<シリーズ> 十年で6割超の市場を失った陶磁器産業 (課題編)

2017年8月2日
HANJO HANJO の新シリーズは、コラムでおなじみの水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望についてを、課題分析編、解決戦略編、具体事例編など複数のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。第1回で取り上げるのは「陶磁器産業」です。
 HANJO HANJO の新シリーズは、コラムでおなじみの水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望についてを、課題分析編、解決戦略編、具体事例編など複数のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。第1回で取り上げるのは「陶磁器産業」です。

国内最大の産地、美濃焼/世界一の美濃焼こま犬(写真提供・(一社)岐阜県観光連盟 )

「生産動態統計年報(資源・窯業・建材統計編)」によると、台所・食卓用品を扱う陶磁器産業の2015年度の生産額は269億円、この十年余りで実に6割超の市場縮小となりました。その主要因として業界では「国内需要の落ち込み」や「中国製品など安価な輸入品の増加」を挙げていますが、本質的な問題はそこでしょうか。

 佐賀県は有田焼が創業400年を迎えるにあたり、2013~2016年度有田焼と外部のデザイナー等との各種コラボや国内外でのPR活動、各種記念事業など17の事業に総額23億円を投じました。有田焼の販売額は最盛期1991年の約250億円から2015年は84%減の約40億円にまで減少。事業では次の100年に向け、「有田焼のリノベーション」や「欧州でのリブランディング」、「世界で活躍する人材の集積・育成」が目標に掲げられました。しかし成果はといえば、輸出額では2013年の4500万円から15年8千万円へ微増するも、佐賀財務事務所がまとめた有田焼主要組合の2015年の共同販売事業の売上高は前年比0.7%減の19億5000万円。今後有田焼はどこに向かうのか、その道筋は今一つぼんやりしています。

■全国シェア5割、国内最大産地にみる陶磁器産業の現状と課題

 陶磁器産業は、1.住宅建設等に用いられるタイル、2.トイレ・洗面台等の衛生用品、3.がい子等の電気用品、4.台所・食卓用品、玩具・置物に大別されます。今回取り上げるのは 4.台所・食卓用品、玩具・置物市場です。

 この分野は小規模な事業者も多く、市場は1990年台をピークに縮小。この十年余りで台所・食卓用品は6割超、玩具・置物は9割近くの市場が失われました。最大の市場である和飲食器の生産のピークは1991年の1295億円、以降25年連続して減少を続け、2015年はピークから76%減となる301億円に減少しました(*表1)。

(表1)「生産動態統計年報(資源・窯業・建材統計編)」によると、台所・食卓用品を扱う陶磁器産業の生産額は、この十年余りで6割超の市場縮小となった。本質的な問題はどこにあるのか?

 日本最大の産地は美濃焼で知られる岐阜県。美濃焼は岐阜県南東部の東濃地方で焼かれるやきものの総称で、特別な技術を指すものではありません。その歴史は7世紀に朝鮮から技術が伝わり今の多治見市などで須恵器が焼かれたことに始まります。

 室町時代には「古瀬戸」、桃山時代には「瀬戸黒」「志野」「黄瀬戸」「織部」などの名物が焼かれた産地として名を馳せましたが、江戸時代には磁器生産に移行。明治以降は国内需要の増加や輸出拡大のため、他産地に先駆け大量産化の技術が普及。製品毎の産地分業化も進み、原料から商社まで分業・フルセット型の産地を形成、多種多様なニーズに応えられる生産販売体制を確立しました。

 2013年の工業統計調査(4人以上の事業所)では台所・食卓用品とタイル製品を合わせた出荷額全体で全国シェア51.9%を占め、モザイクタイル(85.1%)、和飲食器(39%)、洋飲食器(59.9%)で国内最大の産地となっています。

 ただ2012年末現在、県内13の産地にある394の事業者の約9割は食器等の製造を行う小規模事業者です。全国シェアは増加しているものの出荷額や事業所数はピーク時の約4分の1に減少。県内製造業に占める割合は年々減少し、事業所数で6.5%、出荷額で2.3%という現状です。

■課題1 産地構造と市場の変化

 公益財団法人岐阜県産業経済振興センターでは「陶磁器産業(平成27年度)」において美濃焼の現状を次のように分析しています。

 まず挙げられるのが産地構造変化。大量生産に適した原料採掘から販売まで細分化された分業システムが需要や事業者の減少により立ち行かなくなったこと。加えて陶磁器産業が抱える問題として「食文化や生活様式の変化、家庭内での飲食器の飽和状態などによる内需の減少」と「中国製品などの輸入品の増加がほぼ同時に進行したこと」を挙げています。

 特に美濃焼は中国から大量に流入した安価な大量生産品と競合、2014年の飲食器の輸入金額284億円のうち中国は59.2%、168億円を占め、同年の岐阜県産145億円を大きく上回りました。ただ近年は人件費の上昇と円安の進展により中国製品にかつての割安感がなくなり、2014年kg当たりの価格は岐阜県産が中国産を上回りました。依然として脅威ではありますが、100円ショップ等では徐々に日本製にシフトしているといいます。

 一方、分業・専門化の深化は業界全体を取り巻く環境変化への関心度を低下させ、対応が遅れたという指摘もあります。志野、黄瀬戸、織部といった歴史的名品が揃う「美濃桃山陶」は歴史・芸術的価値は最高峰で、志野や瀬戸黒には人間国宝もいますが、大量生産の美濃焼の認知度は低く、ブランド力はありません。

国内最大の産地、美濃焼/どんぶり会館(写真提供・(一社)岐阜県観光連盟 )

■課題2 原材料の不足

 一方、近年深刻な問題となっているのが窯業原料の不足です。かつて良質な陶土を産出したことで陶磁産地として発展してきた美濃焼ですが、近年は陶土を採掘する鉱山の閉山や休業が相次ぎ、陶土が自給できず、その多くを県外の産地や事業者に頼るのが現状です。

 生産減と単価下落のしわ寄せが川上の粘土鉱山を直撃、2009年以降主要鉱山が相次いで閉山に追い込まれています。1992年には県内に59の鉱山がありましたが現在稼働しているのは8鉱山のみ、原料の埋蔵量は十分あるものの、食器は瀬戸など県外産に頼っています。ただ土の枯渇化は瀬戸でも叫ばれており、瀬戸では2013年から土の供給制限(従来の2~3割減)を行っています。

 原材料となる陶土は原料メーカーが複数の粘土をブレンド製造しており、鉱山が減少すればブレンドする粘土の多様性が失われ、品質にも影響します。想定される対応策としては粘土ではなく陶石を使用する案や再生原料の使用案などが挙がっていますが、消費者からみると特別な製法を持たず、材料も県外産だとするとそのやきもののオリジナリティはどこにあるのか、差別化される価値が分からなくなります。

■課題3 経営者や職人の高齢化や後継者不足

 また人材不足も大きな問題です。岐阜県には4つの公的なやきものに関する専門機関がありますが、多くは基礎研究や技術に関連するものでデザインやブランディングに関するものは見当たりません。

 やきものの人材育成を行う多治見市陶磁器意匠研究所は1959年に地元の陶磁産業振興目的に設立。デザインコース、技術コースなど3コースを有し、卒業生は800人を超え陶磁器デザイナーやクラフト作家、陶芸家として活躍していますが県出身者はわずか。卒業生が地元に残らないという現状もあります。

 陶磁科学芸術科を有す岐阜県立多治見工業高校には100年以上の歴史があり、人間国宝も輩出していますが、やきもの産業には大量生産の日用品等の工業製品の製造業とは別に、伝統的な技法を守る職人やアート作品などを生み出す個人の作家もいます。

 工業製品は分業化により互いに自分の工程以外は分からず、産地ですら美濃焼を全て把握することは難しく、どこまでを美濃焼と称するかも定まっていません。岐阜の商社が販売するものに中国製品が含まれるなど美濃焼にこだわらない業者もいます。こうした大量生産型の事業者と作家志向の卒業生には当然認識にギャップがあり、美濃焼にこだわらない卒業生も多いといいます。

■課題4 「伝統工芸」と「工業製品」

(表2)伝統工芸とは伝産法の指定で「主要工程が手作業中心(手工業的)であること」、「100年以上の歴史をもつ伝統的な原材料を使用したもの」などの要件を満たすもの差す。この条件を純粋に満たす事業者が今産地にどれだけ存在するのだろうか?

 さて日本の陶磁器産業を遡上に挙げる際、業界からはよく「同じ陶磁器といっても伝統工芸と工業製品を一括りにして語ることはできない」という声を聴きます。とはいえ出口の見えないこの長きに渡る低迷を見るにつけ、それで問題は解決するのだろうかという疑問も沸きます。

 現在、日本のやきものの産地で「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づく伝統工芸品に指定されているのは31カ所。伝統的な工芸品の2009年度の生産量は1位繊維製品588億円、2位陶磁器213億円、3位漆器173億円の3つで974億円(76%)を占めます。

 伝統的工芸品産業振興協会によれば、伝統的工芸品産業の生産量はピークの1983(昭和58)年度には5,400億円でしたが、2009年度には4分の1以下の1,281億円へ減少、2012年度は1,040億円にまで落ち込みました。企業数もピークの1979年3万4千(従業員数28万8千人)から2009年度には1万5千件(従業員数7万9千人)へ、企業数は半分以下、従業員数は約4分の1に減少しています。

 伝統工芸とは伝産法の指定で「主要工程が手作業中心(手工業的)であること」、「100年以上の歴史をもつ伝統的な原材料を使用したもの」などの要件を満たすもの差しますが、この条件を純粋に満たす事業者が今産地にどれだけ存在するのか。若手作家も必ずしも伝統を担うものではありません(*表2)。

 近年は地域資源を活用した地域ブランドづくり、地域ならではの特産品や新たな観光開発が活発になり、国内市場が縮小する中、輸出やインバウンドなど海外市場にも活路を見出し、業界全体で攻めに出る取り組みも少なくありませんが、陶磁器産業だけはその埒外にあるようにも見えます。

 企画や販売を担う商社機能の弱体化もいわれていますが、サプライチェーンはどうなっているのか。モノからコトへのシフトが鮮明になる中、新たなビジネスモデルの構築も求められるところです。

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執筆者: 水津陽子 - 
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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