ドラマ「小さな巨人」 に見る、組織内派閥抗争の行方

2017年5月28日
TBS系の日曜劇場で放送されている『小さな巨人』が佳境に入り、盛り上がってきた。刑事ドラマは『踊る大捜査線』以降、警視庁と所轄という警察内の階級が生み出す縦割り問題を通して、会社組織の中で働く公務員としての刑事たちの葛藤を描いてきた。本作もその流れを汲む作品で、警察組織の派閥争いに苦しめられながらも警察官としての使命をまっとうしようとする刑事たちの姿が、同じように会社の派閥争いに頭を悩ませている中高年の男性視聴者から高く評価されている。
 TBS系の日曜劇場(日曜夜9時)で放送されている『小さな巨人』が佳境に入り、盛り上がってきた。 

 警視庁刑事部捜査第一課殺人犯捜査第一係係長として数々の事件を解決してきた香坂真一郎(長谷川博己)は、上司の警視庁捜査一課長の小野田義信(香川照之)と料亭で会食をした後、飲酒運転の車を取り調べた際に相手の車に傷をつけてしまう。その時、日本酒を飲んでいたことが問題となり、香坂は所轄の芝署へと左遷されてしまう。

 物語は、出世コースから転落した香坂が、現場の刑事たちと難事件を解決していく姿を描く一方で、上司の小野田が香坂を陥れたのではないか? という警察組織内での激しい派閥抗争が描かれていく。

 刑事ドラマは『踊る大捜査線』(フジテレビ系)以降、警視庁と所轄という警察内の階級が生み出す縦割り問題を通して、会社組織の中で働く公務員としての刑事たちの葛藤を描いてきた。本作もその流れを汲む作品で、警察組織の派閥争いに苦しめられながらも警察官としての使命をまっとうしようとする刑事たちの姿が、同じように会社の派閥争いに頭を悩ませている中高年の男性視聴者から高く評価されている。

 こういった組織描写は、日曜劇場が池井戸潤・原作小説のドラマを通して描き続けてきたことだ。最も有名なのは、メガバンクでの派閥争いを描き高視聴率を獲得した『半沢直樹』だろう。

 『小さな巨人』は、監修の福澤克雄を筆頭とする『半沢直樹』のチームによって制作されている。ドラマ自体はオリジナルだが、『半沢直樹』や『下町ロケット』といった池井戸潤の原作小説のテイストは『小さな巨人』にも受け継がれており、警察版『半沢直樹』とでも言うような話となっている。

 本作における警察組織は魑魅魍魎が集う伏魔殿だ。何度も繰り返される「敵は味方のフリをする」という台詞は、「クレタ人はみな嘘つきだ」というエピメニデスのパラドックスを思わせる言葉だが、当初は香坂を陥れようとする悪役かと思われた小野田が、香坂を助けたり、逆に味方だと思っていた優しい顔の男が実は敵と通じていたりと、人間関係は複雑でめまぐるしく変化。誰が味方で誰が敵かわからないため、絶えずドラマ内に緊張感が走っている。

 キャラクターもそれぞれ個性的。長谷川博己が演じる主人公の香坂は、長谷川が『シン・ゴジラ』で演じた内閣官房副長官・矢口蘭堂を警察官僚にしたような男だ。『シン・ゴジラ』もまた怪獣映画という枠組みの中で日本の官僚組織を描いた作品で、『下町ロケット』等の池井戸潤作品と比較されて語られていたが、香坂も品行方正なヒーローというよりは腹に野心を抱えた一筋縄ではいかない策略家だ。

 香坂のようなエキセントリックで頭がキレる男を演じさせると長谷川博己は実にうまく、圧倒的な存在感を見せつけている。なお、奥さん役を演じたのは『シン・ゴジラ』で共演した市川実日子だというのはファンとしては嬉しいところ。息が詰まるシーンが続く中で香坂の家庭パートは一服の 清涼剤となっている。

 一方、小野田を演じる香川照之は、単なる悪役という枠を超えた『半沢直樹』以降の日曜劇場の看板とでも言う存在だ。リアルな中年男性を演じても充分うまい俳優なのだが、この日曜劇場に悪役として出演する時の香川照之の演技はケレン味たっぷりで、組織の闇を象徴する怪物として香坂たちの前に立ちはだかる。

 テレビドラマは映画にくらべると顔のアップや説明台詞が多く、それが欠点として語られがちだ。しかし、『小さな巨人』は役者の顔のアップをいかにカッコよく見せるかということに特化した結果、独自の様式美に昇華している。

 登場人物の多くが背広を来た中年男性であるため、渋い大人のドラマに見えるが、見せ方や台詞回しはとても派手で、歌舞伎の見得のようなケレン味があるので見ていて飽きない。中でお歌舞伎俳優の血筋ということもあるのか香川照之の顔と声の威圧感は凄まじく、文字通り"本作の顔”となっている。『半沢直樹』で完成した顔と台詞のケレン味で見せる男たちの闘争劇は、本作でより激しさを増している。

 第6話からは、物語は新章に突入。香坂は捜査情報を新聞社にリークした処分を受けて、豊洲署へと異動となる。そこで早明学園の事務局で経理を担当していた男の失踪を捜査しているうちに警察組織の闇と直面してしまう。

 理事長を和田アキ子、学園の専務で元警視庁捜査一課長の富永拓三を梅沢富美男が演じるという相変わらず濃いキャスティングだが、それ以上に気になるのが、世間を騒がせている森友学園建設を巡る“忖度”の問題を彷彿とさせる物語だろう。オリジナル作品だから可能だったということを差し引いても、政治ネタは避けられがちな日本のテレビドラマで、森友学園ネタをここまでやるのは、見事な快挙である。

 敵か味方かわからない小野田の正体をどう描くのかと同様、森友学園の問題に、どこまで踏み込むのかにも注目している。


■TBS日曜劇場『小さな巨人』 日曜午後9時~

●関連リンク

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

成馬零一新着記事

  • アニメ『中間管理禄トネガワ』 ギャンブラーや黒服も仕事に悩む人間のひとりなのだ

    アニメ『中間管理禄トネガワ』は、消費者金融を主体とする日本最大級のコンツェルン・帝愛グループの最高幹部・利根川幸雄を主人公とするコメディ作品です。帝愛グループの利根川と聞いて、あの漫画を思い出す人も多いのではないでしょうか。そう、利根川とは福本伸行の人気漫画『賭博黙示録カイジ』に登場する悪役の名前なのです。

    2018年7月31日

    成馬零一

  • TVドラマ『宮本から君へ』 働く人間なら、誰の心にも必ず「宮本」がいる

    ドラマ『宮本から君へ』は1990~94年にかけて連載された漫画が原作だ。今と比べれば、一生懸命になることはダサいことだと多くの日本人が思っていた時期の作品である。そんな時代にあって、恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男・宮本を登場させることで、激しい賛否を巻き起こした。当時はバブル景気に浮かれていた日本に対する強烈なカウンターだったわけだが、大きく時代を隔てた2018年の20代に、本作はどのように響くのだろうか?

    2018年6月15日

    成馬零一

  • 朝ドラ「わろてんか」に“働き方改革”の原点を見出す

    連続テレビ小説『わろてんか』(NHK)は、いつも周りを朗らかにしながら自分もよく笑う、いわゆる笑い上戸の女の子がやがて結婚し、寄席を切り盛りしていく姿を描いた物語だ。京都の老舗薬種問屋の長女に生まれたヒロイン・てんを演じるのは若手女優の葵わかな。てんと藤吉の歩みが、そのまま戦前の芸能の歴史となっている。

    2018年2月14日

    成馬零一

  • NHKドラマ『マチ工場のオンナ』 事業承継を克服する姿に希望を見出す

    NHKで金曜夜10時から放送されている『マチ工場のオンナ』は、父の有元泰造(舘ひろし)の死によって、自動車用のゲージを作る町工場の社長に就任することになった32歳の主婦・光(内山理名)が主人公のドラマだ。思った以上に物語の展開が早いので、どこに着地するのかわからないが、町工場の苦しい現状を描きながらも、希望を感じさせるような結末となるのではないかと期待している。

    2017年12月22日

    成馬零一

  • ドラマ「先に生まれただけの僕」から、変わりゆく日本的経営を考える

    日本テレビ系土曜夜10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、35歳の若い校長先生が業績不振の高校を立て直すという異色の学園ドラマだ。面白い授業のできない教師たちはクビになり、勉強のできない生徒たちは切り捨てられていくのではないか? という経営優先の合理化がもたらす負の側面と、そこで犠牲になる側の不安が描かれている。

    2017年11月30日

    成馬零一

  • 映画「HiGH&LOW THE MOVIE 3」にフロンティアスピリットを見る

    ダンス&ボーカルグループEXILE TRIBEや三代目J Soul Brothersが所属する芸能事務所LDHが中心となって展開している『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)というプロジェクトをご存知だろうか? 『ハイロー』の魅力は作品の物語もさることながら、このプロジェクトを立ち上げたLDHと会長のHIROの会社としてのフロンティアスピリット、それ自体が巨大な物語として背後に透けてみえることだ。

    2017年10月25日

    成馬零一

  • 朝ドラ『ひよっこ』 美しい「労働観」に人々は理想の職場を重ねた

    今週、最終回を迎えるNHK『連続テレビ小説「ひよっこ」』。数々の話題を振りまき、今年を代表するヒット作となったドラマだが、見ていて興味深かったのは劇中での「仕事の描かれ方」だ。舞台こそ1960年代だが、本作の労働観は極めて現代的で、さりげないシーンに、とても大事なことが描かれている。

    2017年9月27日

    成馬零一

  • ドラマ「コード・ブルー」が描く「仕事に対する哲学」に共感する

    医療ドラマは今のテレビドラマにおいては刑事ドラマと並ぶヒットコンテンツで、毎クール、必ず一作はあるような状態が続いている。フジテレビ系の「月9」で放送されている『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』も今回で三作目となる人気シリーズだ。フライトドクターという特殊な仕事を描いているが、根底にあるのは、真剣に働いている人なら誰もが共感できる「仕事に対する哲学」である。

    2017年8月28日

    成馬零一