「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社に聞く2(後編)〜トップ保険サービス〜

2018年5月2日
顧客本位の視点から、部分最適ではなく全体最適の経営を行い、自己変革を通して価値を創出し続けていく。そんな「卓越した経営」のモデルケースとなる企業を表彰するのが「日本経営品質賞」です。2017年度受賞組織のうち、中小企業部門で受賞した経営者に話を聞く、その第2回は「トップ保険サービス株式会社」(福岡県)。前編に引き続き、代表取締役社長の野嶋康敬氏に経営品質向上の秘訣を尋ねます。

ユニークな社内制度 「黒帯審査会」「TSD総選挙」

 高い顧客対応力を誇るトップ保険サービスではどの様な人材育成が行われているのか。ここで目を向けたいのが、同社のユニークな制度「黒帯審査会」だ。同制度は空手の昇段審査になぞらえた審査制度で、事故対応など自社の本業にまつわる様々な知識やノウハウを組織的に共有していくために導入されたもの。自動車事故などのケースを設定し、「師範」の野嶋氏と「指導員」の管理職が“事故にあった顧客“の役割を務め、社員の事故対応力を審査する。

「卓越した経営」のモデルケースとなる企業を表彰する「日本経営品質賞」。中小企業部門で受賞した「トップ保険サービス株式会社」代表取締役社長の野嶋康敬氏(写真中央)

 黒帯の取得は、「保険会社の社員ではまず取れませんよ(笑)」というほどに、厳しい。例えば、車の事故の黒帯審査会のケース。Aが直進している時に、Bが車線変更してきて衝突が生じ事故となった場合、Aが3割でBが7割で過失割合を按分するのが通例となっている。顧客がAの立場だったとして、3割の按分を0にすること、つまり顧客に全く負担が発生することのないようすること、といった難題が投げかけられるのだ。そのためにどこに電話しどの様な話をすればよいのか、何を手配すればよいのか、その対応をつつがなく完遂することができれば、見事「黒帯」の所持者として認められることになるのだ。
 同社では、売上や成約件数によるインセンティブや評価を導入していない。それを行うと、売上や獲得件数のために、つまりは自分たちにとっての利を優先し、顧客にとって適切な提案が行われなくなる可能性がある。そして、「黒帯」を取得しても、それは一切給料には反映されないという。しかし、業界に属する人間がそうやすやすととれないほどの取得難度を誇る「黒帯」を所持しているということは、圧倒的な誇り、名誉となる。それはプロフェッショナルとして仕事を行なっていることに大きく寄与することになるだろう。
 また、社内制度ということでは、年に1度開催する「TSD(次の社長は誰だ)総選挙」にも触れておきたい。その名の通り次の社長に相応しい人間を選出するイベントであり、社長、社員、パート社員すべてが公平に一票を与えられ、最後に1名が過半数を超えるまで投票が繰り返される。
 「僕はもしかしたら明日車に轢かれて死ぬかもしれないわけです。その時に誰が社長になるかが決まっていないと、お客さんも社員も混乱をしますよね。なので今年中に自分が死んだら誰が社長になるのかを毎年決めることにしているんです」
 ここにも通底しているのは、「顧客のため」という徹底した想い。先述の通り、野嶋氏は三代目であるが、やすやすと事業を継いだのではなく莫大な借金を背負って会社を“買って”いる。その後、見事に会社を再生させ飛躍的な成長を成し遂げたわけだが、それを自身の資産であるとは一切思っていないという。
 「会社は“預かり物”だと思っているんです。今はたまたま自分が社長をやっているけど、今度は誰かに預かってもらって、お客様と社員のために一生懸命やってくれればそれでいい」

 事業を続けていくためのリスクマネジメントとしての総選挙は、言わば同社の“本業”なのだ。

トップ保険サービスのユニークな社内制度に空手の昇段になぞらえた審査制度「黒帯審査会」がある。自動車事故などのケースを設定し、師範の野嶋氏と指導員の管理職が“事故にあった顧客“の役割を務め、社員の事故対応力を審査する

地域貢献で「弱っている人を助ける」ことも、“本業”

 「社会との調和」という観点においても、障がい者に向けたスポーツプログラム・競技大会「スペシャルオリンピックス」の企画・運営や、両親のいない子どもたちの施設でのクリスマスパーティの開催など、同社は理念に沿った行動の遂行を徹底している。これらの活動を行うに際して、「就業時間を割り当てること」「会社がつぶれない程度にお金を使うこと」は全く問題にならないと野嶋氏は語る。なぜなら自分たちにとって「弱っている人や困っている人を助ける」というのは、“本業”に他ならないからだ。
 同社の徹底した利他的な姿勢は、人材獲得の面でも大きなアピールとなっている。「保険代理業」は新卒がとりにくい業界と言われるが、同社は毎年1~2名、この7年間で13名もの新卒大卒者の採用に成功している。そのことについて野嶋氏は次の様に語る。
 「『お金持ちになる』とか、『いい車を持つ』とか、そういった目標達成のために頑張るというタイプは今の若い子たちにはほとんどいないと思っているんです。逆に、会社説明会をすると『世の中のためになる』とか『弱い人を助ける』といったことが響く子たちはけっこういますね。『仮にお客さまが事故を起こした時、相手がヤクザで脅されていたら代わりに前に立てますか? それが嫌なら履歴書を出さないでください』と言っても、出してくるんですよ」
 気楽に、たやすく務められる仕事では決してない。しかし、そこには大いなるやりがいと、数多の成長の機会が用意されていることが、同社の軌跡、実績において明確に示されているからこそ、多くの志望者が集まってくるのだろう。

経営品質へのとりくみから見えてきた「社員重視」という視点

 2015年にも経営革新奨励賞を受賞しているトップ保険サービス だが、野嶋氏が経営品質を知ったのは2002年まで遡るという。そこから自分たちの強みでもある「顧客本位」ということについて改めて突き詰めてきたが、2014年に受けた研修で「顧客よりも従業員の優先度を高めるべき」という考え方と出会った。そこで、会社を社員にとってより素晴らしい場所「A Great Place to Work」とするべく、パート社員も含めた全員で経営品質について学んでいくという取り組みを始めた。

「顧客よりも従業員の優先度を高めるべき」という考え方のもと、パート社員も含めた全員で経営品質を学んでいる。「従業員がハッピーじゃなければ、お客様のために死ぬほど頑張れないじゃないですか」(野嶋氏)

 「この会社を“Great Place”にする。それは社員みんなが自分たちで考えてやるというのが一番いいと思ったんです。社員にとって楽しいなと思えるのは何かっていうと、意思決定のプロセスに入るっていうことですよね。今は、少なくとも顧客と同じくらい、もしくは少し頑張り目に従業員のことを考えています。お客さんがいても、従業員がいないと事業を継続できない。そもそも従業員がハッピーじゃなければ、お客様のために死ぬほど頑張るとかないじゃないですか?」
 日本経営品質賞の応募に際しての報告書の作成も全員参加で行ったのだという。自分たちがやっている仕事を、数値的なものに置き換えたり客観的に捉え直していくこと、包括的な視点から全体性において捉え直していく作業は、社員全員に改めてやりがいや納得感を感じさせ、会社のこの先のあるべき姿を共有することにも大きく寄与することとなった。
 全員一丸となり、楯として顧客の前に立ち続けるトップ保険サービス。そこで受ける時代の社会の風が、顧客との蜜なコミュニケーションが、新たな価値を生み出すための糧となっていく。創業100周年を迎える2026年に、同社がどの様な進化を遂げているのか楽しみでならない。

(インタビュー/加藤陽之 構成/藤川貴弘)
執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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