレーサビリティとは、どのような情報を、どのように消費者に提供しているのでしょうか?

伊東 センサーが記録しているデータを使って、養蜂場ではどのような過程を経て蜜が集められているかがわかります。ほかにも、どんな蜜源、花から採取したのかという写真、養蜂家さん自身に関する情報の提供もひとつですね。やはり顔が見えた方が、お客様に安全・安心が伝わりますから。それがブランド化にもつながります。

 ブランドというのは信用ですが、これまでは生産現場が見えづらいため、消費者から直接の信用を得ることが難しく、価格設定交渉でも強く出られませんでした。しかし、きちんとしたトレーサビリティのもとで独自ブランドをつくれば、新たな販路を構築できるようになるわけです。

――それに対しての、消費者からの反応はいかがでしょうか。

伊東 どこの、なんという花から採れたのかということの関心が高いです。高品質化、ブランド化することで販売価格は上がりますよね。お客様はそれも納得してファンになってくださいますが、「もっと知りたい」「より納得したい」という気持ちも持たれているんです。その気持ちに応えていくことで、良い感触を得られていると感じます。
 さらに、消費者の関心を特定の花へのこだわりから養蜂場のある豊かな自然環境の魅力にシフトしていくことで、本物のハチミツの魅力を知っていただきたいと考えています。

クラウドに保存された情報は整理され、トレーサビリティ情報として消費者の持つ端末からインターネット経由で閲覧できる

■日本の養蜂業を未来につなげる

――養蜂の世界では、従事者の高齢化や後継者不足といった問題があると聞きおよびます。こうした業界全体の問題にも、IoTは寄与できるのでしょうか?

伊東 今までより負担を軽減し、働きやすい環境をつくることで、より多くの人が養蜂に魅力を感じてくれるようになればと思っています。

 養蜂業には兼業の人も多いんですね。畑作もしているとか、まったく別の業種で働いている人もいます。負担を軽減することで、こうした働き方、ライフスタイルの支援もできると考えています。

――負担が軽くなれば、高齢の従事者も事業を継続できそうですね。新規参入はどうでしょう?

伊東 もちろん若い新規参入の方もいます。そこで重要なのが、生産者の方と同時に、顧客を増やしていくことではないでしょうか。土地の魅力が詰まった蜂蜜をつくる養蜂家と、その魅力を理解して楽しんでもらえるお客様で、コミュニティができればいいですね。

――トレーサビリティとコミュニティ、その両輪で生産者と消費者を、直接結びつけるわけですね。地域のブランド化にもつながりそうです。

伊東 地域ブランドという点では、過疎地に対して「花咲かじいさん」のようなプロジェクトができると考えています。過疎地というとマイナスの印象がありますが、養蜂の観点からは、ほぼ手つかずの自然がそこにあると言えるんです。農薬の影響も少ない。そういう土地に、新たに花を植えて養蜂を起こしていくことには、ビジネスの可能性を感じます。

 蜂蜜というのは、土地によって味が変わりますから、そこで採れた蜜はその地域にしかない魅力になります。ワインのように、その土地によって違う味わいが広がっていく。養蜂はそんなおもしろい世界ですが、IoTにはそれを広げていく可能性を秘めていると思います。
<Profile>
伊東大輔(いとうだいすけ)さん
東京大学の情報通信ゼミで電子商取引・電子マネーを学び、卒業後に株式会社アドダイスを起業。従来型携帯電話へのサービス提供を皮切りに、多くのITサービスを開発。「Bee Sensing」のベースとなった、既存事業に付加することで事業をIoT & AI化するシステム「SoLoMoNデバイス」を展開している。
《久保田弥代/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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