ブランディングに失敗した日本遺産の活かし方

2017年6月1日
「日本遺産」というネーミングは、「〇〇銀座」のような二番感、バッタものの匂いが否めません。ブランティングで重要なことは、コンセプト。日本遺産の最大の価値とは何か、それはこれまで埋もれていた魅力ある地域資源の発掘であり、その情報が提供されることです。
 平成27年度スタートした「日本遺産」の認定制度。平成29年度までの認定件数は全国で57ありますが、知名度はほとんどないのが現状です。第一期15件が認定された際はメディアでも注目され、大手旅行会社等では日本遺産の情報をまとめた専用サイトを設けるなどしましたが、現在のところ日本遺産ツアーを組んでいる旅行会社は皆無。ニュースソースで探ってみても日本遺産効果の画期的な事例は見当たりません。

 所管する文化庁は、日本遺産認定の効果について当該地域の認知度が高まるとしていますが、肝心の日本遺産の認知度が地の底を這っている状況ではその効果もほぼ期待できません。日本遺産は完全にブランディングに失敗しており、ブランド力は「〇〇百選」レベルに甘んじています。

 一方、認定された地域はといえば、こちらも所管するのは文化財課など、ブランディングやマーケティングとは無縁の部署、正直「認定」がゴールになっている感が否めません。

 文化庁では様々な取組を行うことにより地域のアイデンティティの再確認やブランド化等に貢献し、地方創生にもつながるとしていますが、大方は日本遺産のホームページやパンフレットや日本遺産マークを入れたガイドマップの製作止まり、肝心の地域の受け皿整備などは手つかずのまま、日本遺産を活かす戦略は見えてきません。

 では、日本遺産は全く使い物にならないかといえば、そうではありません。

耶馬渓や青の洞門で知られる大分県中津市。古羅漢(ふるらかん)は今年4月文化庁の日本遺産「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく」に登録された構成資産の一つ

■地域活性化は、売れない芸人をブレイクさせるのと同じ?

 そもそも「日本遺産」というネーミングからして、「〇〇銀座」のような二番感、バッタものの匂いが否めません。ブランティングで重要なことは言うまでもなく、コンセプト。日本遺産の最大の価値とは何か、それはこれまで埋もれていた魅力ある地域資源の発掘であり、その情報が提供されることです。

 一方、その情報は一般の目にほぼ触れることなく、ほとんど活用はされていません。原因の一つは、日本遺産が点在する遺産を面として活用・発信するとして、文化財群をストーリーとしてパッケージ化、一体的にPRしようとしていること。

 そのストーリーのタイトルを見ると、「近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源」、「信長公のおもてなしが息づく戦国城下町」など、一見して具体的なイメージが思い浮びません。

 制度は世界遺産を下敷きにしたと思われますが、世界遺産は資産の保護を目的とするもの。情報を敷衍伝播するなら異なるロジックが必要です。地域活性化は、売れない芸人をブレイクさせるのに似ています。知名度をアップさせるための話題づくりの手法はいろいろありますが、一つはキャラ立て。それをどう魅せたら衆目を集めることができるか、情報は爆発的に拡散するか、徹底してその戦略を考える必要があります。

 たとえば、今年4月第三期で認定された17のストーリーの一つ、54番目の「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく」(中津市・玖珠町)の中に「古羅漢(ふるらかん)」という構成文化財があります。中津市は青の洞門や耶馬渓などが有名ですが、古羅漢はこれまで地元でもほとんど注目されていませんでした。

 実は今年2月大分県中津市に招かれた際、偶然、そのユニークな景観に出会い、目を奪われ、「陸の軍艦島か日本のマチュピチュか! 神秘なる中津・耶馬渓で穴場絶景」というタイトルで特集記事を執筆しました。するとこのキャッチーなタイトルと目を惹く画像に反応して記事は高い注目度を示し、アクセス数は1ヶ月間に渡りトップクラスをキープ、過去にないほど読まれました。注目を集めるには刺さるタイトルと訴求力のある絵が不可欠です。

 ただ、これを文化庁や宣伝下手の地方、中でも文化財課に期待するのはやや酷です。ではどうするかですが、もう答えは出ていますよね。要は発信するより、発信する人の役に立てということ。

 訪日外国人を含め、今は「絶景」や「SNS映え」は一二を争うヒットワードとなっています。絶景を探している人、SNS映えするユニークな場所やモノを探している人が情報を探すポータル(港)となることです。

 まあ、日本遺産の古羅漢の項を見ても刺さる説明や訴求力のある画像はなく、課題はその情報をどう打ち出すかにあるわけですが、見方を変え、やり方を変えれば、これが地方創生に繋がる道もまた見えてきます。

<参考記事>
マイナビニュース「陸の軍艦島か日本のマチュピチュか! 神秘なる中津・耶馬渓で穴場絶景」
http://news.mynavi.jp/articles/2017/04/10/yabakei/

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執筆者: 水津陽子 - 
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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