アサヒグループホールディングス会長 泉谷直木氏に聞く①/新しく始まった「経営デザイン認証制度」とは?

2018年5月9日
顧客価値を創出するための、卓越した経営。それを実践するロールモデルとなる組織・団体を表彰するのが、1995年に設立された「日本経営品質賞」です。この活動を支える経営品質協議会の副代表を務めるのが、アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長の泉谷直木氏です。前編では日本経営品質賞に取り組む意義や目的と2018年度より新しく始まる「経営デザイン認証制度」について、そして、後編では変革の時代に多くの課題に直面する中小企業経営者が持つべき考え方や信念について、お話しを伺います。
顧客価値を創出するための、卓越した経営。それを実践するロールモデルとなる組織・団体を表彰するのが、1995年に設立された「日本経営品質賞」です。この活動を支える経営品質協議会の副代表を務めるのが、アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長の泉谷直木氏です。

泉谷氏は広報部長を歴任し、「スーパードライ」の大ヒットを広報戦略から支え、同社を1998年に国内ビール市場トップに帰り咲かせた立役者の一人としても知られています。また、1997年度の日本経営品質賞を同社(当時「アサヒビール株式会社」)が受賞した際には経営企画部長として応募から受賞までの実務を担当されました。

そんな泉谷氏に、前編では日本経営品質賞に取り組む意義や目的と2018年度より新しく始まる「経営デザイン認証制度」について、そして、後編では変革の時代に多くの課題に直面する中小企業経営者が持つべき考え方や信念について、お話しを伺います。

アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長の泉谷直木氏。卓越した経営を実践するロールモデルとなる組織・団体を表彰する「日本経営品質賞」の活動を支える経営品質協議会副代表も務める

アサヒビールと「日本経営品質賞」

――97年度の日本経営品質賞をアサヒビールは製造部門で受賞されています。なぜ日本経営品質賞に関心を持たれたのでしょうか。

日本経営品質賞では、「リーダーシップ」「社会的責任」「戦略計画」「組織能力」「顧客・市場の理解」「価値創造プロセス」「活動結果」「振り返りと学習」という8つのカテゴリーから、経営全体をアセスメントすることが求められます。

アサヒビールは、シェアが下がり非常に苦しい時代もありました。そうした時に「シェアを何とかしろ」という声があがります。しかしそれは本質的な話ではありません。企業の考え方や開発力の低下などに原因があり、業績が下がっているというのが本質的課題です。その本質的な課題を掴み対策を打つということが非常に重要です。経営環境あるいは経営自体において非常に複雑な要因が絡み合っている中で、全社視点から総合的な対策を打つためには経営品質の仕組みが有効だと判断をしました。

また、単に賞をとること自体が目的ではありませんでした。社内で進めてきた改革を客観視することによって、社員の新たなる求心力になるのではないかということ。そして、賞へ応募した後も必要に応じて改善を加えていくことによって持続可能性の高い企業になりうるのではないかということが、取り組みの狙いとしてありました。

――泉谷さんは現在、経営品質協議会の副代表を務めています。その立場から日本経営品質賞の意義、その活用方法を教えてください。

日本経営品質賞では、継続的な経営革新により「卓越した経営」を行うことを目指すべき姿としています。それを実現するための基本理念として、「顧客本位」「独自能力」「社員重視」「社会との調和」という4つの要素があります。その中でも「顧客本位」という要素が一番重要です。顧客に対してきちんとした価値が提供できているかどうかということですね。提供する側ではなく、受け取る側、すなわちお客様が必要とするものこそが価値なのです。

まずは顧客本位を徹底することによって独自能力をつくりあげ、同質化競争を脱却することが求められます。また、社員をどの様に大切にしていくか、さらに言えばESG(環境・社会・ガバナンス)を含めて社会との調和にどの様に取り組んでいくのかということも重視されます。

それらの複合的な取り組みによって、持続可能性の高い企業となっていくことが肝要です。どの様な経営環境下にあっても生き続ける企業になること。それが日本経営品質賞に取り組む意義だと思います。

泉谷氏は「スーパードライ」の大ヒットを広報戦略から支え、アサヒビールを1998年に国内ビール市場トップに帰り咲かせた立役者の一人としても知られている。1997年度の日本経営品質賞を「アサヒビール株式会社」(当時)が受賞した際には経営企画部長として応募から受賞までの実務を担当した

2018年度より新しく始まる「経営デザイン認証制度」とは?

――泉谷さんは2018年度に創設された「経営デザイン認証」委員会の共同委員長でもあります。経営デザインという考え方やその意義を教えていただけますか。

近年の経営環境の変化は、極めて構造的で多面的です。変化係数が多く、複雑性が高い。その様な中で、「部分的な経営の課題は分かっているが、対策を講じても成果が出ない」「社員に努力を強制しても、結果が出ないから給料も上げ難い」などといった悩みを抱えている中小企業の経営者の方は多いと思います。つまるところ、問題意識はあるがどこからどう手をつけたら良いのかわからないという状態です。まさにここで経営改革のフレームが必要になってくるわけです。

新しく始まった経営デザイン認証は、その様な中小企業経営者の方の悩みを、具体的に解決していくための支援策であり、具体的な課題解決ツールだと考えています。「経営デザイン認証」に取り組むことによって、単にいま抱えている問題や課題を体系的に片付けるというだけではなく、具体的な思考のプロセスをつくることにより気づきを得て、持続可能性の高い企業に生まれ変わっていくことが可能になります。

――現在の中小企業の経営上の課題はどこにあるのでしょうか。

特に中小企業の場合には、よく言えば「オーナーの強いリーダーシップ」、悪く言えば「ワンマン経営」という経営上の特徴も見受けられます。かつての高度成長期にはそれで上手く機能していたのですが、オーナーが高齢化していく中で事業承継を行った時に問題が生じてくる。経営環境が昔とは変わっていますから、新しい経営者は新しい考え方で経営を進めていかなくてはなりません。

その時に「経営の設計図を引く」、あるいは「経営のデザインを描く」ということが、極めて重要なステップになります。今の世の中はどうなっているのかということを、きちんと先代にも、社員にも理解してもらわなくてはいけない。そのためにも「我々が描くべき企業の姿はどのようなものか」ということを議論することが非常に大事です。

また、その議論の中で、自分たちの強みや弱み、あるいは「過去に強みであったけれどこの先強みではなくなるものは何か、またその逆のものは何か」といったことを考え、自分たちのリソースを見直していくことも大事なことですね。

――経営品質協議会による「これからの経営設計図」では、「まず、ありたい姿を考える」とあります。現状分析から入るのではなく、理想像から考えるというのが特徴的です。

企業によって、その企業が置かれている状況によって、2つのアプローチがあります。まず、現状において課題を抱えている企業の場合には「ギャップアプローチ」という手法が有効です。現状を分析し、将来を予測する。そしてその間にあるギャップを発見し解決していくという思考方法です。

一方、現状、大きな課題は抱えていないけれど、将来が見えていない、将来に不安があるという企業の場合には「ポジティブアプローチ」という手法が重要になってきます。リソースの分析によりいま自分たちが持っている強みを認識し、その強みを将来に向かって最大限に発揮した姿を思い描く。そして、そのためにはこれから何をしていかなくてはならないのかという順番で考えていく方法です。理想像から現状を俯瞰し、未来予測して課題を設定するということですね。

「ギャップアプローチ」は足元の改善にはなります。しかし、「ポジティブアプローチ」は持っている強みで勝負するから「ジャンプ」するわけです。2つのアプローチの違いはそこにあります。ただ、全ての企業がすぐに「ポジティブアプローチ」に取り組めばいいかというとそうではなく、ステップバイステップですね。まず課題を抱えている企業は「ギャップアプローチ」によりそれを解決し、その先に、「ポジティブアプローチ」によりどうやって「ジャンプ」するのかを考えていく。そのプロセスが重要です。

――経営デザイン認証ではガイドブックを用意しています。ある種のチェックリストとなる内容ですが、それがあることによって経営のどんなところの手助けとなるのでしょうか。またそれらのガイダンスを使うときに重要なポイントは何でしょうか。

「経営改革をしよう」と思っても、適切なフレームワークやあるべき思考プロセスがなかなか見えないのですが、ガイドブックはそれを示しています。「経営デザイン認証」に取り組む意義、活用の仕方にはいくつかの段階があります。

まず1段階目として、ガイドブックに沿って経営設計図を作成している中で「会社をもっと良いものにしていくためにはどうしたらいいのか」「自分たちだけが良くなるだけではなく、社会も良くしていくためにはどうしたらいいのか」といった議論を、社員を巻き込んで行うことができる。

2段階目に、審査員(経営品質協議会認定セルフアセッサー)と面談をしていく中で、自分たちが考えたことが社会的にきちんと認められるストーリー・内容になっているのかということを検証できる。差別化のプロセスの中でオリジナルなことを考えたとしても、それが社会的に認められる水準に達していなくてはいけませんから、これも重要です。

3段階目に、「経営デザイン認証」に応募して審査を受けると、そのフィードバックからさらに色々とアイデアを得ることができます。そして4段階目として、こういったプロセス全体を通して、ありたい姿や現在の経営環境の認識、変革すべき課題などに対する意識の共有化ができるわけです。

(インタビュー/加藤陽之 構成/藤川貴弘)
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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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