年間赤字1億の宿を90日で再生! 大手も手つかずの小規模宿再生術/ワールドリゾートオペレーション

2018年3月5日
インバウンドブームですが、リゾートホテルや旅館の客室稼働率は低く、旅館は平均で37.1%と低迷。リゾートホテルや旅館の再生を手掛けるワールドリゾートオペレーションの宿再生の取組から地域がこうした状況を打破するには何が必要かを考えます
 全国でリゾートホテルや旅館の再生を手掛ける株式会社ワールドリゾートオペレーションは2018年3月1日、同社17番目の直営施設として熊本県山鹿市に「ゆとりろ山鹿」をリブランドオープンさせました。

2018年2月「山鹿ニューグランドホテル」をリブランドオープン(プレオープン)した「ゆとりろ山鹿」。伝統工芸の山鹿灯籠の金灯籠をつけ、来民渋うちわで楽しむ灯籠温泉卓球(画像提供/ワールドリゾートオペレーション)

 2009年箱根強羅で年間1億円の赤字を出していた宿の再生をわずか90日で達成したのを皮切りに、箱根や伊豆、熱海など首都圏の人気温泉地に加え、北海道や中国四国など全国で事業展開。

 対象はホテルや旅館に留まらず、利用者の減少に苦しむ企業や自治体所有の保養所にも及び、大手も手を出さない小規模宿の再生も得意とし、過去にはわずか8室の宿をじゃらんなどの旅行予約サイトで高評価を得る人気宿に生まれ変わらせた実績も持ちます。

 インバウンド市場の拡大を受け、東京・大阪等の人気エリアでは高い客室稼働率から予約困難や価格高騰が問題となっていますが、多くの地域では一部のビジネスホテルやシティホテルを除き、厳しい状態が続いています。

 中でもリゾートホテルや旅館の客室稼働率は低く、特に旅館は全国平均(2017年「宿泊旅行統計」確定値)で37.1%と低迷、トップの東京都でも59.8%に過ぎません。また都道府県別の客室稼働率ランキングで最下位となった長野県は首都圏からのアクセスの良さが逆目に出てか、35.1%と46位の福井県の40.4%と比べても5%以上の差をつけられる危機的状況です。

 今回は同社の宿再生の取り組みから地域がこうした状況を打破するには何が必要かを考えます。

■年間1億円の赤字宿が90日で再生できたワケ

「ゆとりろ山鹿」の外観(画像提供/ワールドリゾートオペレーション)

「ゆとりろ山鹿」の内観(画像提供/ワールドリゾートオペレーション)

 ワールドリゾートオペレーションは福利厚生アウトソーシングサービスやシニア向け個人会員制生活総合支援サービス会社を傘下に持つ持株会社リログループの100%出資により2009年9月に設立されました。宿再生の1号となる「メルヴェール箱根強羅」を開業したのは物件を取得した同年11月。

 2009年1月に同ホテルを経営していたデベロッパーが倒産。当初、宿は年間約1億円の赤字経営に陥っていましたがこれをわずか90日という短期間に黒字化。それを実現したのが現社長で宿経営においては当時素人同然だった田村佳克氏でした。

 田村氏は以前から苦境に陥る宿経営者から何とかしてほしいという声を聞いていましたが、ひとり支配人として現地に送り込まれて見た宿泊業の現場は、組織は縦割りで古い慣行がはびこり、いまだに勘や経験に頼った経営が当たり前に行われていました。

 そこで田村氏が行ったことは現在の同社ビジネスモデルの基礎にもなっている(1) 従業員の意識改革、(2)物件特性を見定めたコンセプトメイクでターゲットを明確にして顧客満足を上げ、(3) 食材等仕入れの見直しによるコストダウンで収益改善を図ることでした。

 こうした改革に現場の反発は激しく、田村氏は従業員の殆どを敵に回す事になったが、方針を曲げることなくこれらを徹底。同社の強みである同社社員が担う予約コールセンターや物品購入、集客等、ホテル運営に必要な業務や機能を東京で集中管理。宿の従業員にはマルチタスクを課し、食材調達における料理長の既得権益をなくすことで、顧客満足を上げるおもてなしに特化させました。

 集客ではリログループが持つ約1000万人の会員・顧客組織が力を発揮、特に平日の稼働率アップに寄与しました。これにより同社取得前と比較し、売上高は約4.1億円増加。販売実績により2012年より2年連続して楽天トラベルアワードを受賞、箱根の人気宿の地位を確立しました。

 この成功要因として田村氏はこうした改革は、自分が素人だからこそ業界の常識に囚われずできたと語っています。

再生を手掛けたワールドリゾートオペレーション田村佳克氏

■日本全国を旅する、新たなブランド「ゆとりろ」

 また現在、同社では箱根や伊豆を中心に展開するトップブランド天翠のほか、全国各地の個性あふれる小規模旅館を集めた「ゆとりろ」ブランドに力を入れています。

 ブランド名の「ゆとりろ」は温泉(YU)と(TO)、日本全国を旅する(リロケーション)をかけたもので、現在全国で6施設を運営。エリアも北海道、信州、熊本、熱海や箱根などの首都圏に限りません。

 「ゆとりろ山鹿」は旧名「山鹿ニューグランドホテル」、2017年9月同社に事業譲渡された後、2018年2月1日にプレオープン、3月1日にグランドオープンを迎えました。

 「ゆとりろ」ブランドは良質な温泉、喧騒を避け、ゆっくりと時間が流れる小規模な宿、地産の美食、そこでしかできない体験を魅力に謳うものです。

 山鹿市は箱根や熱海に比べて知名度が低く、アクセス面では鉄道はなく、最寄りのJR玉名駅からバスで50分という不便な立地にありますが、とろけるような美肌の湯、古い町並みが残る山鹿散策など、魅力的な観光資源も多く、館内では山鹿遊びと呼ばれるここでしかできない個性的な体験を多数用意しています。

 たとえば、室町時代から伝わる山鹿の伝統的工芸品「山鹿灯籠」。その中でも煌びやかな金灯籠を頭に掲げ、江戸時代初期から地域に伝わる「来民渋うちわ」をラケット代わりにした灯籠温泉卓球や同じく金灯籠を被って行うビリヤードでその名も「美リヤード」と女子受けしそうなビジュアルとネーミング。話題のSNS映えも必至のコンテンツです。

 このほか、館内には阿蘇外輪山に源を発する清流、菊池川を望む「焼酎バー」、ロビーでは囲炉裏でマシュマロ焼きなども楽しめます。

 ゆとろりのブランドコンセプトである「Re-Location(リロケーション)」は日本全国を旅する・結ぶことを指しており、今後もエリアや物件にこだわりはなく、同社コンセプトに合致し、手を挙げる地域や物件があれば、全国にこのネットワークを広げていきたいといいます。

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執筆者: 水津陽子 - 
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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