バスツアーも「超豪華バス」の波。高速バスとの違いは?

2017年7月19日
首都圏~京阪神を結ぶ夜行高速バスに、「完全個室」などの超豪華車両の登場が相次いでいることは以前ご紹介した。実は、都市間を結ぶ夜行高速バスのみならず、旅行会社が企画するバスツアー用の貸切バスの分野でも超豪華バスが続々と登場している
 首都圏~京阪神を結ぶ夜行高速バスに、「完全個室」などの超豪華車両の登場が相次いでいることは以前ご紹介した。実は、都市間を結ぶ夜行高速バスのみならず、旅行会社が企画するバスツアー用の貸切バスの分野でも超豪華バスが続々と登場している。

 例えば、昨年夏に運行を開始した神姫観光バスの「ゆいプリマ」は、乗客定員を18人(一般的な貸切バスは約45人)に絞ったほか、内外装のデザインを、JR九州の観光列車などで実績のある水戸岡鋭治氏に依頼。木をふんだんに使った内装は、バス車内とは思えない重厚さである。荷物棚やテーブルといった座席周りの作りは、バス用の厳しい「車両保安基準」を遵守しつつも大変工夫されているし、雨天時の立ち寄り観光の際に貸し出される傘など小物類も「水戸岡デザイン」で準備するなど細部までこだわっている。

 この車両は、法令上の分類は「貸切バス」ではあるが、神姫バスグループの旅行会社、神姫バスツアーズによる最上級の旅行ブランド「真結(ゆい)」の専用車両である。強いこだわりは車両に限った話ではない。シャンパンでの乾杯から始まる旅の演出も、「団体客お断り」のはずの宿に宿泊するなどコースの内容にしても、従来の「バスツアー」のイメージを覆す。

超豪華バス「ゆいプリマ」の内装。地元産の本革座席

車両後部のサービスコーナー。冷蔵庫にはシャンパン

 この種の超豪華バスは、はとバス「ピアニシモ」など以前から事例があったのに加え、昨年夏から「三越伊勢丹プレミアムクルーザー」(三越伊勢丹旅行のツアー専用車両)、「JTBロイヤルロード・プレミアム」(JTBの高級ツアー専用車両)、「サミットV.I.P」(阪急交通社の高級ツアー専用車両)、「ロイヤルクルーザー 四季の華」(クラブツーリズムの高級ツアー専用車両)など、新規導入や代替わり(さらに豪華化)の発表が相次いでいる。

 専用車両を用意し、ツアーの中身までこだわった高級バスツアーの隆盛と、以前にご紹介した高速バスでの豪華バスブームと比較すると、いくつかの面で違いがある。

 都市間輸送を担う高速バスの場合、提供する機能は単純な「移動」である。所要時間という最重要指標で鉄道や航空に劣る以上、いくら車両を豪華にしてもそれらを上回る価格設定では集客が困難だ。また、話題になるような豪華車両を求める路線は(高速バス市場のほとんどを占める短・中距離の昼行路線ではなく)長距離の夜行路線に限られるので、専有空間の広さやプライバシー確保など機能性は追求するが、華やかなデザインは必要とされない。

 それに比べバスツアーの場合は、宿泊先などツアー内容にも徹底的にこだわって「2泊3日で30万円」など強気の価格設定が可能である。昼間に車窓を楽しみながら移動するので、「寝るだけ」の夜行高速バスに比べると内装も華やかだ。「このバスに乗って旅行してみたい!」と思わせる車両は、したがって、高速バスではなくバスツアー専用車の方だ。
 次に、事業という観点で見ると、高速バスの場合は規制緩和による新規参入容認が商品多様化の大きな端緒となった。ちょうどウェブマーケティングが普及し、市場の新規開拓が進むと同時にウェブ画面上で座席の写真やレビューなどを比較しながら予約する習慣が生まれたことで、各社は競って商品を多様化させた。今後は、「女性専用車両には女性運転手」など、ソフト面での競争も考えられる。

 だが、バスツアーの方はいわば「背水の陣」だ。国内の旅行者はどんどん成熟しており、かつ自家用車の普及などもあってバスツアーの存在感は漸減し続けてきた。それでも、2000年の貸切バス分野の規制緩和により貸切バス運賃(旅行会社から見ると仕入れ値)が一気に低下したことを機に、無店舗販売(DM送付と電話予約)によるコスト減と合わせ、ここ10年ほど、「格安」を武器にバスツアーは復権していた。一時は、バスで終日あちこちの観光地を巡り、ブッフェ形式の昼食が付いて3,980円といった格安ツアーも多くみられた。

 筆者は、その動きを否定的に見続けてきた。総花的なツアー行程により幅広い集客(さらに言えば、キックバック集めも)を目指すため、短い滞在時間で数多くの立ち寄り観光を繰り返す。その旅行内容が、本当の意味で旅行者に満足感を与えているとは感じられなかったからである。当の旅行会社(バスツアーの大手)の企画担当者からも、駆け足で多くの観光地を回る自社のツアーを「市中引き回しの刑」と自嘲するのを聞いたことがある。

 ところが、関越道(2012年)、軽井沢(2016年)と、貸切バスの残念な事故が続いた(注)。どちらも、旅行会社が、発注先に当たる貸切バス事業者の質に無頓着で、法令遵守意識や安全意識が極端に不足している悪質なバス事業者を利用していた点と、その発注価格があまりに低かったことが社会から非難された。それを受け、貸切バスの運賃・料金制度が改正され、貸切バス運賃が大幅に上昇した上、立ち寄り箇所が多いほど金額が上乗せされる仕組みになった。また、その新制度では、通年での契約を行えば一定の割引が可能であるため、多数の事業者を都合よく使うのではなく、信頼できる事業者に発注を絞る動きも始まった。
「低価格」だけを売りにしたバスツアー企画は困難となったため、これまでの総花的なツアーは減少し、テーマ性の大きい行程や、車両の快適さを謳うツアーも増えてきたように感じられる。その象徴が、超豪華車両を利用する高級ツアーに、三越伊勢丹旅行など富裕層特化の旅行会社に加え、総合大手旅行会社もが注力し始めた点だと言える。事故が端緒となったのは残念ではあるが、また、格安商品の減少により市場が短期的には縮小するものの、ターゲットに合わせ「分化」し「深化」したツアーが増え始めたことは、バスツアー市場の将来においてプラスとなろう。

 少し残念なのは、そのような変化が始まってもなお、これらのツアーの主なターゲットが「団塊の世代」であることだ。我が国のバスツアー市場は、「団塊の世代」とともに年齢を重ねてきた。彼らが定年退職し、自由に使える時間とお金が今、最も大きくなっていることの表われが高級ツアーのブームなのだとしたら、バスツアー市場は次なる顧客と未だ出会えておらず、「団塊の世代」と心中しようとしているかのように見える。

 旅行者の成熟とともに個人旅行化が進展し、発地型のバスツアーから、クルマ旅行や着地型ツアーに転換する動き自体は止められないだろう。それでも、例えば寺社や美術館の貸切拝観・見学のように個人旅行では味わえない深い旅行体験を提供することができればさえ、クルマを自ら運転しない層を中心に、バスツアーは一定の存在を維持することができるはずだ。そのためにも、旅行会社が強い危機感を持ち、「団塊の次」のターゲットを早く見つけ出すことを期待している。

注)
関越道、軽井沢の両事故は、どちらも、厳密には、いわゆる「バスツアー」での事故ではない。前者は「高速ツアーバス」、後者は「スキーバス」。本稿が採りあげる、バスガイドが同乗し立ち寄り観光を行うバスツアーとは異なるが、募集型企画旅行として催行され貸切バスをチャーターするという形態は共通であり、貸切バスの新運賃・料金制度や、万一の際にバス事業者に加え旅行会社も責任が問われることが業界共通の認識となったことは、むしろ「バスツアー」のあり方に大きな影響を与えた。

●関連リンク

執筆者: 成定竜一 - 高速バスマーケティング研究所株式会社代表
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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