「爆買いツアー」終焉で貸切バス需要が急減、バス業界の今後は?:2

2017年5月29日
インバウンドの旅行形態が昨年から急速に変化した。1.個人化 2.全国化 3.体験化した。バス業界では、貸切バス分野が失速し、インバウンド対応の主役が高速バス分野へと交代しつつある。では、貸切バス事業者にとってマイナスばかりなのだろうか?
 インバウンドの旅行形態が昨年から急速に(もっとも、以前からも着実に)1.個人化(団体ツアーからFITへ) 2.全国化(ゴールデンルートから「より深い日本」へ) 3.体験(いわゆる「コト消費」)化 したことで、バス業界では、貸切バス分野が失速し、インバウンド対応の主役が高速バス分野へと交代しつつあることを前回のコラムでご紹介した。

 読者の方から「貸切バス事業者らは、今後順調に高速バス分野にシフトできそうか?」とご質問をいただいたが、実は、それはとても困難だ。B to B事業である貸切バス(旅行会社などにチャーターされ、その希望通りに運行)と、B to C事業である高速バス(都市間など特定の区間を毎日、決まったダイヤで運行。商品設定や集客は自らが行う)とでは、事業者に求められる機能や体力が全く異なる。それに、後者では、その運行に必須である「停留所」の新設が容易ではなく、事実上「既得権」に近い意味合いを持つからである。

 それでは、上記1~3の変化は、貸切バス事業者にとってマイナスばかりなのだろうか? 従来の「ゴールデンルート」の「爆買いツアー」に代わる市場は生まれないのか?

 出発地(海外旅行の場合は母国。国内旅行の場合は大都市など)側の旅行会社が造成(企画)して集客し、出発から帰着まで全旅程を同行する「発地型ツアー」が失速した分、今後の成長が期待できるのは、当然のことながら「着地型」の旅行商品だ。一口に「着地型」と言っても定義は様々だが、ここでは広義に捉え今後のバス業界の成長可能性を考えたい。

 発地型ツアーの場合、一つの消費地(発地)だけを市場としてツアー(一つの目的地)を造成しないといけない。市場が小さい分、どうしても総花的で中庸な商品内容となってしまう。訪日であれば「ゴールデンルート」であり、かつての日本人の海外旅行で言えば「ロンドン、パリ、ローマ8日間」である。催行の頻度も大きくなく、「毎日出発」など現実的でない。だが、旅行者が成熟し交通手段も多様化していることから、自身の希望に添った旅程(日程および内容)でないと満足せず、個人旅行化が進展している。

 その結果、目的地に到着後、現地で参加する着地型ツアーの充実が求められる。むろん、公共交通やレンタカーを活用し全旅程を個人行動する旅行者も多い。だが、海外旅行の場合は言葉などの不安なく効率よく観光するため、また国内旅行の場合はより深い旅行体験(専門家によるガイドや、日常で経験できないスポーツ体験など)を求め、旅程の一部を現地でツアーに参加するのである。我が国における最近の事例をいくつか挙げると以下の通りだ。

 本年4月、JTBグループは、同グループに属するスペインの旅行会社が欧州を中心に展開中の「SIC(Seat in Coach)」という商品群を日本にも導入すると発表した。SICは、貸切バスで周遊観光しながら別の都市へと移動するバスツアーで、ルート単体での乗車も、また複数ルートを乗り継ぎ長い旅程を組むこともできる(同社は「乗合型観光バスツアー」と称しているが、バス業界では「乗合」は別の意味を持つので「混乗型観光バスツアー」の方が業界に受け入れられやすいだろう)。旅程中に宿泊を組み込みガイド同乗の貸切バスで観光地を巡る形式は「発地型ツアー」に近いが、様々な国から集客できる分、多様な商品を設定でき、旅行者自らが選択し組み合わせられるので、旅程の自由度はある程度担保される。

 また、音声対話の自動化を得意とするIT企業、フュートレックが本年1月から本格展開を開始した自動ガイドシステム「U・feel」は、GPS技術を用いて詳細な位置情報を元に多言語での観光自動ガイドを実現している。定期観光バスまたは着地型のバスツアー(乗客はイヤフォンのチャンネルを選択し母国語で案内を聞ける)、観光タクシー(車載オーディオ機器に接続し乗務員が乗客の母国語を選択する)などでの利用が想定されている。

 我が国では、かつて、主な都市や観光地では必ず定期観光バスが運行されていた(当時は、当然、邦人観光客がターゲットだった)。だが、クルマ旅行や発地型のバスツアー隆盛により、はとバスなど一部を除けば衰退した歴史がある。いま、FITの増加で、東京や京都以外でも、定期観光商品が、それも多言語対応で復活する可能性が生まれているのだ。

 狭義の着地型ツアーの事例も増えつつある。地域をよく知る地元の会社が、地元密着のガイドらを活用して企画実施する日帰りツアーである。これは、FITというより、旅の目的が個人ごとに「分化」し「深化」する邦人観光客が中心だ。例えば熊本県の天草では、地元バス事業者の小型バスを上手に活用し、「天草ぐるっと周遊バス」が3コース設定されている。「キリシタン」をテーマにしたコースでは、大型バスでは入ることができない小さな集落の教会堂を、地元在住のボランティアガイドが詳しく案内してくれる。クルマ(自家用車、レンタカー)旅行では味わえない知識が得られるのだ。

 このように、ターゲットの絞り込み方には様々な大小感があるが、「発地の旅行会社が旅程を作成し集客し送りだる(貸切バス事業者はチャーターされて運行するだけ)」という従来のスタイルから、「着地側で用意された商品に向かって、旅行者が世界から(時には地元から)集まってくる」という形態に変化しつつあるということだ。

 もっとも、本格的に普及するには、これらの商品向けの流通網の完成を待たねばならない。主要観光地では、もともとJTBグループが「サンライズツアーズ」ブランドで着地型ツアーを運営しているし、小規模プレーヤーによる体験型ツアーなどを検索、予約できるウェブサイトも充実しつつあるが、以前のコラム(「社会的行為」から「個人的体験」へ。変化を迫られる観光)で書いたように、公共交通や着地型ツアー、宿泊などの個別の素材を一般旅行者自身がうまく旅程に組み上げる「プランニング」過程の支援がまだ不十分なのだ。だが、そのボトルネックさえ解消し、商品と流通の「両輪」が回り始めれば、着地型ツアーは加速度的に充実するだろう。

 その時、この国の旅行市場で大きな存在感を持つのは、いったい誰だろう? 結局は旅行会社が企画集客して、貸切バスをチャーターして運行しているのだろうか(つまり貸切バス事業者は言われた通り走るだけ。それも、既存・大手の旅行会社が主体だったりしたら、結局は何も変わっていない)? あるいは、地元の強みを活かした商品を造成し、新しい旅行流通を上手に活用して集客する地元の旅行会社が登場したり、バスやタクシーの事業者が自らその立ち位置に名乗りを挙げたりするのだろうか? それとも、グローバル展開するIT企業などが流通網とともに現地サプライヤーを組織化したりするのだろうか?

 旅行業界、貸切バス業界ともに、従来のままでは生き残れないことが予測されるだけに、変革を主導するプレーヤーの登場に期待している。

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執筆者: 成定竜一 - 高速バスマーケティング研究所株式会社代表
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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